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大量焼死体遺棄事件:裏サイド
side:ジジイ
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本名:沢村良太
享年:五十八歳
死因:呪殺
捜査一課の課長となれば、叩き上げでの、ほぼ最高位だ。
自慢ではないが、そう簡単になれるものではない。
批判を覚悟で言えば、殺人事件を扱う一課は、警察の中でも花形だ。
そこの課長は、ノンキャリアで望める、一つの到達点と言える。
古いドラマで言えば、「太陽にほえろ!」で石原裕次郎が演じたボスだ。
課長になれた時は、誇らしかったし、仕事に情熱を感じていた。
とはいえ、仕事仕事で、妻には文句を言われっぱなしだったし、娘は反抗期真っ只中で、家庭人としては、失格だった。
そのシッペ返しは、時間を開けずに喰らうことになる。
妻のパチンコでの借金。
専業主婦が借りる先など、闇金しかなく、雪だるま式の利子は、その借用書が売買され、ヤクザの手に渡ることになる。
選択肢は、妻を風呂屋に沈めるか、警察官として便宜をはかるかだ。
そのうち、娘も薬を買っている、なんて言われれば、もう先は見えたようなものだ。
それらがバレたのに、なんとか生活安全課とはいえ、残れたのは、行幸としか言い様がない。
もちろん、立場が窓際であることには、間違いない。
仕事としても、失礼には思うが、一課に比べたら、だ。
ぶらぶら、と街を歩いて、未成年を保護、という名目で補導する程度だ。
何度か、実の娘を補導しかかり逃がしたのは、笑えない。
まあ、ヤクザの情婦なので、未成年とはいえ、もう補導とは言えないのだろうが。
その中でも、環境団体にノメリ混んだ母親の介護放棄で、難病の大学生を保護したのは、失敗だった。
やめておけばいいのを、正義感を掘り起こして、その環境団体を探ってしまった。
そうしたら、あっという間に、どう撮ったのか、その大学生との淫行ともとれるような写真が、送られてきた。
後にこれが、「あおいさくら」というアイドルとしてデビューしたため再度、白眼視されたのは、今では些細なネタだ。
逆に、懲戒処分にならなかったのが、不思議なくらいだ。
一応、一課長を勤めた能力と人脈を認めて、クビにすれば、敵に回ってヤクザの元で何をやるかわからない、ということから、生きていける程度の給料は出そう、ということなのだろうか。
膨大な量の鑑識や総務の書類仕事をする、所属がどこかもわからないような飼い殺し状態だ。
八神は、一課の捜査員だったころからの付き合いだ。
当時は、あいつは一流新聞に所属する若手記者だった。
ところが俺の転落に付き合うように、弟のスキャンダルを揉み消したとかで、二流、三流の新聞、雑誌から、フリーに転落した。
ある意味、俺に対する態度が変わらなかった、唯一の人間かもしれない。
お偉くなった、かつての部下は、腫れ物のようにしか、俺を見なかったからな。
とりあえず、コネだけはあるから手にいれた情報で、酒とタバコ代は稼がせてもらった。
いつもどおりに、仕事を定時にあがり、どこで晩飯を食うか考えながらブラブラ、と歩いていた。
八神からボッタくったので、金はある。
「パパ」
声をかけられて、振り向く、と娘がいた。
止めたとは聞いたが、かつての薬のせいか、ガリガリに痩せて、髪にも白い物がかなり混ざりボサボサだ。
借金か、警察への口利きか、どうせ碌でもない頼みだろう、と背を向けて足早に歩き出す。
ちょっと金が入ったタイミングを、どうやって知ったんだ?
どこかの組織にでも、見張られているのか?
「まって!」
追いかけてくるので、振り切るために、細い路地に入った。
ゲロと腐った生ゴミの臭いのする、薄暗い小道を歩いている、と腰に何かが当たり、ドカンという衝撃を感じて、分からなくなった。
享年:五十八歳
死因:呪殺
捜査一課の課長となれば、叩き上げでの、ほぼ最高位だ。
自慢ではないが、そう簡単になれるものではない。
批判を覚悟で言えば、殺人事件を扱う一課は、警察の中でも花形だ。
そこの課長は、ノンキャリアで望める、一つの到達点と言える。
古いドラマで言えば、「太陽にほえろ!」で石原裕次郎が演じたボスだ。
課長になれた時は、誇らしかったし、仕事に情熱を感じていた。
とはいえ、仕事仕事で、妻には文句を言われっぱなしだったし、娘は反抗期真っ只中で、家庭人としては、失格だった。
そのシッペ返しは、時間を開けずに喰らうことになる。
妻のパチンコでの借金。
専業主婦が借りる先など、闇金しかなく、雪だるま式の利子は、その借用書が売買され、ヤクザの手に渡ることになる。
選択肢は、妻を風呂屋に沈めるか、警察官として便宜をはかるかだ。
そのうち、娘も薬を買っている、なんて言われれば、もう先は見えたようなものだ。
それらがバレたのに、なんとか生活安全課とはいえ、残れたのは、行幸としか言い様がない。
もちろん、立場が窓際であることには、間違いない。
仕事としても、失礼には思うが、一課に比べたら、だ。
ぶらぶら、と街を歩いて、未成年を保護、という名目で補導する程度だ。
何度か、実の娘を補導しかかり逃がしたのは、笑えない。
まあ、ヤクザの情婦なので、未成年とはいえ、もう補導とは言えないのだろうが。
その中でも、環境団体にノメリ混んだ母親の介護放棄で、難病の大学生を保護したのは、失敗だった。
やめておけばいいのを、正義感を掘り起こして、その環境団体を探ってしまった。
そうしたら、あっという間に、どう撮ったのか、その大学生との淫行ともとれるような写真が、送られてきた。
後にこれが、「あおいさくら」というアイドルとしてデビューしたため再度、白眼視されたのは、今では些細なネタだ。
逆に、懲戒処分にならなかったのが、不思議なくらいだ。
一応、一課長を勤めた能力と人脈を認めて、クビにすれば、敵に回ってヤクザの元で何をやるかわからない、ということから、生きていける程度の給料は出そう、ということなのだろうか。
膨大な量の鑑識や総務の書類仕事をする、所属がどこかもわからないような飼い殺し状態だ。
八神は、一課の捜査員だったころからの付き合いだ。
当時は、あいつは一流新聞に所属する若手記者だった。
ところが俺の転落に付き合うように、弟のスキャンダルを揉み消したとかで、二流、三流の新聞、雑誌から、フリーに転落した。
ある意味、俺に対する態度が変わらなかった、唯一の人間かもしれない。
お偉くなった、かつての部下は、腫れ物のようにしか、俺を見なかったからな。
とりあえず、コネだけはあるから手にいれた情報で、酒とタバコ代は稼がせてもらった。
いつもどおりに、仕事を定時にあがり、どこで晩飯を食うか考えながらブラブラ、と歩いていた。
八神からボッタくったので、金はある。
「パパ」
声をかけられて、振り向く、と娘がいた。
止めたとは聞いたが、かつての薬のせいか、ガリガリに痩せて、髪にも白い物がかなり混ざりボサボサだ。
借金か、警察への口利きか、どうせ碌でもない頼みだろう、と背を向けて足早に歩き出す。
ちょっと金が入ったタイミングを、どうやって知ったんだ?
どこかの組織にでも、見張られているのか?
「まって!」
追いかけてくるので、振り切るために、細い路地に入った。
ゲロと腐った生ゴミの臭いのする、薄暗い小道を歩いている、と腰に何かが当たり、ドカンという衝撃を感じて、分からなくなった。
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