レベルアップがない異世界で転生特典のレベルアップしたら魔王として追われケモ耳娘たちとひっそりスローライフ。けど国を興すか悩み中

まみ夜

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神と魔王編

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 相変わらずシステムが分からないのだが、俺の血がドワーフの身体についたことで、ナギコから奪ってしまった転生特典「魔物を従える」が発動し、神の「祝福の儀式」を相殺したようだ。
 彼には司祭からの『声』が聞こえなくなり、洗脳的で狂信的な神・教団への信仰心・忠誠心も失われた。
 ちょうど出血しているついでに、爆睡させたドワーフの妻と念のため娘、集会場の避難民七名へも血をつけておいた。
 いつもなら、簡単に魔素で治ってしまう傷が、そんな作業中も塞がらなかったのが、気にはなった。
 翌朝、大人八人は目覚めると、自分たちが教団から開放されたことを伝えてきた。
 睨んだ通り、集会場の女性七名も教団からの刺客で町の男性、特に魔王『様』を篭絡するように指示されていた。
「お、ハーレム物への方向転換失敗か、残念だったな魔王「様』」
 ナギコに笑われ、シラン『様』は憮然とするだけで済んだが、
「はーれむ?」
「ハーレムって何人からですか?」
「既にハーレムでしょ?」
「てっきりハーレム物だとばっかり」
「また誰かがハーレム入りですか?」
 俺は女性陣から、冷たい視線を浴びせられた。
「・・・はーれむ?」
「姫には、一部データが年齢制限されています」
 確かに、一般常識には十八禁内容も含まれる訳で、秘書たちが閲覧可能ということは、外見か精神年齢かで権限が限られているようだ。
 うん?
 娘たちは、どうなんだ?
「お父様、どうしてヨウコを見たのですか?」

 とりあえず、避難民を装った教団からの謀略は防ぐことができた。
 町の位置も特定されていないと思われる。
 ドワーフらは教団から、「魔王が魔王国廃墟で再起を計っているという噂を聞いた」として、廃墟から元魔王国関係者の元への潜入を指示されていた。
 なので、その噂は一般へ流布されたわけではなく、跡地へ集まる避難民はいないはずだが、もし来たら信徒の疑いを晴らすために、片っ端から俺の血を塗るしか対応策がない。
「鼻血ぶーの手伝いなら、するぞ」
 ナギコが薄い胸元をチラチラさせたが、俺がピクリとも表情を動かさないので、なぜか落ち込んでいた。
「ヤトもやるー」
「・・・レィも」
「ヤト姉様やめてださい。レイちゃんが真似します」
「シウンもー」
「・・・シラン姉様、怒りますよ?」
 子供に悪影響を及ぼしたので、ナギコは正座で、ヨウコとシランに説教された。
「・・・ナギコ、どぅしたの?」
「データにありません、姫」
 まあ、元魔王が正座させられて、しかもモラルへの説教は、一般常識にはないよな。

 今回の件で、最も気になるのが、洗脳的で狂信的な信仰心を血を塗って発動する「魔物を従える」で相殺できたことだ。
 ドワーフたちは、俺にもナギコにも「従って」いないので上書きではなく、互いを潰し合う相殺では、と考えている。
 しかも、転生特典で相殺できたからには、神の「祝福の儀式」は、魔王に係わる可能性が高い。
 つまり、転生者「魔王」をこの世界から、排除するための免疫のような働きで、「神」が生まれた疑いが深くなる。
 そうなると、信徒だったドワーフから負った傷の治りが、悪かったことも納得できる。
 「魔王」が、病原菌の立場だとすると、喰い潰されずに相殺できたのは、運が良かっただけかもしれない。
 俺の中にとりこまれた「魔物を従える」だが、試しに森の魔物に使ってみたが、相変わらず発動しなかった。
 本当に、始めに『白い部屋の管理者』に転生特典マニュアルをもらえば良かったと後悔している。
 もしかして、「神」もチート能力を持つという意味では、魔王なのか?
 いや、転生者ではないからこそ、魔王ではなく「神」と呼ばれているのか?
 「人」に加えて、対抗勢力が増えたことは、非常に頭の痛い問題だ。
 いや、むしろ天敵と呼ぶべきか。
 しかも、「人」は神に従いたがっているように感じる。
 何より、「神」自身の存在自体が、呼応する「魔王」を示しているならば、生存がバレていることになる。
 シラン魔王『様』を名を騙る詐欺師と判断して、他所で魔王探しをしてくれると助かるのだが。
「元ドラゴンのくせに、くしゃみするくらい寒いのなら、Tシャツの上に何か羽織れ、シラン。年中、小学校に半袖短パンで通う小学生みたいで恥ずかしいぞ」
「小学校?」

 元信徒たちだが、そのまま町に住むことになった。
 まず、エルフ女性三名は、医者に主従していた経験で医学と薬学の心得があり、一般常識にはない薬草や調剤の知識を生かして、集会場の一角で診療所を始めた。
 ただ、逃亡生活中などで「人型の魔物」とバレたトラウマがあるのか、ほとんど魔法を使おうとはしなかった。
 町の住人は、避難中に自らを治療した経験があったので、今までは問題にならなかったが、専門家が来てくれたのはありがたい。
 しかもエルフは長命なこともあり、前世でいうクオリティー・オブ・ライフを改善するリハビリという考えがあり、怪我などの後遺症で悩む方に喜ばれた。
 また、近隣の植生はわかっていないので、羽猫で護衛した住人主体の探索も今後、予定している。
 森に自生する薬草を町で栽培して、薬の製造販売を目指したいところだ。
「せんせー、お腹痛い」
「ヤトちゃん、お薬に頼る前に、食べすぎに注意しましょう、ね?」
「ああ、ついにヤト姉様の食べすぎを注意してくれる味方が現れました」

 次に、ドワーフ女性四名は、変装しなくても「人」に見えるのと、格闘技が得意とのことで、街とを結ぶ定期馬車の御者をかって出てくれた。
 格闘技は、魔物よりは街の連中とのトラブル解決に役立つだろう。
 町へ、商売に来たがる傭兵兼商売人の牽制が難しくなってきた矢先なので、「女性のみの商隊」を理由に彼女らを町専属と公表した。
 表向きの理由は、「『ワンダリング・ウイング・キャッツ』での被災避難民が町を開拓していて、ほとんどが女性のため防犯上、男性を入れたくない」とした。
 災害級の後からできた町ならデカすぎ、服飾など商売の規模が合わないのだが、窓口の大使館には借用時の紹介状で領主の後ろ盾があることが分かるので、情報収集を怠らない商売人は、察してくれたようだ。
 もちろん、そうでない連中はいて、コッソリ町へ近づいてきたが、透明羽猫で荷を吸収して、大損害で帰ってもらった。
 良い意味での悪い噂が広がって、町で商売したがる者はいなくなった。
「格闘技が得意って、それだけで外へ出て大丈夫なのかい?うん?なんで、目を逸らすんだ、シラン、ライガ、ハイロウ?」
「ああ、みなさんには、関節技の腕前を見てもらいましたから」

 最後に、ドワーフ一家は、空家を改装して、食堂というか酒場を開いた。
 町はまだ、個別経済を導入できておらず、一つのお財布での共同生活なので、商売ではない。
 そのせいもあって、物珍しい料理に、盛況だ。
 外食というだけで特別で、避難生活ではないことを実感できるようだ。
 料理人であるカムリは、裏の厨房にいるので姿は見えず、男性恐怖症の方も来店し、ときおりの「あがったよ!」の声にも慣れて怯えなくなり、良い傾向だ。
「カムリではなく、グロンだ」
 ドワーフっぽい本名を名乗ることにしたらしいのだが、違いが俺にはよくわからない。
 ちなみに、店名は「冒険者の酒場」で、ナギコが命名した。
 「冒険者」という職業がない世界なので、みながキョトンとしたが、俺はそのセンスに唸ってしまった。
 町一軒なので看板も必要ないのだが、流行りの前世の文字で書いて掲げた。
「チャージ・ボアの肉には、この草が合うぞ」
「草?」
「ああ、それはモモルという痛み止めにもなる苦味のある薬草ですね」
「エルフはそう呼ぶのか」
「いえ、ドワーフであっても、『草』ではないと思いますが?」
「お腹、苦しい」
「ああ、ヤト姉様を食べすぎにする原因とお料理キャラが増えてしまいました」
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