セックスしないと出られない部屋に閉じ込められたのに、彼女が性交渉に応じてくれません。

西木景

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第8章

優しさの理由(7/7)

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 突然しくしくと泣き出してしまった後輩に、かけるべき言葉が見つからなかった。思考がフリーズしてしまっていたのだから、無理もない。まさか一世一代の告白が断られるとは思っていなかったのだ。
 体内に滞留した熱が急速に冷めていくのを感じた。金槌のように硬かったペニスもみるみる萎んでいく。
 カナは悲しそうな顔で、ごめんなさい、と繰り返すばかりだった。
 その謝罪が俺の気持ちに応えられないことに対するものだということは理解できる。だが、その涙の理由まではわからなかった。告白を断られた側ならまだ心情的に理解できるが、どうして告白を断った側の彼女が号泣しているのだろう?
 むしろ自分の方こそ一滴も涙がこぼれないのはどうしてだろうと不思議だった。悲しみはしっかり感じているのに。目の前に大泣きしている人がいるから、無意識のうちに遠慮してしまっているのだろうか?

 ――いや、違う。

 興奮が引いて我に返った。
 涙が出ないのは単純に、悲しみより安堵の方が大きいからだ。
 もしカナが告白を断ってくれていなかったら、自分はまた3年前と同じ過ちを繰り返すところだった。
 自分はカナの選択によって救われたのだ。
 そのことを悟ると同時に、カナとカレンを天秤にかけた自分の浅ましさに恥を覚えた。結果はどうあれ、カレンを裏切ろうとしたことに変わりはない。
 やはり自分は3年前から何も成長していないようだ。
 自己嫌悪の波が押し寄せて自我を虚無にさらっていく。
 茫然自失と呆けていると、ふと股間に何かが触れる感覚があった。みると、カナが萎れたペニスを握って、また大きくさせようと頑張っていた。

「全部、まやかしです」

 涙を流しながら甲斐甲斐しく竿をさする。
 心は虚無に支配されていたが、扇情的な光景を前にすれば身体は否応なしに反応する。

「私への告白も、性行為に臨んだことも。こんなところに5日間も軟禁されていなければ絶対に起こりえなかったことです。3年ぶりに私たちが再会できたのだって奇跡にほかなりません。今日までまるで夢のような日々でした」

「……夢」

 呟くと、カナは、そうです、と頷き、儚げに笑った。

「夢から覚めたら、全部忘れましょう。3年前の思い出は胸の中に仕舞ったまま、それぞれの未来を歩んでいきましょう。私たちの人生はもう交わることはない。そういう運命だったのです」

 そう断言されると胸が痛む。だが依然として涙腺は締まったままだった。きっと彼女の言葉によって罪の意識が軽くなったからだろう。ほとほと自分の人間性の浅ましさには嫌気が差す。
 カナは手で奉仕するのを中断して顎を上げた。充血した目でこちらを見つめてくる。それから、おもむろににじり寄って、俺の胸板に頬を寄せてきた。
 彼女の華奢な身体を力いっぱいに抱きしめる。

「私からの最後のお願いです」

 カナは言った。
 切実な響きが込められていて、きゅっと胸が締め付けられる。

「夢から覚める前に、どうか思いっきり抱いてください。せめて終わりくらい、いい思い出にして」

 3年前は別れの挨拶すらない結末になってしまった。それをやり直せるのは自分としても望むところだった。

「わかった」

 返事をして抱擁を緩めた。
 見つめ合い、自然な流れでキスを交わす。
 唇を離し、至近距離で彼女と視線が交錯する。真っ赤に充血した目の中にぼんやりと、覚悟を決めた自分の顔が浮かんでいた。

「3年前の続きをしよう。もう絶対にカナから目を離したりしないから」

 そう囁きかけると、カナの瞳が切なげな形に綻んだ。

「せんぱい」

 唇を奪われ、そのまま舌が這いずり込んでくる。
 こちらも舌を伸ばして、深く絡め合う。
 すると瞬く間に股間に血液が集結するのを感じた。
 キスを交わしている最中にカナがペニスを触ってくるので、こちらもお返しとばかりに彼女の秘部に手を伸ばすと、すでにぐっしょり濡れていた。
 濃厚に舌を絡ませながら、お互いの性器を弄び合う。至高の時間だった。肉体だけでなく精神的にもエクスタシーに昇り詰めていく。

「ん、ん、ん……」

 塞いだ唇から絶えず漏れ出る甘い声に獣欲がみなぎっていく。
 指先だけで敏感な部分を重点的に責めると、堪えきれないとばかりにカナの背中が海老反りにしなった。

「ああンっ、そこッ、気持ちいい」

 艶めかしい悲鳴を放った拍子にキスを中断すると、唇と唇の間に透明な糸が架かった。
 カナの曖昧な瞳が俺の下半身を捉えた。屹立したいちもつを見て、忽ち物欲しそうな顔になる。

「お願い……もう、入れて」

 蕩けるような眼差しでそう懇願されて、一気に脈拍が速度を増した。
 カナを優しく押し倒して、股を広げる。そして彼女の膣穴めがけて、ゆっくりと肉棒を差し入れた。

「あああっ、せんぱいの、入ってきたっ」

 カナの口から歓声が放たれる。
 無数の媚肉が太幹に絡みついて、ぎゅうぎゅうと万力のように締め上げてくる。
 快楽の予兆に胸が震えた。少し動いただけで果ててしまいそうな締まり具合だったが、死んでも射精するものかと肛門にありたっけの力をこめた。

「カナ、動くぞ」

 前後に腰を動かすと、竿と膣襞の擦れる感覚に忽ち快楽の波動が脳内に溢れた。豊満な乳房が暴れ馬のように跳躍するその光景は壮観のひと言に尽きた。気持ちよすぎて、このまま果てたら意識が飛ぶのではないかと怖ろしくなるほどだった。

「あっ、ああンっ、せんぱい、もっと、激しく!」

 カナも快楽の海にすっかり身投げしている様子だった。恍惚の色に染まったおもてには玉のような汗と涙の筋が浮かび、瞳はどこか遠くの世界を望んでいた。女に生まれた悦びを全身全霊で享受しているようで、彼女を女にしているという事実に俺は多大な勇気と自信を得ていた。
 乳肉に手を伸ばし、本能の赴くままに責め嬲る。ピストンの速度を上げるにつれ、彼女の嬌声はいっそう艶めかしく活き活きとしたものに昇華していく。ただ抜き差しするだけでなく、ぐりぐり押し込めたりすると、またひいひいとよがり泣きの声を咲かせた。
 射精欲がピークを迎えそうになったので、一旦小休止とばかりに竿を引き抜いた。
 カナの目に名残惜しそうな色が燻るのを認めつつ、カナの身体を反転させた。
 四つん這いにさせて尻たぶを鷲掴みにする。そのまま手に力をこめて押し広げると、菊の紋と愛液に塗れた膣壺が姿を現し、むわっと牝の匂いが鼻先に広がった。

「あん、せんぱい、みないで……」

 恥じらいの言葉を放つと同時に、菊の紋がきゅっとすぼまる。そこに舌を伸ばすと、彼女の口からひやっと可愛らしい悲鳴が上げた。

「せんぱい、なにしてるんですかっ」

 俄に狼狽を露わにする彼女を意に介すことなく、執拗に舌の表面で紋様を撫で続ける。

「そこ、うんちが出るところですよ……汚いから、やめて……あっ、ああンっ」

 抵抗の声を発しつつも、尻を引っ込めようとはしない。
 アナルを責めるのは初めてだが、どうやら上手く快楽の世界に導けているようだ。
 れろれろと浅瀬をほじくりまくると、女体が震えてくすぐったそうに跳ねた。みるみる身体から力が抜けていき、尻を突き出したまま枕元に顔が埋まる。

「うおっ、ぐ、おほおおおおっ」

 これまでにない生々しい声が彼女の口から飛び出た。
 ひくひくと肛門からも悲鳴の声をしゃくり上げている。
 俺はアナルに口づけしたまま舌を膣壺に這わせた。ぷっくらと膨らんだ陰核を甘噛みすると、また電流が走ったように彼女の背中が震えた。
 舌をドリルのように鋭くさせ、膣穴にねじ込む。膣襞を搔き分けて出し入れすると、次から次へとしょっぱい愛液が溢れ出して止まらなかった。

「ああっ、せんぱいが、わたしのおまんこ舐めてるっ」

 羞恥と歓喜の入り混じった声でカナが叫ぶ。
 もっと彼女の乱れた声が聞きたくて、湧き出る愛液をじゅるじゅる音を立てて啜り飲む。するとこちらの期待に応えるように、断続的に放たれる彼女の声がますますエロティックな艶めきを帯びていった。
 ひとしきり愛撫を終えたところで、びしょ濡れになった顔をシーツで拭う。そして尻たぶを掴み直して砲台のように反り返った男根を膣穴にあてがった。腰を前に突き出し、一気に奥までペニスを差し込んだ。

「あああああッ、おくううううぅぅ」

 カナの口から狂乱染みた絶叫が放たれる。
 俺も思わずうなり声を上げていた。動かさずとも膣襞がひとりでに収縮と弛緩を繰り返し、射精を促していた。
 また下半身に力をこめて、ピストンを開始した。手加減なく、持てる力を振り絞って抜き差しを繰り返す。
 うねる膣襞を搔き分けて行き止まりに到着しても、腰を前に押し出した。そうするとカナの口から渾身の嬌声が聞けた。

「い、イクううううぅぅっ」

 またしてもカナの全身がぶるると振動した。
 腰の動きを止めると、カナは背中を反り返らせ、そのままベッドの上に突っ伏すように倒れた。その拍子に膣からペニスが抜けた。ぬぽん、と音を立てて、カウパー腺液と華蜜の融合した濁り液がまろび出る。
 アクメの余韻に浸り、ぜえはあと肩で息をするカナの身体を無理やり反転させて、また正面からペニスを差そうと身構えた。
 カナは慌てた様子で言った。

「ちょ、ちょっと、まって」

 制止の言葉を聞くが、もう止まれなかった。
 股を押し開いて、とろけきった膣穴にいちもつをぶっ刺す。
 カナの唇からまた鋭い悲鳴が放たれた。

「いやっ、いまはまだ、びんかんなのッ。おかしくなっちゃうからっ」

 抵抗の意思を汲み取るが、その訴えはむしろ逆効果だった。
 このまま快楽の海に溺れておかしくなるカナを見たかった。
 ふと正面をみるとモニターに反射した自分の顔に歪んだ笑みが浮かんでいた。どうやらスイッチが入ってしまったらしい。
 また手加減のないピストン運動を開始する。

「あっ、ああっ。せんぱいのおちんちん、きもちいいよおぉぉ」

 カナの嬉しそうな悲鳴がますます力をみなぎらせる。
 ぱんっ、ぱんっ、と肉体同士のぶつかり合う音がリズミカルに響き渡る。興奮はすでに最高潮に達していて、内側から湧き立つ灼熱のような激情に脳髄が蕩けてしまいそうだった。

「せんぱい、すきっ、だいすきっ、あいしてますっ」

 カナが愛の言葉をまき散らす。それは虚構に塗れた言葉だと理解している。だけど、背筋が震えた。胸の底から悦びが迸るのを止められなかった。

「俺もだ、カナっ。誰よりもお前のことを愛してるっ」

 そろそろ下半身に力が入らなくなってきた。限界はすぐそこまで来ている。
 ああ、この時間が終わってしまう。カナと別れなくてはならない。
 それを思うとまた涙が込み上げてきた。彼女の方もそれを理解しているのか、目からさめざめと涙が溢れていた。

「カナ……出るっ」

 今か今かと迫るフィニッシュの瞬間を間近に感じ、俺は吠えた。

「きて、せんぱいっ。いっぱい、中に出してっ」

 力一杯、なりふり構わず腰を振る。
 尿道を熱いものが駆けくだる気配を感じた次の瞬間。亀頭から弾丸のごとく欲望が解放された。

「「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ」」

 ふたつの絶叫が重なった。まるで獣が慟哭し合うような、凄絶な共鳴だった。
 快感の波紋が木霊のように脳内に反響していた。睾丸が痛みを訴えているが気にならなかった。それよりも彼女の中に精をぶちまけている事実にこの上ない悦びを感じていた。
 射精の時間は数十秒にも及んだ。見ると中に入りきらなかった分が結合部からだらだら垂れていて、シーツに白い液溜まりをつくっていた。
 息を切らせながら、腰を後ろに引っ込めた。その拍子に膣壺から精液が滴り落ちる。
 快感の余波が遠のいていく気配があった。対照的にカナとの別れの時が刻一刻と近づいていることがより現実味をもって胸に迫り、悲しみが広がった。
 カナは瞼を閉じて、息を整えていた。豊満なバストが上下に激しく弾んでいる。この光景だけで一生分のおかずに困らないだろう。
 最後にキスをして幕を引こうと思ったが、途中で止めた。
 もうこれでカナとの関係はお終いだ。
 俺は彼女の隣に仰向けに寝転がった。
 3年前の思い出が走馬灯のように蘇る。
 彼女の太陽のような笑みを懐かしんでいたところで、先輩、と呼びかけられた。隣をみると、カナの探るような視線がこちらを向いていた。

「どうして席に座らなかったんですか?」

「えっ?」

「登下校中の電車の中で、ずっと立ってた理由です。私、それを知るために先輩とお近づきになったんです」

 初めてカナと会話した時のことを思い出す。
 そういえば、そんなこと訊かれたな。
 思わず苦笑が漏れた。もしあの時即答していたら、ここまで深い関係性は築けていなかっただろう。当時の自分の機転に感謝だ。

「なんてことはない。満員になったら席を譲らないといけないだろ。ああいうの、苦手なんだよ。自分の親切心をアピールしてるみたいで。だから、先に立っていたのさ」

「……その気持ちはわからなくもないですけど。でも、だったら電車が本線に合流した時にでも席を空ければいいじゃないですか。なにもローカル線を走ってる時からずっと立ちっぱなしでいなくても」

「そんなのカッコ悪いじゃないか。他人に席を譲る程度のこともできない自分の無能さを理由にするのはさ。だから自分自身に言い訳するために別の理由を探したんだ。俺は足腰のトレーニングのために座らないんだ。他人に席を譲れないからじゃない、ってな」

 そう言うと、彼女の顔がきょとんとしたものに変わった。
 曖昧なリアクションだ。なんとなく上手く説明できていない気がして不安になる。
 何か言って取り繕わなくてはと口を開きかけたところで、ふと彼女の顔が花開くように綻んだ。

「先輩って、やっぱ変」

 そう言ってけたけたと彼女は笑った。
 その笑顔に俺は心を打たれていた。それはかつての自分が恋焦がれていた太陽のような笑顔に相違なかった。
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