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令嬢探偵、答え合わせをする(3)
しおりを挟む脳が言われた言葉を処理するのに、しばらく時間がかかった。
──ルシウスが、黒瀬蒼也の生まれ変わり。
そして、シエラと同じように前世の記憶を持っている。
「っ……」
何か言わなければ。本当に本当なのか、ちゃんと確認しなければ。
そう思って口を開き、息を吸う。それでも結局言葉にならない。
それを繰り返し、五回目くらいでやっと声が出た。
「何と言うか……見た目の胡散臭さがましになりましたね」
絶対に言うべき台詞はこれじゃなかったというのはわかる。
とはいえ仕方がなかったのかもしれない。安易に「本当に久しぶりですね」とか「まさかこの世界で再会できるなんて思ってませんでした!」なんて言おうものなら、間違いなく泣いていた。
これぐらいの冗談じみた言葉が丁度いい。その証拠に、彼も懐かしそうに目を細めていた。
「感動の再会を果たした感想がそれですか。君らしいといえばらしいですねぇ」
……いくら懐かしくて仕方がなかったとはいえ、シエラは本当に泣くつもりはなかった。本当だ。
「ううぅ……会いたかった……本当に会いたかったですよぉ黒瀬さん!!今まで何で会いに来てくれなかったんですかあぁ……」
決心した数十秒後に涙腺が崩壊した。ルシウスにぎゅっと抱き着いて、それはもう、顔をぐっちゃぐちゃにして泣いた。
「なんて顔してるんですか。今の君は伯爵令嬢なのでしょう?身分の高い女性がして良い顔には見えませんが」
「だってぇ……前世のこと思い出してからずっとずっと会いたくて……本っ当に会いたくて……」
えっぐえっぐとしゃくりあげるシエラを、ルシウスは少しからかいつつも優しく抱きしめた。
彼が愛おしそうにシエラの後頭部を撫で、小さな声で「ようやく……」と呟いたが、泣いて文句を言うのに忙しい彼女には全く聞こえていなかった。
──軽くニ十分以上は、ずっとそうしていた。
一通り文句をぶつけ終えたシエラがようやく落ち着きを取り戻したのを確認し、ルシウスがパッと手を離した。
「昔話に花を咲かせたいのは山々ですが、とりあえず現在の話をしましょうか、シエラ嬢」
ルシウスは部屋の中央に置かれた、質素な椅子に腰かける。
「まずは礼を言わねばなりませんね。ジョシュアさんの件、ありがとうございました」
「はい……。ていうか、やっぱり真相わかってましたよね⁉」
ルシウスが黒瀬の記憶を持っていると聞いて確信に変わった。あの名探偵が、シエラにわかる程度のことをわからないはずがない。
先ほどは誤魔化すように否定されたが、今回はあっさりうなずいた。
「ええもちろん。手紙に関しては身内の人間が書いたものだとわかっていたから、大事にならないよう細心の注意を払っていました」
「先代の死因についても?」
「スズランに毒があることを教えたのは俺ですよ」
「あ、そうでしたね。……ていうか!思い出しましたよ!私が例のお菓子を誤嚥して苦しんでたとき、黒瀬さんこっそり笑ってましたよね!?あのお菓子渡してきたの絶対悪意ありましたよね⁉」
「何を言います。あれは君にヒントを与えようという純粋な善意が60%ですよ」
「じゃあ40%は悪意じゃないですか!」
噛みつかんばかりの勢いで言うシエラに、ルシウスは愉快そうな顔をする。
だが……そうなれば当然湧いてくる疑問。
「えっと、でもそれなら、私に依頼する必要ありましたか?」
「君を呼んだ理由は二つです。一つは、今日まさにやっていたように推理ショーをしてもらうため。俺が手紙のことを問い詰めたり先代の死について話すより、探偵として名のある君が真相を暴く形の方がずっと説得力がありますからね」
ルシウスは指を二本立てて言う。
なるほど、確かにジョシュアはルシウスのことをよく思っていなかったわけで、彼が何を言っても信じなかったかもしれない。第三者が捜査し、出した答えだということが大切だったのだろう。
「じゃあ二つ目の理由は?」
「君が本当に静奈くんの記憶を持つ転生者なのか確認するためですよ」
「はあ……」
シエラは首をかしげた。
そういえば彼は何故、会ったこともなかったシエラ・ダグラスが静奈の記憶を持っていると気が付いたのだろう。
ルシウスは、シエラの抱く疑問を察したらしく、壁一面に広がる書棚から一冊の本を取り出した。
その表紙を見た瞬間、額に変な汗が流れる。それは、シエラの部屋に何冊もある小説だった。
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