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魔王国滅亡編

家畜がきました

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「モッフモフだよ。パパ!」
「モッフモフです、お父様」
 ワー・ウルフ兄妹が、買ってきてくれた羊たちが、娘たちにモフモフされていた。
 君らのケモ耳と尻尾もモッフモフだけどね。
 それを、ワー・ウルフ兄妹も、モッフモフの狼耳と尻尾を出して、ほのぼの見ていた。
「いやー、こっちの姿の方が、身体が軽くて。街で耳と尻尾を出せないのが、ツラかったですよ」
 だそうだ。
 今回、買ってきてくれたのは、出産済みのメスの羊が五頭、それを積んできた馬車をひく馬一頭。
 資金源は、魔物の毛皮、そして冷凍した肉だ。
 とくに肉は鮮度の良さが大好評で、馬車を買ってきてくれたので、売りに出す量を増やせるだろう。
 羊たちは、しばらく前に毛刈りされてしまっていたので、冬を越せば、もっとモッフモフになるので、楽しみだ。
「え?もっとモッフモフになるの?」
「暑くなる前に、刈ってしまっているので、来年には、もっとモッフモフですぞ、お嬢」
「・・・来年、ですか?」
「・・・そんなに先?」
 娘たちが、少し不安そうな顔をしたので、抱きしめて、
「来年、羊がモッフモフになるのが、楽しみだな」
「・・・はい、お父様」
「たのしみー!」
「いだっ!」
 俺たちを微笑まし気に見ていたハイロウが、羊に尻尾を齧られていた。

 馬は、サラブレッドとは違い、背が低くて、足が太い。
 しかし軍馬の払い下げで、戦闘にも慣れて驚かない、掘り出し物だそうだ。
 ちなみに、馬は音などに敏感な生き物なので、特殊な訓練をした軍馬でないと、戦闘音などで興奮して逃げたりと戦場では役に立たないのだ。
 農耕にも、ワー・ウルフ兄妹の小屋からの輸送にも、役立ってくれるだろう。
「元軍馬ですから、乗るのも調教されてますが、慣れないうちは、クツワをとって、引いた方が、楽ですよ、ヨウコちゃん」
「こう、ですか?」
「お上手ですぞ、お嬢!」
「ヤトもやるー!」
「少々、お待ちください、ヤトお嬢。いだっ!」
 クツワをヨウコから受け取り、ヤトに渡そうとして、ハイロウが馬にケモ耳を齧られていた。

 夜に、入れる家畜小屋はできていたが、まだ日も高いので、さっそく未開墾の区画に、羊も馬も放牧してみる。
「ヤトが、逃げないように、見張ってるよ!」
「逃がさないための、ロープですよ、お姉様?」
「お嬢、ハイロウが見張っておりますから、ご安心を」
「兄さまは、畑仕事をサボらないで」
 杭とロープで、簡単な柵はつくっておいたが、逃げ出す様子はない。
 伐採されていない森の方へ、本能的な危険を感じ取っているようだ。
 もりもり草を食べて、もりもり排泄している。
 いい農地になるだろう。
「臭いに敏感なヨウコは、フンの臭いは、大丈夫なのか?」
「はい。危険な臭いじゃないって、認識すると、あまり感じなくなるみたいです、お父様」
 便利だな、魔素を操った嗅覚。
「ワー・ウルフもそうなのか?」
「だんでじょう、ありゅぢどにょ?」
 俺に聞かれて、振り向いたハイロウの鼻には、詰め物がしてあった。

 夕方、羊と馬を小屋に入れ、キラに教わって、羊の乳しぼりをした。
「こうやって、指で、上から下へシゴくようにしてみてください」
「こう、ですか?」
「お上手ですぞ、お嬢!」
 ハイロウの声に、驚いた羊が、ヨウコの前から逃げ出した。
「・・・兄さま」
「・・・叔父様」
「・・・叔父ちゃん」
「・・・いや、その、ですな」
「・・・ここは狭いから、ハイロウは、俺と外から見学な」
 それでも、ハイロウは、窓の外から「お上手ですぞ、お嬢」と、さすがに小声で応援していた。
 そのたびに、こちらを向く羊を含めたケモ耳たちが、うるさそうにしていた。

 一頭で、コップ一杯程度のミルクだが、娘たちは、口のまわりを真っ白にして、飲んでいた。
「おいしー」
「ほんのり甘いです!」
 夕食には、ミルクを入れたシチューや、酢で固めたチーズで食卓が賑わった。
「チーズ大好き!」
「お姉様、また食べすぎるとお腹が」
「明日は、バターをつくって、パンかアネ芋に塗って食べてみましょうか」
「バターつくりたい!」
「お姉様、口からチーズが、飛び出てます」
 並みの反射神経ではないはずのワー・ウルフの末裔ハイロウは、ヤトの正面に座っていたため、チーズまみれになっていた。

 朝晩の乳しぼりと、家畜小屋と放牧地への移動など、羊たちの世話は、ヤトの担当となった。
「ヤトのお仕事だよ!」
 ヨウコが、朝夕の食事をつくるタイミングに合わせてやることができて、「お姉さん」のヤトとしては、とても嬉しそうだった。
 眠い目を擦りながら、乳しぼりをしているので、手伝おうとしたら、「ヤトのお仕事だから!」と拒否られた。
 俺だって、モフモフしたいのに。
 それでも、世話を焼きたいハイロウは、家畜小屋をウロウロしていたが、「叔父ちゃん、邪魔」と素気無くされて、涙目になっていた。

 自然に、俺の担当は、馬の世話となり、コイツは、俺のグチや考え事の聞き役になってくれて、とてもいいヤツだった。
 もし、「名づけ」たらどうなるんだろう、と少しだけ考える。

 馬のお陰で、農地の開墾は、みるみる進んだ。
「馬さん、こっちだよー」
「お上手ですぞ、お嬢!」
「兄さまは、口より手を動かす」

 農地の拡大に合わせて、森の木も伐採し、その材木で、ワー・ウルフ兄妹の小屋が完成した。
 俺たちの小屋よりも大きく、リビング以外に四部屋ある。
 一部屋は物置で、二部屋は兄妹各々の寝室。
 もう一部屋は、娘たちが泊まりたがったとき用の部屋らしい。
 いや、ウチはすぐ隣なのだけど。
「いつでも、お嬢たち、泊まりにきてくださいよ」
「キラといっしょに寝るのもアリですからね」
「パパもいっしょに泊まるの?」
「まあ、せっかく三人で泊まれる部屋があるからな」
「えー?どっちで寝よう」
「キラ叔母様か、お父様の独り占めか、迷いますね」
「たまにリビングで雑魚寝も、いいですぞ」
 娘たちが、自分の寝室でいっしょに寝ることはない、と理解しているハイロウが、いっそ清々しかった。

 俺たちの小屋で、靴を脱いで寛ぐことを覚えたので、同じく土間で靴を脱ぐ方式だ。
 リビングに置かれたテーブルは、ワー・ウルフ兄妹二人だけには大きくて、俺たちを招く気まんまんだ。
「このテーブルで寝られちゃうね?」
「そんな行儀の悪いことしたら、食事抜きです、お姉様」
「ほら、お嬢!テーブルの上で、寝られちゃいますよ!」
「兄さま、行儀悪いから、食事抜き」
「・・・うん、ヤトは、絶対やらない」
 ヤトは、前世でいう「人の振り見て我が振り直せ」を覚えた。

 こちらの畑でも、収穫の早いものは、実が生りはじめ、逆にワー・ウルフ兄妹が元から住んでいた方では、刈り入れが一段落したので、本格的に、こちらへ引っ越すことになった。
「え?引っ越してくるの?やったー!」
「これで、もっといろいろ教えてもらえますね」
「いやいや、お嬢たちが優秀ですから、もうハイロウが教えることなんて、ありませんよ」
「え?と、羊の毛の刈りかたとか?」
「それは、キラの方が得意ですな」
「え?と、ハーブの干し方ですとか?」
「それも、キラの方が得意ですな」
「え、と。あの」
「ハイロウが、いてくれるだけで、娘たちは嬉しいんだ、イジメるなよ」
「そうだよ。叔父ちゃん」
「そうです、叔父様」
「お、お嬢、主殿。わおーん!」
「ハイロウ、人の言葉で頼む」

 この農作物の輸送や引っ越しにも、馬が大活躍した。
 農地も広がり、小屋なども増えていたが、街からはかなり離れていたし、森の中なので、油断していた。
 これだけの土地と建物、空からだと丸見えで、目立つことなど、考えてもいなかったのだ。
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