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魔王国滅亡編
村へいきました
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歩きはじめて夕方、森を抜けた先に、その村はあった。
ゲームなら、拠点から離れれば、魔物は強くなるが、ここでは人里に近づくほど、おとなしいものになっていた。
まあ、そうでないと、安心して暮らせない。
村は、想像していたより賑わっていた。
どうやら近隣との距離の関係で、ちょうどこの辺りで陽が暮れる宿場町らしい。
村の規模の割には、大きな宿屋だった。
一階は酒場のようだ。
陽が落ちれば寝るしかないので既に、賑わっている。
この世界で、人に会うのは初めてなので、言葉が通じるかとか、心配だったが、酔っ払いが何を話しているのか、ちゃんと理解できた。
遠く離れた街の上空をドラゴンが旋回していた、というのが、気になる話題だった。
それだけ距離がある場所の話なので、この村に伝わる時間を考えると、かなり前の情報なのだろう。
信ぴょう性も疑わしく、噂話として危機感もなく、笑顔で語られていた。
宿の受付の無愛想な老人は、「素泊まり銀二枚、メシ付きは銀三枚」とだけ言って、片手を出した。
俺が、銀貨を三枚のせると、鍵を渡してくれた。
「部屋は二階の一番奥、メシは酒場で鍵を見せろ」
鍵なんて簡易的なものだから部屋に荷物を置いて盗まれるのも怖いし、腹も減っていたので、そのまま酒場の方へ行く。
初のこの世界の料理を食べるわけだ。
まあ、刷り込まれた一般常識で、味の知識だけはあるのだが。
鍵を持っているのを見つけた女給さんが、「ご飯だけ?何か飲む?」と聞いてきた。
この身体で、酒を試したことがないので、興味はあったが、即爆睡でもしたら、いろいろ心配だ。
「明日、早いから、ご飯だけ」
「じゃあ、そこのテーブル座ってて」
記念すべき、異世界初会話だった。
明日は、買い物をして、暗くなる前には洞窟に帰り着きたいので、嘘は言っていない。
というか、ようやく初会話って、どれだっけボッチなんだ俺。
「お待たせ!」
置かれたのはパン、シチューとモツ煮込みの中間のような料理。
木のスプーンですくって食べると、なかなかおいしい。
洞窟で暮らして思っていたのだけど、この身体は、舌が肥えていないからか、化学調味料に毒されていないからか大抵、なんでもおいしく感じられる。
この世界では、幸せなことなのだろう。
パンが柔らかいのもありがたいし、他人がつくったものを食べられるというのは、贅沢なことだ。
食べ終え、席を立つと、騒ぎが起こっていた。
酔っ払い同士の喧嘩だ。
娯楽の少なく、よそ者の多い村ならではなのかもしれないが、巻き込まれないように、迂回しようとしたら、その先でも喧嘩が起きた。
ここの酒、何か入ってるんじゃないのか?
「喧嘩は、ここか!」
村に駐在している軍の隊長らしき鎧姿の男が、部下を連れて飛び込んできたとき、酒場で立っているのは、俺だけだった。
「・・・あ?」
もちろん、一人も殺してはいないが、舐めて殴りかかってきた報いは受けてもらった。
ファング・ドッグの群に比べれば、鈍い動きだった。
「お前が、一人で?」
言われて、肩をすくめて見せた。
やりすぎたのは確かだが、相手がこの大人数だ。
この世界にはないが、正当防衛を主張したいし、受付の爺さんも女給さんも、俺から手出ししていないのは、証言してくれるだろう。
「・・・こんなヤツ、人じゃねえ」
床の男が、呻いた。
俺が『人』じゃなかったら、なんだっていうんだ?
しかし、隊長の目が、見開かれていた。
「まさか、通達のあった『人型の魔物』魔王?」
その呟きが、あたりの雰囲気を一変させた。
「人型の魔物?」
「確かに人じゃない!」
「魔王?魔王ってなんだ?」
そんな情報は、刷り込まれたこの世界の知識にはない。
この世界には、俺の前世の物語で語られるところの「魔王」はいない。
なぜなら、そんな存在がいたら、『人』は簡単に滅びるからだ。
魔法が使えない『人』が、魔法を使える知恵ある『人型の魔物』魔王にあがらう術はない。
同様に、魔王の眷属である魔族もいない。
魔物は、外見通り野生動物並みの知性なので、統率できないのだ。
知恵ある魔物は、ドラゴンくらいで、しかも個体数が少ない。
だから、辛うじて『人』と住み分けができているわけだ。
その分、エルフや獣人がいない理由が、気になる。
隊長は、剣を抜いた。
それを見て、部下たちも抜剣する。
「おとなしく捕まれ。ちゃんと話は聞く」
前世の嫌な知識が思い出された。
魔女裁判での、魔女と判断するための拷問だ。
正直、家も定職もあるわけではないので、この村に留まる理由もない。
逃げよう。
俺も剣を抜いた。
「抵抗する気か?応援を呼べ!」
訓練された兵士だ、ファング・ドッグの群よりは、手強いだろう。
それにしても宿代、もったいないことになったな。
この世界の宿屋のベッド、体験してみたかったのだが。
ゲームなら、拠点から離れれば、魔物は強くなるが、ここでは人里に近づくほど、おとなしいものになっていた。
まあ、そうでないと、安心して暮らせない。
村は、想像していたより賑わっていた。
どうやら近隣との距離の関係で、ちょうどこの辺りで陽が暮れる宿場町らしい。
村の規模の割には、大きな宿屋だった。
一階は酒場のようだ。
陽が落ちれば寝るしかないので既に、賑わっている。
この世界で、人に会うのは初めてなので、言葉が通じるかとか、心配だったが、酔っ払いが何を話しているのか、ちゃんと理解できた。
遠く離れた街の上空をドラゴンが旋回していた、というのが、気になる話題だった。
それだけ距離がある場所の話なので、この村に伝わる時間を考えると、かなり前の情報なのだろう。
信ぴょう性も疑わしく、噂話として危機感もなく、笑顔で語られていた。
宿の受付の無愛想な老人は、「素泊まり銀二枚、メシ付きは銀三枚」とだけ言って、片手を出した。
俺が、銀貨を三枚のせると、鍵を渡してくれた。
「部屋は二階の一番奥、メシは酒場で鍵を見せろ」
鍵なんて簡易的なものだから部屋に荷物を置いて盗まれるのも怖いし、腹も減っていたので、そのまま酒場の方へ行く。
初のこの世界の料理を食べるわけだ。
まあ、刷り込まれた一般常識で、味の知識だけはあるのだが。
鍵を持っているのを見つけた女給さんが、「ご飯だけ?何か飲む?」と聞いてきた。
この身体で、酒を試したことがないので、興味はあったが、即爆睡でもしたら、いろいろ心配だ。
「明日、早いから、ご飯だけ」
「じゃあ、そこのテーブル座ってて」
記念すべき、異世界初会話だった。
明日は、買い物をして、暗くなる前には洞窟に帰り着きたいので、嘘は言っていない。
というか、ようやく初会話って、どれだっけボッチなんだ俺。
「お待たせ!」
置かれたのはパン、シチューとモツ煮込みの中間のような料理。
木のスプーンですくって食べると、なかなかおいしい。
洞窟で暮らして思っていたのだけど、この身体は、舌が肥えていないからか、化学調味料に毒されていないからか大抵、なんでもおいしく感じられる。
この世界では、幸せなことなのだろう。
パンが柔らかいのもありがたいし、他人がつくったものを食べられるというのは、贅沢なことだ。
食べ終え、席を立つと、騒ぎが起こっていた。
酔っ払い同士の喧嘩だ。
娯楽の少なく、よそ者の多い村ならではなのかもしれないが、巻き込まれないように、迂回しようとしたら、その先でも喧嘩が起きた。
ここの酒、何か入ってるんじゃないのか?
「喧嘩は、ここか!」
村に駐在している軍の隊長らしき鎧姿の男が、部下を連れて飛び込んできたとき、酒場で立っているのは、俺だけだった。
「・・・あ?」
もちろん、一人も殺してはいないが、舐めて殴りかかってきた報いは受けてもらった。
ファング・ドッグの群に比べれば、鈍い動きだった。
「お前が、一人で?」
言われて、肩をすくめて見せた。
やりすぎたのは確かだが、相手がこの大人数だ。
この世界にはないが、正当防衛を主張したいし、受付の爺さんも女給さんも、俺から手出ししていないのは、証言してくれるだろう。
「・・・こんなヤツ、人じゃねえ」
床の男が、呻いた。
俺が『人』じゃなかったら、なんだっていうんだ?
しかし、隊長の目が、見開かれていた。
「まさか、通達のあった『人型の魔物』魔王?」
その呟きが、あたりの雰囲気を一変させた。
「人型の魔物?」
「確かに人じゃない!」
「魔王?魔王ってなんだ?」
そんな情報は、刷り込まれたこの世界の知識にはない。
この世界には、俺の前世の物語で語られるところの「魔王」はいない。
なぜなら、そんな存在がいたら、『人』は簡単に滅びるからだ。
魔法が使えない『人』が、魔法を使える知恵ある『人型の魔物』魔王にあがらう術はない。
同様に、魔王の眷属である魔族もいない。
魔物は、外見通り野生動物並みの知性なので、統率できないのだ。
知恵ある魔物は、ドラゴンくらいで、しかも個体数が少ない。
だから、辛うじて『人』と住み分けができているわけだ。
その分、エルフや獣人がいない理由が、気になる。
隊長は、剣を抜いた。
それを見て、部下たちも抜剣する。
「おとなしく捕まれ。ちゃんと話は聞く」
前世の嫌な知識が思い出された。
魔女裁判での、魔女と判断するための拷問だ。
正直、家も定職もあるわけではないので、この村に留まる理由もない。
逃げよう。
俺も剣を抜いた。
「抵抗する気か?応援を呼べ!」
訓練された兵士だ、ファング・ドッグの群よりは、手強いだろう。
それにしても宿代、もったいないことになったな。
この世界の宿屋のベッド、体験してみたかったのだが。
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