レベルアップがない異世界で転生特典のレベルアップしたら魔王として追われケモ耳娘たちとひっそりスローライフ。けど国を興すか悩み中

まみ夜

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神と魔王編

信徒です

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『主、投下物、推定小袋を吸収した』
『よくやった、レッド。シラン、頼む』
『・・・へーい』
 俺は、レッドからのパス通信を受けて、家からシランと跳んだ。
 ドワーフの目前に現れたが、あまり驚いた様子がない。
 こちらの狙った誘導通り、暗渠の蓋に開けた隙間に、何かを落とした。
 その下には、予め透明羽猫が待機していて、それを全て吸収。
 あまりに大量だったり、爆発などして飛び散る可能性を考えて、小川の表面をヨウコが「冷却」で凍らせ備えていたが、杞憂に終わった。
 俺は、岩陰に置いていた有限無限袋から、椅子やテーブルを出して配置。
 魔王『様』は、ただ突っ立っていて手伝おうとはしない。
 そんなヤツに、椅子は用意してやらん。
「立ち話は疲れるから、座ってくれ」
 俺は率先して座ってみせ、バスケットの中から、軽食や水筒などを取り出した。
 ドワーフは、おずおずと、告白してきた。
「毒を川に入れたんだが」
「やはり毒だったか、処理したから町は無事だ」
「・・・そうか、良かった」
 良かった、なのか?
 やけに晴れやかな顔で、彼は座った。
 こういう表情は、危ない。
 警戒を緩めず、カップへ水筒から熱い茶を注ぐ。
 街で買ってきた客用の本物の茶だが、なぜだかこの場には、ほうじ茶に似た味のする、森で摘んだ薬草茶の方が似合っていた気がした。
 立ち昇る白い湯気を見て、寒くなったな、と思う。
 そろそろ、各家の蛇口に付与した「冷却」を「温熱」にして、お湯が出るようにしないとだ。
「まず、確認しておきたいのだが、妻子は本物か?」
「ほんもの?」
 意味が分からない様子なので、
「どちらかが人質で、どちらかが監視役の可能性を考えて、眠らせた上で、確保している」
 二人のシチュー皿には、爆睡キノコを入れておいた。
 カエデとランが、眠っている脇に待機していて、蜘蛛糸での拘束指示を待っている。
「本物のワシの妻と娘だ。手を出さないでほしい」
「わかった」
 と口には出したが、
『カエデ、ラン、拘束はしなくて良いが、そのまま待機。起きないとは思うが、油断するな』
『はい、町長さん』
 ドワーフ一家を受け入れた翌朝、俺が観察しながら、隠れたナギコに、何気ない会話の途中、急に絶叫系のパス通信をさせたが、表情に反応はなかったので、聞こえていないと判断している。
 ワー・ウルフ兄妹は、前夜のうちに予備戦力として念のため街へ向けて出発させていたので、口頭で伝えることができず突然のことに、めちゃくちゃ驚いて、めちゃくちゃ苦情を言われた。
 パス通信の傍受を警戒して、説明できなかったので申し訳ない。
 結果良しだったが、ヤヌス「神」というわけのわからない存在の関係者の側、シランを魔王代役にする件で、安易にパス通信してしまったのは、反省している。
 透明羽猫での監視で、無言で口を動かして表情が変わることがあったので、なんらかの通信手段を持っていると予想できたのだ。
 もし、パス通信が漏れていたらと想像すると、ぞっとする。
 残念ながら、読唇術での内容確認はできなかったが。
「ヤヌス教団の信徒で、間違いないか?」
「ああ」
「妻子も?」
「妻はそうだが、娘は祝福の儀式を受けていない」
「祝福の、儀式?」
 初めて聞く言葉に、説明を聞くと、宗教的な帰依の儀式のようだ。
 そして、何よりも『声』。
 パス通信と違い、横の繋がりがないが、縦に会話できるのは、神や神官からの啓示っぽい。
 しかも、上位者からの『声』で、洗脳している節もある。
 「神」がいないはずのこの世界で、実在していたのか、誕生したのか。
 『声』という力を持っているのだから、もう妄想や願望では済まない。
 魔王国戦争で枢機卿が使ってきた「光の剣」は、何らかのトリックではなく、同様な「神」の力なのだろう。
 もしかしたら、魔王という存在に呼応して、「神」も生まれたとか?
 とりあえず、俺たち魔王や人型の魔物にとっては、やっかいな存在だ。
「同じ夜に避難してきた七名は、知り合いか?」
「うーん、それが、教団の者かは、司祭様もご存じなかった」
 どうやら、『声』が横の繋がりがないのと同じで、組織も縦割りのようだ。
 逆に、複数の指示で動いてるのが、思わぬ伏兵がいそうで面倒だ。
 集会場のエルフとドワーフの七名は、『声』通信や互いに打ち合わせている様子はなかったが事前の指示のみで行動しているかもしれず、念のため爆睡キノコで眠らせ、サクラが手足を蜘蛛糸で拘束していた。
「教団からの指示は、毒での町の混乱に乗じて、位置を連絡することか?」
「その通りだ」
 教団は、町の方は特定できていない訳だ。
 羽猫の町への移動作戦「蜘蛛の子散らす」(命名俺)は、成功していた。
 さすがに、魔王国跡地からシランが跳んだ先は、「神」でも追跡できなかったようだな。
 だがこれも、パス通信のように、『声』にも通信者の位置がわかる機能があれば、危なかった。
 「神」を警戒していたつもりで、かなり危ない橋を渡っていたのだ。
「魔王については、何か聞かされているか?」
 聞かれて、ドワーフがシラン魔王『様』をチラ見したので、影武者がバレていないことがわかる。
「魔王様の情報は、ワシらには知らされていない。教団が何を知っているかもわからんから、角や移動の能力は報告した」
 教団には、俺の姿形が魔王としては知られていないなら、シランの「角」を、これからはマークしてくれるだろう。
 うん?
 魔王国跡地でシランが目撃されていたのだから、報告が鵜呑みにされるとは限らないか。
 だから教団が「魔王生存」を信じるかは、微妙だ。
 ドワーフへの指示が、魔王暗殺が主軸でなかったのは、跡地にホイホイ現れるようなシランと報告の魔王の特長が一致したために、魔王を騙っているだけと判断されたのかもしれない。
 「魔王生存」は、バレていないのか?
 俺もつられて魔王『様』を見たら、難しい顔をして、目を閉じていた。
 あれは、考え事のフリして、立ったまま寝ているな。
 器用なヤツ。
 ちなみにダルTの文字は「逃げ出せ青春!」。
 デザインしたナギコの黒歴史が垣間見えるようだが、今は楽しそうだからいいか。
「さて、どうする?」
「・・・意味がわからん」
 想定していた質疑は終えた。
 神の能力、魔王や町に関して、どの程度バレているかも、ドワーフが知る限りだが情報を得られた。
「うん?お前と家族の今後の身の振り方だが?」
「・・・意味がわからん」
 彼は、自らの罪を告白した。
 教団の手先として、仲間であるはずの人型の魔物を売ったこと。
 この町でも、死人が出るかもしれないのをわかった上で、毒を撒いたこと。
 町の位置を知らせれば、生きていたとしても、教団に囚われるか、逃げても追われること。
「ワシは、この町での生活を壊そうとしたんだ」
「楽しかったか?」
 ドワーフは、拳をテーブルに叩きけ、立ち上がると叫んだ。
「そんなはずがあるか!」

「ワシは、この町での生活を壊そうとしたんだ」
 娘を遊びに誘ってくれた子供たち。
 細かな物を分けてくれた近所の住人。
 寝泊りする家を用意してくれた町長。
 そして、食事を用意してくれたヨウコ。
 アネ芋の、シチューの、料理の味が蘇る。
 そんな、ささやかな営みを、小さな幸せを壊そうとした。
 そして、司祭様の『声』が、ワシの心の乱れから失敗を覚ってか「魔王を、少しでも多くの人型の魔物を殺せ!」と叫んでいる。
 町長が、不思議そうに、ワシに聞いた。
「楽しかったか?」
 ワシは、拳をテーブルに叩きけ、立ち上がると叫んだ。
「そんなはずがあるか!」
 魔王は、目を閉じたまま、ビクっとしたが、町長は微動だにしなかった。
 衝撃で倒れたコップが、テーブルをコロコロと転がり、岩場に落ちた音が響く。
 町長が、拾ったコップとテーブルを布で拭き、茶を注ぎ直すのを、ワシは肩で息をしながら見ていた。
「それで、壊せたか?」
「・・・意味がわからん」
 町長の質問の意味が、まったくわからない。
 彼は、ため息をつくと、
「お前の神とやらに、この町の生活を壊せたのか?」
 ワシは、二重の意味で、口を注ぐんだ。
 ワシの神じゃない、という想い。
 そして、目的は達せていないが、やろうとしたことへの罪の重さ。
 司祭様からの『声』が、幸福感ではなく、罪への意識を突きつけてきくる。
「なら、神からの指令を楽しんでいた訳でもない。実現もできなかったのに、何に罪を感じているんだ?」
「・・・何、に?」
 町長の質問の意味が、まったくわからない。
 彼は再び、ため息をつくと、
「悪いのは、お前ら家族を脅した教団、神じゃないのか?」
 そう責任を擦りつけてしまえれば、どれだけ楽か。
 この町では、たまたま防いでもらえただけだ。
 それまでは、人型の魔物を裏切り、罪を重ねてきた。
 今までは幸福感を与えてくれていた司祭様の『声』が、更なる罪を犯せと促してくる。
 ワシは、ため息をつくと、
「それでも、罪は償わなければ」
 ナイフで、自分の喉を突く。
「妻と、娘を、頼む」

「妻と、娘を、頼む」
「知るか、自分で養え」
 俺は、ナイフを握って、応えた。
「ご主人!」
 サクラの悲鳴が響き、よく見るとナイフを持った腕は、とっくに蜘蛛糸で雁字搦めにされていた。
 怪力で、走る以外は意外と素早いドワーフをよく阻止できたなとは思ったが、俺は単に遅れてナイフを掴んだだけだったのだ。
 それでも、俺が防いだ的なカッコつけた表情で説得を続けようとしていると、拳から血が滴り落ち、ドワーフのシャツの胸に赤い染みを広げた。
「お?おおおお!」
 突然、ドワーフが奇声を上げ、俺は咄嗟に離れた。
 神の力での覚醒か?
 サクラの蜘蛛糸が更に飛び、体中に巻きつき拘束する。
 このまま千切って暴れたり、倒れたら、ドワーフは頑丈で重たいから面倒だな、と考えた矢先、彼は仁王立ちのままカッと目を見開いた。
「『声』が、消えた」

『もう一人の魔王の元へ送った刺客が、みな消息を断ってしまいました』
『人型の魔物でも手にかけるとは、思っていたよりも非情で有能だったな、教皇』
『面目ありませんな』
『さて、次の手は、どうするか』
『信者の数と目に頼るしかありませんな』
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