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第一巻:春
友情-強情
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「これ、あみりんの手料理っていうより、半分以上は自作だよね?」
ホットプレートで、お好み焼きをフライ返しでひっくり返して、ミホがぼやいた。
先日の鳳凰学園やらせPRに協力してくれたミホへのお礼の昼食会だ。
『茶色い』あみの手料理を食べたいとミホがゴネた結果、拗ねたあみが用意したのが、『茶色い』お好み焼きだ。
「自分の分は、自分で焼くのが北乃家のルールだから」
お好み焼きって、大きく焼いて、切り分けて食べるように思っていたが、この家では、小さく自分用に焼くようだ。
生地はあみが用意したとはいえ、焼くのは確かに自作だ。
あと、なんだか、焼きそばを挟む広島風が俺の中でのスタンダードだったのだが、そうではなないようだ。
まあ、炭水化物に炭水化物だしな。
「大きいと中まで火が通りにくいんだよ」
昼間から、焼酎炭酸割をかっくらいながら、居酒屋のママっぽくママが言う。
確かに、居酒屋メニューのお好み焼きは、小さめだ。
「小麦粉は十分に加熱しないと、消化不良を起こしますからね」
俺も、土曜日なのをいいことに、ビールかっくらいながら、言った。
意外と知られていないし、お腹壊した程度で済んで自覚症状がないが、食中毒の上位なんだぞ。
「なぜだかボク、みんなに、すっごく騙されてる気しかしないよ」
言いつつ、自分の皿にとり、ソースをかけ、青のり、鰹節をふり、悩んだ末にマヨネーズはやめて、箸で食べだした。
見渡せば、マヨネーズを使っているのは、四人の中で、ママだけだ。
俺が、マヨネーズを気にしたのに気づいたのだろう、ミホが、
「先にごめん。さわりんのTWITTER知ってて、フォローしてた」
お前もか。
とはいえ、あれも『俺』だと割り切れたからか、知られていたことに、あまり動揺を感じなかったのが、自分でも意外だった。
俺とわかったのは、あみのアカウントをリアルで知っていて、そのアプローチから薄々のようだ。
そういえば、食べ物のことで結構、あみと話したと言っていた気がするから、そういう方面だったのか。
あみから、フォローされていたことを聞いて先日、久しぶりにログインして、フォロワーを確認したが、言われてみれば、ぽいのがいた。
どうやら、男性の摂食障害で、オープンにする者は少ないようで、注目されていたらしい。
「摂食障害といえば、バレリーナかファッションモデルかアイドルだよ?」
それは知らないが、その表情で言えているということは、彼女も乗り越えたのだろう。
「ボクって脂肪がつきやすい体質だから、困っちゃう」
言われて、ついミホの身体を見てしまう。
スレンダーだが、意外と胸部に脂肪がある。
つい、脂肪がつきにくそうなあみと見比べてしまい、
「えっち」
胸元を手で隠したあみに、ゴミを見るような目で言われた。
「お店の仕込みまで、ちょっと寝るけど、あんたら、どうするんだい?」
ホットプレートの片づけが終わり、寝室へママが向かいながら聞いてきた。
「ミホちゃんは帰ると思うけど。先輩は、まだいるよね?」
「ボクを追い帰すの前提?」
俺としては、夕食をお店で食べても構わないが、ビールが効いて、今はとりあえず眠い。
「ボクも、お店に行ってみたいよ。それで、お泊り会したい」
「居酒屋だから、未成年者は、お断り」
「あみりんも未成年だよね?」
「お店の看板娘だもん」
「ボクも手伝うよ。きっとボクのお酌で売り上げアップだよ?」
「・・・私と先輩をふたりきりにするために、帰れ」
「・・・あみりん、ボクたち、お友達だよね?」
「・・・先輩、起きて」
あみに揺さぶられて、寝ていたことに気がついた。
どうやら、リビングで、ビールで酔って寝てしまったらしい。
「先にお店に行ってるよ」
「ママ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
どうやらミホは、強制退去させられなかったらしい。
ビニール袋から出した、白地にピンクの花柄のパジャマを身体に当てている。
「パジャマ?」
「絶対に泊まるってきかないから、先輩がお昼寝している間に、買い物してきた」
「あみりんとお揃いのパジャマ買ったんだ」
「そうなんですか」
ミホを泊めるのを嫌がっているっぽくしているくせに、ノリノリだな。
「・・・似合う?」
あみが、パジャマを身体に当てて、聞いてくる。
「とっても似合いますよ」
この質問に、否と言う選択肢は、彼岸のこちら側には用意されていない。
「あーあ。双子コーデに、サイズまでお揃いにしたかったんだけど、胸がキツくて。残念」
前半の双子コーデはわからないが、後半は確実に、俺でもわかる『口にしてはいけない禁忌の言葉』だ。
「・・・やっぱり帰れ」
胸元をパジャマで隠したあみは、ゴミを見るような目で宣言した。
今まで泊まるときは、結果としてお店の閉店までいたのだが、今夜はミホがいるので、ママを残し、先に帰ってきた。
お店で、ミホは、大はしゃぎで手伝いをしていた。
常連たちも、若いミホに最初は沸いたが、さすがは大人。
持ち上げると調子にのるタイプだと早々に見抜き、大暴れしないようにあしらっていた。
さすがは、現役アイドルの接客に慣れているだけの先達だった。
そういえば、あみの手料理をごちそうになったときの手土産にもってきた小さな花束が、お店で逆さ吊りになっていた。
なんの儀式かと思ったら、ドライフラワーにしているそうだ。
コップサイズの花瓶もカウンターの上で新たに花が飾られ、活用されていた。
あみは、家から持ち出さないでって言ったのに、とむくれていたがママの「店の方がたくさんの人に花も花瓶も見てもらえる」に反論できずに膨れていた。
自分の部屋に、ミホといっしょに彼女の分の布団を敷きに行って、ひとりもどってきたあみが、
「先輩、お先にお風呂どうぞ」
当然、昼食会なだけで、泊まる予定なんてしていないので、代えの下着なんてもってきていない。
入浴後に、同じ下着をつけるのが、あまり好きでないので、それを言い訳に、
「いや、」
と断ろうとする、と、
「はい」
と後ろに隠していた、新品のスウェットとTシャツ、パンツ、タオルのセットを差し出してきた。
「先輩、トランクス派でしょ」
いつ、どこで知った?
「わざわざ買ってきたのか?」
「ちょっと恥ずかしかったけど。新婚さんみたいで、楽しかった」
「・・・ありがとう」
そう、嬉しそうに言われては、断れない。
諦めて、彼女の実家で入浴する、という苦行を受け入れることにした。
お風呂を沸かしてくれていたが、湯舟に浸かっても落ち着かないのはわかっているので、シャワーだけにする。
この後、あみとミホが入浴するだろうから、無実のお湯を入れかえられてももったいないので、説明しないとだな。
酔い覚ましに、少し温度低めのシャワーを浴びていると、
「先輩、お背中流そうか?」
脱衣所から、声がかかった。
真っ先に考えたのは、脱いだパンツを、どうしていたかだ。
上に、バスタオルを置いて隠していたはずだ。
よくやった、ナイスだ数分過去の俺。
それで少し落ち着き、からかいにきたのだろう、と覚る。
本気なら、問答無用で入ってくればいいのだから。
懲らしめておこう。
俺は、キュッとシャワーを止め、タオルを腰に巻いて、ドアを細く開けた。
その音に驚くあみと、隙間越しに目が合った。
「え?」
俺がどう断ってくるか、しか想定していなかったのだろう。
「背中流してくれるなら、あみも脱いでおいで」
「え?ええ?」
目を逸らし、顔を赤く染めるあみ。
あまりイジメると、変な方向に決断してしまうだろうから、この辺で止めておく。
「俺にも性欲があるって、何度も言ってる。からかうなら、覚悟してやれ」
「・・・ごめんなさい」
あみが、脱衣所から出ていったので、安堵してドアを閉める。
風呂場で全裸で性欲を語るとか、シュールすぎだ。
「お風呂上りのパジャマ姿を男の人に見られるのは恥ずかしい」
という、ミホの超常識的な言葉に、俺は風呂場へ向かう二人を見送ると、いつもの部屋で寝ころんだ。
おかげで、ありがちなラッキースケベが発生せずに、すみそうだ。
そんなことになったら、あみに、どんな目に合わせられるかわからない。
しばらくして、リビングから漏れてくるドライヤーの音や、テレビに紛れてくる彼女らの声を聞きながら、俺は眠った。
ふと、目が覚めるともう明るく朝で、腕の中に、いつものように潜り込んできていた。
俺はつい、抱きしめ、髪に顔を埋め、その感触の違いに気がついた。
あみ、じゃない?
布団から飛び出すと、その動きで起きたミホが、目をこすりながら、きょろきょろと辺りを見渡し、
「あれ?トイレから帰って、部屋まちがえた?」
オーケイ、落ち着け。
これは、事故だ。
いや、このまま隠ぺいできれば、事故にもならない。
急いで、ミホをあみの部屋へ戻さなければ。
もう朝だから、タイムリミットに余裕はないはずだ。
動け、急げ。
そこで、さっきまで開かない目をこすっていたミホが、目を見開いてるのに気がついた。
俺の背後へ向けて。
俺は、急激な動きで、獣を刺激しないように、ゆっくりと振り向いた。
そこには細く開けられたドアの隙間から覗く、あみの眼があった。
言葉もない俺たちに、
「・・・帰れ」
ゴミを見るような目で宣言し、彼女は、ドアを閉めた。
直後、あみの部屋の前で、並んで土下座する俺たちの姿を、ママは透明な眼差しで眺めて、キッチンへ向かった。
「青春、だよねえ?」
ホットプレートで、お好み焼きをフライ返しでひっくり返して、ミホがぼやいた。
先日の鳳凰学園やらせPRに協力してくれたミホへのお礼の昼食会だ。
『茶色い』あみの手料理を食べたいとミホがゴネた結果、拗ねたあみが用意したのが、『茶色い』お好み焼きだ。
「自分の分は、自分で焼くのが北乃家のルールだから」
お好み焼きって、大きく焼いて、切り分けて食べるように思っていたが、この家では、小さく自分用に焼くようだ。
生地はあみが用意したとはいえ、焼くのは確かに自作だ。
あと、なんだか、焼きそばを挟む広島風が俺の中でのスタンダードだったのだが、そうではなないようだ。
まあ、炭水化物に炭水化物だしな。
「大きいと中まで火が通りにくいんだよ」
昼間から、焼酎炭酸割をかっくらいながら、居酒屋のママっぽくママが言う。
確かに、居酒屋メニューのお好み焼きは、小さめだ。
「小麦粉は十分に加熱しないと、消化不良を起こしますからね」
俺も、土曜日なのをいいことに、ビールかっくらいながら、言った。
意外と知られていないし、お腹壊した程度で済んで自覚症状がないが、食中毒の上位なんだぞ。
「なぜだかボク、みんなに、すっごく騙されてる気しかしないよ」
言いつつ、自分の皿にとり、ソースをかけ、青のり、鰹節をふり、悩んだ末にマヨネーズはやめて、箸で食べだした。
見渡せば、マヨネーズを使っているのは、四人の中で、ママだけだ。
俺が、マヨネーズを気にしたのに気づいたのだろう、ミホが、
「先にごめん。さわりんのTWITTER知ってて、フォローしてた」
お前もか。
とはいえ、あれも『俺』だと割り切れたからか、知られていたことに、あまり動揺を感じなかったのが、自分でも意外だった。
俺とわかったのは、あみのアカウントをリアルで知っていて、そのアプローチから薄々のようだ。
そういえば、食べ物のことで結構、あみと話したと言っていた気がするから、そういう方面だったのか。
あみから、フォローされていたことを聞いて先日、久しぶりにログインして、フォロワーを確認したが、言われてみれば、ぽいのがいた。
どうやら、男性の摂食障害で、オープンにする者は少ないようで、注目されていたらしい。
「摂食障害といえば、バレリーナかファッションモデルかアイドルだよ?」
それは知らないが、その表情で言えているということは、彼女も乗り越えたのだろう。
「ボクって脂肪がつきやすい体質だから、困っちゃう」
言われて、ついミホの身体を見てしまう。
スレンダーだが、意外と胸部に脂肪がある。
つい、脂肪がつきにくそうなあみと見比べてしまい、
「えっち」
胸元を手で隠したあみに、ゴミを見るような目で言われた。
「お店の仕込みまで、ちょっと寝るけど、あんたら、どうするんだい?」
ホットプレートの片づけが終わり、寝室へママが向かいながら聞いてきた。
「ミホちゃんは帰ると思うけど。先輩は、まだいるよね?」
「ボクを追い帰すの前提?」
俺としては、夕食をお店で食べても構わないが、ビールが効いて、今はとりあえず眠い。
「ボクも、お店に行ってみたいよ。それで、お泊り会したい」
「居酒屋だから、未成年者は、お断り」
「あみりんも未成年だよね?」
「お店の看板娘だもん」
「ボクも手伝うよ。きっとボクのお酌で売り上げアップだよ?」
「・・・私と先輩をふたりきりにするために、帰れ」
「・・・あみりん、ボクたち、お友達だよね?」
「・・・先輩、起きて」
あみに揺さぶられて、寝ていたことに気がついた。
どうやら、リビングで、ビールで酔って寝てしまったらしい。
「先にお店に行ってるよ」
「ママ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
どうやらミホは、強制退去させられなかったらしい。
ビニール袋から出した、白地にピンクの花柄のパジャマを身体に当てている。
「パジャマ?」
「絶対に泊まるってきかないから、先輩がお昼寝している間に、買い物してきた」
「あみりんとお揃いのパジャマ買ったんだ」
「そうなんですか」
ミホを泊めるのを嫌がっているっぽくしているくせに、ノリノリだな。
「・・・似合う?」
あみが、パジャマを身体に当てて、聞いてくる。
「とっても似合いますよ」
この質問に、否と言う選択肢は、彼岸のこちら側には用意されていない。
「あーあ。双子コーデに、サイズまでお揃いにしたかったんだけど、胸がキツくて。残念」
前半の双子コーデはわからないが、後半は確実に、俺でもわかる『口にしてはいけない禁忌の言葉』だ。
「・・・やっぱり帰れ」
胸元をパジャマで隠したあみは、ゴミを見るような目で宣言した。
今まで泊まるときは、結果としてお店の閉店までいたのだが、今夜はミホがいるので、ママを残し、先に帰ってきた。
お店で、ミホは、大はしゃぎで手伝いをしていた。
常連たちも、若いミホに最初は沸いたが、さすがは大人。
持ち上げると調子にのるタイプだと早々に見抜き、大暴れしないようにあしらっていた。
さすがは、現役アイドルの接客に慣れているだけの先達だった。
そういえば、あみの手料理をごちそうになったときの手土産にもってきた小さな花束が、お店で逆さ吊りになっていた。
なんの儀式かと思ったら、ドライフラワーにしているそうだ。
コップサイズの花瓶もカウンターの上で新たに花が飾られ、活用されていた。
あみは、家から持ち出さないでって言ったのに、とむくれていたがママの「店の方がたくさんの人に花も花瓶も見てもらえる」に反論できずに膨れていた。
自分の部屋に、ミホといっしょに彼女の分の布団を敷きに行って、ひとりもどってきたあみが、
「先輩、お先にお風呂どうぞ」
当然、昼食会なだけで、泊まる予定なんてしていないので、代えの下着なんてもってきていない。
入浴後に、同じ下着をつけるのが、あまり好きでないので、それを言い訳に、
「いや、」
と断ろうとする、と、
「はい」
と後ろに隠していた、新品のスウェットとTシャツ、パンツ、タオルのセットを差し出してきた。
「先輩、トランクス派でしょ」
いつ、どこで知った?
「わざわざ買ってきたのか?」
「ちょっと恥ずかしかったけど。新婚さんみたいで、楽しかった」
「・・・ありがとう」
そう、嬉しそうに言われては、断れない。
諦めて、彼女の実家で入浴する、という苦行を受け入れることにした。
お風呂を沸かしてくれていたが、湯舟に浸かっても落ち着かないのはわかっているので、シャワーだけにする。
この後、あみとミホが入浴するだろうから、無実のお湯を入れかえられてももったいないので、説明しないとだな。
酔い覚ましに、少し温度低めのシャワーを浴びていると、
「先輩、お背中流そうか?」
脱衣所から、声がかかった。
真っ先に考えたのは、脱いだパンツを、どうしていたかだ。
上に、バスタオルを置いて隠していたはずだ。
よくやった、ナイスだ数分過去の俺。
それで少し落ち着き、からかいにきたのだろう、と覚る。
本気なら、問答無用で入ってくればいいのだから。
懲らしめておこう。
俺は、キュッとシャワーを止め、タオルを腰に巻いて、ドアを細く開けた。
その音に驚くあみと、隙間越しに目が合った。
「え?」
俺がどう断ってくるか、しか想定していなかったのだろう。
「背中流してくれるなら、あみも脱いでおいで」
「え?ええ?」
目を逸らし、顔を赤く染めるあみ。
あまりイジメると、変な方向に決断してしまうだろうから、この辺で止めておく。
「俺にも性欲があるって、何度も言ってる。からかうなら、覚悟してやれ」
「・・・ごめんなさい」
あみが、脱衣所から出ていったので、安堵してドアを閉める。
風呂場で全裸で性欲を語るとか、シュールすぎだ。
「お風呂上りのパジャマ姿を男の人に見られるのは恥ずかしい」
という、ミホの超常識的な言葉に、俺は風呂場へ向かう二人を見送ると、いつもの部屋で寝ころんだ。
おかげで、ありがちなラッキースケベが発生せずに、すみそうだ。
そんなことになったら、あみに、どんな目に合わせられるかわからない。
しばらくして、リビングから漏れてくるドライヤーの音や、テレビに紛れてくる彼女らの声を聞きながら、俺は眠った。
ふと、目が覚めるともう明るく朝で、腕の中に、いつものように潜り込んできていた。
俺はつい、抱きしめ、髪に顔を埋め、その感触の違いに気がついた。
あみ、じゃない?
布団から飛び出すと、その動きで起きたミホが、目をこすりながら、きょろきょろと辺りを見渡し、
「あれ?トイレから帰って、部屋まちがえた?」
オーケイ、落ち着け。
これは、事故だ。
いや、このまま隠ぺいできれば、事故にもならない。
急いで、ミホをあみの部屋へ戻さなければ。
もう朝だから、タイムリミットに余裕はないはずだ。
動け、急げ。
そこで、さっきまで開かない目をこすっていたミホが、目を見開いてるのに気がついた。
俺の背後へ向けて。
俺は、急激な動きで、獣を刺激しないように、ゆっくりと振り向いた。
そこには細く開けられたドアの隙間から覗く、あみの眼があった。
言葉もない俺たちに、
「・・・帰れ」
ゴミを見るような目で宣言し、彼女は、ドアを閉めた。
直後、あみの部屋の前で、並んで土下座する俺たちの姿を、ママは透明な眼差しで眺めて、キッチンへ向かった。
「青春、だよねえ?」
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