きんだーがーでん

紫水晶羅

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決裂

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 政宗から送られてきた住所をもとに最寄駅を調べた楓は、「こんな時間にどこ行くの?」という母親の言葉も耳に入らず、一目散に夜の街へと飛び出した。

 スマホが示した駅に着いた頃には、既に四十分が経過していた。
 駅前に停車しているタクシーに乗り込むと、楓はすぐさま運転手に住所を伝えた。
「すみません。急いで下さい」
 お願いします、と泣きそうな顔で頭を下げる楓に、「はいよ」と一言返すと、運転手はすぐさま車を発進させた。

「聖……」
 スマホの通話履歴を再び開く。
 試しに何度か掛けてみたが、聖に繋がることはなかった。

『もし俺が刺されたらさ』
 以前、学食で交わした他愛もない会話を思い出す。
『楓、助けに来てくれる?』
 あの時楓は、『行かない』と笑った。
 現実味のないやりとり。いつものふざけ合いのはずだった。
――まさか、本当に……?
 何度押しても繋がらない通話ボタンを、楓は忌々しげにじっと見つめた。

 駅前通りは混雑し、なかなか先へ進まない。時間だけが、ただ悪戯に過ぎていった。
「結構混んでるねぇ」
 まあ、クリスマスだからね、とタクシーの運転手が街路樹のイルミネーションを眺めて目を細めた。
 逸る気持ちを抑え、楓はスマホを握りしめる。
――どうか間に合って……。
 不吉な予感を振り払うように、楓は何度も心の中で繰り返した。


 暫くすると、ようやく車は渋滞を抜け、スムーズに走るようになってきた。
――早く。早く。
 祈るように両手を合わすと、楓は窓の外をじっと見つめた。

「あれ?」
 突然、運転手が奇妙な声を上げる。
「火事かなぁ?」
「えっ?」
 フロントガラスの向こうが、夕焼け空のように赤く染まっている。耳を澄ますと、遠くでサイレンの鳴る音がいくつも聞こえた。
「ちょうど、さっきお客さんが言ってた住所の辺りだね」
「まさか……」
 ガタガタと、楓の全身が震え出す。
 程なくして、車のスピードがゆっくりになった。

「ここから先は渋滞してるみたいだね。交通規制かかってるかも知れないよ」
 行ってみる? と運転手はルームミラー越しに確認した。
「あの……」
 その時、楓の手の中でスマホが震えた。
 慌てて画面を確認する。
 そこには、『政宗』と表示されていた。
 すみません、と一言断り、楓は通話ボタンをタップする。
「楓?」
 取り乱した政宗の声が、受話口から流れ出した。

「今どこだ?」
「タ、タクシーで、今、向かってる」
 自然と声が震える。
「来るな!」
 突然、政宗の大きな声が楓の耳をつんざいた。
「来ちゃダメだ!」
「なんで……?」
「いいから来るな!」
 けたたましいサイレンの音がいくつも、受話口を通して聞こえてくる。
「今から俺がそっちに行く。だから、お前はそこで……」
 楓は思わず通話を切った。
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