上 下
24 / 90
1805年/秋

実験≪ドライアイス≫

しおりを挟む
 見学の記念に、ナンシー先生にもらった鉛弾を布の上に乗せ、眺めていた。
 銃は、弾を無限に用意できるのが、理想だ。
 でも、魔法でも、無から有はつくれない。
 空気の成分を、凍らせてつくり出す?
 氷ならば、空気中の水分を凝縮してつくるより、水筒で水そのものを補給した方が、魔法も使わなくていいし、楽そうだ。
 空気中で一番多いのは、たしか窒素だけど、液体窒素って、めちゃめちゃ低温だったはず。
 それを個体にして、弾にすると、リソース使いすぎて、倒れるだろう。
 酸素とかも、変わらないだろうし。
 二酸化炭素も、ドライアイスになるから、温度低かったはず。
 でも、アイス用に用意されているんだから、実験に使う液体窒素に比べれば、極低温というわけでもない。
 常温で気体な成分を凍らせるのは、どれをとっても低温だろうから、まだマシかもしれない。
 実験してみるか。

 もし、ドライアイスができたら、手では触れないので、電気分解の実験で使った木製のコップに、水を入れる。
 木に、直接触れると、急激な温度変化で、割れてしまうのでは、と思ったからだ。
 スクロールを出して、気がついた。
 二酸化炭素って、この世界の言葉で、なんて書くんだ?
 たしか辞書にも載ってなかったぞ。
 イメージで、行けるか?
 まあ、それも実験か。
 空気に向かって、≪凍れ≫。
 キラキラとしたモノが、パラパラと水に落ちた。
 空気中の水分だよな、きっと。
 もうちょっと、イメージを深める方法はないか?
 二酸化炭素で、CO2だから、酸素が二つに、炭素が一つ、って想像できるか!
 なんか、二酸化炭素が増える状況ないか?
 火が燃えると増える。
 火を燃やして、≪凍れ≫なんて、それでなくても低温にしないといけないのに、ハードル上がってる。
 ため息が出た。
 あ、息だ。
 吐いた息は、二酸化炭素が、増えている。
 それをイメージしてみよう。
 手で、口の周りを覆って、息を出し入れしながら、コンパイル。
 手を開いて、キャスト。
 キラキラとしたモノが、パラパラと水に落ちた。
 さっきとは違い、微妙に泡がたっている。
 何度かキャストを繰り返す、と水は泡だった。
 恐る々々、指を入れてみる、と冷えていて、微妙に刺激がある。
 恐る々々、口をつけてみる、と微かに舌を刺激する。
 炭酸水?
 どうやら、二酸化炭素を凍らせて、ドライアイスにすることは、できたみたいだ。
 でも、これでは弾には、できないなあ。

「やっぱ風呂だよなー」
 湯に乳を浮かべているバカ先輩は放っておいて、俺は急いで髪を洗っていた。
「なあ、それ何?」
「うん、怪しい」
 二人は、俺を見た。
 フタをした木製のコップを持ち込んでいた。
「ちょっと、実験するんで」
 俺は、髪についた石鹸を流した。
 リンスを酸性である炭酸水で代用できないか、と思いついたので、確かめてみようと考えていた。
 髪が滑らかになると分かれば、傷痕を気にしてか風呂に来ないハンナも、固い髪質が改善される、と来てくれるようになるかもしれない。
 本当は、隣で洗っているナレッツ先輩のような長い髪の方が、効果がわかりやすいと思うのだが、先輩を生贄(いやいや)実験台にするわけにもいかない。
 実験、と聞いて先輩二人が、カワイソウな子を見る目で、ヒソヒソと話し合っているのが聞こえる。
 フタをしたコップを開け、ドライアイスを溶かした炭酸水を頭からかぶった。
 ちょっと目にしみる。
「おおおお?」
 髪に、指が引っかかる?
 微妙な効果だ。
 炭酸が弱いからだろうか。
 また、失敗か。
 なんだか、涙がにじんできた。
 ざばーっ!
 俺の顔に、湯が浴びせられた。
「しけた顔してると悪運がくるぞ」
 ニーナ先輩が、桶を手に、ニッカリ笑っていた。
 バカのくせに。
 俺は、素早く桶に水をくむ、とバカ胸にぶっかけた。
「つめたーーー!」
 冷えて、縮めばいい、そんな乳!
「あちーーーー!」
 バカ先輩が、熱い湯をかけてきた。
「あったまれば、育つかもだぞ」
 ナニがだ!?
 茹って、芽を摘む結果になったら、どうしてくれる!?
 そそくさ、と逃げ出すナレッツ先輩。
「逃すかあー!」
 ナレッツ先輩に向けて、湯をぶち撒ける。
「あ、バカ!」
 バカに、バカと呼ばれる筋合いはない!
 俺の湯は、脱衣所を盛大に濡らした。
 バカか、俺は?
「拭くぞ、急げ!」
 先輩らと、慌てて、全裸のまま、床に這いつくばって拭いている、と入浴者が来たので、急いで服を来て、部屋に逃げ帰る。
 でも、ちょっと、スッキリした。

「どうしたの?」
 風呂には来いハンナが、首をかしげているが、説明しづらい。
 はあはあ息を荒げている、とバカ先輩が、ナレッツ先輩と俺に、コップを差し出してきた。
「エイミー・ドリンクだ、汗かいたからな」
 誰のせいだ、と思いながら、口をつけるが、ヌルい。
 手で、口の周りを覆って、息を出し入れしながら、コンパイル。
 手を開いて、キャスト。
 キラキラとしたモノが、パラパラと水に落ちた。
 息が荒くて二酸化炭素が多いせいか、キラキラの量が多い。
「きれい!」
「それ、氷じゃないな?」
 ハンナの反応とは違い、バカ先輩が、ちょっと目を細めている。
 息を溜めて凍らせる、と別のナニかが凍るみたいだ、とだけ説明して、もう一度やって見せる。
 俺の真似をして、口を覆う先輩たち。
 手を開く、と俺より多いキラキラが落ちた。
「ほとんど氷か?」
 呟きながら、コップに口をつけるバカ先輩。
「おお!」
 ふふん!
 初めての微炭酸水に、驚くがいい!
「実家の水みたいだ! 懐かしいな」
 え?
 懐かしい?
 どうやら、バカ先輩の実家そばには、天然の炭酸水が湧く泉があるらしい。
 こっちに、炭酸水、もうあるんだ?
 しかも、天然で?
 全然、知らなかった。
 懐かしい、と喜ぶバカを尻目に、俺は更に落ち込んでいた。

 しかも、おっぱい火傷してた。
 成長止まったら、どうしてくれる?

「やはり、エイミー・ロイエンタールは・・・」
 ニーナ・ウォレスタは、ローザ・ロッテルーノに報告をしていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...