レベルアップがない異世界で転生特典のレベルアップしたら魔王として追われケモ耳娘たちとひっそりスローライフ。けど国を興すか悩み中

まみ夜

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神と魔王編

避難民です

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 家へ行くとナギコは、夜遅いというのに貸本屋の本を読んで夜更かしして、まだ起きていた。
 街に大使館を借りて、住所ができたことでレンタル可能になったのだ。
 本は、まだ印刷ではなく手書きの写本なので、高級品だ。
 なので、街から持ち出すのはご法度なのだが。
 そもそも識字率が低いので、お客が少ないのと、貸出先の住所である大使館借用時の紹介状が、領主の秘書官からなのは噂になっているようで、大目に見てもらっているのかもしれない。
 本当に大変申し訳なく思いながらもナギコに頼み、シランを蹴り起こしてもらった。
 胸に、前世の文字で「脱ブラック」と書かれた首元ダルダルTシャツのシランと魔王国跡地へ跳ぶ。
 ちなみに、俺とナギコが、うろ覚えで前世のシルクスクリーンをキラとサクラに伝えたら、蜘蛛糸をつかった独自のやり方を編み出して、服に文字や絵を入れるのが流行している。
 残念なことに、染料が発達していないので、すぐ落ちるので洗濯を別にしないと色移りしてしまうのだが、それも込みで楽しんでくれている。
「白い布を染め直すと考えれば二度、楽しめるね」
「文字が薄く残るグラデーションも良いですね、キラさん」
 前世の文字も、異国風で良いと好評で、住人たちが読めないのを良いことに、デザインを頼まれたナギコが「魔王死すべし!魔王国滅ぶべし!」とか悪乗りしている。
 まあ、俺も前世で意味のわかってない単語や文章が書かれたTシャツとか着てたしな。
 もっと難しい文字をと頼まれ「魑魅魍魎」と書いてみたが、細かすぎて潰れてしまった。
 というか、「魑魅魍魎」よく書けたな俺。
 来春は綿花の作つけ面積を増やし、羊毛、ネット・クロウラー糸との三本柱で繊維業を盛り上げていく予定だ。
「羊も増やすの、パパ?」
「子羊の方が良いかとか、ハイロウと相談してみよう」
「子羊!」
「・・・こひつじ!」
「ヤトちゃんとレイちゃん、セットでカワイイ」
「同意します」
「・・・これはデータにあるんですね、レッドさん」
「カワイイは共通なんだよ、ヨウコちゃん」
 繊維業といえば最近、紙の製造も始めている。
 服飾で発生する端切れを再利用できないか、から始まったのだが、水車で細かくした繊維を漉くだけでは、均一な紙にはならなかった。
 しかも、色を抜くことができなかったので、カラフルなトイレ用の紙となった。
「なんか、ヤダ」
「葉っぱより柔らかいですよ、ヤト姉様」
「でも、ヤダ」
 尻の強いヤトには不評だった。
 色の方は、端材など未着色の植物繊維を原料にすることで解決したが、均一にするのは難しいままだったので、筆記用としては、使える部分だけをメモ用紙にするくらいにしかできなかった。
 一般知識にはないので、この世界での製造法を調べたりもしたのだが、職人の秘伝なのか、不明だった。
 ドロドロしたものを入れていた前世のうろ覚え紙漉き体験知識から、米を煮た糊を入れたりもしたが、劇的には改善しない。
 ところが、ネット・クロウラーお世話係のアサガオの発案で、粘液をいれたところ、品質が向上したのだ。
 紙は、まだまだ流通量の少ない貴重品なので、貴族様に売り込めたら良い売上になりそうだ。

「ここは、立ち入り禁止ですよ」
 少し遠くから、魔王国跡地に入り込んだ人影に声をかけた。
 こんな暗闇の中で、驚かさないように、というのも無理な話だ。
 人影は、びくっと動き、こちらへ向け、ランタンを開けた。
 俺とダルTシランが、光に浮かびあがる。
 眩しさで視えないながらも、なんとなく警戒の視線が俺から、シランへ移ったのを感じると、人影が叫んだ。
「魔王様!」
 早速、俺はパス通信で、俺の安全のためシランを魔王の代役にすることを根回しした。

 避難民は、頭の角で、シランが魔王だと勘違いしていた。
 それは、今は好都合なのだが今後、外見が「人」である俺が魔王であることの証明を、どうしたら良いのかは悩むところだ。
 うん?
 そもそも、そんな事態はあり得るのか?
 まあ、シランを生贄にして、逃げる訳にもいかないしな。
 避難民は、ドワーフ夫婦と娘で三名。
 この世界の女性ドワーフは、合法ロリ派のようだ。
 魔王シラン『様』直々に町へ運んでいただき、大使館員就任で空いていた家に泊め、ヨウコとシウンが簡単な食事を出し、宿泊の準備をした後、寝てもらっている。
 男が町にいることで、男性恐怖症の方の反応が気になるが、奥さんもいることだし、慣れるきっかけになれば良いな。
 逆に、夫を亡くしていたりで、トラウマを刺激しないか、配慮する必要があるか。
 世間話程度に話を聞いたところによると、「魔王は死んでおらず、魔王国廃墟で再起を計っている」との噂を聞き、魔王を頼って避難してきたらしい。
 「人」側からみたら、跡地ではなく廃墟なのか。
 それはさておき、ヤヌス教団が禁足地にした廃墟に魔王が潜んでいるから、とはいえ魔王国滅亡後に頼って来るのは、噂を信じる側としては、怪しくないか?
「罠だろうな」
「まあ、罠だな」
 彼らは、ヤヌス教団から送り込まれたスパイだろう。
 魔王国跡地へ避難用荷物を運んでいたシランが、教団の見張りに目撃されていたに違いない。
 惰眠を貪る魔王『様』の脇で、夜更かしナギコと緊急会議中だ。
 食事や泊める準備に起こしてしまったヨウコとシウンは、胡坐をかいた俺の膝枕で毛布に包まって寝ている。
 娘二人の頭を撫でながら、
「とりあえず、住人には疑っていることは知らせず、透明羽猫で監視だけしておこう」
「魔王の影武者の件はどうする?」
「今後の俺の安全のためにも、対外的にはシランを魔王『様』にすることを、こっそり伝えてくれ。俺は、単なる町長だ」
 俺の呼び方を、町長に統一する良いチャンスだ。
「ついでにナギコも、元魔王だって、バレないように、シラン魔王『様』たちに気をつけさせてくれ」
 ライガが、いかにも護衛然としていたら、なぜ?と思われるだろうしな。
「了解だ。それで、何をしてくると思う?」
「町の位置を教団へ連絡して。それからは、やっぱり」
「・・・魔王暗殺か?」
 シランが夢現で、びくっと痙攣した。
 これって寝不足のときに、なりやすいんだっけ?
 ナギコにつきあわされて、夜更かししているのか。
「それで済めばよいけど、ヤヌス教団なら、魔物全滅狙いもあるだろう」
「しかし、自分たちドワーフも人型の魔物だぞ?どういうモチベーションなんだ?」
「そこだ。家族を人質にとられているのかもしれないな」
 どちらにしても、しばらくは様子見しかない。
 長い夜だったが、ようやく眠れそうだ。
『主』
『・・・レッドか、どうした?』
 嫌な予感しかしないパス通信だった。
『避難民だ』
 俺は、魔王『様』をどちらが蹴り起こすか、ナギコとジャンケンした。

 結局、その夜は、エルフ女性三名、ドワーフ女性四名を町へ受け入れた。
 空家が足りないので、女性だけだから、集会場に手慣れたテントでの間仕切りをした。
 なんやかやともう早朝で、目が覚めたときに一人だったヤトが絶賛ブンむくれ中なので、レイとの羊の乳絞りを、同じく徹夜明けのナギコと眺めていた。
「レイちゃん、もうちょっと、ゆっくりした方が、たくさん絞れるよ」
「・・・ぅん」
「それで、どこまでが罠だと思うんだい?」
 俺は欠伸を噛み殺しながら、
「ナギコは?」
「全部」
「俺もだ」
 ナギコも欠伸をし、
「そっか、じゃあお疲れー」
『主』
「まて」
 手を振って、寝に帰ろうとするナギコを捕まえ、パス通信に出た。
『レッドか、どうした?』
『ドワーフ一家が起床した』
『・・・わかった』
 俺は、朝食用にミルクをとりにきたヨウコへ、一家への食事の用意をお願いしながら、ナギコを引きずって、話を聞きに向かった。
 後ろで、ヤトがむくれているのが分かる。
『すまんヤト!オヤツはいっしょに食べような!』
『うん!パパ!』
『『ちょろっ』』
『これが、ちょろいということか』
 レッド、データとるな。
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