(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第二巻:夏

商談÷怪談+怪談

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「どうしても、断れないのか?」
 俺は、車の助手席で、後ろに向かってゴネていた。
「断れるんだったら、私も車に乗ってないわよ」
 後部座席の社長も、ご機嫌斜めだ。
「茜は、ちょっとだけ楽しみですけど」
 運転席の茜は、妙にワクワクした顔をしている。
 俺たちは、怪談番組の収録へ、急ぎ向かっていた。
 出演者二名が急病でドタキャン、と社長が世話になっているプロデューサーに泣きつかれたのだ。
 現在、収録は俺たちの到着待ちという、危機的な状況にある。
 あまりに急な依頼に、社長自身と学園帰りに拉致された俺が、ブッキングされた。
「俺、文化人枠じゃなかったっけ?」
「しょうがないでしょう、他いないんだもの」
 志桜里は、空いているようだったが、怪談など心霊系は無理なのだそうだ。
 初のバラエティー出演に、俺が抗議し続けていると、社長は逆ギレしてきた。
「なに?怖いの?」
「初バラエティーが怖いんじゃなくて、俺の売り方の戦略的な話を、」
「沢田先生、違うと思います」
 茜に、否定されて、遮られた。
「違う?戦略がか?」
「いいえ。社長がおっしゃられる『怖いの?』は、怪談が、ではないでしょうか」
 俺が、答えられないでいると、社長が「ぷぷっ」と噴き出した。
「やっぱり、怖いんだ?」
「茜、車止めろ。降りる、今すぐ止めろ」
「すみません。怖がる沢田先生を早く見てみたいので、茜はアクセル踏み込んでます」

 押しに押しているので、俺は制服のまま、顔だけ簡単に塗ってもらって、ひな壇に車中でメイク済の社長と並んで座らせられると同時に、ドタバタの収録は開始された。
 出演者が、自分の恐怖体験などを語るのだが、話の最中にセットの部品が外れて落下したり、暗転した照明が戻らなかったり、意図しない効果音が流れたり、スタッフが人形が動いたとか騒いだり、ドタバタしているせいか、トラブルが続く。
 そして途中の休憩中、社長が世話になっているプロデューサーから、取れ高が微妙なため、カット前提で、エピソードトークを頼めないかと懇願された社長は、急な出演とは別の貸しとして受け、俺に丸投げした。
「沢田専務、よろ!」

「中学生のときなんですが、夏休みに、友達と地元で有名な廃墟を見に行ったんです。山の中にあるので、バスを利用するしかなくて、昼間に行きました。一見、別荘みたいな一軒家だったんですが、壊れたドアから入ると、中が全部、ペンキで、緑色に塗られていて異様でした。いっしょに行った友達が、二階で音がするというので、階段であがってみると、奥の部屋に少し開いた押し入れがありました。近づいたら、いきなり柴犬くらいのサイズのものが、隙間から飛び出てきて、俺たちの脇をすり抜けて、階段を下り下の階から外へ逃げて行きました。びっくりした私たちは、なんだったんだろう、野良犬が住み着いているのかな、などと言いながら、押し入れを開けると、そこで下半身だけの白骨の遺体を発見しました。当時、新聞に少年たちが白骨発見と載りましたが、逃げていった、あれは、何だったんでしょう?そして、上半身は、どこへ行ったのでしょうか?私の体験は、以上です」

 初のバラエティー出演を終え、走る車の中で俺は、ぐったりしていた。
 急に依頼されたエピソードトークも、その割には、ちゃんと話せたと思ったのだが、リアクションが薄く、カットされることだろう。
 二人もそう感じたのだろう、慰めをためらっているのか、車内は静かだ。
 まあ、もうバラエティーには出ないので、爪痕なんていらないのだが。
「茜ちゃんから、プレゼントの話を聞いて、引いてたけど。これほどの破壊力のが、他にもあるとは思ってなかった」
 社長がぽつりと言うと、茜は、
「あ、茜は、今回も引いてませんよ」
 どうやら、新聞沙汰の話だったからか、ドン引きされていた。
 話題を変えよう。
「しかし、セットが壊れたり、やらせの演出が過ぎたな」
『あ』
 二人が、気まずそうだ。
「・・・あれ、やらせじゃないそうです」
「ガチのトラブルだって。プロデューサー困ってた」
 じゃあ、人形が動いたとかいうのも。
「あんな体験していて、なんで今更そんな顔?」
 社長が呆れ、茜は、
「ようやく、怖がっている沢田先生を見られました」
 何より一番の恐怖は、せっかくの収録がお蔵入りになったことだったが、それを知るのは後日のこと。

 途中で、自宅が局に近い社長を降ろし、茜に車で部屋まで送ってもらった。
 全然、早い時間だったので、俺が電車で帰れば、茜は楽ができるのだが、彼女は絶対に譲らない。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
 鍵を開け、部屋に入る。
 明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
 夏月が、読んでいた科学雑誌から顔を上げ、
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、急に怪談番組の仕事がはいったんだ」
 言ってから、社長との共演は、今回が初めてだったな、と今更気がついた。
「怪談」
 手の中の科学雑誌を見て、呟く。
 また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
 とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
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