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魔王国滅亡編
夜でした
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「・・・主殿」
「ああ、ヤトだな」
男女に別れて寝ていたテントから、ヤトが移動しているのが、パスでわかる。
トイレかと思ったが、それにしては、遠くまで行っている。
ちなみに、俺といっしょのテントで誰が寝るか問題が勃発したが、ハイロウが「お嬢たちが眠くなった後も、翌日の予定など、主殿と話し合うこともありますゆえ、男女別でお願いします」と珍しく丸く収めた。
既に、もう夜中だ。
「俺が追う。ハイロウは残って、娘たちの護衛を頼む」
「承知いたしました、主殿」
レベルアップしたからか、電灯のない闇がある生活に慣れたからか、真っ暗闇でもかなり見えるから、灯りは持たない。
俺がテントから出ると、シウンとヨウコが、自分たちのテントから顔を出していた。
「トイレと言って、出ていったんです、お父様」
「ヤトちゃん、武器は持っていったから、驚かして斬られないでね、お父さん」
それは、最悪だな。
ヤトの魔素「切断」を纏わせた、あの中二武器デスサイズで攻撃されるのは、御免だ。
いや、魔物に操られている可能性もあるか、気をつけよう。
俺は、足音を潜めて、ヤトを追った。
操られていることを警戒して、パス通信で話かけることはせず、何をしているか、とりあえず確認するつもりだ。
それでも、ヤトの聴力なら、俺の接近は、気づかれてしまうだろうが。
ヤトが、しゃがんだ後ろ姿が見え、声が聞こえた。
「ヤトたちの分もあるから、たくさんはあげられないよ」
なんのことだ?
いや、誰かと話をしている?
何かを与えている?
それにしては、相手の声が聞こえない。
「おいしい?」
俺に見えたのは、アラクネーと間近に向かい合ったヤトだった。
娘の側に魔物がいることに、無意識に緊張してしまう。
その気配が伝わったのか、アラクネーはこちらに顔を向け、逃げ出した。
ヤトは、とっくに気がついていたのだろう、俺へ振り返り、
「もう、パパが脅かすから、逃げちゃった」
どうやら、操られてはいないようだ。
「いや、それより、どうして、こんな夜中に、遠くまで来たんだ?」
「ずっと、足音がしてて。ヤトたちがいて、罠に近づけないから、お腹減ってるのかな、って」
その手には、干し肉が握られていた。
捨て犬じゃないんだから、と叱るのは簡単だった。
しかし、アラクネーの姿を見て、殺したくないと俺も思ったのは同じだし、捨て?ドラゴンのシウンを拾った前科もあって、強く言う資格もない。
「干し肉は、ここへ置いていこう。もう寝ないとだぞ、ヤト」
「でも、他の魔物に食べられちゃわないかな?」
「さっきのアラクネー、遠くまでは、行ってないんじゃないか?」
ヤトは、ケモ耳を左右に振って、
「・・・うん、近くにいる」
「じゃあ、俺たちがいなくなれば、すぐにとりにくるさ」
「そうだね、パパ」
二人で手をつないで歩きながら、俺はハイロウにパス通信し、娘たちにヤトが怒られないように、説明と説得を頼んだ。
『・・・ヨウコお嬢を説得、ですか?主殿』
だからこそ、頼んでるんだぞ、ハイロウ。
結果として、ヤトが叱られることはなかったが、ハイロウの努力の結果というよりは、「ヨウコが、ガミガミいうから、ヤト姉様は、相談しないで、一人で行ってしまったのでしょうか?」と涙目になっていたので、今夜は狭いテントで親子四人でギュウギュウになって寝ることとなった。
「ああ、ヤトだな」
男女に別れて寝ていたテントから、ヤトが移動しているのが、パスでわかる。
トイレかと思ったが、それにしては、遠くまで行っている。
ちなみに、俺といっしょのテントで誰が寝るか問題が勃発したが、ハイロウが「お嬢たちが眠くなった後も、翌日の予定など、主殿と話し合うこともありますゆえ、男女別でお願いします」と珍しく丸く収めた。
既に、もう夜中だ。
「俺が追う。ハイロウは残って、娘たちの護衛を頼む」
「承知いたしました、主殿」
レベルアップしたからか、電灯のない闇がある生活に慣れたからか、真っ暗闇でもかなり見えるから、灯りは持たない。
俺がテントから出ると、シウンとヨウコが、自分たちのテントから顔を出していた。
「トイレと言って、出ていったんです、お父様」
「ヤトちゃん、武器は持っていったから、驚かして斬られないでね、お父さん」
それは、最悪だな。
ヤトの魔素「切断」を纏わせた、あの中二武器デスサイズで攻撃されるのは、御免だ。
いや、魔物に操られている可能性もあるか、気をつけよう。
俺は、足音を潜めて、ヤトを追った。
操られていることを警戒して、パス通信で話かけることはせず、何をしているか、とりあえず確認するつもりだ。
それでも、ヤトの聴力なら、俺の接近は、気づかれてしまうだろうが。
ヤトが、しゃがんだ後ろ姿が見え、声が聞こえた。
「ヤトたちの分もあるから、たくさんはあげられないよ」
なんのことだ?
いや、誰かと話をしている?
何かを与えている?
それにしては、相手の声が聞こえない。
「おいしい?」
俺に見えたのは、アラクネーと間近に向かい合ったヤトだった。
娘の側に魔物がいることに、無意識に緊張してしまう。
その気配が伝わったのか、アラクネーはこちらに顔を向け、逃げ出した。
ヤトは、とっくに気がついていたのだろう、俺へ振り返り、
「もう、パパが脅かすから、逃げちゃった」
どうやら、操られてはいないようだ。
「いや、それより、どうして、こんな夜中に、遠くまで来たんだ?」
「ずっと、足音がしてて。ヤトたちがいて、罠に近づけないから、お腹減ってるのかな、って」
その手には、干し肉が握られていた。
捨て犬じゃないんだから、と叱るのは簡単だった。
しかし、アラクネーの姿を見て、殺したくないと俺も思ったのは同じだし、捨て?ドラゴンのシウンを拾った前科もあって、強く言う資格もない。
「干し肉は、ここへ置いていこう。もう寝ないとだぞ、ヤト」
「でも、他の魔物に食べられちゃわないかな?」
「さっきのアラクネー、遠くまでは、行ってないんじゃないか?」
ヤトは、ケモ耳を左右に振って、
「・・・うん、近くにいる」
「じゃあ、俺たちがいなくなれば、すぐにとりにくるさ」
「そうだね、パパ」
二人で手をつないで歩きながら、俺はハイロウにパス通信し、娘たちにヤトが怒られないように、説明と説得を頼んだ。
『・・・ヨウコお嬢を説得、ですか?主殿』
だからこそ、頼んでるんだぞ、ハイロウ。
結果として、ヤトが叱られることはなかったが、ハイロウの努力の結果というよりは、「ヨウコが、ガミガミいうから、ヤト姉様は、相談しないで、一人で行ってしまったのでしょうか?」と涙目になっていたので、今夜は狭いテントで親子四人でギュウギュウになって寝ることとなった。
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