37 / 66
第二巻:夏
商談÷怪談+怪談
しおりを挟む
「どうしても、断れないのか?」
俺は、車の助手席で、後ろに向かってゴネていた。
「断れるんだったら、私も車に乗ってないわよ」
後部座席の社長も、ご機嫌斜めだ。
「茜は、ちょっとだけ楽しみですけど」
運転席の茜は、妙にワクワクした顔をしている。
俺たちは、怪談番組の収録へ、急ぎ向かっていた。
出演者二名が急病でドタキャン、と社長が世話になっているプロデューサーに泣きつかれたのだ。
現在、収録は俺たちの到着待ちという、危機的な状況にある。
あまりに急な依頼に、社長自身と学園帰りに拉致された俺が、ブッキングされた。
「俺、文化人枠じゃなかったっけ?」
「しょうがないでしょう、他いないんだもの」
志桜里は、空いているようだったが、怪談など心霊系は無理なのだそうだ。
初のバラエティー出演に、俺が抗議し続けていると、社長は逆ギレしてきた。
「なに?怖いの?」
「初バラエティーが怖いんじゃなくて、俺の売り方の戦略的な話を、」
「沢田先生、違うと思います」
茜に、否定されて、遮られた。
「違う?戦略がか?」
「いいえ。社長がおっしゃられる『怖いの?』は、怪談が、ではないでしょうか」
俺が、答えられないでいると、社長が「ぷぷっ」と噴き出した。
「やっぱり、怖いんだ?」
「茜、車止めろ。降りる、今すぐ止めろ」
「すみません。怖がる沢田先生を早く見てみたいので、茜はアクセル踏み込んでます」
押しに押しているので、俺は制服のまま、顔だけ簡単に塗ってもらって、ひな壇に車中でメイク済の社長と並んで座らせられると同時に、ドタバタの収録は開始された。
出演者が、自分の恐怖体験などを語るのだが、話の最中にセットの部品が外れて落下したり、暗転した照明が戻らなかったり、意図しない効果音が流れたり、スタッフが人形が動いたとか騒いだり、ドタバタしているせいか、トラブルが続く。
そして途中の休憩中、社長が世話になっているプロデューサーから、取れ高が微妙なため、カット前提で、エピソードトークを頼めないかと懇願された社長は、急な出演とは別の貸しとして受け、俺に丸投げした。
「沢田専務、よろ!」
「中学生のときなんですが、夏休みに、友達と地元で有名な廃墟を見に行ったんです。山の中にあるので、バスを利用するしかなくて、昼間に行きました。一見、別荘みたいな一軒家だったんですが、壊れたドアから入ると、中が全部、ペンキで、緑色に塗られていて異様でした。いっしょに行った友達が、二階で音がするというので、階段であがってみると、奥の部屋に少し開いた押し入れがありました。近づいたら、いきなり柴犬くらいのサイズのものが、隙間から飛び出てきて、俺たちの脇をすり抜けて、階段を下り下の階から外へ逃げて行きました。びっくりした私たちは、なんだったんだろう、野良犬が住み着いているのかな、などと言いながら、押し入れを開けると、そこで下半身だけの白骨の遺体を発見しました。当時、新聞に少年たちが白骨発見と載りましたが、逃げていった、あれは、何だったんでしょう?そして、上半身は、どこへ行ったのでしょうか?私の体験は、以上です」
初のバラエティー出演を終え、走る車の中で俺は、ぐったりしていた。
急に依頼されたエピソードトークも、その割には、ちゃんと話せたと思ったのだが、リアクションが薄く、カットされることだろう。
二人もそう感じたのだろう、慰めをためらっているのか、車内は静かだ。
まあ、もうバラエティーには出ないので、爪痕なんていらないのだが。
「茜ちゃんから、プレゼントの話を聞いて、引いてたけど。これほどの破壊力のが、他にもあるとは思ってなかった」
社長がぽつりと言うと、茜は、
「あ、茜は、今回も引いてませんよ」
どうやら、新聞沙汰の話だったからか、ドン引きされていた。
話題を変えよう。
「しかし、セットが壊れたり、やらせの演出が過ぎたな」
『あ』
二人が、気まずそうだ。
「・・・あれ、やらせじゃないそうです」
「ガチのトラブルだって。プロデューサー困ってた」
じゃあ、人形が動いたとかいうのも。
「あんな体験していて、なんで今更そんな顔?」
社長が呆れ、茜は、
「ようやく、怖がっている沢田先生を見られました」
何より一番の恐怖は、せっかくの収録がお蔵入りになったことだったが、それを知るのは後日のこと。
途中で、自宅が局に近い社長を降ろし、茜に車で部屋まで送ってもらった。
全然、早い時間だったので、俺が電車で帰れば、茜は楽ができるのだが、彼女は絶対に譲らない。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月が、読んでいた科学雑誌から顔を上げ、
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、急に怪談番組の仕事がはいったんだ」
言ってから、社長との共演は、今回が初めてだったな、と今更気がついた。
「怪談」
手の中の科学雑誌を見て、呟く。
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
俺は、車の助手席で、後ろに向かってゴネていた。
「断れるんだったら、私も車に乗ってないわよ」
後部座席の社長も、ご機嫌斜めだ。
「茜は、ちょっとだけ楽しみですけど」
運転席の茜は、妙にワクワクした顔をしている。
俺たちは、怪談番組の収録へ、急ぎ向かっていた。
出演者二名が急病でドタキャン、と社長が世話になっているプロデューサーに泣きつかれたのだ。
現在、収録は俺たちの到着待ちという、危機的な状況にある。
あまりに急な依頼に、社長自身と学園帰りに拉致された俺が、ブッキングされた。
「俺、文化人枠じゃなかったっけ?」
「しょうがないでしょう、他いないんだもの」
志桜里は、空いているようだったが、怪談など心霊系は無理なのだそうだ。
初のバラエティー出演に、俺が抗議し続けていると、社長は逆ギレしてきた。
「なに?怖いの?」
「初バラエティーが怖いんじゃなくて、俺の売り方の戦略的な話を、」
「沢田先生、違うと思います」
茜に、否定されて、遮られた。
「違う?戦略がか?」
「いいえ。社長がおっしゃられる『怖いの?』は、怪談が、ではないでしょうか」
俺が、答えられないでいると、社長が「ぷぷっ」と噴き出した。
「やっぱり、怖いんだ?」
「茜、車止めろ。降りる、今すぐ止めろ」
「すみません。怖がる沢田先生を早く見てみたいので、茜はアクセル踏み込んでます」
押しに押しているので、俺は制服のまま、顔だけ簡単に塗ってもらって、ひな壇に車中でメイク済の社長と並んで座らせられると同時に、ドタバタの収録は開始された。
出演者が、自分の恐怖体験などを語るのだが、話の最中にセットの部品が外れて落下したり、暗転した照明が戻らなかったり、意図しない効果音が流れたり、スタッフが人形が動いたとか騒いだり、ドタバタしているせいか、トラブルが続く。
そして途中の休憩中、社長が世話になっているプロデューサーから、取れ高が微妙なため、カット前提で、エピソードトークを頼めないかと懇願された社長は、急な出演とは別の貸しとして受け、俺に丸投げした。
「沢田専務、よろ!」
「中学生のときなんですが、夏休みに、友達と地元で有名な廃墟を見に行ったんです。山の中にあるので、バスを利用するしかなくて、昼間に行きました。一見、別荘みたいな一軒家だったんですが、壊れたドアから入ると、中が全部、ペンキで、緑色に塗られていて異様でした。いっしょに行った友達が、二階で音がするというので、階段であがってみると、奥の部屋に少し開いた押し入れがありました。近づいたら、いきなり柴犬くらいのサイズのものが、隙間から飛び出てきて、俺たちの脇をすり抜けて、階段を下り下の階から外へ逃げて行きました。びっくりした私たちは、なんだったんだろう、野良犬が住み着いているのかな、などと言いながら、押し入れを開けると、そこで下半身だけの白骨の遺体を発見しました。当時、新聞に少年たちが白骨発見と載りましたが、逃げていった、あれは、何だったんでしょう?そして、上半身は、どこへ行ったのでしょうか?私の体験は、以上です」
初のバラエティー出演を終え、走る車の中で俺は、ぐったりしていた。
急に依頼されたエピソードトークも、その割には、ちゃんと話せたと思ったのだが、リアクションが薄く、カットされることだろう。
二人もそう感じたのだろう、慰めをためらっているのか、車内は静かだ。
まあ、もうバラエティーには出ないので、爪痕なんていらないのだが。
「茜ちゃんから、プレゼントの話を聞いて、引いてたけど。これほどの破壊力のが、他にもあるとは思ってなかった」
社長がぽつりと言うと、茜は、
「あ、茜は、今回も引いてませんよ」
どうやら、新聞沙汰の話だったからか、ドン引きされていた。
話題を変えよう。
「しかし、セットが壊れたり、やらせの演出が過ぎたな」
『あ』
二人が、気まずそうだ。
「・・・あれ、やらせじゃないそうです」
「ガチのトラブルだって。プロデューサー困ってた」
じゃあ、人形が動いたとかいうのも。
「あんな体験していて、なんで今更そんな顔?」
社長が呆れ、茜は、
「ようやく、怖がっている沢田先生を見られました」
何より一番の恐怖は、せっかくの収録がお蔵入りになったことだったが、それを知るのは後日のこと。
途中で、自宅が局に近い社長を降ろし、茜に車で部屋まで送ってもらった。
全然、早い時間だったので、俺が電車で帰れば、茜は楽ができるのだが、彼女は絶対に譲らない。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月が、読んでいた科学雑誌から顔を上げ、
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、急に怪談番組の仕事がはいったんだ」
言ってから、社長との共演は、今回が初めてだったな、と今更気がついた。
「怪談」
手の中の科学雑誌を見て、呟く。
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる