きんだーがーでん

紫水晶羅

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エピローグ

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「なんつぅかその……。いろいろ持ってんな。お前の兄貴」
 感心したように、政宗が溜息を漏らした。
 だよねぇ、と皮肉な笑みを浮かべたあと、楓は手の中で輝くクリスタルの猫を愛おしそうに見つめた。
「あたしね、いつか、児童福祉司になりたいんだ」
「児童福祉司?」
 美乃里が訊き返す。
 児童福祉司は、児童相談所に所属し、家庭に問題を抱える子どもや育児に悩む保護者たちの話を聞き、解決に導く人のことだ。

「それって、めっちゃ大変なんじゃね?」
 政宗が、眉間に皺を寄せる。
「うん。いろんなルートがあるけど、あたしの場合はまず児童養護施設に勤めながら、通信で社会福祉主事の資格を取って、それから児童福祉司を目指すルートが一番手っ取り早いかなと思って。まあそれでも何年かかるかわからないし、都合よく児相に空きが出るかもわからない。でもやってみたいの。少しでも、困っている人たちの力になりたいの」

「楓……」
 楓を見つめる政宗の目が大きく開いたあと、涙を浮かべながら嬉しそうに弧を描いた。
「それきっと、聖のやりたかったことだ……」
「えっ?」
「施設実習であいつ、一人の少年の心を救ったんだ。その時にあいつ、児童養護施設の職員になる決心をしたんだ」
「そう……なの?」
 楓の目にも涙が浮かぶ。
「喜ぶよ、あいつ。きっと……」
 ダメだ止まんねぇ、と言いながら、政宗は涙で濡れた顔を両手で擦ると、空を見上げた。
 所々黄金色に染まった雲が、ゆっくり風に流されていく。

「なんだ。ちゃんと生きてんじゃねぇか」
 眩しそうに目を細め、政宗がポツリ呟いた。
「あいつは死んでなんかいねぇ。今もまだ、ちゃんと生きてる」
 俺らの中に、と政宗は胸を叩き、濡れた瞳で美乃里と楓を見つめた。
「私の、中に」
 写真の中を覗き込み、美乃里も自らの胸に手を当てる。
「聖は、生きてる」
 左手を胸に当てたあと、楓はキーホルダをじっと見つめた。
「聖……」
 琥珀色の瞳が、涙で歪んだ視界の向こうで笑ったように弧を描いた。

「結局俺らはさ、一生聖のおりってわけだ。この先どこまでいっても、あいつはきっとついてくる。あの、子どもみてぇな甘ったれた顔でな」
 片方の口の端を持ち上げ、政宗がわざとらしく溜息をついた。
「そっか。約束したもんね。私たち、ずっと友だちだって」
 懐かしそうに目を細め、美乃里が写真に語りかける。
「そうだね。聖は変わらず生き続ける。これからもずっと、あたしたちの中で」
 七色に煌めくキーホルダーの小さな頬を、楓は何度も親指で撫でた。
「ちったぁ成長してもらいてぇところだけどな」
 ははっと声を上げて、政宗が笑った。
「確かに」
 美乃里と楓もつられて吹き出す。
 三人の笑い声が波の音と混ざり合い、夕焼け色に薄く染まった空へと舞い上がった。

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