きんだーがーでん

紫水晶羅

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聖の決意

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「あのお嬢さんのせいかしら? 前にアパートのとこで会った」
「楓は関係ない」
「ふぅん。庇うのね」
 かっこいいじゃない、と静華はワインボトルに手を伸ばした。

「この家と財産を手放したら、俺はもう一文無しだ。何の価値もない。そんな男、邪魔なだけでしょ? ここまで育ててくれたことは感謝してる。でももう十分だよ。これからは俺、一人でだって生きていける。だからもう、静華さんも自由になっていいよ」
「自由?」
 チラリと聖に視線を流したあと、静華はグラスにワインをぎ足した。
「うん。静華さんだってまだ若いんだ。いつまでも死んだ夫の連れ子なんかが側にいたら……」
「聖」
 ドン! と勢いよくワインボトルをテーブルに置くと、静華は眉間に皺を寄せた。
「さっきから、何をごちゃごちゃ言ってるのかしら?」
「え……? だから、俺なんか手放して、さっさと次の人生を……」

 ふうぅぅっと長く息を吐き出すと、静華はグラスを掴んだ。その拍子に右手がナイフを弾く。クルリと回ったナイフは、そのままテーブルの下へと落ちていった。

 カツンとナイフは乾いた音を立て、白いタイルの床にステーキソースの模様を付ける。
 汚らわしいものでも見るような目つきでそれを見たあと、「拾ってくれる?」静華は視線を聖へと向けた。

 はあっと短く息をつくと、聖はのそりと席を立ち静華の足元に屈み込んだ。
 その刹那、ひざまずいた聖の髪を静華が左手で鷲掴んだ。
 うっと小さく呻き、聖が痛みに顔を歪める。
 そのままワインを口に含むと、静華は聖に口づけた。
「んっ……」
 繋がれた口の中を通り、静華から聖へと液体が移動する。
 苦しそうに目を瞑ったまま、聖はゴクリと喉を鳴らした。

「うっ……。げほっ。ごほっ……」
 静華の手が離れると同時に、聖の身体は床の上に崩れ落ちた。
「私も見くびられたもんね」
 静華が再び髪に触れる。聖の肩が、ビクリと跳ねた。
 優しくすくように髪を撫でた静華の指が、耳の後ろを通り顎のラインをそっとなぞる。
 怯えたで見上げる聖の表情かおを満足そうに覗き込み、静華は、その形の良い小さな顎を人差し指でグイッと上げた。

「何ひとつとして興味なんてないわよ。そんなもの」
「えっ?」
 ワインで濡れた聖の口元を親指で拭うと、静華は下卑た笑みを浮かべた。

「教えてあげましょうか? 今、私が一番欲しいもの」



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