【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

1806年/冬

調理≪エイミー・プディング≫

　校外学習で大豆を手に入れていた俺は、朝食を急いで食べ終えた。
 漬物でもあるザワークラウトが、朝は特に美味い。
　昨日のうちに、オバちゃんにお願いしておいたので、カマドを一つと、いくつか調理器具を貸してもらえることになっている。
　オバちゃんには、実家で母親がつくっていた郷土料理の材料を手に入れたので、懐かしくてつくりたい、と言い訳していた。
　昨日から借りていた鍋で一晩、大豆を水に浸していた。
　これを乳鉢で、すり潰す。
　すり鉢なら、凸凹があるから、もっとやり易いのかな。
　石製だから、溝を掘るのは、難しいか。
　ごりごりごりごり、続ける。
　あれ？
　これを絞ってから、煮るのか？
　煮てから絞るのか？
　煮てからだと、熱いのを絞らないとだから、無理だし、嫌だ。
　麻の袋に移して、鍋に絞る。
　もっと薄めた方がいいのかな？
　とりあえず、火にかけた。
　すっごい泡が出たので、慌ててカマドから外し、落ち着くのを待つ。
　火から遠くして、ゆっくりとかき混ぜながら、温める。
　もう生じゃなくなったかな？
　生だとお腹壊しそうだけど、泡立つのが嫌なので、火から下ろす。
　余熱で大丈夫かな？
　うろ覚えの温度で、岩塩工場からもらってきた、ニガリを入れて、かき混ぜる。
　実は、科学の実験で、豆乳にニガリを入れて固めるのは、経験していた。
　でも、豆からは初めてで、某テレビで見たことがあるだけだ。
　ちょっと、ボロボロな感じになったので、予定を変えて、麻袋に入れてみた。
　ちょっと、水が切れて、まとまったようにも、見える。
　ぼと、っと鍋に出す。
　なんとなく、塊になっていた。
　塩をかけて、スプーンで食べる。
　ちょっと、ボソボソしてるか。
　オリーブオイルをかける。
　おお、こっちの方が美味しい。
　出来栄えとしては落第点だけど、懐かしい味ってことで、俺的には合格だ。
　あ、失敗だ。
　これだと、絞った残りが、生だ。
　煮てから絞るのが、正解なのか？
　もぐもぐ食べながら考えている、ところで凝視するオバちゃんたちと、目が合った。
　ギラギラとしたその目に、一秒は、耐えたと思う。
　俺は、敗北を認め、スプーンを鍋に戻し、彼女らに差し出した。
　全員に分けるため、かなり小くされて、俺以外の口に入る。
　くわっと目を見開き、一斉に、俺を睨む。
「これ、なんて料理だい？」
「い、いや、母親がつくってくれた風邪のときのプディング・・・」
　前世（？）の記憶での名前、豆腐を言うわけにもいかない。
　その後、「エイミー・プディング」の名で学園で一大ブームを起こすのだか、今現在、俺の腹は朝食を食べた後にも係わらず、懐かしい味に飢えて悲しげに鳴っていた。

　教師ローザ・ロッテルーノは、「エイミー・プディング」を食べるために、忙しく口を動かしながら、呟いた。
「また、エイミー？」