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令嬢探偵、商会長に会う(1)
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○
「この依頼、クレイトン商会からだわ……ずいぶんタイムリーね」
いつものように何通もの依頼の手紙を確認していたシエラが、一通のクリーム色の封筒に目を留めたのは、レオンの件から数日後のこと。
街で出会った少年レオン。彼が働いていると言っていたのが、現在着々と規模を拡大している貿易商、クレイトン商会だった。
この手紙の送り主は、その時レオンが探していた“商会長”のようだ。封を切って中身を見ると、細かく丁寧な文字が並んでいた。
「ええっと、……先日はうちの者が大変ご迷惑をお掛けしました」
レオンはシエラのことをどこまで話したのか、しばらく丁重な謝罪文が続いた。依頼の手紙ではなく謝罪の手紙だったのだろうか……と思い始めたあたりで、ようやく話題が切り替わった。
今少し困ったことが起きていて、自分たちだけで解決するのは難しそうなので知恵を借りたい。万が一他人に内容を知られてはならないので手紙にその内容を記すことはできず、直接会いたい。
依頼の内容はざっとそんな感じで、手紙だけでは一体何に、誰が、どう困っているのかが一切読み取れない。
そんな手紙であったにもかかわらず……シエラは何故か、この依頼は絶対に受けなければならないような気がした。
探偵としての直感と言うべきか。探偵というより探偵助手であるシエラのそんな直感が当てになるのかと聞かれれば微妙だが。
手紙には親切に地図も挟まっていた。その地図の下には、なるべく依頼内容を知る人を少なくしたいので、使用人を連れてくるのは送迎時のみにしてほしいとの要求がメモ書きのように書かれている。
地図以外の便せんを封筒に戻し、シエラは小さく呟いた。
「……行ってみよう」
○
「シエラお姉さーん」
要求の通り、シエラは目的地の付近で馬車を降り、一人で地図を頼りに建物を探していた。
そこで聞こえてきた元気の良い声。振り返ると、レオンが嬉しそうな顔でシエラに手を振っていた。
「レオンくん」
「わー!また会えて嬉しいよシエラお姉さん!ルシウスさんの依頼で来てくれたんでしょ?こっちこっち!」
レオンは人懐っこい笑顔を浮かべてシエラに駆け寄ると、手を掴んでグイグイと引っ張った。そしてすぐ近くの建物の前で止まる。
「ここがクレイトン商会の本部だよ!でもってルシウスさんと僕の家」
あのクレイトン商会の本部というからずいぶん立派な建物を想像してしまっていたが、住居を兼ねているにしてはこじんまりとした屋敷だった。
それでも庶民の家にしては大きめなのは確かだ。シエラはレオンに連れられるがままに建物の中に入っていき、ある一室の扉の前で止まった。
「ルシウスさーん。シエラお姉さんが来てたから連れて来たよ」
レオンがそう言いながら扉をノックすると、扉はゆっくりと開いた。
扉の向こうには一人の男がいた。その顔を見て、シエラは無意識に息を止めた。
白い肌に吸い込まれるような青い瞳を持つ、目が覚めるほどの美形。背は高くて細身だが、ドアノブを握る手は大きくしっかりとしている。
歳は二十二、三といったところで、この前遠くから見た、レオンの待ち合わせ相手だった人物に間違いない。
「ようこそおいでくださいました。シエラ・ダグラス嬢。クレイトン商会で代表を務めております、ルシウス・クレイトンです」
彼の形の良い唇が優しく弧を描いた。
シエラはハッとして、慌てて令嬢探偵モードに切りる。
「初めまして。探偵のシエラ・ダグラスと申します。私でお役に立てることでしたら、何なりとお申し付けください」
「それは頼もしい。立ち話も何ですからどうぞこちらへ。大したおもてなしはできませんが」
そう言って通された部屋には、綺麗なソファーやテーブルが整然と並べられていた。商談に使う部屋なのかもしれない。
促されるままにソファーに腰掛けると、老紳士といった風情の男性が紅茶を運んできた。
この屋敷で雇われている使用人だろうか……と思っていると、その視線に気づいたらしいルシウスが言った。
「彼は先代の商会長が若いときから商会で働いているジョシュアさんです。俺の相談役のような立場ですね」
「相談役だなんてとんでもない。私はルシウスさんと世間話をするぐらいしか能のない老人ですよ」
ジョシュアと呼ばれた男性はカラカラと笑った。
「基本的にこの家に出入りしているのは、俺とレオンとジョシュアさんの三人です。シエラ嬢への依頼についても、この三人しか知りません」
こちらが人を連れてくることを制限されていたが、依頼してきた側も事情を知る人は最低限にしているらしい。ジョシュアがルシウスの隣、レオンがシエラの隣に腰を下ろした。
「では早速本題に入ります。二週間ほど前、俺の元にこの一通の手紙が届きました」
「この依頼、クレイトン商会からだわ……ずいぶんタイムリーね」
いつものように何通もの依頼の手紙を確認していたシエラが、一通のクリーム色の封筒に目を留めたのは、レオンの件から数日後のこと。
街で出会った少年レオン。彼が働いていると言っていたのが、現在着々と規模を拡大している貿易商、クレイトン商会だった。
この手紙の送り主は、その時レオンが探していた“商会長”のようだ。封を切って中身を見ると、細かく丁寧な文字が並んでいた。
「ええっと、……先日はうちの者が大変ご迷惑をお掛けしました」
レオンはシエラのことをどこまで話したのか、しばらく丁重な謝罪文が続いた。依頼の手紙ではなく謝罪の手紙だったのだろうか……と思い始めたあたりで、ようやく話題が切り替わった。
今少し困ったことが起きていて、自分たちだけで解決するのは難しそうなので知恵を借りたい。万が一他人に内容を知られてはならないので手紙にその内容を記すことはできず、直接会いたい。
依頼の内容はざっとそんな感じで、手紙だけでは一体何に、誰が、どう困っているのかが一切読み取れない。
そんな手紙であったにもかかわらず……シエラは何故か、この依頼は絶対に受けなければならないような気がした。
探偵としての直感と言うべきか。探偵というより探偵助手であるシエラのそんな直感が当てになるのかと聞かれれば微妙だが。
手紙には親切に地図も挟まっていた。その地図の下には、なるべく依頼内容を知る人を少なくしたいので、使用人を連れてくるのは送迎時のみにしてほしいとの要求がメモ書きのように書かれている。
地図以外の便せんを封筒に戻し、シエラは小さく呟いた。
「……行ってみよう」
○
「シエラお姉さーん」
要求の通り、シエラは目的地の付近で馬車を降り、一人で地図を頼りに建物を探していた。
そこで聞こえてきた元気の良い声。振り返ると、レオンが嬉しそうな顔でシエラに手を振っていた。
「レオンくん」
「わー!また会えて嬉しいよシエラお姉さん!ルシウスさんの依頼で来てくれたんでしょ?こっちこっち!」
レオンは人懐っこい笑顔を浮かべてシエラに駆け寄ると、手を掴んでグイグイと引っ張った。そしてすぐ近くの建物の前で止まる。
「ここがクレイトン商会の本部だよ!でもってルシウスさんと僕の家」
あのクレイトン商会の本部というからずいぶん立派な建物を想像してしまっていたが、住居を兼ねているにしてはこじんまりとした屋敷だった。
それでも庶民の家にしては大きめなのは確かだ。シエラはレオンに連れられるがままに建物の中に入っていき、ある一室の扉の前で止まった。
「ルシウスさーん。シエラお姉さんが来てたから連れて来たよ」
レオンがそう言いながら扉をノックすると、扉はゆっくりと開いた。
扉の向こうには一人の男がいた。その顔を見て、シエラは無意識に息を止めた。
白い肌に吸い込まれるような青い瞳を持つ、目が覚めるほどの美形。背は高くて細身だが、ドアノブを握る手は大きくしっかりとしている。
歳は二十二、三といったところで、この前遠くから見た、レオンの待ち合わせ相手だった人物に間違いない。
「ようこそおいでくださいました。シエラ・ダグラス嬢。クレイトン商会で代表を務めております、ルシウス・クレイトンです」
彼の形の良い唇が優しく弧を描いた。
シエラはハッとして、慌てて令嬢探偵モードに切りる。
「初めまして。探偵のシエラ・ダグラスと申します。私でお役に立てることでしたら、何なりとお申し付けください」
「それは頼もしい。立ち話も何ですからどうぞこちらへ。大したおもてなしはできませんが」
そう言って通された部屋には、綺麗なソファーやテーブルが整然と並べられていた。商談に使う部屋なのかもしれない。
促されるままにソファーに腰掛けると、老紳士といった風情の男性が紅茶を運んできた。
この屋敷で雇われている使用人だろうか……と思っていると、その視線に気づいたらしいルシウスが言った。
「彼は先代の商会長が若いときから商会で働いているジョシュアさんです。俺の相談役のような立場ですね」
「相談役だなんてとんでもない。私はルシウスさんと世間話をするぐらいしか能のない老人ですよ」
ジョシュアと呼ばれた男性はカラカラと笑った。
「基本的にこの家に出入りしているのは、俺とレオンとジョシュアさんの三人です。シエラ嬢への依頼についても、この三人しか知りません」
こちらが人を連れてくることを制限されていたが、依頼してきた側も事情を知る人は最低限にしているらしい。ジョシュアがルシウスの隣、レオンがシエラの隣に腰を下ろした。
「では早速本題に入ります。二週間ほど前、俺の元にこの一通の手紙が届きました」
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