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のろいのりゅう
ドラゴン・ゾンビ
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サクラが死んだ、というのはショックだったが俺にとって、それほど大きなものではなかった。
そもそも一回、組んだだけだったし、印象も悪かった上、無謀すぎたので、いつかはそうなるだろうな、とどこかで思っていたからかもしれない。
ただ、ランドウは驚いていたようだ。
オカダに、サクラの遺体はどうした、などを聞いていた。
モンスター同様に、消えてしまったそうだ。
そういえば、俺はどっちの世界でも、葬式に出たことがない。
いや山邑慶は、小学校入学前に祖父の葬式に出たらしいが、朧な記憶しか残っていない。
こっちの世界にも墓場はあるので、葬式もあるのだろう。
そういえば、墓場の側に、教会みたいなのは、見たことがないのに気がついた。
よくあるゲームでは復活の場だが、ジェネラルは死んだら終わりなので、なくて当然なような気がしていたのだ。
モンスターでも、今までアンデット系には、遭遇したことがない。
モンスターは倒したら消えてしまうので、アンデットになりようがないのかもしれない。
死体が消えるのはジェネラルだけで、一般人は、墓に埋められているのか?
そんな疑問を口にしよう、としたら、俺の背後で、ズドン!と落下音がした。
四人が、俺の方を向いたまま、目を見開いている。
俺は、恐る恐る、振り向いた。
そこには、腐ったドラゴンがいて、天に向かって咆哮した。
それは、オカダが、倒したはずのアーマー・ドラゴンだった。
アンデット化しての再登場だった。
自分を倒したオカダへの復讐?
いやいや、だとしても、どうやってここが?
そもそも、倒されて消えたはずだろう?
混乱し、パニックを起こしかけた中、ズガン!と銃声が響いた。
カムイのライフルからの一撃が、逆鱗を打ち抜いていた。
あっという間に、バーが黒くなった。
あっけない幕切れだった。
すっかり俺たちは、急激な緊張と弛緩の繰り返しで疲れてしまい、薄情にもサクラのことを忘れてしまっていた。
俺は、その夜、熱いシャワーを浴び、シャンプーの柑橘系の匂いに包まれながらフッ、と思った。
ドラゴンは腐っていたのに、腐敗臭がしなかったな、と。
俺は、星海の中、ぐるぐる回る光の玉を見ていた。
その光は星のようにも見え、回る様は、星雲のようだった。
人は死ぬ、と星になる。
なぜか、そんなフレーズが頭に浮かび、光の玉が、人魂に思えた。
人は死ぬ、と仏様になる。
なぜか、そんな祖母の言葉が頭に浮かぶ。
その仏様になった魂は、ずっと仏様のままで、人へは輪廻転生しないのだろうか?
六道は上へ進むだけで、そのうち高齢者社会のような逆ピラミッドな人数配分になるのだろうか?
そもそも輪廻転生などなく、魂は使い捨てで、虚無から生まれ、消えていく塵芥に等しいのだろうか?
無限に使われ続けられる魂。
二度目がない、使い捨てられる魂。
どちらも哀れだ。
俺は、「狂う」と思った。
こんなところにいたら、狂ってしまう。
ああ、もっと優しい世界はないのか、、、
「おはよ」
いつもより早く目が覚め、一階の食堂で味噌汁を啜っていたら、髪を雑な三つ編みにしたミチルが、眠たげに降りてきた。
俺の前に並ぶ、和朝食セットを眺め、逆に食欲がなくなったのか、カフェ・オレだけを注文した。
「食べすぎじゃない?」
「ファイターは、身体が資本なんで」
これ見よがしに、最後の焼鮭の一切れで飯をかき込んで見せ、お代わりと温泉卵を追加した。
「ランドウたちはギルドか、いつもより早いけど?」
眠そうに、デカいカップを啜り、
「カムイはまだ寝てる。ランドウは、朝一番でギルドから呼び出しがあったの」
なんだそりゃ?
「昨日のドラゴンを倒したことで、アイテム入手していたみたいで」
そういえば、そんなの確かめる気にもならなかったな。
「おはよう」
カムイが目を擦りながらやってきた。
昨日は、硬いゴーレムの文字探しに神経を削る戦いを強いられたし、油断した直後に腐りドラゴン登場で、疲れたのだろう。
ミチルの隣に座ったカムイは、もうコックリ、と船をこぎ出していた。
俺が飯を食い終え、寄り添う二人の寝顔を眺めながらコーヒーを啜っている、とランドウが戻ってきた。
寝ている二人を示して教えたら、彼は指を唇に当てたので、俺は起こすのは止めた。
足音を消して、俺の隣に座ったランドウは、声を潜めて、
「厄介なことになったよ」
俺は眉根を寄せ、聞いた。
「アイテムって、なんだったんだ?」
「呪いの龍鱗」
「のろっ」
つい、声が上がりそうになったのを、辛うじて抑えつけた。
二人の寝息が、再開したので、ランドウと溜息をつく。
それにしても呪いのアイテムとは、穏やかじゃない。
倒したカムイに優先権があるが、ドロップアイテムはパーティーとして手に入れたものなので、俺たち全員の問題だ。
ちなみに、助っ人のオカダとは、ドロップアイテムはやらん俺たちの物だ、という契約をしているので、無関係を主張できる。
とはいえ、ギルドの倉庫に転送されているのは幸いだ、ギルドに処分してもらえばいい。
「それが、近づけないんだ」
バリアーでも張ってあるのか?
「触ろうとした職員が、血を吐いて倒れた」
おいおい、呪い炸裂だな。
「しかも、その範囲が広がってきているんだ」
ちょっと待て、それヤバいだろう。
「それで、クエストの依頼がきた」
ですよねー。
知らずに幸せそうに眠る二人が、少しばかり恨めしかった。
呪いの龍鱗で倒れた者たちには、幸い治療アイテムが効いたらしい。
しかし、このまま呪いの範囲が広くなれば最悪、世界が滅ぶ。
思っていたより簡単に、この世界は滅びてしまうものらしい。
俺たちは、世界を救うため、呪いを解除できるアイテム「命の種」を手に入れるようにクエストを依頼された。
しかも、この事態を知る人数を少なくするために、俺たち四人のみにだ。
慎重な性格とはいえ、こういう事態を放っておけないはずのランドウが、躊躇していたのが、少し気になった。
でも結局は受け、世界を託された俺たちは、その日のうちに出発し、目的地への転送先途中で夜を迎えた。
女性二人は、先にテントで寝ていた。
俺たちは、魔力ヒーターを囲んで、その上で沸かしたコーヒーを飲んでいた。
温暖な気候とはいえ夜は、日中より冷える。
しばらく、大人しく黙っていた俺だが、どうしても気になって、ランドウに聞いた。
「サクラが死んだ、って聞いたとき、どうして驚いてたんだ?」
彼は、困った表情をした後、ちょっと恥ずかしそうに笑い、
「ジェネラルは、ヒーローだから死なないんじゃないか、って思ってたんだ」
そんなに都合良くはないだろう、この世の中。
しかも、あんなに無謀なことやってたら、死ぬぞ普通に。
「もちろん、そんなに都合が良いとは思ってないけど、一撃であっさり、っていうのが、意外だったんだ」
まあ、気持ちはわからなくはない。
「それで、このクエストも、躊躇したのか?」
「そうだね。ヒーローは死なないっていう自信が、根拠のないことだって知って、怖くなったんだと思う」
「でも、俺たちなら、やり遂げられる、だろ?」
俺は、タフなヒーローを気取って言ってやった。
「・・・そうだね」
俺たちは、ステンレスのカップをコツン、と合わせた。
このクエストを始めて、すぐに問題点に気がついた。
ゴールドを使えないのだ。
レベルアップや装備更新は、ギルドのステータス画面で行わなければできない。
ステータスカードではダメなのだ。
命の種に近づくにつれ、転送石間のモンスターは強くなっていっているのに、俺たちはそのままなのだ。
しかも、連戦で疲れも溜まってくる。
そんなとき、それが現れた。
「温泉だね」
「温泉だ」
「おんせんー」
「温泉」
次の転送石へ向かう途中、川の水が温かいな、と思っていたら、温泉が混ざっていたのだ。
上流に向かうにつれ、温度があがり、適温なここは、中々に広い露天風呂となっていた。
温泉となれば、やることは一つ、ジャンケンだ。
負けたランドウをモンスターへの見張りにして、テントの中で着替える女性陣を後目に、俺はイソイソ、とアンダーを脱ぎ捨てタオル片手に、天然の露天風呂に分け入った。
温泉成分のせいだろうか、裸足で踏む川底はツルツルしていて気持ちがいい。
結構すぐ、膝くらいまでの深さになったので、畳んだタオルを頭に乗せ、肩までつかる。
温泉、最高だー。
手足を伸ばして、上を見上げれば、青空だ。
いつもはシャワーばかりだが、やはり日本人としてのDNAに、風呂好きは刻み込まれているのだろう。
この身体が日本人か知らないが。
バシャバシャ水音がしたので、顔を向ける、とミチルたちが、バスタオルをガッチリ巻いて、入ってきた。
「こっち見んな!」
すぐ脇に、拳大の石が投げつけられた。
これ、ヴォーパルバニーくらいなら、死んでるヤツだぞ。
大人しく背を向けたら、湯につかったのか、吐息が聞こえてきた。
俺もあらためて手足を伸ばしたら、足先の湯の温度が低いことに気がついた。
こちらは、少し川の水への温泉の混ざり具合が少ないようだ。
身体が温まってきたので、足が冷やせるのも気持ちがいい。
ということは、岸の方が、温度が高いのか?
そう思っていた矢先、
「あっつっ!」
という叫びと、立ち上がる水音が響いた。
どうやらミチルが、熱いお湯に触ってしまったらしい。
思わず、そちらを見る、と立ち上がった彼女から、バスタオルがハラリ、と落ちた。
「見んな!」
さっきより大きな石を両手で構えたミチルが、俺の唖然、とした顔に驚いたのか、投げるのを止めた。
「・・・なぜに水着?」
俺の心からの呟きに、
「日帰りじゃなかったら、水浴びとか当り前だから、水着もってくるのは、常識でしょ!あ?」
申し訳ないが、俺はそんな常識は知らなかったから、水着などもってきていず、全裸だ。
それに気がついたのか、水面を凝視してしまったからか、顔を真っ赤にして、石を投げつけてきた。
「死んじゃ、えー!」
いや、それはマジで死ぬ攻撃。
立ち上がって、水上に下半身を露出するわけにもいかず、膝立で必死に石を避ける俺を、見張り役のランドウが、早く決着がつかないかな早く入浴したいな、といった顔で眺めていた。
カムイは、のぼせたのか、大の字で浮かんでいた。
流される前に助けてやれランドウ、いや俺を助けろくれください。
そもそも一回、組んだだけだったし、印象も悪かった上、無謀すぎたので、いつかはそうなるだろうな、とどこかで思っていたからかもしれない。
ただ、ランドウは驚いていたようだ。
オカダに、サクラの遺体はどうした、などを聞いていた。
モンスター同様に、消えてしまったそうだ。
そういえば、俺はどっちの世界でも、葬式に出たことがない。
いや山邑慶は、小学校入学前に祖父の葬式に出たらしいが、朧な記憶しか残っていない。
こっちの世界にも墓場はあるので、葬式もあるのだろう。
そういえば、墓場の側に、教会みたいなのは、見たことがないのに気がついた。
よくあるゲームでは復活の場だが、ジェネラルは死んだら終わりなので、なくて当然なような気がしていたのだ。
モンスターでも、今までアンデット系には、遭遇したことがない。
モンスターは倒したら消えてしまうので、アンデットになりようがないのかもしれない。
死体が消えるのはジェネラルだけで、一般人は、墓に埋められているのか?
そんな疑問を口にしよう、としたら、俺の背後で、ズドン!と落下音がした。
四人が、俺の方を向いたまま、目を見開いている。
俺は、恐る恐る、振り向いた。
そこには、腐ったドラゴンがいて、天に向かって咆哮した。
それは、オカダが、倒したはずのアーマー・ドラゴンだった。
アンデット化しての再登場だった。
自分を倒したオカダへの復讐?
いやいや、だとしても、どうやってここが?
そもそも、倒されて消えたはずだろう?
混乱し、パニックを起こしかけた中、ズガン!と銃声が響いた。
カムイのライフルからの一撃が、逆鱗を打ち抜いていた。
あっという間に、バーが黒くなった。
あっけない幕切れだった。
すっかり俺たちは、急激な緊張と弛緩の繰り返しで疲れてしまい、薄情にもサクラのことを忘れてしまっていた。
俺は、その夜、熱いシャワーを浴び、シャンプーの柑橘系の匂いに包まれながらフッ、と思った。
ドラゴンは腐っていたのに、腐敗臭がしなかったな、と。
俺は、星海の中、ぐるぐる回る光の玉を見ていた。
その光は星のようにも見え、回る様は、星雲のようだった。
人は死ぬ、と星になる。
なぜか、そんなフレーズが頭に浮かび、光の玉が、人魂に思えた。
人は死ぬ、と仏様になる。
なぜか、そんな祖母の言葉が頭に浮かぶ。
その仏様になった魂は、ずっと仏様のままで、人へは輪廻転生しないのだろうか?
六道は上へ進むだけで、そのうち高齢者社会のような逆ピラミッドな人数配分になるのだろうか?
そもそも輪廻転生などなく、魂は使い捨てで、虚無から生まれ、消えていく塵芥に等しいのだろうか?
無限に使われ続けられる魂。
二度目がない、使い捨てられる魂。
どちらも哀れだ。
俺は、「狂う」と思った。
こんなところにいたら、狂ってしまう。
ああ、もっと優しい世界はないのか、、、
「おはよ」
いつもより早く目が覚め、一階の食堂で味噌汁を啜っていたら、髪を雑な三つ編みにしたミチルが、眠たげに降りてきた。
俺の前に並ぶ、和朝食セットを眺め、逆に食欲がなくなったのか、カフェ・オレだけを注文した。
「食べすぎじゃない?」
「ファイターは、身体が資本なんで」
これ見よがしに、最後の焼鮭の一切れで飯をかき込んで見せ、お代わりと温泉卵を追加した。
「ランドウたちはギルドか、いつもより早いけど?」
眠そうに、デカいカップを啜り、
「カムイはまだ寝てる。ランドウは、朝一番でギルドから呼び出しがあったの」
なんだそりゃ?
「昨日のドラゴンを倒したことで、アイテム入手していたみたいで」
そういえば、そんなの確かめる気にもならなかったな。
「おはよう」
カムイが目を擦りながらやってきた。
昨日は、硬いゴーレムの文字探しに神経を削る戦いを強いられたし、油断した直後に腐りドラゴン登場で、疲れたのだろう。
ミチルの隣に座ったカムイは、もうコックリ、と船をこぎ出していた。
俺が飯を食い終え、寄り添う二人の寝顔を眺めながらコーヒーを啜っている、とランドウが戻ってきた。
寝ている二人を示して教えたら、彼は指を唇に当てたので、俺は起こすのは止めた。
足音を消して、俺の隣に座ったランドウは、声を潜めて、
「厄介なことになったよ」
俺は眉根を寄せ、聞いた。
「アイテムって、なんだったんだ?」
「呪いの龍鱗」
「のろっ」
つい、声が上がりそうになったのを、辛うじて抑えつけた。
二人の寝息が、再開したので、ランドウと溜息をつく。
それにしても呪いのアイテムとは、穏やかじゃない。
倒したカムイに優先権があるが、ドロップアイテムはパーティーとして手に入れたものなので、俺たち全員の問題だ。
ちなみに、助っ人のオカダとは、ドロップアイテムはやらん俺たちの物だ、という契約をしているので、無関係を主張できる。
とはいえ、ギルドの倉庫に転送されているのは幸いだ、ギルドに処分してもらえばいい。
「それが、近づけないんだ」
バリアーでも張ってあるのか?
「触ろうとした職員が、血を吐いて倒れた」
おいおい、呪い炸裂だな。
「しかも、その範囲が広がってきているんだ」
ちょっと待て、それヤバいだろう。
「それで、クエストの依頼がきた」
ですよねー。
知らずに幸せそうに眠る二人が、少しばかり恨めしかった。
呪いの龍鱗で倒れた者たちには、幸い治療アイテムが効いたらしい。
しかし、このまま呪いの範囲が広くなれば最悪、世界が滅ぶ。
思っていたより簡単に、この世界は滅びてしまうものらしい。
俺たちは、世界を救うため、呪いを解除できるアイテム「命の種」を手に入れるようにクエストを依頼された。
しかも、この事態を知る人数を少なくするために、俺たち四人のみにだ。
慎重な性格とはいえ、こういう事態を放っておけないはずのランドウが、躊躇していたのが、少し気になった。
でも結局は受け、世界を託された俺たちは、その日のうちに出発し、目的地への転送先途中で夜を迎えた。
女性二人は、先にテントで寝ていた。
俺たちは、魔力ヒーターを囲んで、その上で沸かしたコーヒーを飲んでいた。
温暖な気候とはいえ夜は、日中より冷える。
しばらく、大人しく黙っていた俺だが、どうしても気になって、ランドウに聞いた。
「サクラが死んだ、って聞いたとき、どうして驚いてたんだ?」
彼は、困った表情をした後、ちょっと恥ずかしそうに笑い、
「ジェネラルは、ヒーローだから死なないんじゃないか、って思ってたんだ」
そんなに都合良くはないだろう、この世の中。
しかも、あんなに無謀なことやってたら、死ぬぞ普通に。
「もちろん、そんなに都合が良いとは思ってないけど、一撃であっさり、っていうのが、意外だったんだ」
まあ、気持ちはわからなくはない。
「それで、このクエストも、躊躇したのか?」
「そうだね。ヒーローは死なないっていう自信が、根拠のないことだって知って、怖くなったんだと思う」
「でも、俺たちなら、やり遂げられる、だろ?」
俺は、タフなヒーローを気取って言ってやった。
「・・・そうだね」
俺たちは、ステンレスのカップをコツン、と合わせた。
このクエストを始めて、すぐに問題点に気がついた。
ゴールドを使えないのだ。
レベルアップや装備更新は、ギルドのステータス画面で行わなければできない。
ステータスカードではダメなのだ。
命の種に近づくにつれ、転送石間のモンスターは強くなっていっているのに、俺たちはそのままなのだ。
しかも、連戦で疲れも溜まってくる。
そんなとき、それが現れた。
「温泉だね」
「温泉だ」
「おんせんー」
「温泉」
次の転送石へ向かう途中、川の水が温かいな、と思っていたら、温泉が混ざっていたのだ。
上流に向かうにつれ、温度があがり、適温なここは、中々に広い露天風呂となっていた。
温泉となれば、やることは一つ、ジャンケンだ。
負けたランドウをモンスターへの見張りにして、テントの中で着替える女性陣を後目に、俺はイソイソ、とアンダーを脱ぎ捨てタオル片手に、天然の露天風呂に分け入った。
温泉成分のせいだろうか、裸足で踏む川底はツルツルしていて気持ちがいい。
結構すぐ、膝くらいまでの深さになったので、畳んだタオルを頭に乗せ、肩までつかる。
温泉、最高だー。
手足を伸ばして、上を見上げれば、青空だ。
いつもはシャワーばかりだが、やはり日本人としてのDNAに、風呂好きは刻み込まれているのだろう。
この身体が日本人か知らないが。
バシャバシャ水音がしたので、顔を向ける、とミチルたちが、バスタオルをガッチリ巻いて、入ってきた。
「こっち見んな!」
すぐ脇に、拳大の石が投げつけられた。
これ、ヴォーパルバニーくらいなら、死んでるヤツだぞ。
大人しく背を向けたら、湯につかったのか、吐息が聞こえてきた。
俺もあらためて手足を伸ばしたら、足先の湯の温度が低いことに気がついた。
こちらは、少し川の水への温泉の混ざり具合が少ないようだ。
身体が温まってきたので、足が冷やせるのも気持ちがいい。
ということは、岸の方が、温度が高いのか?
そう思っていた矢先、
「あっつっ!」
という叫びと、立ち上がる水音が響いた。
どうやらミチルが、熱いお湯に触ってしまったらしい。
思わず、そちらを見る、と立ち上がった彼女から、バスタオルがハラリ、と落ちた。
「見んな!」
さっきより大きな石を両手で構えたミチルが、俺の唖然、とした顔に驚いたのか、投げるのを止めた。
「・・・なぜに水着?」
俺の心からの呟きに、
「日帰りじゃなかったら、水浴びとか当り前だから、水着もってくるのは、常識でしょ!あ?」
申し訳ないが、俺はそんな常識は知らなかったから、水着などもってきていず、全裸だ。
それに気がついたのか、水面を凝視してしまったからか、顔を真っ赤にして、石を投げつけてきた。
「死んじゃ、えー!」
いや、それはマジで死ぬ攻撃。
立ち上がって、水上に下半身を露出するわけにもいかず、膝立で必死に石を避ける俺を、見張り役のランドウが、早く決着がつかないかな早く入浴したいな、といった顔で眺めていた。
カムイは、のぼせたのか、大の字で浮かんでいた。
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