レベルアップがない異世界で転生特典のレベルアップしたら魔王として追われケモ耳娘たちとひっそりスローライフ。けど国を興すか悩み中

まみ夜

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魔王国滅亡編

お米みのりました

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 陸稲が、収穫時期となった。
「お米できたー!」
「はいはい。ヤト姉様、できても収穫しないと食べられませんよ」
「お嬢が喜んでくださって、嬉しいですぞ!」
「はいはい。兄さまも口じゃなくて、手を動かす」

 もっと南の温かい地域では、もう一回栽培できるようだが、ここでは、年二回が限界みたいだ。
 昨日は、隣の区画のアネ芋畑を収穫した。
 当然のように、娘たちの「一番大きな芋を掘るのは誰だ?」大会が行われたが、空気を読まずにハイロウが優勝した。
「もちろん、ヤトのが一番だよ?」
「これが、ヨウコが掘った一番、大きなお芋です」
「お姉さんのも、負けてないよ。一番、重いんじゃないかな」
「大きさ勝負のルールです、シウン姉様」
「パパ、どれが一番大きい?」
「いやいやお嬢、まだまだですな。これが一番でしょう」
「・・・兄さま。この子たちに、勝ってどうする」
「え?」
 妹のキラに呆れた顔、娘たちに涙目で見られ、ハイロウは狼になって、逃げた。
「わおーん!」
 優秀な男なのに、どうにも残念なところがある。
 とはいえ、これで、四分割した耕作地をローテーションすることができる。

 収穫したばかりの稲は、乾燥が必要なので、先行して一部を刈り取って、冷蔵庫のクーラーで乾かした分で、お祝いすることにした。
「お祝い用のお米、乾いてる?キラ叔母ちゃん」
「うん。これなら、大丈夫ですよ。早速、脱穀から始めましょうか」
「この布の上でやるんですね?」
「そうですよ、ヨウコちゃん。あ、ヤトちゃん、振るとお米、落ちちゃうから、そっとね」
「はーい」
「お姉さんが、半分もちましょう」

 脱穀と籾摺りは、ワー・ウルフ兄妹が道具を持っていたので、使い方を教えてもらった。
「はじめは、布の上で、軽く振るだけでも穀がとれますけど、千歯扱きに通すと、きれいに脱穀できますよ」
「ちょっと、この道具、見た目が怖いな」
「そう?パパ。ヤト平気だよ」
 そんなに難しい作業ではなかったが、ヤトが剣山の親玉みたいなので脱穀しているのを見ると、やらかさないか俺はドキドキして、気が気でなかったが、過保護にしないと決めたのだ。
「あ、ヤト、あぶ」
「なあに?パパ」
「・・・いや、なんでもない」

 籾摺りの道具も、籾殻を吹き飛ばすフイゴを「風」を付与した板に取り替えれば、もっと便利になりそうだ。
「ヤト姉様!風を強くしすぎると、お米まで布の外へ、飛んじゃいます!」
「だって、楽しいんだもん」
「ヤトちゃんの分のお米、減っちゃうよー」
「・・・お姉ちゃんのいじわる」
「ヤト姉様、風が弱くて、籾殻が飛んでません」
「・・・ヨウコのいじわる」
「お嬢!ハイロウが見本を!」
「ハイロウ、娘たちに、解決させろ」
「・・・はい、主殿」
「じゃあ、ヨウコは風の具合みてて。お姉ちゃんは、お米いれて」
「はい。入れたよ、ヨウコちゃん」
「よーし、いっくよー!」
「今、ちょうどいい風です、ヤト姉様」
 わかったから、娘たちに顔を隠して、男泣きするなハイロウ。
 俺からは、丸見えだ。

 この地方では、前世でいう東南アジアのように、米は茹でるのが主流だが、俺好みに焚いてもらっている。
 ちなみに、ヤトに箸を作ってもらって、俺が使いだしたら、娘たちも覚えた。
 ワー・ウルフ兄妹は、豪商の護衛団として、商いに行った先で、箸の経験があり、俺の持ち方より正統派だった。
 俺の教え方が悪かったせいで、ヤトは握り箸だ。
 キラに、正統派を教えてやってもらおう。
「ご飯が焚けましたよー!」
「お腹へったよー」
「お父さんの隣、とーった」
「シウン姉様は、お父様のお向かいの番です」

 ちなみに、玄米だ。
 一度、ワー・ウルフ兄妹が収穫した米を精米して食べてみたのだけど、玄米に慣れたせいか、白米は柔らかすぎるというか、食べ応えがないというか、娘たちも好みではないようだった。
「すぐ、口の中で、なくなっちゃうよ?お肉といっしょだと、もっとわかんない」
「玄米の方が、味があると思います」
「玄米に慣れてるせいか、柔らか過ぎかも」
 魔物の肉や、品種改良のされていない野生に近い野菜の味の濃さに、白米だと負けてしまうのかもしれない。

 収穫のお祝いだが、酒はない。
 以前に一度、ハイロウが街で買ってきてくれていた。
 しかも、瓶は馬車輸送での破損で損失が出たら、もったいないからと樽で。
「それで、樽で買ってきたのか」
「キラも大酒飲みですから、飲み干せるでしょう」
「えええ?ここ数年、飲んでないんですけど?」
「頼むから、言い出しっぺが、一番最初に潰れてくれるなよ」
「ははは、その節には、放置しておいてくだされ」
「・・・娘たちが、どんな顔すると思う?」
「・・・かりこまりました、主殿」

 結論からすると杞憂で、レベルアップしすぎた。
 酔いは状態異常のようで、耐性が高いせいで、いくら飲んでも、ほろ酔い程度にしかならない。
「・・・本当に、樽ごと飲み干せてしまいそうですな」
「酔う前に、もう腹がいっぱいだよ」
「飲むだけ、もったいない気がしてきますね。主様、兄さま」
 前世と違って、ストレス解消を酒でする必要もないしな。

 飲むだけもったいない、という意見は大人たちで共有できたので、街で買うのは酒ではなく、娘たちの服の方が優先となっている。
 いや、「強靭」化で、そんなに破けることもないし、体型も変わらないのに、なぜそんなに新しい服が必要なのかは、わからない。
 キラに、聞いてみたら、答えの前に、『・・・男ってヤツはこれだから』的な気配がパスから伝わってきたので、二度と話題にしないつもりだ。

 アネ芋や野菜を収穫したときも嬉しかったが、やはり米となると、格別だ。
 うまい肉に米、野菜。
 自分で建てた小屋で、その食卓を囲む家族たち。
「新米、おいしー」
「叔母様に、新米の注意を教えてもらったからです」
「ヨウコちゃんの焚き方が上手なのよ」
「確かに!キラは未だに、茹でてばかりで」
「・・・兄さま?明日から生米、齧る?」
「お父さん、お肉が串から抜けないの、抜いて」
「お肉を切ればいいんです。はい、どうぞ。シウン姉様」
「・・・ヨウコちゃんのいじわる」
「じゃあ、シウン姉様は、ズルイです。そうですよね、お父様?」
「・・・一番ズルイのは、ヨウコちゃんだと思う」

 異世界に転生して、この世界に根を張って「生きている」と実感していた。
 この家族たちとの幸せな生活が、いつまでも続きますように。
 そう祈ろうとして、神がいない世界で誰に祈ればいいのか、わからなかった。
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