セックスしないと出られない部屋に閉じ込められたのに、彼女が性交渉に応じてくれません。

西木景

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第8章

優しさの理由(3/7)

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 脱衣所でひとりきりとなり、ため息をつく。緊迫した空気から解放されてか、ほっとした顔が鏡の中にあった。
 カナには頭を冷やせだなどと偉そうなことを言ったが、実際は自分もつられてヒートアップしてしまうことを怖れていたに過ぎなかった。あのまま言い争いを続けていたら、どこかで本格的な喧嘩に発展しそうな気配があった。この期に及んでそのような展開を迎えるのはご免だった。
 ……しかし、いつもの彼女らしくもない。
 このタイミングで提示された運営のメッセージを訝しみ、快刀乱麻さながらに筋道の通った持論を展開してみせたあの洞察力については相変わらず舌を巻かずにはいられないが、その後の訳もなく突っかかってくるような態度からは普段の冷静さが損なわれているように感じられた。
 まあ、とはいえ、だ。それもやむなきことだろう。丸5日もこんなところに閉じ込められているのだ。いつまでも余裕綽々と落ち着き払っていられる方が異常であろう。宇宙人みたいな言動を繰り返すからつい意識から抜けてしまいがちだが、彼女も自分と同じ人の子だ。精神が参っているようなら、それ相応に配慮する必要があるだろう。
 熱々のシャワーを頭から被りながら、先ほど自分が口走った突拍子のない推測についても思考を巡らせる。

 ――運営の目的は俺たちにセックスさせることじゃないのか?

 カナの見立てが正しければ、それも大いに考えられる可能性の一つだ。だけどその真なる『目的』とやらが皆目見当もつかない。
 セックスしなければ出られないというこの部屋のルール。密室に年頃の男女ふたりきりという状況。AVしか流れないテレビ。外から丸見えのトイレと浴室。媚薬の盛られた食糧品――どの要素をみてもセックスに誘導することを目的として設定された条件だとしか思えない。
 この件に関してはさすがに手札がなさすぎる。いくら思考を捻ったところで妄想の域を出ない理由付けしかできないだろう。ならばそこに思考のリソースを割くのは非合理的だ。
 わからないことだらけで不安は募るばかりだが、一方で楽観的な考えに身を任せてもいいのではないかという思いも若干ながら自分の中に残されていた。単純な思考放棄ではない。一応、根拠はある。それは、ここに閉じ込められる前に中川社長から言われた言葉の中にあった。

『お節介かもしれないが、最後にひとつ、未来ある若人にアドバイスを送ろう』

 未来ある若人、と社長は言った。さらに、こう続けたのだ。

『良い映画を撮りたければ、とにかく色々な経験を積みなさい。色々な人と出会い、色々な場所に足を向けて、色々な歴史を知ることだ。人生経験の豊かさはクリエイターにとって最大の武器であり、かけがえのない財産だ』

 含蓄のある言葉だと思う。また、前後の話の流れから汲み取るに、自分に対するエールだと捉えるのが自然だ。
 事件性を秘匿したいならわざわざ自分たちを解放なんかせずに手っ取り早く始末するはずだとカナは言うが、最初から始末すると決めている人間にそんなお節介染みた忠言を託すだろうか? もちろん社長が自らの虚栄心を満たすために美辞麗句を並べただけという可能性も考えられなくはない。しかし、あの自己肯定感の高そうな社長に限ってそのような小者くさいマネをするとはどうしても思えないのだった。
 この考えが全くの的外れでなければ、実験がどのような結末を迎えることになるにせよ、自分たちが生きて外の世界に帰れることだけは確実だ。事件性を秘匿するには〝処分〟が一番低コストだという論には一定の説得力があり反駁しがたいが、その方法に関して言えば、探せばいくらだってあるはずだ。
 とりあえず身の安全は保証されていると決めてかかって下手に抵抗する素振りを見せないのも戦略の一つとして有りではないかと思う。俺としてはこちらのやり方を推したいのだが……問題は相方をどう説得するかだ。
 今の冷静さを欠いた彼女に真っ向から意見すれば対立することは火を見るより明らかだ。そして今の自分に彼女を丸め込むだけの気力が残っていないことも看過できない事実だった。
 ならば、わざわざ意見を戦わせる必要はないのかもしれない。
 楽な方向に思考が流されているという自覚はあったが、それが最も建設的な選択であるような気がしてならなかった。どのみち自分たちの処遇は運営の手に委ねられているのだから、自分たちの足並みは別段揃っておらずともよいわけだ。最終的に意思が相反した形で終わりを迎えるのはなんとも後味が悪いが、言い争いに発展した挙げ句、喧嘩別れになるよりはずっとましだ。
 カナへの贖罪を果たすという本願が達成されたかどうかは微妙なところだが、それは別にこの場でないと成し遂げられないわけではない。外に出てから改めて彼女と会話を重ね、そして自分にできる精一杯の贖いの方法を模索していけばよい。
 そんな風に今後の方針を決めて、シャワーを止めようとした、その時だった。
 不意に背後から物音がした。
 何事かと思って振り返ろうとしたその前に、背中一帯に柔らかいものが触れた。次いで、腰周りに何か白いものが巻き付いてきた。
 心臓が跳ね上がり、息が詰まった。シャワーハンドルに伸ばしかけていた手が中空で急停止する。

「……カナ?」

 呼びかけるが、返事はない。
 雷のような衝撃が全身を貫き、身動きが取れなくなっていた。
 背中の感触から察するに、どうやら自分の真後ろに全裸の立花カナがいるようだった。
 シャワーの音が耳を打つ中で、自分のものなのか彼女のものなのかわからない心臓の鼓動がひたすら頭の中で鳴り響いていた。

「ひとりにしないで」

 カナの声が聞こえた。その声は涙で震えていた。

「これからどうなるんだろうって考えると震えが止まらなくなるの。だからお願い、先輩。少しの間でいいから、こうやっていさせて」

 そういうわけにはいかない。だが、咄嗟にそう答えることができなかった。
 激しい混乱に支配されて発言の自由を失っていたという理由もあるが、今の情緒が不安定とみえる彼女をひとりきりにするのは危ういと直感的に感じたからでもあった。
 もちろん裸同士で密着しているこの状況にも危機感を覚えていた。だが、対処する術が無かった。心臓が早鐘を打ち、浴室にこもる熱気と内側から滾る熱情の波状攻撃で、今にも意識が飛んでしまいそうだった。
 硬直しているうちに、シャワーの音に紛れて啜り泣きの音が聞こえてきた。それから彼女の全身が小刻みに震えていることに気がついた。内心に途轍もない規模の不安が渦巻いていることが伝わってきて、ここは自分がしっかりしなければと我に返った。

「落ち着け。きっと大丈夫だ。俺たちは必ず生きて外に出られる」

 慰めの言葉を口にするが、カナの震えと泣き声は一向に収まらない。
 どうしたものかと考えを巡らせていたその時、またしても衝撃が全身を襲った。
 不意に股間に何か感触が走ったからだ。
 下を向くと、カナの細くて白い指が、ぐんっと反り返った竿に絡みついていた。

「ああ、せんぱいの、あったかい」

 泣き声の中に初めて安堵の色が混じった。まるで九死に一生を得られたかのごとき切実な響きがそこにこめられていた。
 抵抗する間もなくカナの指が動き出した。おもむろに、それでいていやらしく。
 これ以上ないほどに膨張したペニスの表面を優しい指遣いでなぞられるたび、快楽のパルスが怒濤のごとく脳内に溢れ返り、声が漏れ出た。溜め込んでいるせいか、気持ちよすぎて腰砕けになりそうだった。

「カ、カナ、それ以上はッ……」

 ようやっと抵抗の意を示すが、言葉とは裏腹にその手を払いのけることができない。
 本能が快楽を遮断することを拒んでいた。理性はもはや本能の奴隷に成り下がり、完全に機能を失っていた。
 カナの手の動きが次第に速度を増していく。右手で竿を握り締め、リズミカルに上下運動を繰り返す。一方、空いた左のてのひらで亀頭を優しく包み込み、ぐりぐりと刺激を与えてくる。
 凄まじいエクスタシーが身も心も冒していた。ただの手コキでこんなにも強烈な快感を覚えるのは初めてだ。背中に当たる胸の感触も手伝って興奮は昂ぶる一方だった。
 射精欲が急速に盛り上がり、早くも限界を迎えそうなことを俺に訴えていた。
 だめだ、と思ったそのとき、俺は叫んでいた。

「カナ! カナアアァァッ!」

 カナは耳元で囁く。ふふ、と愉悦を含んだ声に続けて、

「いっちゃえ」

 と。
 頭の中が真っ白になる。同時に、下半身に強大な開放感を覚えていた。
 気づいたときには亀頭の先からマグマのような精液が勢いよく噴射されていた。それは浴室の天井に届くほどの勢いを伴っていた。
 びゅっ、びゅっと全ての精を出し切り、その後は徐々に頭の中を占めていた靄のような恍惚が引いていった。見下ろすと、未だに衰えの知らない巨根に、白濁液塗れになったカナの手がしぶとく重なっていた。その光景はこちらの情欲をさらに掻き立てるものだった。
 すごい、とカナの熱を帯びた声が聞こえた。

「ねえ、せんぱい」

 カナは言う。その先に続く言葉は容易に見当がつく。それを期待している自分がいる。

「しよ」

 それに抗えるだけの意思力が今の自分には不足していた。いや、きっと長く密室に閉じ込められていなくても、その悪魔の誘いを断ることはできなかっただろう。
 俺はカナの手を振り払って、後ろを向いた。至近距離で彼女と目が合う。
 濡れそぼった髪の毛。湿っぽく充血した瞳。発情した牝の顔。
 その下に視線を移すと、巨峰のような乳房と綺麗なピンク色の突起があり、さらに下まで辿ると、これまでお目にかかれなかった陰毛が水気を帯びてしんなりしていた。
 もう我慢できなかった。
 カナの肩に手を乗せて、ゆっくりと顔を近づける。
 今度は拒絶される気配が無かった。顎を上げて瞼を閉じ、完全に受けの体勢を取っている。
 そのまま唇が重なった。
 3年前にはできなかったキス。
 胸の奥底に封じ込めていた情念が爆発する。
 背中に手を回し、ぐっとこちらに引き寄せる。
 唇を裂き開くように口内に舌をねじ入れると、それに応えるように彼女の舌も絡まってきた。
 そうして俺たちは3年間の隔たりを埋めるように、いつしかお互いの身体を求め合っていた。
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