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狼さんにあいました
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ワー・ウルフは、人としての姿から、四足歩行の狼へと変身できる一族だ。
人の姿であっても、嗅覚は鋭く、力も強い。
そして、狼になれば、バーサーカー・ベアとも対等に渡り合える身体能力、毛皮と脂を切り裂く牙と爪を持つ。
もちろん、『人』と同程度の知恵と理性もある。
だからこそ、『人型』であるのに、『魔物』として、『人』に滅ぼされた。
『人』が、その知恵と力を恐れるが故に。
生き物が体内に宿す魔素の量は、どうやら、その寿命と繁殖力に反比例するようだ。
ほぼ繁殖しない長寿のドラゴンは、大量の魔素を持ち、個体数が極めて少ない。
逆に、短命で増え続ける『人』は、僅かな魔素しか持ちえない。
ある意味、「増える」のは、『人』の持つ最大の魔法なのかもしれない。
そして、ワー・ウルフも、その寿命と魔素の量から、極めて数は少ないが、強力な一族だった。
今から、三百年ほど昔の話。
エルフや獣人族などと同じく、ワー・ウルフも『人』と住み分けていた。
しかし、ある『人』の国の若き王が、『勇者』として宣言した。
危険な『人型の魔物』を滅ぼすべし、と。
もちろん、謂れなき宣戦布告に、エルフなどは、抗った。
逆に、その抵抗が、失敗だったのだ。
エルフが一族の魔素をまとめて放った大規模魔法が、『人』を恐怖に陥れた。
更なる大量虐殺魔法を恐れて、一国だけでなくすべての『人』が一致団結した。
『人型の魔物』は、そうして滅び、老兄妹は、逃げ延びた、僅かな生き残りの子孫だ。
やはり、俺の予想通りに、エルフや獣人などは滅ぼされていたか。
確かに、個で劣る『人』にとっては、数が少なくても、脅威だからな。
しかし、勇者の宣言が唐突すぎて、まさかエルフに振られたからじゃないか、などと邪推してしまう。
それに、『人型の魔物』を滅ぼすために一致団結した『人』が、そのときの手柄で『勇者』を名乗りまくり、戦国時代に突入したというのだから、笑えない話だ。
まあ、その混乱に乗じてワー・ウルフ兄妹は生き延びられたみたいだが。
現在は、表向き知恵ある『人型の魔物』は全滅し、知恵ある魔物は『人』では滅ぼすことのできなかったドラゴンぐらいだ。
だから、人の一般常識では、『人型の魔物』の存在を知らない。
だから、人型の魔物である『魔王』の話は、どこから出てきたのだろう?
ただ、老兄妹らも『魔王』については、知らなかった。
そういった伝説もなく、そもそも基本的に、『人型』ではない魔物の知性は野生動物並みなので、統率できない。
魔物を魔王軍として率いて、『人』と戦う、なんてできないのだから、魔物に「王」なんて、不要なのに。
まさか、魔物を従えるチート能力?
少なくとも、俺のチート能力は違うので、俺は魔王ではなさそうだ。
「それで、お主は、魔王なのかの?」
恐る恐る、ジョンが聞いてきた。
俺は『人』のつもりだが、人ではありえない量の魔素をレベルアップで持っている。
この世界のすべての生き物は魔素を持ち、魔物であるならば、俺も魔物なのだろうか。
では、僅かとはいえ魔素を持つ『人』とは、何だ?
そして、『人』の持ちえない魔素を持つ俺とは、何だ?
「今はただの、子持ちの農家見習いだよ」
答えて、俺は、立ち上がった。
ヨウコを連れて、ヤトが寝る部屋へ戻ろうとすると、
「「え?」」
老兄妹が、そろって、寝たふりしてたときのヨウコみたいな声を上げたので、振り向いた。
「どうした?やはり、小屋から出ていった方がいいか?」
お互いの事情がわかったので、部屋で寝るつもりだったのだが、俺のチート能力を知って、泊めるのが怖くなったのだろうか。
「・・・い、いや、あの」
ものすごく言いずらそうに、
「ワシらを殺して、レベルアップせんのか?」
確かに、彼らは魔素が多そうだから、殺せばレベルアップするだろう。
俺も魔素が、不完全とはいえ操れる今、バーサーカー・ベアと戦えるワー・ウルフが二人とはいえ、負けはしないだろう。
「お父様?」
ヨウコが、不安そうに、俺の腕を握りしめた。
その頭を撫で、
「娘たちが懐いている人を殺すほど、俺は人でなしに見えるか?」
俺は、多くの魔素を吸って、『人』でないとしても、人でなしではない。
「お互いの正体をバラし合ったことだし、良い近所付き合いをしてくれると助かる」
老兄妹とヨウコの肩の力が抜けたので、部屋に戻り、腹を出して爆睡しているヤトの毛布をかけ直して、俺たちも寝た。
「おやすみなさい、お父様」
「おやすみ、ヨウコ」
「ふがー」
翌日、目を覚ますと、先に起きていた娘たちが、俺を見つめていた。
「・・・おはよう」
「おはよ。パパ」
「おはようございます、お父様」
どうやら、昨夜の顛末は、ヤトはヨウコから聞いたようだ。
二人で、何か言いたそうに、もじもじしている。
俺は、娘たちの頭を撫で、
「あの二人と、もっと仲良くなりたいのか?」
ぱっと顔を上げて、輝かせ、
「うん、パパ!」
「はい、お父様!」
俺に抱き着いてきた。
懐いたものだな。
俺以外で、初の本当の姿を見せられる相手なのだから、そうもなるだろう。
「まあ、向こうがその気だったら。だけどな」
娘たちを連れて、部屋を出ると、老兄妹は、畏まった様子だった。
まあ、お互い、考えることは、いっしょだよな。
『人』に追われる同士だ。
それでも、言っておくべきことはある。
「名づけても、俺の命令に絶対服従みたいな強制力はない。だから、もし娘たちを傷つけるようなことがあったら、お前らがどんなにレベルアップしていたとしても、俺はどんなに汚い手を使ってでも、殺す」
それで、断られても別にいい、と思っていたのだが、逆に兄妹は笑顔になった。
「ワシらは、そのお嬢さんたちを、『人』から守りたいんじゃ」
「もう、娘も同然に思っております。傷つけるなんて、決してありえません」
滅びかけている人型の魔族であるワー・ウルフだからこそ、人型となった魔物、ヤトとヨウコに思い入れがあるのだろう。
守れなかった、失ってしまった誰かを、重ねているのかもしれない。
「わかった。それで、本当の名前は?」
「「は?」」
「ジョンとジェシーは、偽名だろう?もう名前があるなら、それで、名づけたい」
考える手間も省けるしな。
たはは、バレとりましたか、と頭をかき、
「ワシは、長の名を引き継ぎハイロウ。妹は、キラですじゃ」
人の姿のままで、名づけられるか心配なので、狼になってもらう。
部屋の外で全裸になり変身して入ってきたのは、巨大な狼たちだった。
ハイロウは灰色で、キラも灰色だが、より黒っぽい。
まさか、『灰狼』でハイロウなのか?
漢字のないこの世界で?
偶然?
人の姿であっても、嗅覚は鋭く、力も強い。
そして、狼になれば、バーサーカー・ベアとも対等に渡り合える身体能力、毛皮と脂を切り裂く牙と爪を持つ。
もちろん、『人』と同程度の知恵と理性もある。
だからこそ、『人型』であるのに、『魔物』として、『人』に滅ぼされた。
『人』が、その知恵と力を恐れるが故に。
生き物が体内に宿す魔素の量は、どうやら、その寿命と繁殖力に反比例するようだ。
ほぼ繁殖しない長寿のドラゴンは、大量の魔素を持ち、個体数が極めて少ない。
逆に、短命で増え続ける『人』は、僅かな魔素しか持ちえない。
ある意味、「増える」のは、『人』の持つ最大の魔法なのかもしれない。
そして、ワー・ウルフも、その寿命と魔素の量から、極めて数は少ないが、強力な一族だった。
今から、三百年ほど昔の話。
エルフや獣人族などと同じく、ワー・ウルフも『人』と住み分けていた。
しかし、ある『人』の国の若き王が、『勇者』として宣言した。
危険な『人型の魔物』を滅ぼすべし、と。
もちろん、謂れなき宣戦布告に、エルフなどは、抗った。
逆に、その抵抗が、失敗だったのだ。
エルフが一族の魔素をまとめて放った大規模魔法が、『人』を恐怖に陥れた。
更なる大量虐殺魔法を恐れて、一国だけでなくすべての『人』が一致団結した。
『人型の魔物』は、そうして滅び、老兄妹は、逃げ延びた、僅かな生き残りの子孫だ。
やはり、俺の予想通りに、エルフや獣人などは滅ぼされていたか。
確かに、個で劣る『人』にとっては、数が少なくても、脅威だからな。
しかし、勇者の宣言が唐突すぎて、まさかエルフに振られたからじゃないか、などと邪推してしまう。
それに、『人型の魔物』を滅ぼすために一致団結した『人』が、そのときの手柄で『勇者』を名乗りまくり、戦国時代に突入したというのだから、笑えない話だ。
まあ、その混乱に乗じてワー・ウルフ兄妹は生き延びられたみたいだが。
現在は、表向き知恵ある『人型の魔物』は全滅し、知恵ある魔物は『人』では滅ぼすことのできなかったドラゴンぐらいだ。
だから、人の一般常識では、『人型の魔物』の存在を知らない。
だから、人型の魔物である『魔王』の話は、どこから出てきたのだろう?
ただ、老兄妹らも『魔王』については、知らなかった。
そういった伝説もなく、そもそも基本的に、『人型』ではない魔物の知性は野生動物並みなので、統率できない。
魔物を魔王軍として率いて、『人』と戦う、なんてできないのだから、魔物に「王」なんて、不要なのに。
まさか、魔物を従えるチート能力?
少なくとも、俺のチート能力は違うので、俺は魔王ではなさそうだ。
「それで、お主は、魔王なのかの?」
恐る恐る、ジョンが聞いてきた。
俺は『人』のつもりだが、人ではありえない量の魔素をレベルアップで持っている。
この世界のすべての生き物は魔素を持ち、魔物であるならば、俺も魔物なのだろうか。
では、僅かとはいえ魔素を持つ『人』とは、何だ?
そして、『人』の持ちえない魔素を持つ俺とは、何だ?
「今はただの、子持ちの農家見習いだよ」
答えて、俺は、立ち上がった。
ヨウコを連れて、ヤトが寝る部屋へ戻ろうとすると、
「「え?」」
老兄妹が、そろって、寝たふりしてたときのヨウコみたいな声を上げたので、振り向いた。
「どうした?やはり、小屋から出ていった方がいいか?」
お互いの事情がわかったので、部屋で寝るつもりだったのだが、俺のチート能力を知って、泊めるのが怖くなったのだろうか。
「・・・い、いや、あの」
ものすごく言いずらそうに、
「ワシらを殺して、レベルアップせんのか?」
確かに、彼らは魔素が多そうだから、殺せばレベルアップするだろう。
俺も魔素が、不完全とはいえ操れる今、バーサーカー・ベアと戦えるワー・ウルフが二人とはいえ、負けはしないだろう。
「お父様?」
ヨウコが、不安そうに、俺の腕を握りしめた。
その頭を撫で、
「娘たちが懐いている人を殺すほど、俺は人でなしに見えるか?」
俺は、多くの魔素を吸って、『人』でないとしても、人でなしではない。
「お互いの正体をバラし合ったことだし、良い近所付き合いをしてくれると助かる」
老兄妹とヨウコの肩の力が抜けたので、部屋に戻り、腹を出して爆睡しているヤトの毛布をかけ直して、俺たちも寝た。
「おやすみなさい、お父様」
「おやすみ、ヨウコ」
「ふがー」
翌日、目を覚ますと、先に起きていた娘たちが、俺を見つめていた。
「・・・おはよう」
「おはよ。パパ」
「おはようございます、お父様」
どうやら、昨夜の顛末は、ヤトはヨウコから聞いたようだ。
二人で、何か言いたそうに、もじもじしている。
俺は、娘たちの頭を撫で、
「あの二人と、もっと仲良くなりたいのか?」
ぱっと顔を上げて、輝かせ、
「うん、パパ!」
「はい、お父様!」
俺に抱き着いてきた。
懐いたものだな。
俺以外で、初の本当の姿を見せられる相手なのだから、そうもなるだろう。
「まあ、向こうがその気だったら。だけどな」
娘たちを連れて、部屋を出ると、老兄妹は、畏まった様子だった。
まあ、お互い、考えることは、いっしょだよな。
『人』に追われる同士だ。
それでも、言っておくべきことはある。
「名づけても、俺の命令に絶対服従みたいな強制力はない。だから、もし娘たちを傷つけるようなことがあったら、お前らがどんなにレベルアップしていたとしても、俺はどんなに汚い手を使ってでも、殺す」
それで、断られても別にいい、と思っていたのだが、逆に兄妹は笑顔になった。
「ワシらは、そのお嬢さんたちを、『人』から守りたいんじゃ」
「もう、娘も同然に思っております。傷つけるなんて、決してありえません」
滅びかけている人型の魔族であるワー・ウルフだからこそ、人型となった魔物、ヤトとヨウコに思い入れがあるのだろう。
守れなかった、失ってしまった誰かを、重ねているのかもしれない。
「わかった。それで、本当の名前は?」
「「は?」」
「ジョンとジェシーは、偽名だろう?もう名前があるなら、それで、名づけたい」
考える手間も省けるしな。
たはは、バレとりましたか、と頭をかき、
「ワシは、長の名を引き継ぎハイロウ。妹は、キラですじゃ」
人の姿のままで、名づけられるか心配なので、狼になってもらう。
部屋の外で全裸になり変身して入ってきたのは、巨大な狼たちだった。
ハイロウは灰色で、キラも灰色だが、より黒っぽい。
まさか、『灰狼』でハイロウなのか?
漢字のないこの世界で?
偶然?
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