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16。嵐の前って静かなんだよね?

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 あれから、(アニメで見て)覚えている限りの魔法を試し、もしかしたらこうやったら使えるんじゃない?とゲーム等の魔法をアレンジおまじないしてみたりして、長い一日が過ぎた。

 途中お昼ご飯を挟みながらだったから、本当に一日作業だった。
 身体はクタクタで、魔球の中身は球体の底のほうに、ちゃぷちゃぷ波打つ程度にしか残っていない。
 それでも頑張った達成感のようなものが、肉体は疲れきっているけれど精神的な疲労は軽減してくれている気がする。
 始めて魔法をちゃんと使って、色々アレンジまでできたんだから、充分すぎるほどの成果だったと思う。


☆ ☆ ☆


「はぁーっ、疲れたーぁ」

 心地よい疲れを感じて、はしたないと思いながらも整えられたベッドへ倒れこんだ。
 今日の晩ご飯は、マクガレンさんと一緒に食べようと思っていたんだけど、どうやら例の件で会議があるらしく、何日か留守にすると言われてしまった。
 この国の一大事だからね。会議優先なのは全然気にしないで欲しい。それと私のことは、まだしばらく内緒にしておいてくれるそうだ。
 使える魔法もまだはっきりしていないし、どの程度実用に耐えうるかもまだ分からないからね。期待されすぎてプレッシャーになるのは避けたかったから、マクガレンさんの提案はありがたかった。

「ハルカ様、お夕飯の支度ができましたよ」

 ロゼッタさんが夕飯だと呼びに来てくれたけど、マクガレンさんがいないなら今日も一人でご飯か。こんなことなら、オーウェンさんたちと一緒に晩ご飯も食べれば良かったなぁ。
 ダイニングに向かう足取りが、ちょっと重くなる。

 ロゼッタさんに一緒に食べて?とお願いしてみたけれど、すっごく素敵な笑顔でお断りされてしまった。使用人が雇い主の客人と同じ食卓で食事をするなんて、 分不相応なんだそうです。それに、ロゼッタさんは私付きのメイドという仕事に誇りを持ってるそうで、だからこそきちんと線引きをして仕事をしたいんだって。そこまで言われたら、無理に誘うことはできなかった。

 ロゼッタさんの給仕で、一人寂しく夕飯を食べていると、なんだか身体に違和感を覚えた。

 身体が、熱い…?

 別に具合が悪いとかじゃなくて。なんというか、熱っぽい感じ。長袖で丁度良い季節のはずなのに、身体が熱い。
 汗をかくような暑さではなくて、内に熱がこもったようで頬が火照ってくる。
 おかげであんまりご飯が進まなかった。西洋料理っぽいけど、味付け自体はさっぱりしていて美味しいのだ。だから、あんまり食べられなかったのが残念。

「お疲れですか?」

 部屋に戻るとまたベッドに倒れこんでしまった。
 今度は疲れのせいじゃない。
 身体の熱が辛くて、息をするのもしんどくなってきた。
 私の異変に気がついて、すぐにロゼッタさんが気がついて声を掛けてくれた。
 うーん、良く見てるなぁ。
 でも、そんなことに一々反応してられないくらい、体が辛い。

「身体が、熱いの…どうしよう…」

 心当たりの無い身体の異変が不安で、涙が浮かんでくる。
 異世界に来て二日目で、具合を悪くするなんてどうしたらいいんだろう。マクガレンさんがいてくれたら、なにか解決策が見つかったかもしれない。けれどマクガレンさんはいないし、この世界ってお医者さんとかいるのかな?

「あのっハルカ様、ご自分の魔法で、体調不良を治すことはできないのですか?」

 色々考えている間にも、身体の不調は大きくなってきて。ハッハッと荒い呼吸が忙しなく繰り返されて、酸欠なのか頭までクラクラしてきた。ロゼッタさんの声は聞こえていたけれど、それを実行できる気は全然なかった。
 なにか言葉を返そうと思うんだけど、そんな余裕はちっともなくて、むしろ誰か助けて!

「あっあっ。お待ちくださいハルカ様。すぐにお医者様を手配してまいります」

 私の様子が只事じゃないと思ったようで、ちょっと動揺した感じでロゼッタさんが部屋を駆け出して行った。

「ハルカ様!」

 ?
 早くない…?

 部屋を出て行ったと思ったら、早々にロゼッタさんが駆け戻ってきた。

「ハルカ、大丈夫ですか!?」

 アルバートさんをつれて。

 なんでここにアルバートさんがいるんだろう?また明日って言って分かれたはずなのに。
 熱で滲む視界に、心配そうに顔を歪めたアルバートさんが見える。

「どうしたんですか?どこが苦しいんです?」

 アルバートさんが来てくれた。そのことに安心して、口元が緩む。でもそれはすぐに、荒い呼吸に取って代わられてしまった。

「魔力酔い、でしょうか」

 始めて魔法を使った子供や、極限まで魔法を使って魔力が底を突きかけたりすると、たまに身体に異変が起きることがあるという。それを魔力酔いと言うらしい。
 大体は、頭痛や吐き気。倦怠感に貧血と言った症状が出るらしい。私のように身体に熱が篭って苦しくなる、というのは始めて見たとアルバートさんが言う。

「ハルカ…これは?」

 汗で張り付いた前髪をかきあげて、額に冷たい手を当ててくれたアルバートさんが、怪訝な声を上げた。

「…?……ん……え?…ええ?」

 目の前に差し出された何かを、目を凝らして確認すると、それは私の髪の毛だった。
 あれ?なんで黒くなってるんだろう?
 ついさっきまでは、白みを帯びた緑色の髪をしていたのに、今アルバートさんが触っている私の髪は、真っ黒だ。
 おかしいな、魔法を解除したわけじゃないのに。と、そこまで考えて、あっ!と思った。
 最後に確認したとき、私の魔力の残量はだいぶ残りが少なかった。プリュムになるのは変身魔法なんだから、姿を持続するのに魔力を使っていたはず。
 つまり、今の私は魔力が底を突いて、変身が解けちゃってる?

 もぞもぞと手を動かして、胸に触ってみる。

「ひゃぁああん…」

 変な声が出た…。
 ―――――――………。
 それは置いておいて。

 胸のサイズが、大きくなってる。と言うことはやっぱり、変身が解けてしまったんだろう。
 どう説明したら分かってもらえるだろうか?最悪不審者として捕らえられたらどうしよう。そう思って恐怖に震え上がるけど、黙っているわけにもいかなくて、なんとか説明しようとアルバートさんの手を握った。

「救世の、聖なる乙女の姿は…、変身した、魔法…少女の姿…で。こっちが…ほんと……の、姿……なの。魔力が…もう、なくて…変身が、とけ…ちゃった…」

 身体が熱くてしんどくて、細かい説明が頭に浮かばない。それでもハァハァと荒い息を繰り返しながら、拙い言葉でできる限りの説明をした。

「ごめ…なさ……だ、ましてた…んじゃ、ない、んだ…」

 変身した姿でいたのは、騙してたんじゃないんだ。そう言いたいのに、呼吸が苦しくてちゃんと言葉にならない。

「…分かりました。大丈夫ですよ、怒ったりしてないですからね?それよりも、身体の方が心配です。きっと魔力がなくなって、身体が過剰に反応したんでしょう。回復薬を飲めばすぐに治りますよ」

 優しく語り掛けて、安心させるように頭を撫でてくれる。それだけで気持ちが少し楽になった。
 悪いことをしているつもりは無かったけど、変身した姿しか見せていないのは、なんだか騙しているようでちょっと後ろめたかったんだ。

「さあ、コレを飲んでください」

 いつも持っているのか、懐から小さな瓶を取り出したアルバートさんは、それを私の口元に当ててくれた。
 薄っすらと青い液体は、ちょっと薬草っぽい匂いがするけど、我慢して飲み込んだ。

「んー…っん?」

 苦い…くない?苦しい中で飲んだソレは、思っていたよりはずっと飲みやすかった。ちょっと濃い目の緑茶、という感じだろうか。
 どのくらいで効果が出てくるんだろう?
 アルバートさんがくれた薬を飲んだのに、熱は全然収まらない。それどころか、更に増しているようにも感じる。 
 体が熱い。内側からの熱に、体が火照ってだまっていられない。少しでも楽になれる姿勢を探して、ベッドの上を二転三転してしまう。
 熱の原因を探してゴロゴロしていると、お腹の下の方、お臍の下、子宮の辺りに熱が集まっているのを感じた。

 ここって、女神様が制御の珠を入れた場所?

「ハルカ様……」

 一向に良くなる兆しの無い私の様子を、泣きそうな顔でロゼッタさんが覗き込んでいる。忙しなく組み替えられる手が、何よりも如実に心配してくれていると知らせてくれた。

「ど、しよ……アル、……バートさん、から、だ……あつい……」
 
 熱が出た時みたいに、熱くて意識がボーッとして、熱のせいで涙まで浮かんできた。
 このまま、死んじゃったらどうしよう。

「た、すけ……て。ア……バートさん……」

 珠を入れられた場所がドンドン熱くなって、ジクジクとした疼きまで感じるようになってきた。
 これって、なに?魔法を使いすぎたから、制御の珠がオーバーヒートでもしたの?爆発とかしないよね?
 私、どうなっちゃうの。

「大丈夫ですよ、ハルカ。私がなんとかしますからね」

 このまま死んじゃうんじゃないかという不安に、縋りついて涙を零す私を、アルバートさんが優しく抱き締めてくれた。
 人のぬくもりに、少しだけホッとする。
 と同時に、下腹部の疼きが激しくなった。
 子宮が疼いて、太腿が無意識に擦りあわされる。激しい呼吸に忙しなく上下する胸も苦しくて、ワンピースの襟を毟るように寛げた。それでもハァハァと息が上がる。

「あっ!…やぁん…んっ…いやっ、もうやだぁ!女神様の…バカァ!…お、ねが…い、たすけ…てぇ…」

 アルバートさんに抱き締めてもらったせいなのか、熱にうかされているせいなのかは分からないけど、身体の熱が変わった気がする。
 女神様にいやらしいことされたときみたいな、自分ではどうしようもできない熱の昂ぶりをアソコに感じて、八つ当たり気味に女神様に悪態をついた。

 女神も神様でしょう!どうにかして!
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