きんだーがーでん

紫水晶羅

文字の大きさ
上 下
84 / 100
聖の決意

しおりを挟む


「昨日は楽しいイブを過ごせたのかしら?」
 グラスにワインを注ぎながら、静華は含んだ笑みを浮かべた。

 実家に顔を出した聖を「そっちから連絡くれるなんて、珍しいこともあるのね」と皮肉めいた表情かおで迎えた静華は、馴染みの肉屋から急遽買って来たという牛フィレステーキを用意して待っていた。
「あとでケーキも食べましょ」
 昨日の残りだけど、と静華はワインの入ったグラスを聖に渡した。
 静華の店では毎年、クリスマスイブに来店した客全員に、ショートケーキをサービスする。有名洋菓子店からこの日の為に特別に作ってもらうオリジナルケーキは、常連客たちの間で人気となっている。
 毎年多めに注文するため、余った分は従業員で分けるのだ。

「俺まだ未成年だよ」
 ワイングラスを受け取り、聖が呆れた顔で溜息をつく。
「いいじゃない、今日くらい。どうせあと三ヶ月もすれば成人なんでしょ?」
「あと三ヶ月は未成年だよ」
 テーブルにグラスを置くと、聖はおもむろに立ち上がり、キッチンへと向かった。
「何するの?」
「俺の飲み物取って来る」
「ミネラルウオーターしかないわよ?」
「じゃあ、それでいい」
 冷蔵庫からミネラルウオーターのボトルを出すと、聖はグラスにそれを注いだ。
「つまらない子……」
 テーブルに片肘をつき、静華はぼそりと毒づいた。

 グラスを手に、ようやく聖が席に着く。
「とりあえず、乾杯しましょ」
 もう待ちきれないという風に聖を急かすと、静華はワイングラスを上げた。
 それに倣い、聖も水の入ったグラスを持ち上げる。
「メリークリスマス」
 静華の掛け声で、二つのグラスはカチンと無機質な音を立てた。

「で? なんの話?」
 ナイフとフォークを手に取り、静華が訊ねる。
「えっ?」
 ごほんと一つむせたあと、聖は口元の水を手の甲で拭った。
「あなたから連絡してくるなんて、余程の用事でもない限りあり得ないもの」
 ナイフをステーキに食い込ませ、静華は口の端をいやらしく歪めた。
「なに? お金? それとも……」
「俺もう、抱かないから。静華さんのこと」
「え……?」
「成人したら、この家も出る」
「なぁに? いきなり」
 反抗期かしら? と静華は小馬鹿にしたように笑った。
「家も土地も財産も、全て好きにしたらいい」
 両手を膝の上に置き姿勢を正して座り直すと、聖は真っ直ぐ静華を見つめた。

「就職したらもう、静華さんの世話にはならない。四月からは、自分の力で生きて行く」
「それ、本気で言ってるの?」
 ぽかんと口を開け、静華が聖を見つめ返す。
「本気だよ」
 静華を見つめる琥珀色の瞳が、覚悟を決めたように力強く輝いた。

「聖……」
 カチャリと皿の上にナイフとフォークを置き、静華がふぅっと息をつく。
「随分、面白いこと言うようになったのね」
 独り言のように小さく呟くと、静華はふんっと鼻で笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

フリー台本と短編小説置き場

きなこ
ライト文芸
自作のフリー台本を思いつきで綴って行こうと思います。 短編小説としても楽しんで頂けたらと思います。 ご使用の際は、作品のどこかに"リンク"か、"作者きなこ"と入れていただけると幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】四季のごちそう、たらふくおあげんせ

秋月一花
ライト文芸
田舎に住んでいる七十代の高橋恵子と、夫を亡くして田舎に帰ってきたシングルマザー、青柳美咲。 恵子は料理をするのが好きで、たまに美咲や彼女の娘である芽衣にごちそうをしていた。 四季のごちそうと、その料理を楽しむほのぼのストーリー……のつもり! ※方言使っています ※田舎料理です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...