【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

1806年/夏

おやつ≪コロッケサンド≫

　俺には、魔女のあだ名がついた。
　正確には、表立った。
　今回のホウキからの命名ではなく、前々から、魔女と呼ばれていたらしい。
　まあ、いろいろとやらかしてるものな。
　とりあえず、処分保留のまま、二年生に勝った（審議中）俺は、賞賛や畏怖や非難の中、特に変わりはなかった。
　暫定とはいえ、勝った俺たちは、今まで通りに、自主練習を許されていた。
　かといって、銃をぶっ放すわけにもいかず、これも変わらずだ。
　しかし、意外にも、と言っては失礼だが、ハンナが銃に強い関心を見せた。
　こっそり裏山で試射をしたが、ハンナの射撃は、堂々たるものだった。
　体の傷跡と、関係があるのだろうか。
　アリスは、「銃イコール怖い」なので、触ろうともしなかった。
　とはいえ、自主練習後で、腹が減った。
　アリスには、もう少し腹に溜まるものを食べさせろ、とマーサー先生に指示されたので、今日は、そういうものだ。
　パンと潰したジャガイモを取り出す。
　でも、二人とも、冷えたジャガイモとパンを見て、反応がない。
　まあ、イモとパンだものな。
　そこで、小さく焚き火を≪燃えろ≫で焚いて、小鍋を出す。
「お鍋？」
　ふふん、驚くがいい。
　火にかけた小鍋に、少量の油を入れた。
「エイミー・フライ？」
　一部のパンに≪乾け≫で、パン粉にする。
　潰したジャガイモを薄い楕円にして、パン粉をまぶして、温まった油で揚げ焼きにした。
　油から取り出して、パンに挟んだ。
　一度に焼ける量が限られているので、とりあえず二人に割って渡す。
「すぐ揚がるから、食べててくれ。熱いから、気をつけろよ。いただきます」
『いただきます』
「熱っ」
　注意したのに、猫舌のアリスは、予想通りに熱がっている。
「ほくほくだね！」
　塩気を強くしたけど、練習の後だから、しょっぱくは感じないようだ。
　アリスは、肉が入っている、と途端に食べる量が減るようなので、肉抜きで物足りないかと思ったが、空腹は最良の調味料なのだろう。
　二つ目が揚がったので、俺も食べる。
「あづぃっ」
　油断している、と中が熱い。
　やっぱり、ソースがほしいな。
「なに、その声」
「スペルかと思った」
　二人が笑ってくれたので、良しとしよう。
「この中身、なんて料理？」
　三人だけだし、言い訳を考えるのも面倒になって、
「コロッケだよ」
『へえー』
　前回の反省から、ミルクを用意している。
　コップを用意する、と荷物が多くなりすぎるので、回し飲みだ。
　よし！
　間接キスだぞ！
　って、喜びすぎじゃないか、俺？
 
　鍋を厨房に返しに行く、とオバちゃんに捕まった。
　潰したジャガイモ、鍋とミルクにパンを持っていったので、鍋でイモをミルクで溶いて煮るのか、とでも思っていたら、揚げ物をしました、という油入りの鍋を持って帰ってきた。
　オバちゃんの頭の中では、ジャガイモ、パン、ミルク、油で組まれた公式が、答えを出せずに、ぐるぐるしているのだろう。
　確かにこれでは、俺でも、何に使ったのか、不思議に思うだろう。
　特に、何を揚げたのか、ほぼ想像できないだろう。
　今の俺も、言い訳が考えつかない。
　それで、諦めた。
「茹でたジャガイモありますか？」
「ああー、あるんじゃないかな」
　もらって、適当にジャガイモを潰し、塩を混ぜる。
　返した鍋をもう一度借りて、油の入ったまま、カマドにかける。
「あ、パンありますか？」
「はいよ」
　一部のパンに≪乾け≫で、パン粉にする。
　潰したジャガイモを薄い楕円にして、パン粉をまぶして、温まった油で揚げ焼きにした。
　じーっ、と見つめているオバちゃんたちに囲まれて、油から取り出して、パンに挟んだ。
　パンごと彼女らに差し出した。
　あれ？
　いつもと反応が違う。
　彼女らの視線を追う、といつの間にか置かれていたミルクに気がついた。
　ああー、と俺はカップを持つ、と飲んだ。
　おおー、と声があがる。
　なんだか、残念なような、ほっとしたような表情で、全員に分けるため、かなり小くされて、口に入る。
　くわっと目を見開き、一斉に、俺を睨む。
「これ、なんて料理だい？」
「コロッケサンド・・・」
　自主練習で疲れているのもあって、考えるのが面倒になって、前世（？）の記憶での名前をそのまま伝える。
　その後、「コロッケサンド」の名のままで学園で一大ブームを起こすのだが、俺は三人の秘密だったのにな、と思っていた。
 
　教師ローザ・ロッテルーノは、「コロッケサンド」を食べるために、忙しく口を動かしながら、呟いた。
「エイミー、じゃない？」
 
　ホットサンドとコロッケサンドは、瞬く間にブームとなった。
　ホットサンドに耳は要不要論争や、中身は野菜だけでもいい派と野菜は不要派との争い。
　コロッケの肉要不要論争、パンとの間はコロッケだけの原理主義者と野菜と挟んでこそ教徒の争い。
 
　厨房のオバちゃんは、これ以外にも、俺の料理からヒントを得て、様々な料理、バリエーションを開発していった。
　魔女とか呼ばれても、楽しい日々だったのだ。
　そう、あの日までは。