上 下
56 / 90
1806年/春

調理≪エイミー・ヌードル≫

しおりを挟む
 アリスをお見舞いに行っていたら、朝食を食いっぱぐれてしまったどころか、もう昼食が近い。
 昨日、アリスと俺の会話を聞いていたマーサー先生が、教師陣と相談した結果、アリスのそばにいてやれ、という俺への依頼だった。
 学園としても、コンパイルの天才を潰したくはないのだろう。
 思惑は透けて見えるが、俺もアリスに潰れてほしくないのは一緒なので、従っておく。
 アリスの同室のアウグステも、同じように、俺とは時間をズラしてお見舞いに行っているようだ。
 でも、いろいろと考えすぎたせいか、食欲はあまりないが、それでも昼食前に、少し何か食べたかった。
 調理場のオバちゃんたちは、既に昼食の準備も終わりに近く、忙しそうだった。
 それでも、憐れに思ったのか、焼いたガレットの皮をくれた。
 あとは、適当に余った材料を使って食べていい、ということだった。
 どうやら、アリスのこととか、俺がお見舞いしていることは伝わっていて、好きにさせてやれ、といった感じだ。
 小鍋にお湯を沸かす。
 その間に、ガレットの皮を細く切る。
 小皿にアールズッペのスープ、カタクチイワシの塩漬けを≪乾け≫して、粉にして加える。
 味をみる、とちょっと塩気が足りないので、醤油を足す。
 お湯が沸いたので、ガレットの皮を軽く湯がき、水でしめる。
 フォークですくって小皿につけ、なんとなくフーフーして大口を開けた、ところで凝視するオバちゃんたちと、目が合った。
 ギラギラとしたその目に、コンマ一秒は、耐えたと思う。
 俺は、敗北を認め、フォークを小皿に戻し、彼女らに差し出した。
 全員に分けるため、かなり小くされて、俺以外の口に入る。
 くわっと目を見開き、一斉に、俺を睨む。
「これ、なんて料理だい?」
「い、いや、適当につくったから・・・」
 前世(?)の記憶での名前、ザルソバを言うわけにもいかない。
 その後、「エイミー・ヌードル」の名で学園で一大ブームを起こすのだか、今現在、俺の腹は悲しげに鳴っていた。
 
 教師ローザ・ロッテルーノは、「エイミー・ヌードル」を食べるために、忙しく口を動かしながら、呟いた。
「また、エイミー?」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...