高嶺のsub様の大いなる勘違い〜その人はdomじゃありません〜

もかりん

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6. 高嶺のsub様は反省しました

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春人とカラオケボックスを出た後、春人はバイトがあると言うので、その場で別れた。

ずっとずっと触れたくてたまらなかったあの手に頭を撫でてもらえた!もっと仲良くなりたいって言ってもらえた!!嬉しすぎて興奮が止まらない…

帰り際、もらった連絡先にさっそくメッセージを送ろうとスマホを取り出した時、ちょうど着信がかかってきた。

「なんだ…一平か…」

「なんだとはなんだ…この恩知らずが…」

どうやら今回の奇跡の出会いは一平が画策してくれたものらしい。
自然な出会いを演出したのに、ぶち壊した僕を怒っているようだ…僕としては何が悪かったのかよくわからないが、出会いを作ってくれた事には感謝しかないので、お礼に近くのカフェに誘った。

「わかった…すぐ行く。いいか、俺が行くまで絶対にあいつにメッセージ送るなよ!」

なんなんだ…一体?
まぁ一平がそういうなら、メッセージを送るのは後にしよう。僕も待ち合わせのカフェに向かった。


***

カフェで一平に何があったか聞かれたので、カラオケボックスに行き、ずっと頭を撫でてもらっていたことや名前呼びを許してもらったこと、春人が自分をneutralだと思っていること、パートナーにはなれなかったが、友人として連絡先を交換した事など詳しく話した。
そして、その後、ご主人様の素晴らしさを延々と力説していたら、一平に「もういい」と遮られた。

「そうか…ひとまず、仲良くなれそうでよかったな!おめでとう」

「ああ~一平のおかげだ~ありがとうございます~♪」

興奮して抱き付こうとしたら頭にチョップが飛んできた。
なんでだ…

「いいか!理人、落ち着け!お前の目は、今ものすごーく曇っている!このままのテンションで進むと大惨事になりかねない…冷静になるんだ」

「ん?」

「あいつはneutralだ。お前がどう思おうと少なくとも本人はそう確信している。そんな奴に向かって、お前は僕のご主人様になってくれと頼んだんだ…
うーん…例えば…そうだな…俺がお前にご主人様になってくれって頼んだらどうする?」

「気持ち悪い。断る」

「いや…例えばだよ…蹴るな!
な?気持ち悪いだろ?お前が岬にしたのはそう言う事だ。お前の願いを突っぱねず、頭を撫でてくれたのも、仲良くなりたいと言ってくれたのも、あいつがいい奴だからだ」

「むむ…」

「そういう意味では、お前は見る目があったとも言えるが、あいつにはdom性がない。お前を支配したい欲求も高揚感も感じでいないはずだ。お前がsubっぽさ全開で近づいていけば、引かれちまうぞ!」

「そうか…じゃあどうすればいいんだ?」

「一旦、お前の感じたグレアの事は置いておいて、その賢い頭で、岬が何を思っているのか冷静に考えてみろ…そうだな…紙に書き出してみるといい。その上で自分がどうしたいか、どうすべきか、よく考えてからメッセージを送れ。いいな?」

俺はしっかり頷き、わかったと返事をして、家に帰った。

机に向かって、neutralがsubにご主人様になってくれと言われて、どんな気持ちになるかを書いてみた。

どう考えても戸惑いと混乱と嫌悪だ。

次にneutralのところに春人の名前を、subのところに自分の名前を入れてみた。

俺にご主人様になって欲しいと言われて春人は混乱している?
うぅ…胸が痛い。
俺はご主人様を困らせているのか…
どうか嫌わないで欲しい…

でも、どうすればいい?
この焦がれる気持ちをどうしたらいいんだ…

まずは、友達になろうとしてくれた事に感謝を伝えよう。

僕はメッセージを書いては消して書いては消して、ようやく文章ができたときには、気づけば夜遅くになっていた。

おかしなところがないか、何度も読み返す。

『こんばんは^_^
今日は、僕の変なお願いに付き合ってくれてありがとう。
neutralの春人は、僕にご主人様と言われてきっと戸惑った事だろう。君の気持ちも考えず突っ走った事を反省している。
初めて会った時から、春人の事が忘れられなくて、ようやく話せて、つい浮かれてしまった。

そんな僕に付き合って、頭を撫でてくれて春人は本当に優しい人だね。

僕はずっと僕を幸せにしてくれる人を探していた。そして、それが君だと確信している。
現に春人がそばにいてくれるだけで、僕は幸せなんだ。ぐずぐずに蕩けてしまうくらいに…

だからどうか僕を嫌いにならないで欲しい…』

***
~春人視点~

バイトが終わって帰宅してからコンビニ弁当を食べながらテレビを見るも、そわそわと落ち着かなくて何度もスマホを見てしまう。
いっそ自分からメッセージを送ってしまおうかとも思ったが、もし理人が冷静に戻って、もう俺は必要ないと突っぱねられたらと思うと怖くて、理人の出方を待ってしまった…

結局、理人からメッセージが来たのは夜遅くなってからだった。
そこには、一緒にいた時の高いテンションではなく、落ち着いた文章があった。

先ほどのお礼と俺への気遣い、そして理人がいかにdomを求めているかを窺わせる文章があった。

“僕を幸せにしてくれる人”

俺を気遣って敢えてdomという言葉を避けたのだろうが、“自分を支配してくれるdom”と書きたかったのだろうと言う事は痛いほど伝わってくる…

俺の気持ちと理人の気持ちは違う…理人は俺にご主人様になる事を求めている。でも、俺のこれは恋愛感情だ。理人にそれをぶつけて、理人に求めてしまえば理人は拒絶するだろう…

そう思うと、これ以上ご主人様のような顔をして、関係を続けることに申し訳なさが募ったが、最後の“僕を嫌いにならないで”の言葉に覚悟が決まった気がした。

嫌いになんてなれるはずない。でもこのまま、彼を遠ざけて自分を守れば、彼は俺に嫌われたと思って傷付くのだろう…彼を傷つけたくない。たとえいつか理人の方から離れて行ったとしても、その時傷つくのは俺だけだ。それでいいじゃないか…理人を傷付けるくらいなら、自分が傷付けばいい。

そう覚悟を決めて返信をした。

『こちらこそ、今日は一緒にいて楽しかった。ありがとう。
これからもっと理人と仲良くなりたいと俺も思ってる。

ただ、俺はneutralだから、多分理人の望む通りにグレアを上げたりはできないと思う。

それでも構わないのであればこれからもよろしく。』

短い文章だけど、迷った結果これだけ送る事にした。

俺の気持ちを吐露しても戸惑わせるだけだ…

***

〈理人視点〉

送ってしまった…どうしよう…既読はすぐ付いた。

どんな返事が来るだろう…長文を送ったのだから、すぐに返事は来ないと分かっていても、スマホを握りしめて返事を待ってしまう…

居ても立っても居られないので、シャワーを浴びる事にした。
さっき、春人に撫でてもらった髪を洗うのはもの凄く嫌だったが、また撫でてもらえると自分に言い聞かせて、何とかシャンプーをする事ができた。

シャワーを済ませて、体と髪を拭き、着替えてスマホを見ると、返信が来ていた。

春人の返信を読んで、僕はホッと息をついた。

春人はまだ自分がdomだとは受け入れられないみたいだけど、それでも僕に合わせて関係を続けてくれようとしているみたいだった。よかった…嫌われていないみたいだ…

僕はすぐに返信をし、その夜はメッセージを何度かやりとりした。

同じ時間にお互いの事を考えて言葉を紡ぐ行為が一緒にいなくても繋がっている感じがして、堪らなく嬉しい。

春人はdomのように上手くできないことを気にしてるみたいだったから、ごっこで良いからとプレイを提案してみた。一度ちゃんとプレイすれば、春人にも僕が満足してる事が伝わるはずだ…

バイトがない日に学校帰りに会う約束を取り付けて、僕はスマホを閉じた。

こんな幸せな日が来るなんて、嬉しくて眠れないかもしれない…


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