【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

まみ夜

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1806年/夏

≪盾を≫

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 戦争での被害を少なくするために、残されていた言葉の一つが、「銃と盾を備えよ」だった。
 さて盾を、どうするかだ。
 というよりも、ご先祖の言葉が大雑把すぎて、どうしたもんだろう。
 銃に比べて更に、どういう状況で使うのが目的かで、盾は形状も大きさも変わってくるだろう。
 一人ひとりが、持って歩くのか?
 銃撃戦を想定するなら、機動隊が持っているような、長方形で全身が隠せる大きさじゃない、と意味がない。
 そのサイズを全員に持たせるのは、材料が鉄だろうから、重量的に現実的ではないだろう。
 米軍が着ているような、防弾服を着せる?
 何人分を用意すれば、効果があるんだ?
 無理だ。
 でも、俺たち用に少数でも、つくるのもアリかも。
 って、俺たち(ハンナやナンシー先生)は、戦場に出るのか?
 その辺は、先生たちに確認して、納得いかなかったら、話し合おう。
 さて、大きな盾を持ち歩かせるのが大変なら、馬車を装甲化してしまうか。
 狙撃を警戒した、要人警護としても使えるし、遮蔽がない場所での盾になる。
 そういう意味での盾、なのか?

 装甲馬車は、山道に運び込めなければ、捨てていくだけで意味がないので、あまり大きくない馬車に、鉄板を貼ることにした。
 始めは、外側に貼ったのだが、わざわざ手の内をバラして見せる必要もないので、内側に貼ることとなった。
 並べて盾にするとき、装甲馬車の台数が足りないければ、普通の馬車をダミーで隙間に使っても、どれが普通馬車かバレないメリットが出た。
 少ない台数で広い面積をカバーできるように、敵に対して横向きに置いて、遮蔽として使うように考えた。
 このため、鉄板は、側面だけにした。
 本当は、更に重量を軽減するため、片面だけにしたかったのだが、山道を実際に進ませてみる、とバランスを崩しやすかった。
 これを防ぐために、重りを片側に載せては、本末転倒なので、結局は両側への装甲となった。
 それでも少しでも、重量を下げたいので、鉄板には、たくさんの穴を抜いた。
 木板=鉄板=木板の組み合わせであれば、銃弾が防げたので、向かい合った部分に穴が並ばないようにかなり慎重に行った。
 そんな努力の甲斐あって、なんとか馬一頭で引ける重量に収めることができた。
 あとは、反撃用の銃眼をどうするかとか、前線で横向きに回すのを人力でもできるように、本来の車輪より小さい横向きの車輪を取り付ける工夫を進めているなど、課題も残っている。
 襲撃を受けた時に、馬を外し、人力で側面を敵に向け、状況に応じて、攻めたり引いたりしたいのだ。
 しかし、これを使う時は、陣地を用意できていない遭遇戦か、撤退戦だろう。
 そうなる、とこれを盾に時間を稼いで逃げることにもなるので、火をつけられるような用意も必要になるだろう。
 装甲馬車を敵に渡して、この発想を教えてしまう訳にはいかない。
 でも、最終的には燃やすために開発って、かなり切ない。

 いろいろ開発中に、俺たちも戦場に出るのかをナンシー先生に聞いた。
 結論として、俺を連れていくかどうかは、議論が続いている、と歯切れ悪く言われた。
 どうやら、ご先祖の「戦争での被害を少なくするための二つの言葉」の一つ、「銃と盾を備えよ」ではない方に関係あるようだが、教えてくれなかった。
 もし、教えなくていいのであれば、少しでも知っている人数を減らしたいのだそうだ。
 確かに、どう対策をしているかが、もしも敵に漏れれば、被害が拡大するのは、予想できる。
 それでも、ハンナは、確実に戦場に出る、と言われた。
 止めてほしい、とお願いしたのだが、ガトリング銃を敵に鹵獲されないように最悪破壊する役目を一族で担うという。
 ナンシー先生が俺に約束した、戦後の銃器の廃棄だけでは意味がなく、敵に実物が渡っても大変なことになるので、仕方ないのか。
 ハンナに怪我をしてほしくないので、防弾服を考えることにした。
 鉄板を縫い付けるのが簡単だが、それでは、重い。
 自分が着れ、と言われて嫌な物を、友達には勧められない。
 鎖帷子は、ある。
 持ち主の一人であるナンシー先生に見せてもらったが重い、そして暑い。
 装甲を厚くしても、機動力が落ちては、防護力が落ちたことになるのは、戦車と同じだ。

 ケプラー繊維とは言わないけど、何かいい物ないかなあ。
 西洋鎧は金属がメインだけど、戦国武将は、どうしていたんだろう?
 あ?
 鎧に絹を使っていたのは、丈夫だからじゃなかったか?
 ナイロンが発明されるまでは、絹が一番丈夫じゃなかったっけ?
 って、博物館の見学で、歴史の先生が熱く語っていたような気がする。
 それを、ナンシー先生に相談する、とメチャクチャ嫌な顔をされた。
 すっごく高価だからだ。
 それを、防弾実験に使いたい、というのだから、戦争のためにドレスを作る、そして穴を開ける、と言われているような気分なのだろうか。
 実際に実験してみる、と一枚布でもそれなりに強いが、さすがに弾を防ぐのは無理だった。
 そこで、日本鎧を思い出して、絹糸で紐を結って組み合わせる、とかなり強靭になった。
 これを木綿に縫い付けることで、遠距離であれば、防弾効果のある服をつくれそうだ。

 更には、色合いだ。
 この時代、とにかく戦場での服装は、目立つのが目的だ。
 偉い人が兵士の目に入ることで、戦意を鼓舞するなどの立場的な物もあるが、どちらかというと敵味方の識別が、目で見て判断するしかないのだから、仕方がない。
 でも、銃で狙ってください、と大声で叫んでいるような物だ。
 そこで、迷彩模様をつくってもらうようにお願いした。
 ところが、絹糸を染めて迷彩は難しいので、緑と茶色でのグラデーションだけでも用意してもらうようにした。
 更に、迷彩模様のマントをつくって、それを羽織るようにした。
 マントは、ついでにギリースーツの機能をつけたかったが、味方を驚かしそうなので、ちょっと悩んでいる。
 表は迷彩、裏はギリースーツだと、移動のときに枝に引っかかったりしなくていい、とも思ったが、暑そうだ。
 どうしよう。

 実際にハンナ用につくった防弾服を着てみる、と中々いい。
 でも、これハンナだと、オッパイ苦しいんじゃないか?
 くそっ。
 でも、着てみて、首周りとか、太い血管の部分が不安な感じがした。

 まずは、下半身だ。
 シャツだけでなく、膝丈のキュロット・スカートも絹で作った。
 動きやすさを考える、ともっと短い方がよく、防御力を考える、ともっと長い方がいいので、妥協点だ。
 これで、太ももと股間の辺りは守られる。
 ついでに、スノーボードのウェアを参考に尻に綿を入れて、防御というより地面に座ったりしたときのクッション性を高めた。

 次に、手首と腋の下だ。
 暑さ対策と防護を両立させたい。
 ジャガイモの澱粉を取り出して、片栗粉を作る。
 これを水に混ぜた液体を水筒に使う皮袋に入れて、サポーターにした。
 手首に巻いてみる。
 冷たくて気持ちいい。
 外して、全力でナイフで切りつけてみる。
 硬い感触がして、外側の皮は切れたが、内側は無事。
 ダイなんとか効果による、リキッドアーマーもどきだ。
 水と片栗粉が混ざっていないと効果が出ないので、首周りに着ける、とそのうち沈んでしまって、硬化は長持ちしなかった。
 でも、冷たくて気持ちいいのと皮だけでも防護力あるので、採用。

 頭の防御はどうするか。
 ヘルメットが一番いいのだろうけど、重くて蒸れそうだ。
 最前線に立ち続けるわけではなく、ハンナが着けるとしたら撤退戦の一時期だ。
 それなりの防御力がほしいけど、いつもは保管できたらいいのか。
 防災頭巾に鉄板を入れる?
 あれは、災害対策であって、いや戦争対策だったか、昔は。
 小学校の椅子のクッション代わりと同じで、あってもいいかな。
 鉄板を内側にして座れば、尻が痛くないし、頭に被っても、身体の前後にゼッケンみたいにしても、防弾効果が上がる。
 あ、頭だった。
 いつもは使わない、とする、と折り畳めればいい?
 いろいろと難しそうだなあ。
 テレビの防災特集で見たけど、使うシチュエーションが微妙だったし。
 って、防災じゃない、戦争なのだよ。

 いろいろと考えながら歩いている、とハンナがジャガイモを握り締めていた。
 その表情も、親の仇を見るようだ。
 今まで、あまり見たことがない顔だ。
「どうしたんだ?」
「あ、エイミー、助けて。お願い、死んじゃう!」
 死んじゃう、とは穏やかじゃない。
「お昼ご飯、あたしの担当なの、今日!」
 ああー。
 そういうことか。
 学園は休校しているが、調理場のオバちゃんは、数は少ないが、まだ残っている。
 ヤパンの使徒が戦争回避に動き続けているので、その食事と、戦闘時の食事の準備のためだ。
 オバちゃんの人数は減っているので、ハンナの一族が連れてきた職人たちは、材料こそ提供してもらっているが、炊事は独自に、交代で行っていた。
 俺は、基本はオバちゃんの食事を食べている。
 職人たちの食事は限られた量なので、大食い連中に一人でも割り込む、と足りなくなったりと、心配だからだ。
 それでも、ハンナがいっしょに食べようと誘ってくれて、相伴に預かることがあるが、日ごろから賄い飯を作っているだけあって、旨い。
 その担当が、今日はハンナなのだ。
 一度、若手の職人が、土気色の顔で食器を洗っているのを見たことがあるので、美味しくない、と「死んじゃう」のだろう。

 学園では、三食付なので、ハンナが料理したのは、食べたことないな。
 競技会の練習の後、おやつ作ってたの俺だしな。
 でもまあ、この必死さからする、と作ったハンナが「必」ず「死」んじゃうになってしまう腕前なのだろう。
 時間を確認する、とあまり余裕はない。
「がっつり一品食べられれば、いいんだよな?」
「うん!」
「じゃあ、ジャガイモの皮むいて」
「ええええええええー!」
 何の悲鳴だ?
 大鍋に油を入れて、鶏肉を適当に切って、どばどばブチ込んで炒める。
 ハンナが、前衛芸術作品を作成していた。
 皮が緑色したのはなさそうなので、皮むきは諦めて、口に入る大きさに切ってもらう。
 そっちのナイフ使いは手際よくて、いろいろ想像してしまう。
 皮付のジャガイモを肉といっしょに、炒める。
 他にも野菜を切ってもらって、これも鍋に突っ込んで、水を加えて沸かす。
 砂糖、ソイ用ソースを適当に足して煮る。
「えーと、フタない?」
「あ、これ?」
 これは、この鍋とセットのフタ。
「じゃなくて、もっと小さい奴」
 ハンナが、小さいフタは、フタの役目をしませんよ、と目で訴えてくる。
 料理デキナイ子に、哀れみの目で見られてしまったので、無言で木のフタを探して、鍋に入れた。
「ほら、フタになってないよ!」
「フタはフタでも、落しブタ」
 熱を逃がして無駄にしないようにフタをして弱火で加熱をしたいけど、汁気を飛ばしたいのでフタを閉じたくない、その折衷案が落としブタ。
「へえええええ」
 そういえば、便利ショップで、金属の落としブタ見たことあったっけ。
 あれって、折り畳みができたぞ。
 あれを使って、折り畳みのヘルメットができないか。

 でも、その前に昼飯だ。
 適当に煮詰まった大鍋を二人で運ぶ。
 昼時になって集まってきた職人に、配給よろしく器に盛って渡していく。
 かなり大量に作ったので、ハンナのお父さん、お爺さんに渡した後、自分たちの分を注いでも、まだ余っていた。
 作りすぎたかな。
 ハンナのお父さんが皆に声をかけて食べ、始めなかった。
 見た目は単なる肉と野菜の煮込みだが、初めての匂いのせいか、誰もが探り合うように、手をつけない。
 ハンナの父、祖父のリーダーズを見るが、むしろこの二人が一番、疑り深い顔で、目の前の料理を眺め、チラチラとハンナの方を伺っていた。
 これって、知らない料理っていうより、ハンナが作った料理へのいつもの反応?
 俺は、肩を竦めて、一人食べ始めた。
 時間なくて、適当に作った割には、美味しくできた。
 俺が食べ始めたのを見て、周りも恐る恐る手をつけた。
 一口、口に入れて、手が止まる。
 その後は、猛然と食べ出した。
 お代わりを求めて、鍋の前で、小競り合いが起きていた。
 なぜだか、涙ぐんだリーダーズが、ハンナに聞いた。
「これは、なんて料理だ?」
「え?」
 ハンナが、キョドキョドした。
「え?」
 その反応に、リーダーズも、動揺していた。
 なんか、埒が明かなさそうなので、助け船を出した。
「俺の実家の方の料理で、肉ジャガって言います。つくったのは、もちろんハンナです」
 ビーフシチューの失敗作って話だから、本当は牛肉じゃないといけないのかもだけど、鶏肉でも肉とジャガだから、いいだろう。
 おおー、っと声が上がった。
「お嬢の料理が食べられた!」
「すげ、食べられた!」
「必死じゃなかったぞ!」
 え?
 そっち?
 知らない料理のことで盛り上がったんじゃなくて?
 おいおい、死んじゃうって、不味くてキツく怒られるんじゃなくて、食べた方がか?
 しかも、必死って。
 ハンナを見る、と透明な眼差しで、どこか遠いところを見ていた。
「ハンナが料理を」
「あの、ハンナが」
 リーダーズが、泣いていた。
 気がつく、と他の職人も泣いていた。
 をいをい、と声を上げて泣く、男たち。
 ローザ先生とヤンデル先生が、偶然通りかかったのか、不思議な物を見る目で見て来たので、俺は目を合わさないように、必死だった。

 折り畳みのヘルメットは、折り畳める落しブタを思い出して、反った水滴形の金属板を組み合わせてつくった。
 畳むと扇のような感じだ。
 これを広げて、皮の袋に入れて、ベレー帽にも見えるヘルメットにした。
 畳んでいるときも、この皮を折って、ボタンで止めた中に入れる、と小さくなる。
 これを、迷彩シルクシャツの肩のところにつけたポケットに常に入れて携帯する。
 これで、いつ戦闘が始まっても、ヘルメットを着けられる。 

 できあがった一式を、ハンナに着てもらった。
 第一声は、
「胸がキツイよ」
 だったので、かなりやる気が失せた。
 しかし、実際に傭兵の人とナイフを使った模擬戦では、問題なく動けたようだ。
 というか、自分の倍くらいありそうな体重の傭兵を投げてたぞ、ハンナ。
 しかも、その傭兵はハンナの部下なのだが、接待模擬戦ではなかったらしく、シャツは切れなかったが、ハンナに打撲ができていた。
 打撲していたのは、いっしょに風呂に入ったときに気がついた。
 本物の防弾服であっても衝撃は殺せないから、仕方ないのだが、オッパイのデカさと打撲痕を見ている、と「ちくしょうめ」としか言い様がなかった。
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