レベルアップがない異世界で転生特典のレベルアップしたら魔王として追われケモ耳娘たちとひっそりスローライフ。けど国を興すか悩み中

まみ夜

文字の大きさ
上 下
10 / 67
魔王国滅亡編

開拓はじめました

しおりを挟む
 拠点づくりで、まず着手したのは、トイレだ。
 農作物をつくることを考えると、肥溜めも考えたが、臭いや虫がたかるのを想像するだけで、無理な物は無理だ。
 ちなみに、前の洞窟では、穴を掘っては、埋めていた。
 肥料は、森が手つかずの腐葉土の宝庫だから、なんとかなるだろう。
 トイレ第一弾は、小川の上につくった。
 川の水は当然、上流で生活に使うから、洞窟とは離れた下流になってしまったので、将来的には、うまく配管?したトイレをつくりたい。
 尻を拭く葉っぱは、柔らかいのを時間をかけて厳選した。
「これだと、痛くないですか?」
「俺にも、ちょっと硬いな」
「え?ヤトは平気だよ」
 ヤトは、お腹は弱いが、尻が強いようだ。

 前世でいう、ログハウスは、地面をならして、土台の水平さえとれれば、あとは切った木材を重ねていくだけだ。
 木の皮を剥いだり、重ねる部分を削る加工は、ヤト。
「ここを、こう丸く削って、と」
 木材が腐りにくいように、表面を焼き焦がすのは、ヨウコ。
「表面だけ、パリっと焦げ目を」
 おいしそうだな。

 俺は、木の棒に魔素を纏わせて、木を伐る担当をしていた。
 どうにも、ヤトほど、手に持った得物を魔素で強化するのが、うまくいかない。
 バーサーカー・ベアのときは、それだけ必死だったし、考えてみれば、強化したのは、ものすごく短時間だった。
 ヤトが、魔物としての特性で、「切断」が得意なのはわかるし、俺が『人』だから『魔法』っぽいことに向かないのも理解している。
 壊すのが怖くて、一本しかない剣を使わずに、木の「棒」なのも、「伐る」イメージを妨げているのかもしれない。

 それでも、小屋造りの出だし担当の俺が、もたもたしていては、娘たちに申し訳ない。
 加工する材料がなくなって、ヤトは畑を耕すための農機具の試作、ヨウコは昼ご飯の用意をしている。
「もうすぐ、ご飯ができますよー」
「もう、お腹へったよー」

 防具のように、自分の身体に魔素を纏うのは、うまくできるようになっていた。
 しかし、手に持った『物』だと、うまくできないのだ。
「光の剣!」
 棒を放り捨て、よくある勇者モノみたいに、魔素で剣を実体化できないか、と叫んでみたらできた。
 身体を覆う延長なのだろう。
 それを振るうと、一撃で、木を伐り倒せた。
 ただ、魔素は灰色で、俺の手にあるのは、闇の剣にしか見えず、少なくとも勇者とは思えなかった。

「うわ、甘っ」
「おお、いつもよりも甘いな」
「はい。なるべく、お湯を熱くしないようにガンバりました」
 現在、肉がおかず、街で買った小麦粉を節約してアネ芋が主食な食生活なのだが、ゆっくり加熱すると甘くなるアネ芋をお菓子としても活用している。
 作業の合間のオヤツには、甘いものが欲しくなるのだ。
 煮出すと焙じ茶のような味になる薬草も見つけていたので、午後のティータイム中だ。
 今日のアネ芋は、今までで最高の甘さだ。

 あれ?
「ヨウコ、お湯を熱くしないって、火を消したのか?」
 彼女が調理しているのが目に入ったとき、魔素を使っての火を、つけたり消したり、というより、強弱もせずにつけっぱなしの印象なことに、気がついたのだ。
「いいえ。火は消さずに、調整していました」
 もしかして、特性は『火炎』ではなく、『温度』なのではないか?
 加熱ではなくて、温度をコントロールしている?
「ヨウコ。これを冷たくすることはできるか?」
 ヤトがつくってくれた木の器に盛った、ヨウコが甘く煮たアネ芋を示す。
「冷たく、ですか?」
「そう。お湯が冷めていくように、冷たくできないか?」
「・・・お湯が冷めていくように、冷たく」
 ヨウゴが、その様を想像するように呟くと、アネ芋に白く霜がついた。
 指で触ると、冷たく凍りついている。
「すごい、できてるぞヨウコ!」
「本当ですか、お父様」

 試してみると今晩、茹でて保存する予定だったチャージ・ボアの生肉を凍らせることができた。
「できました、お父様」
「本当だ、すっごい硬くて冷たい」
 水を凍らせて、氷もつくれた。
 今まで、肉は、加熱するか、干すしか保存方法がなかったが、これで冷凍や冷蔵が可能になった。
「これで、いつでも焼肉が食べられるってこと?」
「ええと、そうですね」
「やったー!ヨウコ、すっごーい!すっごーい!すっごーい!」
「あ、えへ」

 ヤトは、甘く煮てから凍らせたアネ芋、通称「アネ芋アイス」を食べすぎてお腹を壊して、つくった自分のせいだとヨウコが泣いたので、とても反省していた。
「ヨウコが、調子にのってアイスなんて、たくさんつくったから。ごめんなさい、お姉様、ふえーん」
「食べすぎたヤトが悪いんだから、泣かないでよヨウコ。ごめん、ごめんね」

 小屋が完成して、洞窟から引っ越した。
「お引越しだー!」
「お姉様、いいから荷物もってください」
 小屋は、十畳ほどの一部屋だけだが、囲炉裏もあるし、土間に竈もつくったので、洞窟に比べて便利になった。
「雨でも、お料理しやすくなりました。ありがとうございます、お父様」
「いや、いつも料理、ありがとうヨウコ」
 増設することで、個室がつくれたらいいな。
 まあ、個室をつくったところで、娘たちはいっしょに居たがり、寝たがるのだろうが。
「パパの左脇がヤトね」
「お父様が右向きで寝ますから、ヨウコは、抱っこされて嬉しいですけど、お姉様はいいんですか?」
「おっきいパパの背中にしがみつくのが好きー」
「・・・ときどき、交代しましょう、お姉様」

 前世の習慣で、家の中では靴を脱がないと寛げないし、娘たちも魔物だったからか、裸足が好きなので、土間で靴を脱ぐ方式だ。
 フローリングの床には、チャージ・ボアの毛皮を敷き、キッカー・バードの羽根を布袋に詰めたクッションを置いている。
「ごろごろできるー」
 さっそくヤトが、クッションを抱き、ゴロゴロと床を転げまわった。
「もう、お姉様ったら」
 ヨウコもやりたそうだったので、後ろから抱きしめて、いっしょに床を転がった。
「もう、お父様ったら」
「ヤトも、ヤトもー!」
 ヤトも抱きしめて、三人で床を転がった。

 布団も、同じようにつくったが、これってそのまま羽根布団だな。
「ふっかふかー」
「ふんわり、軽いです、お父様」
 今度は、意識して羽毛を集めてみよう。

 次は、雨でも入れるように、露天風呂の屋根と、湯気で腐らないように小屋から離しているので、そこまで裸足のまま行ける通路と屋根か。
 それよりも川の上のままのトイレへの通路と屋根の方が先か。
 トイレそのものも改良したい。
 洞窟は、入口を木材で塞ぎ扉をつけ、丸ごと冷蔵庫にした。
 冷凍した肉が、そのまま保冷剤になっている。
「ここ、すずしー」
「お姉様、長居すると、またお腹を壊しますよ」

 更に一度、露天風呂をヨウコに凍らさせて、凍りきらずに残った不純物の多い部分をすくって煮詰めたら、少量だが塩ができた。
「この凍ってない部分の水を煮詰めるのですね?」
「うわ、しょっぱい!舌痛い!」
 凍った風呂は、かけ流しの温泉水で半日くらいで溶けたので、塩の入手にも目途がついた。
 慣れてみれば、炎は数百度だが、凍らせるのは数十度下げるだけでいい。
 ヨウコは調理以外、魔物との戦いでは、主に冷却を使うようになっていた。

 ただ、ヤトはアネ芋アイスの食べすぎでお腹を壊したことを思い出すからか、ヨウコが魔物を凍らせるのを見ると時々、そっとお腹を押さえていた。

「パパ!いっぱい、お芋ついてるよ!」
「本当に、できるんですね」
 アネ芋の在庫が少なくなってきたので一番、始めに植えたのを掘ってみたら、ちゃんと芋が生っていた。
 本当は収穫にはまだ少し早いので、小ぶりではあるが、大量に小芋が収穫できそうだ。

 はしゃいで、芋掘りを始めた娘たちが、芋を手に、静かになっていた。
「どうした?」
 声をかけると、少し涙目になっている。
 何か、嫌なことでもあったのか?
「こうやって、お芋をつくれるとか、少し前まで、魔物だったのに」
「なんだか、こんなに幸せで、いいんでしょうか。お父様?」
 戸惑っている娘たちを、俺は抱きしめて、
「お前たちが幸せだと、俺も幸せだよ。だから、もっと幸せになって、もっと俺を幸せにしてくれ」
「うん!」
「はい!」
 俺は、手に持っていた芋を見せて、
「ところで、俺が掘った芋が一番、大きいんだが?」
「むーーーっ!」
「負けません!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...