3 / 9
第二話 贄人
しおりを挟む
「贄人。それが紅音ちゃんの選ばれたものだっていうのはさっき言ったよな。吸血鬼に差し出すって話も。」
紅音は軽く頷く。まだまだ混乱しているものの、扉が開けられない以上、逃げる事はできない。
そう考えてふと思い出す。
窓は試してない。試してみようか。
「なんか考えてそうだけど、逃げる算段とか立ててるなら無駄だからな?扉はもちろん、窓も開けれないし、俺も他の二人も武道はそれなりに学んでるから力勝負しかけてもおまえが負けるし」
「……別に、逃げようとは思ってませんよ。それで話の続きは?」
少し顔をしかめながらさらりと嘘をつく。今はあまり警戒されない方が良いだろうと思ってのことだ。けれど峰川はそれが本当だろうが嘘だろうがどうでも良さそうに、続きを話す。
「俺たちが暮らしているこことは別に、吸血鬼たちが暮らす場所があるんだ」
「別……?異世界的なことですか?」
「まぁそうだな。そこ突き詰めると魔法が、とかなんかいろいろ出てくるし、異世界の定義とは。ってとこにいくけど、重要なのはそこじゃないし、とりあえず吸血鬼たちが暮らす異世界があるって思っておいてくれれば良い。それで吸血鬼。吸血鬼は紅音ちゃんが思い浮かべるのとそんなには違わないはずだ」
夜の世界でしか生きられない、血を吸う妖怪。そう思えば良いのだろう。あとはニンニクや十字架が弱点っていうのは一般的だけど……
「細かく言えば違うところもあるが、そこは置いとくとして。紅音ちゃんのことを渡すことになる吸血鬼は、王族の姫君だ」
「そこですよ。渡すってなんなんですか?私、物じゃないんですけど?」
一度は多少なりとも和らいだ恐怖や怒りがまたふつふつと湧き上がる。
「吸血鬼がいるとかそういうのはとりあえずいいです。その辺は本当のことだとしましょう。でも、なんなんですか?渡すって。人権はどこに消えたんですか?冗談でも笑えないんですけど?」
人と話したりするのは得意ではない紅音だが、今はそれどころじゃない。峰川たちに対し、まくしたてる。
「落ち着けないだろうけど落ち着けって。後で不平不満は聞くから今は俺の話を聞いとけ。それとも何も分かんないまま姫君と会うのか?」
「…………姫君って?」
怒りも恐怖も収まらなく、苦々しい気持ちのまま聞き返す。
「向こうの世界もこっちの世界と同じようにいくつかの国に分かれていて、身分制度がある。紅音ちゃんを渡すのは、向こうの世界での日本にあたる国の、第二王女だ」
「日本にあたる国?」
「文化とかが似ている国ってことだ。俺たちが吸血鬼って呼んでるのは、妖怪のなれの果てっつったら言い方は悪いが、そういうものでな。化学の発展やらなんやらで妖怪の力が弱ってる、とか、見えなくなった、とか、そういうの小説とかで見たことないか?実際にそうなっててな。全体的に力が弱っていって、力を得る方法としてたどり着いたのが人間の血を飲むことだったみたいだ。身分が高い奴らは生粋の吸血鬼だって言われてるけど」
「向こうで日本にあたる国に住んでる吸血鬼は、元々は日本発祥の妖怪だから国の文化とかが似てるってことが言いたいんですか?」
「飲み込みが早いな。そういうことだ」
でもそれはつまり……
「吸血鬼は元々こっちの世界にいた妖怪ってことですか?じゃあなんで別の世界に?」
「それは姫君にでも聞いてみろ。今知っておいた方が良いような重要な話じゃないしな」
私からしてみれば重要な話なんだけど。そう紅音が思うも、峰川は他のことを話しだす。
「あとは何で紅音ちゃんが選ばれたかだ」
「!」
それは紅音が一番知りたいことだ。一応普通に生きてきたのに、なんで突然吸血鬼に引き渡されなければならないのか。もちろん、それが本当の話なのなら、だが。
「紅音ちゃんは選ばれたんだ。姫君に。最初に相性が良い、っていう条件でこっちと、向こうの選ぶ役職についてる吸血鬼とで候補者をある程度選んで、その中から吸血鬼自身に選んでもらう。それで姫君が紅音ちゃんが良いって言ったんだよ」
「姫君、に、私が選ばれた?なんで?それに相性が良いってどういうこと?」
「さあな。相性がなんで良いのかも、姫君が紅音ちゃんのこと選んだ理由も、俺は知らない。気になるなら姫君が選んだ理由の方は本人に聞いてみたらどうだ?」
それっきり会話はなくなる。峰川は無表情で、天崎は暗い表情をしながら黙っている。それを横目に、紅音は何故自分が選ばれたのかを考えるも、分かるわけがない。峰川たちが言っていることは、あまりにも現実味に欠けていて、にわかには信じられることではない。同時に、作り話だとも思えない。これは本当の話なのか、本当だとして何故自分が選ばれたのか。逃げようと試みることなど頭から消えて、静かな車内の中、身動きもせずに考えていた。
「着いた」
峰川が発したその声で我にかえる。
「ついた、って……。それは、」
どこに?
今までの話が本当だとするなら、それはきっと吸血鬼がいるところ。
ありえない
そう呟くも、怖い気持ちは収まらない。心臓の動きもどんどん早くなっていく。
ふと、車内がわずかに明るくなったのに気がつく。光が差す方向を見ると、天崎がそっとカーテンを開けている。見えるようになった窓の向こう、そこには巨大な洋館があった。
紅音は軽く頷く。まだまだ混乱しているものの、扉が開けられない以上、逃げる事はできない。
そう考えてふと思い出す。
窓は試してない。試してみようか。
「なんか考えてそうだけど、逃げる算段とか立ててるなら無駄だからな?扉はもちろん、窓も開けれないし、俺も他の二人も武道はそれなりに学んでるから力勝負しかけてもおまえが負けるし」
「……別に、逃げようとは思ってませんよ。それで話の続きは?」
少し顔をしかめながらさらりと嘘をつく。今はあまり警戒されない方が良いだろうと思ってのことだ。けれど峰川はそれが本当だろうが嘘だろうがどうでも良さそうに、続きを話す。
「俺たちが暮らしているこことは別に、吸血鬼たちが暮らす場所があるんだ」
「別……?異世界的なことですか?」
「まぁそうだな。そこ突き詰めると魔法が、とかなんかいろいろ出てくるし、異世界の定義とは。ってとこにいくけど、重要なのはそこじゃないし、とりあえず吸血鬼たちが暮らす異世界があるって思っておいてくれれば良い。それで吸血鬼。吸血鬼は紅音ちゃんが思い浮かべるのとそんなには違わないはずだ」
夜の世界でしか生きられない、血を吸う妖怪。そう思えば良いのだろう。あとはニンニクや十字架が弱点っていうのは一般的だけど……
「細かく言えば違うところもあるが、そこは置いとくとして。紅音ちゃんのことを渡すことになる吸血鬼は、王族の姫君だ」
「そこですよ。渡すってなんなんですか?私、物じゃないんですけど?」
一度は多少なりとも和らいだ恐怖や怒りがまたふつふつと湧き上がる。
「吸血鬼がいるとかそういうのはとりあえずいいです。その辺は本当のことだとしましょう。でも、なんなんですか?渡すって。人権はどこに消えたんですか?冗談でも笑えないんですけど?」
人と話したりするのは得意ではない紅音だが、今はそれどころじゃない。峰川たちに対し、まくしたてる。
「落ち着けないだろうけど落ち着けって。後で不平不満は聞くから今は俺の話を聞いとけ。それとも何も分かんないまま姫君と会うのか?」
「…………姫君って?」
怒りも恐怖も収まらなく、苦々しい気持ちのまま聞き返す。
「向こうの世界もこっちの世界と同じようにいくつかの国に分かれていて、身分制度がある。紅音ちゃんを渡すのは、向こうの世界での日本にあたる国の、第二王女だ」
「日本にあたる国?」
「文化とかが似ている国ってことだ。俺たちが吸血鬼って呼んでるのは、妖怪のなれの果てっつったら言い方は悪いが、そういうものでな。化学の発展やらなんやらで妖怪の力が弱ってる、とか、見えなくなった、とか、そういうの小説とかで見たことないか?実際にそうなっててな。全体的に力が弱っていって、力を得る方法としてたどり着いたのが人間の血を飲むことだったみたいだ。身分が高い奴らは生粋の吸血鬼だって言われてるけど」
「向こうで日本にあたる国に住んでる吸血鬼は、元々は日本発祥の妖怪だから国の文化とかが似てるってことが言いたいんですか?」
「飲み込みが早いな。そういうことだ」
でもそれはつまり……
「吸血鬼は元々こっちの世界にいた妖怪ってことですか?じゃあなんで別の世界に?」
「それは姫君にでも聞いてみろ。今知っておいた方が良いような重要な話じゃないしな」
私からしてみれば重要な話なんだけど。そう紅音が思うも、峰川は他のことを話しだす。
「あとは何で紅音ちゃんが選ばれたかだ」
「!」
それは紅音が一番知りたいことだ。一応普通に生きてきたのに、なんで突然吸血鬼に引き渡されなければならないのか。もちろん、それが本当の話なのなら、だが。
「紅音ちゃんは選ばれたんだ。姫君に。最初に相性が良い、っていう条件でこっちと、向こうの選ぶ役職についてる吸血鬼とで候補者をある程度選んで、その中から吸血鬼自身に選んでもらう。それで姫君が紅音ちゃんが良いって言ったんだよ」
「姫君、に、私が選ばれた?なんで?それに相性が良いってどういうこと?」
「さあな。相性がなんで良いのかも、姫君が紅音ちゃんのこと選んだ理由も、俺は知らない。気になるなら姫君が選んだ理由の方は本人に聞いてみたらどうだ?」
それっきり会話はなくなる。峰川は無表情で、天崎は暗い表情をしながら黙っている。それを横目に、紅音は何故自分が選ばれたのかを考えるも、分かるわけがない。峰川たちが言っていることは、あまりにも現実味に欠けていて、にわかには信じられることではない。同時に、作り話だとも思えない。これは本当の話なのか、本当だとして何故自分が選ばれたのか。逃げようと試みることなど頭から消えて、静かな車内の中、身動きもせずに考えていた。
「着いた」
峰川が発したその声で我にかえる。
「ついた、って……。それは、」
どこに?
今までの話が本当だとするなら、それはきっと吸血鬼がいるところ。
ありえない
そう呟くも、怖い気持ちは収まらない。心臓の動きもどんどん早くなっていく。
ふと、車内がわずかに明るくなったのに気がつく。光が差す方向を見ると、天崎がそっとカーテンを開けている。見えるようになった窓の向こう、そこには巨大な洋館があった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~
白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。
最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。
しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。
競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。
それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。
あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……?
※他サイトでも掲載中です。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
邪神の使徒
瀬方
ファンタジー
神が存在するとされる世界
一部の人が聖具と呼ばれるアイテムを持ち国々の力関係にも影響を及ぼす。
力を持つ3国の一つスケア帝国にいる聖具持ちの1人アレスは、聖具の力を危険視した軍に軟禁され軍のために使われていた。
軍や国に恨みを持つアレスに目を付けた邪神は、アレスにさらなる力を与える。
カオスの遺子
浜口耕平
ファンタジー
魔神カオスが生みだした魔物と人間が長い間争っている世界で白髪の少年ロードは義兄のリードと共に人里離れた廃村で仲良く幸せに暮らしていた。
だが、ロードが森で出会った友人と游んでいると、魔物に友人が殺されてしまった。
ロードは襲いかかる魔物との死闘でなんとか魔物を倒すことができた。
しかし、友人の死体を前に、友人を守れなかったことに後悔していると、そこにリードが現れ、魔物から人々を守る組織・魔法軍について聞かされたロードは、人々を魔物の脅威から守るため、入隊試験を受けるためリードと共に王都へと向かう。
兵士となったロードは人々を魔物の脅威から守れるのか?
これは、ロードが仲間と共に世界を守る物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる