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令嬢探偵、相談する(3)
しおりを挟むその後特に話を聞けそうな人と出会うこともなく、目的地へ到着した。
質素な家の扉を叩くと、疲れた顔の女性が顔を出した。
「突然すみません。一年前までデマール家の屋敷でメイドをしていた、ダイアナさん、で間違いありませんか?」
「え、ええ……。そうですけど」
「一週間前、マルガリータ・デマールさんが何者かに殺害されたのはご存じですか?できたらお話しを聞きたいのですが」
ダイアナの目に、怯えた色が浮かんだ。顔も青ざめている。さすがにいきなり本題はまずかったか。シエラは一度深呼吸をして、自己紹介をし直した。
「……わかりました。狭い家ですがどうぞお入りください」
さすがに伯爵令嬢を追い返すことはできないと思ったのか、ダイアナは小刻みに震えながらもシエラを中に招き入れてくれた。
彼女の震えがシエラに対する緊張なのか、はたまたマルガリータの殺害に関わっているからなのかはまだわからない。
「このレースはダイアナさんが?」
ダイアナの緊張を解こうと、シエラは部屋の中に置かれていた作りかけのレースに目を向けて尋ねた。
「はい。……男爵家での仕事をクビになってからも、どうにかこれを作って生活しています」
「美しいわ。高い技術をお持ちなのですね。デマール領のレース製品は貴族の間でも人気ですから」
「そうらしいですね。でも、職人であるわたしたちへの報酬は安いものです。その上、税も上がる一方で……」
この領地での税の取り立ては、日に日に厳しくなっているのだという。
税率は一年ほどで急に上がった。さすがにおかしいと抗議した者もあるそうだが、その勇気ある人は見せしめに拷問されたらしい。
この辺りの人々の異様な雰囲気の正体がわかった気がした。
男爵家からいいように搾取され、暴力に怯え、日々を暮らしているのだ。
しかし同時に疑問も浮かぶ。民からそれだけの金を取りあげていれば、ずいぶんと贅沢な暮らしをしていそうなものだが、デマール男爵家は安物の茶葉しか買えないほど財政難に苦しんでいるはずだった。
いったい、金はどこに流れているのだろう。
「マルガリータ様が亡くなったことについての話、でしたね」
ダイアナは先ほどよりいくらか落ち着いた様子で話しだした。
「そのことについては聞いています。かなり噂になっていました。でも詳しいことまでは知らないです。確かにわたしはデマール男爵家で働いていましたけど、辞めてからは一度も男爵家の人たちに会っていませんから」
「そうですか。……あの、ちなみにダイアナさんは、マルガリータさんが殺害された日、どこで何をしていましたか?」
「……この家で、仕事をしていたと思います。夫はもういませんし、子どもは幼いですから証明する人はいませんが」
男爵が疑っていたよう、元使用人のダイアナは確かに疑わしい。だが、今の男爵家を恨んでいるのは何も彼女だけではない。苦しめられている領民皆に動機はある。
せめて現場となった小屋が事件当時のまま保存されていれば、犯人に繋がる何か見つかるものがあるかもしれないが、掃除は既に終えた後だと聞いた。犯人の特定は大変そうだ。
これ以上長居しても仕方なさそうだと、シエラはお礼を言って立ち上がろうとした。
その時、隣の部屋から五歳か六歳ぐらいの男の子が、よたよたとこちらにやってきた。小さな手に似合わない大きなハサミを持っている。
「まま、そのひとだれ?」
「まあ!だめよ、向こうで遊んでなさいって言ったじゃない。こら!だから私の仕事道具に触っちゃだめ!危ないから!……申し訳ありませんダグラス様」
「いえお気になさらず。息子さんですか?」
髪と目の色がダイアナと同じで、可愛らしい子どもだった。
そしてその子を見て、シエラは先ほど道で見た、母親が子どもを鬼のような形相で連れ戻す光景を思い出した。
「あの、最近この辺りで誘拐事件があったんですか?」
「え?」
「そういう話を小耳にはさんだので」
ダイアナの顔色が、マルガリータの話をしたときとは比べ物にならないぐらい青くなった。震えながら、息子をぎゅっと抱きしめる。
「知りません!」
「え……」
「何も知りません!これ以上お話しすることはありません!お引き取りを!」
先ほどまでそこそこ好意的だったのに、豹変した。
叫ぶように言ったダイアナに、シエラは家から追い出されてしまったのだった。
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