転生の行く末

かじ たかし

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試練その弐

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 カーテンを開けるとすっかり太陽は沈み、今度は交代で月が主役となっている。名古屋からの帰り道は自然渋滞は多少あったが、スムーズに車を走らせる事が出来た。車の動きとは逆に自分に今から起こる出来事についての解決策は大渋滞した。結局良案も浮かばず3時間程で事務所に到着し、急いで帰路につきシャワーを浴びた。汗は掻いていなかったが、回らない頭をリセットしたくて冷たい水で体を流したかった。シャワーから出て帰ってきた旨を達也に連絡する為携帯を取り出す。ワンコールで達也は電話に出た。
「おう。帰ってきたのか?」暇を持て余し携帯でも触っていたのだろう、待ってましたと言わんばかりの声で出た。
「思ったより早かったよ。何時からにする?」
「俺等はいつでもいけるぜ。じゃあもう今から家出るから店で待ち合わせな」こっちの都合も全く聞かずに電話を切られた。いつもなら何も思わない事でも、この先の出来事を粗方知っているであろう状況下では全然変わってくる。悠は苛々するとゆうよりももっと考える時間が欲しかった。
夢の中で服装がどうのこうのと言われた話を思い出し、ヨレヨレのTシャツに無地のコットンシャツを引っ掛けるだけでは同じように突っ込まれる可能性がある。少しでも夢の内容とすり替えたくて、クローゼットを開けて中をひっくり返すように全部床にぶちまけた。といってもほんの数枚しかない。中からダメージの入ったジーンズを見つける。自分が高校生の時に履いていた物だ。それに同じ色をしたデニム地のシャツも見つけると、このセットでいこうと迷わず他の服はまた元通りしまう。

 決して都会とは言えないながらも悠にとっては栄えた街並である。悠の地元の駅前には飲食店がこれでもかと看板を出している。人口に対しての割合は合わない程で激戦区でもあった。その中に最近オープンしたのだろうか、人や会社の名前のプレートを添えた花束が入り口を彩る。「ふしちょう」達筆な文字の看板が立てかけられている。木造で古風な佇まいで、看板の文字もネオン等は使用していない。これなら花束が無くなれば周りの店は煌々としているのに誰も入らなくなるのでは。と経営者でもないのに悠はそんな事をふと思う。それに名前もどこか引っ掛かかる。
「おい遅ぇよ。お前にしては珍しく家から時間かかったな」看板に気を取られ気がつかなかったが、その横にいたらしい達也がよく通る声をあげた。
「悪い悪い。気づかなかったよ」周りを気にしてそそくさと近寄っていく。
「もう腹減ったし、喉もカラカラだ。早く入ろうぜ」言いながら達也は悠の全身に目を走らせ、美穂の顔を見て首を傾げた。
「どうかしたか?」見られている事に戸惑いを感じつい尋ねてしまう。
「別になんもないよ。久しぶりだし、今夜は楽しもう」美穂が愛想笑いを浮かべ言った。その横で達也は可笑しそうな笑みを浮かべていた。

 甘く香ばしい匂いが充満している。オープンして間もないのもあってか、店内は活気づいている。平日だとゆうのに、長兵衛の土日よりも断然あたふたしている。カウンターも一枚板で15メートルくらいはあるだろうか、10脚椅子が並んでおり隣同士がストレスなく座れる余裕がある。座敷には6卓テーブルが備え付けられており、テーブルの中央には網が敷かれているようだ。皆で囲って焼き鳥を突くのか、自分には縁のない事に思え寂しくなる。予約プレートが置かれた卓が4卓あり、その他は完全に埋まっていた。
3人だと店員に告げるとカウンターに案内される。丸椅子ではなく、長い背凭れのついた長居出来る椅子に安堵する。カウンターの前にはカウンターの長さとほぼ同じ長さの網が張られていて、目の前で焼いてくれるシステムのようだ。カウンターの一番奥に悠は陣取り、その左に達也、美穂と続いた。
一先ずビールを3つ注文しグラスを重ねた。どうやら達也達は昼間から何も口にしていないらしく、メニュー表に釘付けになっている。
「取り敢えず、焼き鳥盛り合わせを3つと焼き鳥丼を1つ。あっ。悠もいるか?」店員すら来ていないのに注文した気になっている。
俺はやめとておくよと手を横に振る。ごちゃごちゃとやり取りをしているのが目に入ったのか、店員がこっちに向かってくる。
ふと見るとアスカだった。今回は予想していたので戸惑う事はなかったが、やはり今からあの夢が正夢に変わると思うとぞっとした。
アスカ自身もこっちを見て少し考えている表情を示している。勿論声は掛けてはこない。
昨日会ったのは会ったが会話とゆう会話もなく、どちらかと言えば挙動不審な人物のイメージしかないだろう。まさかこんな男が自分を救ってくれていたとは思いもしないはすだ。

 達也が適当に頼んだ料理を粗方食べ尽くし、ビールは腹が膨れるから嫌だと日本酒に切り替えていた。日本酒は飲みやすいが次の日に酒が残ってしまうので、悠は控えめにちびちびと呑んでいた。達也と美穂は次の日の事等頭にないのだろう、冷で何十杯と御猪口を空けていた。
呂律の回らない口調で美穂は言う。
「悠くんどうせ今日は少しお洒落でもしようと、家に出る前に服を引っ張り出してきたんでしょ」
「お前がシャツを羽織るの珍しいもんな」顔をニヤつかせながら達也が乗っかってくる。
「まあたまにはな」図星だった為、顔を赤らめた悠は返事に困る。
「悠くん顔はイケメンなのに、服装で損しちゃてるよ」美穂は焦点の合わない目でこっちを見て続ける。
「車もいいけど女はもっと身なりに気を遣って欲しいもんだよ」同意を求めるよう達也の方を向く。
達也も焦点の合わぬ目でうんうんと相槌を打っている。
あまりにも自分が見られているので、悠も自分の服装と達也の服装を交互に見遣る。特に気になる点はない。2人の遣り取りを見る限りでは、遠回しに自分がダサいと言ってるようにしか聞こえない。途端に恥ずかしくなった。そうと決まった訳ではない。
「俺だって服には気を遣ってるよ。今日は美穂ちゃんが来るから滅多に着ないシャツだから変な感じなんだろ?」ここは自信を持って堂々としていようと嘘をついた。
「違う違う。それ何時のシャツとパンツなのって感じがバレバレなんだけど」既に酔いきっているのだろう、普段ならそんな言葉を発する事はない。隣の達也は今まで笑いを堪えていたようで、机を叩きながら笑いこけている。ここまで言われてしまえばもう返す言葉も出ない。ふと周りを見るとアスカまで笑っているようにまで見えてくる。
夢で見た話を塗り替えようとムキになった事が仇となるとは。もう既にどうでもよくなりかけていた。たが実際にはこんな他愛のない話を凌ぐ事が目的ではない。もっと困難な事態が今から起こりうるのだ。その事を忘れてはならないと腹の底から沸き起こる憤りをグッと堪えた。トイレに行って忘れようと席を立つ。2人は額を机に預け寝入っていた。
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