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魔王国滅亡編

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 無事、蜜蜂は、詳しくない俺の前世のうろ覚えの知識で用意した巣箱に巣を構えられたようだ。
「すっごい、ブンブンいってる」
「巣箱に顔を近づけたら、刺されますよ、ヤト様」
 牧草地には、前世でいうシロツメクサに似た花が咲き、蜜の供給源となっている。

 前世の記憶では、遠心分離機で巣からハチミツを集め、代わりに砂糖水?を与えていたが、そもそも砂糖が高価なので、巣箱の底に傾斜をつけ、垂れたハチミツを集める形式にした。
 ある意味、ほぼ世話なしの放置で、余ったハチミツを分けていただくのだ。

 サクラが教えてくれた桜色の花、ヤト命名の「蜂呼び花」は持って帰っている。
「サクラ叔母ちゃん、この花の名前ないの?」
「はい、ヤト様。『一般常識』には、ないようですね」
「じゃあ、ヤトが名前つけていい?」
「もちろんです」
「うーんと。蜂呼び花!」
「・・・覚えやすくて、いいと思うよ、ヤトちゃん」
「いっそ、シンプルで、清々しいです。けど、ヨウコは臭い花で十分だと思います」
「じゃあ、蜂呼び花に決定!」

 アラクネーの森で摘んできた花は、余分につくった空の巣箱に入れているので、運が良ければ、更に分蜂した蜜蜂が寄ってきて、増えるかもしれない。
「こうやって、巣箱に入れておけば、近くの蜜蜂が、来るかもしれませんよ」
「蜜蜂が増えたら、もっとハチミツがとれるね。食べきれるかなあ」
「まあ、ヤト様ったら」
「ヤトちゃんが、食べきれないこと、ないと思う」
「その上で、お腹は壊しますけどね」

 花の一部は、根付きでもって帰ってきたので森に植えたから、根付けば遠征しなくても、蜂呼び花を手にいれることができるようになるだろう。
 畑に植えなかったのは、その匂いにヨウコが「むり」たったからだ。
「蜂呼び花を触ったら、手を洗ってください、ヤト姉様」
「え?臭う?」
「すっごく、生臭いです!無理です!」
「キラには、感じませんよ」
「みんな、手を洗ってください!むしろ、お風呂入ってください!」

 まだまだ少量だが、蜂蜜がとれるようになり、食卓にパンがのぼることが増えた。
「パンもおいしい」
「アヤメ、手で食べられるから、パンが好き!」
「スミレも!」
 スプーンを用意しているのだが、子供たちには、米は食べにくいようだ。
「ユリ、オニギリなら好き」
 それはそれで、手がベトベトになって、米が髪につくので、しばらくはパン食がメインになるのかもしれない。

 小麦粉ではなく、水車で粉に挽いた米粉で焼いたパンだ。
 サクラが、パンを捏ねるのが得意で、お手伝いしたランが、一番上手だった。
「こういう、ペタペタした物を扱うの得意なんです」
「ラン、蜘蛛糸を編むの好きだから。パン生地も、編んでみていい?」
 しかも、アラクネーっぽく、棒状にしたパン生地を編んだりしたパンが、食卓を賑わした。
「ついに、料理キャラに、強敵が現れました」
 その口調の割に、ヨウコは嬉しそうだった。

 蜂蜜の採取は、年少組の濃い紫髪のアヤメ、薄い紫髪のスミレ、白髪のユリの担当。
「ハチミツ、たまってる?」
「今日は、いっぱいみたい」
「パンに塗って、食べたいね」

 ネット・クロウラーの世話と繊維の採取は、年中組の赤紫髪のアサガオ、黄髪のヒマワリ、赤髪のツバキの担当。
「ご飯の葉っぱですよー」
「今日は、糸とらないでいいの?」
「・・・毎日やると、疲れちゃうんだって、ママが言ってた」

 糸を紡いで、布を織るのは、年長組のピンク髪のラン、くすんだ赤髪のカエデの担当。
「・・・」
「・・・」
 作業に集中しているのはわかるが、前世でいう私語厳禁の工場じゃないんだから、会話しよう。

 サクラは子供たちをサポートしながら、縫製をメインにするようになった。
「子供たちは小さくて、布が少なくてすみますから、服を縫ってしまいすね」
「サクラ殿、それでは、街で服を買ってくる楽しみが」
「兄さま。ちょっと高くて買えなかったカワイイ服のデザインを、パクって、つくってもらうの!」
「おお!」
 おお、じゃないし、街で何やってるんだ?

 針は、ヤトがつくった木工細工を「強靭」化したものだが、糸は自前の蜘蛛糸だ。
 ほぼ透明なので、どんな色の布でも縫い目が目立たなかった。
「はい、できあがりです。ヨウコ様」
「胸元のリボンが、大きくなってます、かわいい。ありがとうございます、サクラ叔母様」
 嬉しそうだったが、すぐ少し複雑そうな表情になって、サクラの胸を見ていた。
「・・・ヨウコ様、きっとすぐ成長し」
「気休めはいいです」

 この縫製作業で、サクラの魔素の特性が判明した。
 言葉にしづらいのだが、『隠す』といった感じだろうか。
 呼び方は『拡張』になるのかもしれないが、それでは本質をついていない気がする。

 具体的には、サクラが蜘蛛糸を混ぜて織った布で袋をつくると、容積を増やすことができた。
「この袋、いっぱい入るよ?」
「変ですね。穴が空いて、零れているわけでもありません」
 前世のゲームでいう無限収納のようなものだ。
 もちろん、無限ではなく、十倍弱程度になっているみたいだ。
「いっぱいには、なるんですね」
「お肉、いっぱい入れられる!」
「どこへ、お肉を持っていく気ですか、ヤト姉様」

 もっとレベルアップして、魔素が増えれば、それこそ無限になるかもしれない。
 ただ、重量は入ったもの全部の重さになるので、レベルアップした筋力がないと持てない、という根本的な問題はあった。
 並みの『人』では持ち上げられないので、防犯に役立つかもしれない。
「お父さーん、重くて、もてないー」
「シウン姉様、手に力が入ってないのわかりすぎです」

 これは、スピアー・ビーに襲われながら、子供たちを守りたい、敵から隠したい、とサクラが強く思ったことが、関係しているのかも、しれない。
「あのとき、どこかに子供たちを隠してしまいたかったのです」
 シウンの「付与」に似ているが、彼女のは他人の特性の付与だが、サクラのは自分の特性の付与に限られるようだ。

 これで、街への買い出しや、次はいつになるかわからないが、探索のときの荷物の運搬が、かなり楽になる。
 まあ、街で拡張袋がバレないように、ハイロウに釘を刺す必要があるが、キラも同行しているから、大丈夫だと信じたい。
「毛皮商の前で直接、拡張袋から、毛皮を出したりするなよ、ハイロウ」
「も、もちろんですとも、主殿」
「兄さま、馬車から、中身入りの拡張袋を持ち出すのは、禁止です」

 布は防水ではないが、水筒の内側に「拡張」した布を張れば、貯水量が増えた。
「酒に酔える身体なら、もっと便利に感じたかもしれませんな」
 容量に限りある洞窟冷蔵庫で、ミルクやハチミツを保存するのに、便利かもしれない。
 しかし、落として容器を壊したら、零すダメージは大きいだろう。
「やだ、ヤト持ちたくない」

 ただ、タンスの引き出しや、木箱など、中身が「見える」容器では、『隠す』ことができないからか、「拡張」できなかった。
 だから当然、ヤトが自分の食器に「拡張」した布を敷いたが、よそえる量を増やすことはできなかった。
「ヤト姉様、自分でその布、お洗濯してください」
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