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神と魔王編
隠密です
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子供のことは子供に任せて、俺たち大人は打ち合わせだ。
まあ、レイと秘書たちは、同じ個体なのだが。
秘書が出したレイが町へ来る条件は、彼女が姫と呼ぶレイの世話をするために、数人の供をつけることだ。
幼子一人よりは、取り巻きがいた方が安心するだろうから、と了承した。
まあ、レイと秘書たちは、同じ個体なのだが。
ついてきた秘書たちは、総勢で七名。
迎えにきたシランに服を持たせたので、裸ではない。
ちなみに、大量の女性ものの服を抱えたシランは、ナギコに「おお、似合いそうだな?」と真顔で言われたため、無表情で現れた。
ただ、全員が、レースのベールで顔を覆っていた。
俺がパス通信で、人数分の服と顔を隠せるモノを依頼したのだが、都合よくベールなんかが町にあったな、と思ったら、下着の生地らしい。
あの透け具合で、下着になるのか?
顔を隠しているのは、全員が同じ顔だからだ。
どうやら、レイを大人にした顔、体型らしい。
変形そのものはできるようだが、一般常識のデータベースに顔の個性はない。
バランスの崩れた変顔は、乙女心が許さないらしく、町の住人の姿形をみて、アレンジするつもりらしい。
とりあえずは、服で区別がつくしな。
まあ、秘書たちは、同じ個体なのだが。
まず、話し合うべきは、災害級の渦をどうするかだ。
「どうしたいか」は、あるのだが、それが可能か確認していく。
「俺たちが望んでいるのは、あの渦で、この町周辺を囲んで守ることだ。だが、進行方向をわからなくするために、移動は、なるべく目立たないようにしたい。良い方法はあるか?」
まあ、裏組織には、町の位置は、とっくにバレていそうだが。
それとは別に「災害級」を観察している組織は、山ほどあるだろう。
渦の側でも話した、今は赤いワンピースを着た秘書が、代表して、
「背景が歪んで見えてしまうが、透明にはなれる」
眼の水晶体のように透明になれ、見え方は、ちょうど水晶玉のような感じになるのだろう。
見えにくいが、それが集まっていたら、悪目立ちはしそうだ。
それを聞いてナギコが、
「渦の一番高いところは、雲まで届いていたみたいだが、みんなで、そのくらいまで飛べないのかい?」
秘書は考え、
「可能だ」
「なら、透明のまま、雲の高さで、ここまで飛んでこられるか?」
「速さは?」
あまり速いと、雲を蹴散らしたり、飛行機雲ができたりして、逆に目立ちそうだな。
「今まで通りでいい」
「可能だ、もっと速くても問題ない」
サクラが、「はい」と手を挙げた。
「渦をいくつかに分けて、別々には動かせないのでしょうか?」
「可能だ」
それなら、追跡する方も苦労しそうだ。
「さすがは、子持ちの元アラクネー」
ナギコが呟くが、サクラを含めて誰もがキョトンとしたので、流さずに俺も意味を考え、
「・・・ああ、蜘蛛の子散らす?」
前世での慣用句を口にすると、更にキョトンとされたので、
「アラクネーは蜘蛛だから、」
「スベッたんだから流せ!説明するな!恥ずかしい!」
ナギコに怒られた。
その顔の赤さは、怒りと羞恥のどっちだ?
街の領主らへの約束通り、渦が留まってから三日後、「蜘蛛の子散らす」作戦(命名俺)は、始動した。
まずは、渦を上昇させながら、上端から羽猫を透明化させた。
よく観察すれば、透明な渦が存在したままなのは視認できるが、遠方からでは、空へ消えていくように見えただろう。
これで、遠巻きに見た商隊や近隣の住人が安心すれば良い、程度の演出だ。
上空で、いくつかの小隊に分け、目的地が予想できないように、様々な方向へ向けて出発。
目撃されないよう、なるべく村などの上を避け、追跡しにくいように山や河を越えたり、大きく蛇行しながら進む予定だ。
その分、遠回りになるので、町への到着には時間がかかるが、目立たないよう数を絞った隊をなるべく短距離で先行させている。
レイたちは、渦と一心同体なので、数頭の騎馬が追ってきているのが視えていた。
「・・・ぅま、たべちゃぅ?」
レイからの提案はあったが、どこの手の者か不明とはいえ、災害級の同行を見張りたいのは理解できる。
わざわざ被害を出して、反感を買うこともないだろう。
追手側も、前例のない災害級の分裂は予想していなかったようで、各小隊へは馬一・二頭の少数になっていた。
一頭なら渦が居住地へ近寄らずに動き続ければ、連絡手段もなく、代え馬の手配もできず、馬が潰れるだけだ。
小隊を分裂させたり合流させたりして、追手を孤立させ、自滅を待った。
作戦開始と同時に、ハイロウはシランが迎えに行き、テーブルに「約束は守った。そちらが守る番だ」と書いた紙を置き、帰ってきた。
ちなみに、先の受領書についた匂いから、気が利くと評判の宿の看板娘が、裏組織の手下だと判明していた。
組織の一員なのか、小銭を握らされただけかはわからないが。
キラも荷馬車では、ついてきているだろう裏組織の追手を撒けないと判断して昨夜、シランが連れ帰っていた。
有限無限袋に入らない分の荷は諦めたが、もちろん「馬」も帰還した。
ただ、シランが馬は重量オーバーだと渋ったのがバレて朝、ガッツリ足を踏まれているのを見かけた。
無理に足を引き抜くと、元ドラゴンとはいえ怪我をしないまでも痛いので、退くのを待つしかないのだが、四つ足の方が、持久戦には有利だろう。
元ドラゴンの誇りでの健闘に期待している。
二十日ほどで、羽猫の少数先陣が町に到着した。
早速、「守護天使隊」と呼び名をつけ、透明化を解き、町周辺の警護を開始した。
呼び名と「名づけ」の違いがシステム的によくわからない。
単に既に、レイと「名づけ」られているから通用しているのかもしれない。
ナギコは、「隊名のセンス!」と鼻で嗤った。
これで、実力での非干渉は手に入った。
あとは、街が約束を守って、商取引などに横槍を入れてこなければ、一安心だ。
羊が羽猫に、しばらく怯えた雰囲気ではあったが、ヤトからの説明もあり、危害を加えられないとわかり、すぐに慣れた。
「食べたりしないから、大丈夫だよー」
「主語がないと『ヤトちゃんが食べない』みたいに聞こえてカワイイ」
「・・・それ、本当にカワイイですか、シウン姉様?」
まあ、今までも周り中、「人型」とはいえ魔物だらけだったわけだし。
ちょうどこの頃、レイの秘書たちも顔・髪形・体型に個性を出し、ベールを外したので、呼び名をつけた。
レイは「レインボー」からなので、ちょうど七人なのもあってレッドからバイオレットと虹の七色にした。
秘書たちは、覚えてもらいやすいように同色の服や小物を身につけたがったので、なぜだかキラとサクラが喜んだ。
「全身、テーマカラーにするより、メインか刺し色の方が良いかな」
「この微妙な紫の色合いが、ついに役立つのですね」
いつの間に、そんなに色とりどりの生地や服などを生産できるようになったんだ?
ナギコは、「呼び名のセンス!」と鼻で嗤った。
「蜘蛛の子散らす」作戦開始から約二ケ月後、全ての羽猫が到着した。
全てとはいっても、指示通りに吸収していなかったので、予想通りに数は減っていた。
消耗したのでは、と心配はしたのだが、「かえって動きが軽くなった」とダイエット後みたいな感想だった。
全体のほとんどを透明化し、「守護天使隊」に合流させて町の周りを警備させている。
渦を透明化できたのは、外部へは目立たなくなるし、住人には圧迫感がなくなって良かった。
町を守ることを最優先で考えていたのだが、実際に目に見える渦の壁で町が囲まれていたら、不都合も多かっただろう。
一部を見せているのは威嚇であり、透明部分を手薄だと油断させる罠でもある。
今後は、羽猫を警護につけ、帽子などで「人」に偽装した住人にも馬車で街へ行ってもらう予定だ。
今までは、魔物などの襲撃に対応できるワー・ウルフ兄妹に頼っていたが、戦力的にその必要がなくなった。
更に街に家を借り、駐在者を置きたいのだが、パス通信できる者でないと不便なのが問題だ。
だが、今回のことで、ワー・ウルフ兄妹には町に、側に居てほしいと思った。
非効率な考え方だとはわかっているのだが。
悩んでいると、解決手段が見つかった。
羽猫だ。
何度目かの繰り返しになるが、同一個体なので、秘書一人に伝えれば、レイを含めた全員に伝わるし、感覚も共有している。
それを利用して、透明渦をこの町までコントロールし、追跡がないかも見張ってきたわけだ。
なので、羽猫一匹から、別の一匹へ音声を伝えられることがわかった。
ちょっとコツがいり、前世の電話ほど便利ではなく、トランシーバー・レベルだったが、パスで繋がっていなくてもリアルタイムで通話できるのは、革命的だった。
これを使えば、ワー・ウルフ兄妹以外の住人を街に駐在させても、連絡がとれる。
「レイちゃん、聞こえるー?」
「・・・ぅん」
「・・・ヤトちゃん、それはパス通信でできてるから」
「カワイイから良いのです、シウン姉様」
「隣の客が良くきゃききゅう客ら」
「ナギコ様、知らない言語が混ざっているので、解説をお願いします」
「うるさいシラン!豆腐の角に頭ぶつけろ!」
「・・・豆腐?」
俺のセンスを嗤ったナギコに、このシステムの呼び名を考えさせたら、「猫電話」と即答してきた。
・・・俺の方がセンスないのか?
避難予定地だった、元魔王国跡地は、そのまま緊急時避難先として、物資を隠しておくことにした。
とはいえ、日持ちしない食料や苗などもあったので、またシランがちまちまと運び戻している。
一応、有限無限袋などで物資は隠してあるが、証拠隠滅と監視のため、数匹の羽猫を配置した。
禁足地として、本当に誰も近寄らないかの確認用だ。
もし、少数の見回りが来ても、透明化して隠れれば、戦闘などのトラブルになりにくいし、物資がバレそうな場合は吸収できる。
常に透明化させないのは、水晶玉のようなわけのわからない物が飛ぶより、見える魔物の方が騒ぎにならないし、どうせ少数なら「ワンダリング・ウイング・キャッツ」だとわからないだろう。
せっかく魔王に汚された、と吹聴してくれている禁足地なのだから、それらしく魔物が出た方が箔がつくだろう、という嫌味でもある。
町のように羽猫で囲めば、魔王国跡地を奪還できる、との意見も出たが、全部透明にしても見つからない保証はないし、魔王軍蜂起と「人」の軍に包囲されたら、補給はシラン頼みになってしまう。
町も守備力強化のメリットばかり考えて渦で囲おうとしたが、透明化できなかったら、いろいろ危うかった、と反省している。
しかも、誰にも相談せずに独断で決めて結構したのだから、「家族会議(弾劾裁判)」で正座させられたのは、遠い思い出だ。
「戦争のとき、魔王国へ一人で行ったこと、反省したんですよね、お父様?」
「お父さん、一人では嫌だよ」
「パパ!羊のお世話といっしょで、手伝いがいるなら言って!」
「ハイロウが独断で街の領主へ会いに行ったこと、どの顔で咎めたのですか、主殿?」
「罰は、キラたちが決めた服を着てもらおうよ、サクラ」
「一番フリフリのドレス、サイズ直しします」
「・・・ぱぱ、どぅしたの?」
「データにありません、姫」
まあ、魔王が正座させられて説教は、一般常識にはないよな。
とはいえ逆に、災害級を禁足地に配置することで、避難先には使えなくなるが「人」の注目を集め、町から目を逸らすのはアリかもしれない。
が、魔王生存を匂わすのは、慎重にしなければいけないと考えている。
魔王が討伐済みなのが、「人」への俺たちのアドバンテージなのだから。
『災害級「ワンダリング・ウイング・キャッツ」が消えたようだよ』
『一部を、魔王の配下と共に、魔王国廃墟にて確認しておりますよ、英雄王』
『耳が早いな。教皇』
『そのための罠が、禁足地指定ですからな。やはり、「魔物を従える」で従えたのでしょう』
『災害級で可能だとは思ってもみなかったが、もう一人を喰ったからか』
『それだけ「魔王を喰う」ことは強力なのでしょう。もう一人の魔王は、脅威ですな』
『これでは、共闘せざるを得ないかもしれないな』
『心ならずも、ですが』
『さて、どうするか』
『・・・噂でも流してみますか』
まあ、レイと秘書たちは、同じ個体なのだが。
秘書が出したレイが町へ来る条件は、彼女が姫と呼ぶレイの世話をするために、数人の供をつけることだ。
幼子一人よりは、取り巻きがいた方が安心するだろうから、と了承した。
まあ、レイと秘書たちは、同じ個体なのだが。
ついてきた秘書たちは、総勢で七名。
迎えにきたシランに服を持たせたので、裸ではない。
ちなみに、大量の女性ものの服を抱えたシランは、ナギコに「おお、似合いそうだな?」と真顔で言われたため、無表情で現れた。
ただ、全員が、レースのベールで顔を覆っていた。
俺がパス通信で、人数分の服と顔を隠せるモノを依頼したのだが、都合よくベールなんかが町にあったな、と思ったら、下着の生地らしい。
あの透け具合で、下着になるのか?
顔を隠しているのは、全員が同じ顔だからだ。
どうやら、レイを大人にした顔、体型らしい。
変形そのものはできるようだが、一般常識のデータベースに顔の個性はない。
バランスの崩れた変顔は、乙女心が許さないらしく、町の住人の姿形をみて、アレンジするつもりらしい。
とりあえずは、服で区別がつくしな。
まあ、秘書たちは、同じ個体なのだが。
まず、話し合うべきは、災害級の渦をどうするかだ。
「どうしたいか」は、あるのだが、それが可能か確認していく。
「俺たちが望んでいるのは、あの渦で、この町周辺を囲んで守ることだ。だが、進行方向をわからなくするために、移動は、なるべく目立たないようにしたい。良い方法はあるか?」
まあ、裏組織には、町の位置は、とっくにバレていそうだが。
それとは別に「災害級」を観察している組織は、山ほどあるだろう。
渦の側でも話した、今は赤いワンピースを着た秘書が、代表して、
「背景が歪んで見えてしまうが、透明にはなれる」
眼の水晶体のように透明になれ、見え方は、ちょうど水晶玉のような感じになるのだろう。
見えにくいが、それが集まっていたら、悪目立ちはしそうだ。
それを聞いてナギコが、
「渦の一番高いところは、雲まで届いていたみたいだが、みんなで、そのくらいまで飛べないのかい?」
秘書は考え、
「可能だ」
「なら、透明のまま、雲の高さで、ここまで飛んでこられるか?」
「速さは?」
あまり速いと、雲を蹴散らしたり、飛行機雲ができたりして、逆に目立ちそうだな。
「今まで通りでいい」
「可能だ、もっと速くても問題ない」
サクラが、「はい」と手を挙げた。
「渦をいくつかに分けて、別々には動かせないのでしょうか?」
「可能だ」
それなら、追跡する方も苦労しそうだ。
「さすがは、子持ちの元アラクネー」
ナギコが呟くが、サクラを含めて誰もがキョトンとしたので、流さずに俺も意味を考え、
「・・・ああ、蜘蛛の子散らす?」
前世での慣用句を口にすると、更にキョトンとされたので、
「アラクネーは蜘蛛だから、」
「スベッたんだから流せ!説明するな!恥ずかしい!」
ナギコに怒られた。
その顔の赤さは、怒りと羞恥のどっちだ?
街の領主らへの約束通り、渦が留まってから三日後、「蜘蛛の子散らす」作戦(命名俺)は、始動した。
まずは、渦を上昇させながら、上端から羽猫を透明化させた。
よく観察すれば、透明な渦が存在したままなのは視認できるが、遠方からでは、空へ消えていくように見えただろう。
これで、遠巻きに見た商隊や近隣の住人が安心すれば良い、程度の演出だ。
上空で、いくつかの小隊に分け、目的地が予想できないように、様々な方向へ向けて出発。
目撃されないよう、なるべく村などの上を避け、追跡しにくいように山や河を越えたり、大きく蛇行しながら進む予定だ。
その分、遠回りになるので、町への到着には時間がかかるが、目立たないよう数を絞った隊をなるべく短距離で先行させている。
レイたちは、渦と一心同体なので、数頭の騎馬が追ってきているのが視えていた。
「・・・ぅま、たべちゃぅ?」
レイからの提案はあったが、どこの手の者か不明とはいえ、災害級の同行を見張りたいのは理解できる。
わざわざ被害を出して、反感を買うこともないだろう。
追手側も、前例のない災害級の分裂は予想していなかったようで、各小隊へは馬一・二頭の少数になっていた。
一頭なら渦が居住地へ近寄らずに動き続ければ、連絡手段もなく、代え馬の手配もできず、馬が潰れるだけだ。
小隊を分裂させたり合流させたりして、追手を孤立させ、自滅を待った。
作戦開始と同時に、ハイロウはシランが迎えに行き、テーブルに「約束は守った。そちらが守る番だ」と書いた紙を置き、帰ってきた。
ちなみに、先の受領書についた匂いから、気が利くと評判の宿の看板娘が、裏組織の手下だと判明していた。
組織の一員なのか、小銭を握らされただけかはわからないが。
キラも荷馬車では、ついてきているだろう裏組織の追手を撒けないと判断して昨夜、シランが連れ帰っていた。
有限無限袋に入らない分の荷は諦めたが、もちろん「馬」も帰還した。
ただ、シランが馬は重量オーバーだと渋ったのがバレて朝、ガッツリ足を踏まれているのを見かけた。
無理に足を引き抜くと、元ドラゴンとはいえ怪我をしないまでも痛いので、退くのを待つしかないのだが、四つ足の方が、持久戦には有利だろう。
元ドラゴンの誇りでの健闘に期待している。
二十日ほどで、羽猫の少数先陣が町に到着した。
早速、「守護天使隊」と呼び名をつけ、透明化を解き、町周辺の警護を開始した。
呼び名と「名づけ」の違いがシステム的によくわからない。
単に既に、レイと「名づけ」られているから通用しているのかもしれない。
ナギコは、「隊名のセンス!」と鼻で嗤った。
これで、実力での非干渉は手に入った。
あとは、街が約束を守って、商取引などに横槍を入れてこなければ、一安心だ。
羊が羽猫に、しばらく怯えた雰囲気ではあったが、ヤトからの説明もあり、危害を加えられないとわかり、すぐに慣れた。
「食べたりしないから、大丈夫だよー」
「主語がないと『ヤトちゃんが食べない』みたいに聞こえてカワイイ」
「・・・それ、本当にカワイイですか、シウン姉様?」
まあ、今までも周り中、「人型」とはいえ魔物だらけだったわけだし。
ちょうどこの頃、レイの秘書たちも顔・髪形・体型に個性を出し、ベールを外したので、呼び名をつけた。
レイは「レインボー」からなので、ちょうど七人なのもあってレッドからバイオレットと虹の七色にした。
秘書たちは、覚えてもらいやすいように同色の服や小物を身につけたがったので、なぜだかキラとサクラが喜んだ。
「全身、テーマカラーにするより、メインか刺し色の方が良いかな」
「この微妙な紫の色合いが、ついに役立つのですね」
いつの間に、そんなに色とりどりの生地や服などを生産できるようになったんだ?
ナギコは、「呼び名のセンス!」と鼻で嗤った。
「蜘蛛の子散らす」作戦開始から約二ケ月後、全ての羽猫が到着した。
全てとはいっても、指示通りに吸収していなかったので、予想通りに数は減っていた。
消耗したのでは、と心配はしたのだが、「かえって動きが軽くなった」とダイエット後みたいな感想だった。
全体のほとんどを透明化し、「守護天使隊」に合流させて町の周りを警備させている。
渦を透明化できたのは、外部へは目立たなくなるし、住人には圧迫感がなくなって良かった。
町を守ることを最優先で考えていたのだが、実際に目に見える渦の壁で町が囲まれていたら、不都合も多かっただろう。
一部を見せているのは威嚇であり、透明部分を手薄だと油断させる罠でもある。
今後は、羽猫を警護につけ、帽子などで「人」に偽装した住人にも馬車で街へ行ってもらう予定だ。
今までは、魔物などの襲撃に対応できるワー・ウルフ兄妹に頼っていたが、戦力的にその必要がなくなった。
更に街に家を借り、駐在者を置きたいのだが、パス通信できる者でないと不便なのが問題だ。
だが、今回のことで、ワー・ウルフ兄妹には町に、側に居てほしいと思った。
非効率な考え方だとはわかっているのだが。
悩んでいると、解決手段が見つかった。
羽猫だ。
何度目かの繰り返しになるが、同一個体なので、秘書一人に伝えれば、レイを含めた全員に伝わるし、感覚も共有している。
それを利用して、透明渦をこの町までコントロールし、追跡がないかも見張ってきたわけだ。
なので、羽猫一匹から、別の一匹へ音声を伝えられることがわかった。
ちょっとコツがいり、前世の電話ほど便利ではなく、トランシーバー・レベルだったが、パスで繋がっていなくてもリアルタイムで通話できるのは、革命的だった。
これを使えば、ワー・ウルフ兄妹以外の住人を街に駐在させても、連絡がとれる。
「レイちゃん、聞こえるー?」
「・・・ぅん」
「・・・ヤトちゃん、それはパス通信でできてるから」
「カワイイから良いのです、シウン姉様」
「隣の客が良くきゃききゅう客ら」
「ナギコ様、知らない言語が混ざっているので、解説をお願いします」
「うるさいシラン!豆腐の角に頭ぶつけろ!」
「・・・豆腐?」
俺のセンスを嗤ったナギコに、このシステムの呼び名を考えさせたら、「猫電話」と即答してきた。
・・・俺の方がセンスないのか?
避難予定地だった、元魔王国跡地は、そのまま緊急時避難先として、物資を隠しておくことにした。
とはいえ、日持ちしない食料や苗などもあったので、またシランがちまちまと運び戻している。
一応、有限無限袋などで物資は隠してあるが、証拠隠滅と監視のため、数匹の羽猫を配置した。
禁足地として、本当に誰も近寄らないかの確認用だ。
もし、少数の見回りが来ても、透明化して隠れれば、戦闘などのトラブルになりにくいし、物資がバレそうな場合は吸収できる。
常に透明化させないのは、水晶玉のようなわけのわからない物が飛ぶより、見える魔物の方が騒ぎにならないし、どうせ少数なら「ワンダリング・ウイング・キャッツ」だとわからないだろう。
せっかく魔王に汚された、と吹聴してくれている禁足地なのだから、それらしく魔物が出た方が箔がつくだろう、という嫌味でもある。
町のように羽猫で囲めば、魔王国跡地を奪還できる、との意見も出たが、全部透明にしても見つからない保証はないし、魔王軍蜂起と「人」の軍に包囲されたら、補給はシラン頼みになってしまう。
町も守備力強化のメリットばかり考えて渦で囲おうとしたが、透明化できなかったら、いろいろ危うかった、と反省している。
しかも、誰にも相談せずに独断で決めて結構したのだから、「家族会議(弾劾裁判)」で正座させられたのは、遠い思い出だ。
「戦争のとき、魔王国へ一人で行ったこと、反省したんですよね、お父様?」
「お父さん、一人では嫌だよ」
「パパ!羊のお世話といっしょで、手伝いがいるなら言って!」
「ハイロウが独断で街の領主へ会いに行ったこと、どの顔で咎めたのですか、主殿?」
「罰は、キラたちが決めた服を着てもらおうよ、サクラ」
「一番フリフリのドレス、サイズ直しします」
「・・・ぱぱ、どぅしたの?」
「データにありません、姫」
まあ、魔王が正座させられて説教は、一般常識にはないよな。
とはいえ逆に、災害級を禁足地に配置することで、避難先には使えなくなるが「人」の注目を集め、町から目を逸らすのはアリかもしれない。
が、魔王生存を匂わすのは、慎重にしなければいけないと考えている。
魔王が討伐済みなのが、「人」への俺たちのアドバンテージなのだから。
『災害級「ワンダリング・ウイング・キャッツ」が消えたようだよ』
『一部を、魔王の配下と共に、魔王国廃墟にて確認しておりますよ、英雄王』
『耳が早いな。教皇』
『そのための罠が、禁足地指定ですからな。やはり、「魔物を従える」で従えたのでしょう』
『災害級で可能だとは思ってもみなかったが、もう一人を喰ったからか』
『それだけ「魔王を喰う」ことは強力なのでしょう。もう一人の魔王は、脅威ですな』
『これでは、共闘せざるを得ないかもしれないな』
『心ならずも、ですが』
『さて、どうするか』
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