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第二巻:夏
非常事態×非常事態+施錠状態
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『【大至急】事務所に来てください』
一日の聴講を終え、スマホを確認すると、茜からこんな連絡が入っていた。
彼女が、【大至急】という言葉を使ったのは初めてで、なのに理由の追記がないのが、不自然だ。
それに、急ぎの仕事なら、俺が帰る時間を把握しているから、それに合わせて車で迎えにきていても、おかしくはない。
先日の怪談番組も、その手口で拉致られたのだから。
俺は自分で言うのもなんだが、珍しく即「大至急行く」と返信した。
あみたちに事情を話して別れ、事務所に着いたら、大騒ぎになっていた。
業者らしき作業着の数人が、機械を片手に、何か捜索しているようなのだ。
「あ、沢田先生、こちらへ」
俺に気がついた茜が、声を潜めて、俺を駐車場まで連れて行った。
彼女が、いつも使う車の後部座席に乗り込んだので、俺も隣に座る。
「ここは、調べてもらって、大丈夫でしたから」
調べてもらった?
さっきの作業着の業者にだろうか。
俺は、続を促した。
「休憩室にオヤツボックスがあるのは、ご存じですよね?」
事務所や現場での差し入れ、ファンからのプレゼントで市販品のお菓子などが入っている箱で、『ご自由にどうぞ』と書いてある。
「スタッフが、ポテトチップスの袋を開けて、盗聴器を発見しました」
それで、この騒ぎか。
事務所に、まだあるかもしれない盗聴器を警戒して、ここに連れてこられたわけだ。
「幸い、確認したら、既に電池は切れていました。もしかしたら、始めから電波を出していなかったから、チェックに引っかからなかったのかもしれません」
ファンからのプレゼントは基本、すべて盗聴器などを調べている。
それで見つからなかったのだ、始めから動いていなかったのだろう。
それでも念のため、業者に頼んで、調べていると。
あまりダメージはなさそうだ。
今後のためにも、対策は練らないといけないが。
なんだか、『専務』だから、と社長に仕事を押しつけられそうだな、などと思いながらも、ほっとしていた。
茜のスマホが鳴り、俺のも振動した。
確認すると、社員全員参加グループLINE。
『社長宅で盗聴器発見』
「中古のマンションだから、前の住人へのかもしれないんだけど」
社長宅のキッチンのコンセントにささった三個口タップから、盗聴器が見つかった。
電源をコンセントから得るので、電池式と違い半永久的に使える。
業者が中を開け、型式を確認したら、古いタイプで、埃の具合からも、社長が越してきた前から、あったのだろうと推測された。
今回のポテトチップスの盗聴器とは、別件かもしれない。
しかし、社長宅には、志桜里も住んでいるので、ターゲットは社長とも限らない。
志桜里は、
「先生に食べていただくお料理の特訓を聞かれていかたもしれませんね」
と何故か、顔を赤らめて、嬉しそうだった。
まあ、盗聴の精神ダメージがないなら、それでいい。
もっとも、もう誰も聴いていなかったのかもしれないが。
それでも、万が一を考え、所属のタレント全員の自宅を調査することになった。
『ぴんぽーん!』
インターホンが鳴り、出ると茜が写っていた。
『えへっ、きちゃった』
無視してドアを開け、彼女にはリアクションせずに、業者に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
茜が連れてきた業者が部屋にあがり、盗聴器の調査を始める。
茜も、よく送ってはくれるが建物の前までで、部屋に上がるのは、俺の風俗通い疑惑であみに殴られ気絶したまま運ばれた以来で、興味津々に見渡している。
リビングのローテブルに置かれた、事務所から「勉強せよ」と買い与えられている科学雑誌に、読まれた形跡があるのを見て、うんうん頷いている。
さり気なく、リビングと続きの部屋にあるデスクトップパソコンのマウスに触れるが、スリープではなく、電源を切ってコンセントも抜いてある。
「ちっ」
舌打ちをするな、業者が、驚いて見てるぞ。
業者は、ドアを開けっぱなしの寝室を調べた後、もうひとつのドアに手をかけ、戸惑った声をかけてきた。
「鍵がかかっているのですが、開けていただいて、よろしいですか?」
「・・・ああ、すみません。物置にしているので、普段は開けないので」
俺の誕生日に、あみたちを招いたとき、ホームセンターで買った鍵をかけた後、開ける機会がなく、そのままだったのだ。
「あの日も鍵かかってましたね」
下着姿で寝ていたから、家探ししていないと思っていたが、そうでもないのか。
あの時は、デスクトップパソコンの電源は入れっぱなしだったが、スリープをとくのに、パスワードが必要だから大丈夫だったと思いたい。
物置の鍵を開けて、ドアを開ける。
間取り的に、リビングと寝室、洗面所、隣の住人の部屋との壁に囲まれていて、窓がなく真っ暗なので、照明をつけた。
中には、ここに引っ越してきて以来、開けてもいない段ボールや通販の空箱などが、置かれている。
「一部屋、もったいないですね。お掃除しますので、茜が住んでもいいですか?」
いいわけないだろう。
調査の結果、俺の部屋も含め、所属タレントの住居から、盗聴器は発見されなかった。
社長宅の盗聴器は、事務所のとは別件と判断され、オヤツボックスは廃止されなかったものの、ファンからのお菓子は、市販品だろうと、すべて破棄と決まった。
事務所のウェブサイトでも、今回の件を公表し、ファンへプレゼントの自粛をお願いして、一件落着となった。
中身が減ってしまったオヤツボックスに、なぜか『専務』へ自腹で随時補給せよ、と社長からの命が下ったが、役員手当では足りないのを理由に絶賛、交渉中だ。
「・・・おにいちゃん、誰かきたの?」
リビングのテレビで、推理ドラマを見ていたら、急に夏月に聞かれた。
「盗聴器の調査で、業者がきた。見つからなかったから、安心していい」
茜も来たが、別に話すことでもないだろう。
「そう。もう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
と自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
『見つかって、処分されていたのか、どうりで聞こえないはず』
一日の聴講を終え、スマホを確認すると、茜からこんな連絡が入っていた。
彼女が、【大至急】という言葉を使ったのは初めてで、なのに理由の追記がないのが、不自然だ。
それに、急ぎの仕事なら、俺が帰る時間を把握しているから、それに合わせて車で迎えにきていても、おかしくはない。
先日の怪談番組も、その手口で拉致られたのだから。
俺は自分で言うのもなんだが、珍しく即「大至急行く」と返信した。
あみたちに事情を話して別れ、事務所に着いたら、大騒ぎになっていた。
業者らしき作業着の数人が、機械を片手に、何か捜索しているようなのだ。
「あ、沢田先生、こちらへ」
俺に気がついた茜が、声を潜めて、俺を駐車場まで連れて行った。
彼女が、いつも使う車の後部座席に乗り込んだので、俺も隣に座る。
「ここは、調べてもらって、大丈夫でしたから」
調べてもらった?
さっきの作業着の業者にだろうか。
俺は、続を促した。
「休憩室にオヤツボックスがあるのは、ご存じですよね?」
事務所や現場での差し入れ、ファンからのプレゼントで市販品のお菓子などが入っている箱で、『ご自由にどうぞ』と書いてある。
「スタッフが、ポテトチップスの袋を開けて、盗聴器を発見しました」
それで、この騒ぎか。
事務所に、まだあるかもしれない盗聴器を警戒して、ここに連れてこられたわけだ。
「幸い、確認したら、既に電池は切れていました。もしかしたら、始めから電波を出していなかったから、チェックに引っかからなかったのかもしれません」
ファンからのプレゼントは基本、すべて盗聴器などを調べている。
それで見つからなかったのだ、始めから動いていなかったのだろう。
それでも念のため、業者に頼んで、調べていると。
あまりダメージはなさそうだ。
今後のためにも、対策は練らないといけないが。
なんだか、『専務』だから、と社長に仕事を押しつけられそうだな、などと思いながらも、ほっとしていた。
茜のスマホが鳴り、俺のも振動した。
確認すると、社員全員参加グループLINE。
『社長宅で盗聴器発見』
「中古のマンションだから、前の住人へのかもしれないんだけど」
社長宅のキッチンのコンセントにささった三個口タップから、盗聴器が見つかった。
電源をコンセントから得るので、電池式と違い半永久的に使える。
業者が中を開け、型式を確認したら、古いタイプで、埃の具合からも、社長が越してきた前から、あったのだろうと推測された。
今回のポテトチップスの盗聴器とは、別件かもしれない。
しかし、社長宅には、志桜里も住んでいるので、ターゲットは社長とも限らない。
志桜里は、
「先生に食べていただくお料理の特訓を聞かれていかたもしれませんね」
と何故か、顔を赤らめて、嬉しそうだった。
まあ、盗聴の精神ダメージがないなら、それでいい。
もっとも、もう誰も聴いていなかったのかもしれないが。
それでも、万が一を考え、所属のタレント全員の自宅を調査することになった。
『ぴんぽーん!』
インターホンが鳴り、出ると茜が写っていた。
『えへっ、きちゃった』
無視してドアを開け、彼女にはリアクションせずに、業者に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
茜が連れてきた業者が部屋にあがり、盗聴器の調査を始める。
茜も、よく送ってはくれるが建物の前までで、部屋に上がるのは、俺の風俗通い疑惑であみに殴られ気絶したまま運ばれた以来で、興味津々に見渡している。
リビングのローテブルに置かれた、事務所から「勉強せよ」と買い与えられている科学雑誌に、読まれた形跡があるのを見て、うんうん頷いている。
さり気なく、リビングと続きの部屋にあるデスクトップパソコンのマウスに触れるが、スリープではなく、電源を切ってコンセントも抜いてある。
「ちっ」
舌打ちをするな、業者が、驚いて見てるぞ。
業者は、ドアを開けっぱなしの寝室を調べた後、もうひとつのドアに手をかけ、戸惑った声をかけてきた。
「鍵がかかっているのですが、開けていただいて、よろしいですか?」
「・・・ああ、すみません。物置にしているので、普段は開けないので」
俺の誕生日に、あみたちを招いたとき、ホームセンターで買った鍵をかけた後、開ける機会がなく、そのままだったのだ。
「あの日も鍵かかってましたね」
下着姿で寝ていたから、家探ししていないと思っていたが、そうでもないのか。
あの時は、デスクトップパソコンの電源は入れっぱなしだったが、スリープをとくのに、パスワードが必要だから大丈夫だったと思いたい。
物置の鍵を開けて、ドアを開ける。
間取り的に、リビングと寝室、洗面所、隣の住人の部屋との壁に囲まれていて、窓がなく真っ暗なので、照明をつけた。
中には、ここに引っ越してきて以来、開けてもいない段ボールや通販の空箱などが、置かれている。
「一部屋、もったいないですね。お掃除しますので、茜が住んでもいいですか?」
いいわけないだろう。
調査の結果、俺の部屋も含め、所属タレントの住居から、盗聴器は発見されなかった。
社長宅の盗聴器は、事務所のとは別件と判断され、オヤツボックスは廃止されなかったものの、ファンからのお菓子は、市販品だろうと、すべて破棄と決まった。
事務所のウェブサイトでも、今回の件を公表し、ファンへプレゼントの自粛をお願いして、一件落着となった。
中身が減ってしまったオヤツボックスに、なぜか『専務』へ自腹で随時補給せよ、と社長からの命が下ったが、役員手当では足りないのを理由に絶賛、交渉中だ。
「・・・おにいちゃん、誰かきたの?」
リビングのテレビで、推理ドラマを見ていたら、急に夏月に聞かれた。
「盗聴器の調査で、業者がきた。見つからなかったから、安心していい」
茜も来たが、別に話すことでもないだろう。
「そう。もう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
と自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
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