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1806年/春

見舞い

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 朝、ローザ先生が、ようやくアリスの意識が戻ったことを授業前に教室で話した。
 授業で彼女が倒れたのは、このクラスも全員が見ていたので、安堵の雰囲気が広がった。
 俺は、なぜだか急に腹が痛くなった。
 手を挙げ、腹が痛いです、と直立不動で言った。
 先生は、三十秒ほど、俺の目を覗き込んだ後、医務室へ行くように、そして隣の席のハンナに付き添うように言った。
 二人で、医務室に行く、とアリスは、ベッドに横になっていたが、目は覚めていた。
「ごめん、アリス」
「どうして謝るの?」
 俺の謝罪に、アリスが質問をした。
「だって、ブロー役をやらせたから」
「それをやると決めたのは私、エイミーは悪くない」
 それはそうかもしれないが。
「でも、もうブロー役はできない」
 だから、どうした!
「だから、どうした? チームだろう?」
「うん、チームだよ、アリス」
 ハンナがアリスの手を握った。
 ずるくないか、ハンナ?
「はーい、はーい」
 俺も手を握ろうとしたら、マーサー先生が、手を叩いた。
「付き添いはそろそろ戻る。仮病でも、ベッドに寝る。こっちの立場考えろ?」
『仮病?』
 ハンナとアリスが、俺を見たので、痛たたたたたた、と俺はウズクマッた。
 
 ハンナが教室に戻った後、俺はマーサー先生に、ベッドに押し込められた。
「ローザ先生の立場も考えてあげなさいよね」
 確かに、仮病とわかった上で、医務室にハンナと共に来させてくれたのだから、感謝だ。
 その俺が、ベッドに寝ていないのが誰かに見られたりしたら、確かにマズイ。
 アリスの隣のベッドに横になり、ポツポツと話を聞いた。
 昔は、難しいコンパイルができて、嬉しかったこと。
 でも、できないと、落胆の目で見られること。
 その落胆の視線は、身体を切り刻むナイフのようで。
 魔法を使おう、という根本的な気持ちが、削げてしまっていったこと。
 授業で一人だけコンパイルできてしまう、と魔法が嫌いになっていったこと。
 チームで練習したら、ちょっとだけ魔法が楽しくなってきたこと。
 リソースに、関係があるのだろうか?
 それとも、単なる気持ちの問題でしかないのだろうか?
「な、アリス」
「なあに?」
「俺、散歩したりして、身体鍛えてるんだ。だからリソースには、自信がある」
 語っていたアリスの目には、涙が浮かんでいた。
「だから、コンパイルが得意なアリスと、リソースが多い俺が組んだら、無敵じゃね?」
「ハンナは?」
 ええええーと、俺、今いいこと言ったよね?
「こ、これにハンナいたら、誰にも負けないだろ?」
「アウグステは?」
 ええええええええ、競技以外まで?
「あいつは、チーム違うから、敵」
 アリスの表情が曇った。
「でも、みんな友達だろ?」
「うん」
 アリスが頷き、手を伸ばしてきた。
 俺も手を伸ばして、握ぎる。
 とても細い指だった。
 競技会は、その教育方針の優劣を比べる学園間の代理戦争だ、とナナメに見ていた。
 でも決めた。
 どんな手を使っても、絶対に勝つ。
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