(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春

デート+映画

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「うーん、何味にしよう?」
 あみが、ポップコーン売り場の前で、悩んでいた。
「そろそろ入らないと、あみが観たがっていたノーモア映画泥棒、見逃すぞ」
 俺たちは、映画館にいた。
 友達宣言のとき、二人で見る初めての映画が仕事の試写会なのを嫌がったあみを、マネージャーの志方が説得したのだが勝手に、俺へ無許可で、映画デートを約束していたのだ。
 そして、その代価を取り立てられているわけだ。
 ちなみに、この件を平謝りする志方に、俺は『志方さんには、いつもいつもお世話になっておりますから、問題ございませんよ』と敬語で言ってやった。
「塩キャラメルとブラックペッパーにする」
 ようやく味が決まったようなので、味つけ二種類のセットで注文する。
 飲み物は、あみはいつものダイエット・コーラ。
 いつだったか、カロリーゼロのコーラでなくていいのか聞いたら、「カロリーある方が、背徳感が堪らなくて美味しい」のだそうだ。
 ならなぜ、ノーマルなコーラでなくダイエットとも思うのだが、乙女心はよくわからない。
 俺は、ビール。
 飲み干しても追加しようのない消耗戦な上、遅延作戦をとれば、ぬるくなっていき自滅する。
 しかも、カフェイン以上に膀胱という爆弾を内に抱え込むこととなるリスキーな飲み物だが、選ばない選択肢はない。
 トレーを受け取る俺は、ブラックジーンズにカーキ色のシャツという私服だった。
 制服だとデート感がない、とのあみの主張でだ。
 あみは、あずき色を基調にコーディネイトしたミニスカートにニーハイソックス姿だ。
 かわいいが、この服装をなんと表現すればいいのか、俺の語彙では、ファッションに関するワードが足りない。
 この後、食事に行ったりすれば、制服では目立つので、正しい判断だろう。
 そういえば、修学旅行での居酒屋は、がっつり制服で行ったが、店員にはどう思われていたのだろう。
 驚くことに、彼女は、伊達メガネをかけただけで、変装という感じはなかった。
「意外と気づかれないもんだよ」
 少し伸びてきた髪を、あずき色のリボンでまとめているのも、いつもと違う雰囲気で、バレにくくしているのかもしれない。
 俺?
 少しばかりテレビやYouTubeに出ていたところで、俺みたいなオッサンに、誰が注目するというのだ?
 席に座ったところで、ちょうどノーモア映画泥棒が始まった。
 映画は、あみが二人組のユニットで主題歌を歌うことになっているテレビアニメ、これの劇場版だ。
 ダンス版のPVは公開されており、楽曲が主題歌の切り替えと同時発売されるのは、そろそろか。
 周りもカップルより、親子連れが多い。
 彼女が、悩んで悩んで選んだ初映画だったが、また週刊誌に写真を撮られたとしても、「親子のような仲良し」と言い訳できるな、と思ったのは、内緒だ。

 テレビアニメは連続モノで、シリーズが進むにつれて展開があるが、劇場版は独立した物語で前後を知らなくても楽しめるので、ちゃんと題名を聞いていなかった。
 オープニングで、あれ?と思った。
 題名が、現れて驚いた。
 もう二十年も前のリメイクだったのだ。
 そう、二十年前に、これの元となった映画を見ていた。
 後に妻になる女性、そう元妻と。
 この脚本を書いたのは、少年時代に大好きだったアニメを手掛けた人で、彼が書いた小説もむさぼるように読んだ。
 この人の書いた文章が好きで、マネをしたものだ。
 俺が、生物学の解説など、文章を書くようになったのは、この影響が大きい。
 映画の物語も覚えている。
 このシーンなら、不自然ではないだろう、というところまで耐えて、ハンカチを取り出し、顔を覆った。
 ずっと、思い出さないようにしていた思いが、溢れる。
 仕事で、つらい立場だったが、それでも、彼女に、子供たちに、もっと違うことができたのではないか。
 その後も、もっと違う接し方ができたのではないか。
 そんな考えから逃げるように、この脚本家は、急死したため、未完となった彼の知られざる代表作小説の最終巻は、どんな結末だったのだろう、と現実逃避気味に考えた。
 急に、ハンカチが奪われた。
 隣を見ると、あみが俺のハンカチで、号泣した目元を押さえていた。
 俺は、アイドルなんだから「ハンカチ持ち歩こうよ」と少しだけ、笑った。
 手の中のビールは、半分以上残して温まり、俺の人生の取返しのつかなさを象徴しているように、俺には思えた。

「ハンカチ、洗って返すね」
 その気遣いよりも、ハンカチ持ち歩く習慣を身に着けような、現役アイドル。
「これから、どうしよっか?」
 映画に夢中になりすぎ、大量に残ったポップコーンをロビーでようやく食べ終え、あみが聞いてきた。
「お腹は、減ってないだろう?」
「うん」
「とりあえず、少し歩くか?」
「うん!」
 人通りが多いのを言い訳にして、俺にくっついて歩くあみ。
 ショーウィンドウを覗き、この服似合うかな?などと聞いてくるが、ファッションセンスを期待しないでほしい。
 途端に俺は、イエスマンと化し、且つ「適当に言ってるんでしょ」と指摘されないよう、細心の注意を払った。
「あ?」
 そんな風に歩いていたら、大型書店の前で、あみが立ち止まった。
 その視線の先には、志桜里がいた。
 買い物帰りのようだ。
 俺たちの視線を感じたのか、こちらを向く。
 あみが、逃げようと俺の手をつかむが、無理な話だ。
 俺を見つけ、にこっと笑った志桜里が、走り寄ってきた。
「先生!」
「ちっ」
 そこ、公共の場でアイドルが舌打ちしない。
「・・・しかも、服の色被ってるし」
 見れば、志桜里もあずき色を基調とした服だが、細部はまったく違うし、リボンではなくベレー帽、ロングスカートなのだが、被っているといわれれば否めない。
「先生、どうしてこちらに?」
「デート中なの、私たち!」
「デート?どういうことです先生?」
 いくらなんでも、美少女二人が、街中で言い争いをしたら、注目を集め、誰だかバレる。
 とはいえ、どちらも簡単には譲らないだろう。
 俺は、またしても、切りたくもないカードをオープンすることになった。
「・・・秘密の場所を教えてほしかったら、二人とも落ちつけ」
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