【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

まみ夜

文字の大きさ
上 下
46 / 90
1806年/春

昼食≪ケーニヒスベルク風肉団子煮≫

しおりを挟む
 俺は、油揚げをオバちゃんたちに奪われた傷を、昼食で癒そうとしていた。
 また、射撃のスペルを改良していたときの違和感を思い出していた。
 二つのスペルを、一つのプロセッサで、連続で使えないのは、どうしてだろう?
 なにか、大きな壁というか誤解、いや勘違いがあるような気がする。
 もし、この壁を乗り越えられたなら、俺のプロセッサの数が少ない、という重大な問題を解決できる可能性があるのかもしれない。
「エイミー、パンばっかり。お料理、冷めちゃうよ」
 ハンナに言われて、機械的にパンを口に運んでいたことに気がついた。
 それだけ、油揚げを取り上げられたのが、傷心だったのだろう。
 かわいそうな、俺。
 今日の昼食のメインは、ケーニヒスベルク風肉団子煮の厚揚げバージョンだ。
 ケーニヒスベルクというのは、この国の地名だ。
 そこの名物料理で、見た目は肉団子のクリーム煮だが、牛乳などは使わず、酸味が利いている。
 漬物扱いのザワークラウトとも合わせて、パンが進む一品だ。
 それのメイン食材である肉団子を使わず、大胆に厚揚げに代えた、という野心作だ。
 ここのオバちゃんたちの腕は良く、メシは美味い。
 それは、俺が適当に教えたレシピをガンガン改良していることからもわかる。
 だが正直、厚揚げと酸味のあるソースが合うとは思えない、というのがパンばかり食べていた無意識の抵抗の表れだろう。
 人はパンのみでは生きるにあらず、なのでしかたなく四角く切られた厚揚げを口に運ぶ。
「なんじゃこりゃ!?」
 立ち上がっての俺の野太い叫びに、ハンナの動きが止まり、注目が集まるが、気にはならない。
 本来の肉団子で食べたときは、ちょっと塩気が強めだったが、肉の旨味が強く、それを酸味のあるソースが爽やかにしていた。
 厚揚げだと、肉団子のように、味つけを混ぜ込めないので、その分がソースへ濃く味がつけられている。
 酸味は、控えめで、より旨味がある。
 そして、塩気と魚のような風味が似ている。
「ちょ、エイミー、行儀悪いよ!」
 立ったまま、ケーニヒスベルク風厚揚げ煮をかき込む俺を、ハンナがたしなめるが、気にならない。
 一息に食べ終え、さすがに皿を舐めるわけにいかないので、パンで拭って食べた。
 無意識で、手を合わせてご馳走様をし、食器を持って、厨房の方へ急ぐ。
 そこには、オバちゃんたちが並んで立って、みんなの食べ具合を眺めていた。
 髪をまとめ、口元を覆い、ほぼ目しか見えないオバちゃんたち。
 俺は、最高礼を示すと、
「非礼を承知の上で教えてください。このソースは、なんですか?」
 中央に立ったオバちゃんが、ついてこい、とするので、後を追う。
 持っていた食器は、別のオバちゃんが、受け取ってくれていた。
 ついていった厨房には、端が崩れた切り身の魚とスパイスらしき数種類が並べられていた。
「この魚は?」
「塩漬けにしたカタクチイワシだよ」
 細かく刻み出す。
「肉団子に、こうやって刻んで入れるんだけど、プディングフライ(オバちゃんたち発明の厚揚げのこと)だと、混ぜ込めない、から・・・」
 塩漬けを刻むオバちゃんの動きが、止まった。
「・・・揚げてないプディングの方を潰して、肉みたいに団子にできる、か?」
 呟くオバちゃん。
 来週あたりに、豆腐ハンバーグが出てきそうだ。
 それはそれで楽しみだが、今はもっと重要な話の最中だ。
「あの?」
「ああ、すまないね」
 小鍋にバターを入れ、
「バターが溶けたら、刻んだショウガと塩漬けを入れる」
 カマドにかけ、
「バターは温度が上がりにくい脂だからそれを利用して、弱火でじっくりと火を通して、生臭さを消す」
 小鍋を傾けながら、木ベラでかき混ぜる。
「スパイスと鶏のスープを加えて、弱火で煮る」
 葉っぱや細長い草、粉、スープが足された。
「このままでもいいのだけど、ケーニヒスベルク風のソースは白く仕上げたいから、布で濾す」
 薄茶色の汁が、とれた。
「うん、上出来」
 スプーンで味見をするオバちゃん。
「ソースは、これをベースに、」
 ギラついた目で俺を見ていたオバちゃんの気持ちが今、理解できた。
 目元で笑って、オバちゃんが、別のスプーンを差し出した。
 俺は汁をすくって、口に入れた。
 比べると塩味は、強い。
 比べると旨味とコクは、薄い。
 比べると香りは、魚だ。
 しかし、似ていた。
「ぷ、プディングは残っていませんか?」
「フライの方なら、あったっけ?」
 その声を受けて、別のオバちゃんが、厚揚げを持ってきてくれた。
 汁をかけて、中の豆腐部分を食べる。
 足りなかった大豆の風味が加わる。
 俺の至福の顔を見て、オバちゃんの目がギラついたので、厚揚げを渡す。
「なんじゃこりゃ?」
 低く、うめくオバちゃん。
 厚揚げと汁が、手渡しされて、うめき声が、厨房に広がっていく。
 深く、ため息をつき、
「このソース、なんて名づけたらいい?
「え? つくったの、みなさんだし」
「いいから、つけな」
 前世(?)の記憶での名前、ダシ醤油を言うわけにもいかない。
「じゃ、じゃあ、ソイ用ソースで」
「たしかに、大豆に合うねえ、気に入った!」
 その後、「ソイ用ソース」の名で学園で一大ブームを起こすのだか、今現在、俺の胸は感動に打ち震えていた。

 教師ローザ・ロッテルーノは、「ソイ用ソース」をかけた「エイミー・プディング」を食べるために、忙しく口を動かしながら、呟いた。
「エイミー、じゃない?」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...