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??ローグ
ルート111:過去?
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俺は、村長宅に泊めてもらった礼に、野良仕事を手伝った。
元々、あまり走り込みはしていなかったが、これでも「元」アスリートの端くれ、俺の労働力は歓迎された。
休憩時間に、この村に着いた「繁み」を超えてみたが、その先は俺が昇ってきた山とは名ばかりの丘とは異なる山道が、続くだけだった。
少しだけ、繁みを抜ければ、日本に戻れるのではないか、とどこかで期待していたのだが、叶わなかった。
村に戻った俺は、村長に、村の手伝いをするので、しばらく置いてもらえないか願い、それは聞き入れられた。
労働力を示しておいたのが、良かったらしい。
無駄になった、と思ったトレーニングの日々も、意外なところで役に立ってくれた。
とはいえ、まだ「盗賊の先遣隊かも」、と疑われていて、俺の側には、常にナイフを隠し持った村長一家の誰かしらがいた、と後で聞いた時には、笑い話だったが、笑えなかった。
俺は、とりあえず小さな空き家、というか空き倉庫を与えられた。
ワラにシーツをかけたベッドで、かなりのスペースが埋まってしまったため、側で火を使うわけにもいかず、食事は村長宅で、その夜もご馳走になった。
いや、一応は、野良仕事の報酬なので、遠慮せずに食べろ、ということらしい。
まあ、片言の英語でしか言葉が通じていないので、勝手な解釈をしているのかもしれないが。
村長一家は、村長のパウル・ロイエンタール、奥さんのヒルダに子供が三人。
二十歳くらいの長男フリッツ、十五くらいの長女エイミー、小学生くらいの次男カールだ。
夕食の後は、フリッツが小屋まで送ってくれ、狼が入らないようにドアを開けっぱなしにしないように、と注意して、ベルを手渡してきた。
狼が来たら、「鳴らせ」ということらしい。
怖くなった俺は、ドアを固く閉めて眠った。
幸い、狼は来ず、朝になった。
ドアを開ける、とつけられていたベルが鳴った。
どうやら、狼が来て開けよう、としたら鳴るように、フリッツが仕掛けてくれたようだ。
とこのときは好意的に思ったが、もちろん「盗賊の先遣隊かも」、と疑われていたせいだ。
朝食の後、野良仕事を手伝おう、としたら、今日は休日らしい。
俺は、男衆の集まりに連れていかれたが、言葉が分からなくて、退屈してしまい、外へ出た。
そして、借りっぱなしだった聖典「魔法の教科書」を読んでみることにした。
内容は日本語で書かれた「魔法の教科書」だった。
とはいえ、想像していた、呪文を唱えて、というのではなく、なんというか工学的だった。
アーチェリーで入社した会社だったが、社員教育で、パソコン関係も教えられていた。
そこで習ったマシン語に雰囲気が似ていた。
人が理解できる言葉で、プログラムを書き、それをパソコンが理解できるマシン語に変換する。
そして、プログラムが実行される。
この魔法は、人の言葉を「世界?」が理解できる言葉に変換して、「世界?」をプログラム通りに従わせる、という感じだ。
ただ、概念上のスクロールにスペルを書くとか、それをプロセッサにコンパイルするとか、実物がないのに、どうやって?なのだ。
まあ、この本自体が、俺みたいに日本から流れ着いた単なるトンデモ本なのかもしれない。
そういえば、中学卒業のときに埋めたタイムカプセルって、掘り出すのはいつだったっけ?
あれも、遥か未来で発掘されたら、歴史を覆す新事実になってしまったりするのだろうか?
そんなことを考えながら、地面に木の枝で「火」と書いた。
トレーディングカードゲームのアニメだったら、こういう二次元が三次元になって。
ふわっ、と「火」が浮き上がり、光るSDカードのような形になった。
思わず、手を伸ばしたら逃げるように、それは視えないカードスロットに吸い込まれるように消えた。
そして、蝋燭程度の「火」が、一瞬だけ燃え上がった。
フラグ:『魔法発動』
元々、あまり走り込みはしていなかったが、これでも「元」アスリートの端くれ、俺の労働力は歓迎された。
休憩時間に、この村に着いた「繁み」を超えてみたが、その先は俺が昇ってきた山とは名ばかりの丘とは異なる山道が、続くだけだった。
少しだけ、繁みを抜ければ、日本に戻れるのではないか、とどこかで期待していたのだが、叶わなかった。
村に戻った俺は、村長に、村の手伝いをするので、しばらく置いてもらえないか願い、それは聞き入れられた。
労働力を示しておいたのが、良かったらしい。
無駄になった、と思ったトレーニングの日々も、意外なところで役に立ってくれた。
とはいえ、まだ「盗賊の先遣隊かも」、と疑われていて、俺の側には、常にナイフを隠し持った村長一家の誰かしらがいた、と後で聞いた時には、笑い話だったが、笑えなかった。
俺は、とりあえず小さな空き家、というか空き倉庫を与えられた。
ワラにシーツをかけたベッドで、かなりのスペースが埋まってしまったため、側で火を使うわけにもいかず、食事は村長宅で、その夜もご馳走になった。
いや、一応は、野良仕事の報酬なので、遠慮せずに食べろ、ということらしい。
まあ、片言の英語でしか言葉が通じていないので、勝手な解釈をしているのかもしれないが。
村長一家は、村長のパウル・ロイエンタール、奥さんのヒルダに子供が三人。
二十歳くらいの長男フリッツ、十五くらいの長女エイミー、小学生くらいの次男カールだ。
夕食の後は、フリッツが小屋まで送ってくれ、狼が入らないようにドアを開けっぱなしにしないように、と注意して、ベルを手渡してきた。
狼が来たら、「鳴らせ」ということらしい。
怖くなった俺は、ドアを固く閉めて眠った。
幸い、狼は来ず、朝になった。
ドアを開ける、とつけられていたベルが鳴った。
どうやら、狼が来て開けよう、としたら鳴るように、フリッツが仕掛けてくれたようだ。
とこのときは好意的に思ったが、もちろん「盗賊の先遣隊かも」、と疑われていたせいだ。
朝食の後、野良仕事を手伝おう、としたら、今日は休日らしい。
俺は、男衆の集まりに連れていかれたが、言葉が分からなくて、退屈してしまい、外へ出た。
そして、借りっぱなしだった聖典「魔法の教科書」を読んでみることにした。
内容は日本語で書かれた「魔法の教科書」だった。
とはいえ、想像していた、呪文を唱えて、というのではなく、なんというか工学的だった。
アーチェリーで入社した会社だったが、社員教育で、パソコン関係も教えられていた。
そこで習ったマシン語に雰囲気が似ていた。
人が理解できる言葉で、プログラムを書き、それをパソコンが理解できるマシン語に変換する。
そして、プログラムが実行される。
この魔法は、人の言葉を「世界?」が理解できる言葉に変換して、「世界?」をプログラム通りに従わせる、という感じだ。
ただ、概念上のスクロールにスペルを書くとか、それをプロセッサにコンパイルするとか、実物がないのに、どうやって?なのだ。
まあ、この本自体が、俺みたいに日本から流れ着いた単なるトンデモ本なのかもしれない。
そういえば、中学卒業のときに埋めたタイムカプセルって、掘り出すのはいつだったっけ?
あれも、遥か未来で発掘されたら、歴史を覆す新事実になってしまったりするのだろうか?
そんなことを考えながら、地面に木の枝で「火」と書いた。
トレーディングカードゲームのアニメだったら、こういう二次元が三次元になって。
ふわっ、と「火」が浮き上がり、光るSDカードのような形になった。
思わず、手を伸ばしたら逃げるように、それは視えないカードスロットに吸い込まれるように消えた。
そして、蝋燭程度の「火」が、一瞬だけ燃え上がった。
フラグ:『魔法発動』
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