【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜

文字の大きさ
上 下
74 / 94
大量焼死体遺棄事件:裏サイド

side:私

しおりを挟む
本名:新堂始
享年:三十七歳
死因:事故死(窓からの転落)

 私は、ヤタガラスからの電話が切れると、上着を着て部屋を出た。
 出かけられる服のまま、寝ていたのだ。
 タクシーを拾える大通りに向かいながら、八神に電話をかける。
『なんだ?』
「場所が分かった」
 息を呑む気配があり、
「どうしてかは今説明してる時間が惜しい」
『どこだ?』
 私は、ヤタガラスの言葉を正確に繰り返した。
 八神が、電話の向うの誰かに、場所を告げている声がし、『二台向かってる』と答えが聞こえた。
 Nシステムのデータで、その方面に向かった車があるか調べたのだろう。
「八神は、どこにいる?」
『お前は?』
 質問に質問で返された。
「家のそばの通り、タクシー拾う」
 電話の向うでも、走る足音がする。
 八神も電話をしながら、走っているのだろう。
『近くにいる、通りで待ってろ』
 車のドアが閉まる音がして、電話は切れた。

 程なく、クラクションを鳴らして、ジープが現れた。
 乗り込んで、
「早いな」
「お前の部屋になるべく近いヤツ使ったからな」
 急加速で身体がゆれ、シートベルトがハマらないが、スピードを緩めろ、と言う気はない。
「で、ソースはどこだ?」
 車がガクガク揺れるのに、器用に話す。
 情報源、ということだろう。
「ヤタガラスから電話があった」
「だれだっけ?」
 脳がシェイクされて記憶がコボれているんじゃないか?
 皮肉を飲み込んで。
「メールでちとっ」
 車が跳ねて、舌を噛みそうになった。
 手短に話さないと危ない。
「メールと電話で警告くれた人だ」
「ああ、指が燃えた時の電話か」
 一応、記憶には残っていたらしい。
「信用できるのか?」
 正直、返す言葉はない。
 しかし、他に選択肢がないのも事実だ。
「じゃあ、朝まで、待ってるか?」
「そりゃそうだ」
 八神は肩を竦めて、更にアクセルを踏み込んだ。

「まだか?」
「この辺なんだが」
 時刻は、まもなく六時だ。
 もう、儀式が始まってしまう。
 それなのに、まだ場所を突き止められていなかった。
 新月で、真っ暗な海岸を車で走り続けている。
「怪しくないか?」
 道路脇の松林に、何台もの車でが止められている。
「あれじゃないか?」
 砂浜に、かなりの人数がいるようだ。
 八神が、車の速度を上げる
「おい、止まれって」
「バカか? 止まったら、バレバレだろ」
 砂浜から見えないカーブの先まで行き、ライトを消した。
 二車線しかない道で、グリグリと車を回し、戻る。
 波の音が大きいが、あまり近づくと、エンジン音が聞こえてしまうかもしれない。
 道路脇の空き地に車を止め、降りる。
 身を屈めて近づき、護岸に身を隠す。
 月がなくて、よく見えないが、円を描くように、人が砂浜に立っている。
「急げ、儀式まで、もう時間がないぞ」
 微かに、風に乗って、女性の声が聞こえてきた。
 サクラの声?
 ここで、間違いないようだ。
 八神と頷き合った。

 まず、やらなければいけないのが、妹の確認だ。
 まあ、八神は、姪の確認だろう。
「クソ、暗いな」
 確かに、月がないのは、隠れているのには好都合だか、こちらからも見えない。
 毒づく八神の声が聞こえたかのように、火が灯った。
 焚火のようだ。
 その周りに、円を描いて女性が立っている。
 何人かが、砂浜に絵を描くように、液体を撒いている。
 風に乗って、臭いが届く。
 生臭い?
「いた」
 八神が、姪を見つけたようだ。
 くそ、妹がいない。
 焚火に近づいた女性が、サクラなのがわかった。
 遠くのはずなのに、こちらを見て、笑った気がした。

 バクン、とクーラーバッグを開ける音がした。
 立ち尽くす女性に、何かが配られる。
 生臭い臭いが、強くなる。
 生肉?
「月林檎か」
 八神が呟く。
 そういえば、何かで、リンゴと言っていた気がする。
 あれが、儀式で食べるというモノか?
 更に、四角いモノが、女性の足元に、一つづつ置かれる。
 缶の封を開けるパキン、と高い音がして、臭いが届く。
 灯油?
 くそ、妹は、どこだ?
 まさか、ここには、いない?

 携帯が、振動した。
 誰だ、こんな時に?
 光が砂浜から見えないように、上着の内側でディスプレイを見る、と着信には妹「陽子」の名。
 理解が、追いつかない。
 儀式の場で、電話をしている女性はいない。
 ここには、いない?
「もしもし」
「このバカ、なにやってんだ」
 八神が、私の口を押さえようとするが、避ける。
「そこには、いないから」
 数年ぶりの、妹の声。
「月林檎を掲げよ!」
 サクラが、叫んでいる。
「そっちも、始まったみたいね」
「陽子どこに、いるんだ?」
 燃料の臭いがする。
「全ての中心」
 火柱が、上がった。
 八神が、何か叫んで、走っている。
 悲鳴が響く。
 八神が、火柱の一つを抱え、海に倒れこんだ。

 松明のように燃え上がり、うごめき倒れる女性たち。
 響く悲鳴。
 その中心に立つサクラ。
 頭が、麻痺している。
 考えが、まとまらない。
 妹に、陽子に、いろいろと聞かなければいけないことがあるのに。
「サクラとブログに書いた桜は、別人。サクラは、香苗ちゃんとも違うよ」
 電話が切れた。

 電話を足元に叩きつけ、砂浜を走った。
「サクラ!お前は香苗じゃないのか!?」
 サクラが、倒れ燃え燻る女性の中心で、こちらを向く。
「あらら、バレちゃったか。陽子ちゃんの告げ口かな?」
「お前が、陽子を、妹を誘拐したのか!?」
「うーん」
 可愛らしく、小首を傾げ、
「誘拐っていうか、こっちサイドっていうか・・・」
 サクラと私の間を、いつの間にか現れた黄泉醜女が遮る。
「ちっ、陽子のやつ」
 黄泉醜女は、私にではなく、舌打ちしたサクラに群がった。
 サクラの姿が、黄泉醜女の中に見えなくなる。
「サクラ!」
 黒い指輪をかざして、黄泉醜女へ手を伸ばす。
 醜女は、絶叫を上げて、枯れ木のように朽ちていく。
 かき分けるように滅ぼして、前へ進む。
 指輪が、ピキピキと嫌な音をたて、砕け散った。
 どこかで、女の哄笑が響いた気がした。
 醜女が、こちらにもつかみかかってくるが、もう対抗する術はない。
 ただただ、手足で、抵抗するだけだ。
 その時、陽がさした。
 日の出だ。
 黄泉醜女が、陽の光を浴びて、枯れ木のように、朽ちていく。
 どこかで、女の絶叫が響いた気がした。

 黄泉醜女が群がっていた場所には、サクラはいなかった。
 ただ、彼女が着ていたコートが、血まみれで落ちているだけだった。

 辺りが、照らされていく。
 円型に転がるたくさんの焼死体。
 肉の焼ける臭い。
 燃料の臭い。
 その惨状に、吐いた。

 騒がしい。
 どうやら、人が通り、この惨状を見つけてしまったみたいだ。
 この場にいては、まずい。
 そこでようやく、薄情にも、八神と姪のことを思いだした。
 探すと、波打ち際に、倒れていた。
 八神の腕の中には、妹と同じくらいの年の女性が抱えられていた。
 どちらも、ひどい火傷をしている。
 運びたいが、下手に触ると、火傷の皮膚を剥がしてしまいそうだ。
 パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
 二人とも、顔は海水に浸かっていないので、窒息の危険はなさそうだ。
 なるべく早く発見されるように、彼らの脇に、落ちていた木の棒を立て、焼け焦げたホワイトガソリンの缶を逆さに刺した。
 サクラのコートを拾うと、八神のジープに向けて、走り出した。

 八神とその姪は、やってきた二台の救急車で、病院に収容された。
 あの現場での、唯一の生存者だった。
 マスコミでごった返す病院では、八神の名刺を出すことで、関係者として、二人の容態を聞くことができた。
 重度の火傷であり、数日危険な状態が続く、という。
 ただ、面会は許されず、ただ回復を祈るしかなかった。

 ニュースは、八神らの生存など一部、報道規制があるようだが、これの話題で持ち切りだった。
 そして、その報道で、他の場所でも焼死体が見つかり、儀式が行われていたのを知った。
 儀式に参加するだろう車が、一ケ所に集中せずに、分散したわけが、これだろう。
 陽子は、妹は、どこかの儀式に参加して・・・
 生きているのだろうか?

 家に帰り、ドロのように眠る。
 警察に逮捕される恐怖、大量の焼死体、現場のフラッシュバック。
 嫌な夢を見つつも、気がつけば、月曜日の早朝だった。

 疲れた身体に鞭打って、なんとか仕事を終え、家に帰りついた。
 恐れていた、職場への警察の訪問はなかった。
 結局、妹は救えなかった。
 それどころか、本当に失踪、誘拐されたのかも、わからなくなってきた。
 整理して、考えなくては。
 まずは、サクラのコートを調べてみよう。
『ぴんぽーん』
 チャイムが鳴った。
 こんな時間に誰だ?
『新藤さん、ご在宅ですか? 警察です』
 ついに来たか。
 ドアスコープを覗く、と開いて顔写真入りのIDなどを見えるようにした警察手帳。
 深呼吸をして、ドアを開けた。
 いきなり、入ってきた連中に、押さえつけられた。
 足首に、何かを注射された。
 しばらくすると、力が入らなくなり、思考もまとまらなくなった。
しおりを挟む

第10回ドリーム小説大賞 奨励賞受賞
◆□◆看板猫がいるお店が開店するまでのホノボノ物語はいかがですか◆□◆

『cat typing ~猫と麦酒~』


感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~

潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...