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聖の決意
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しおりを挟む「昨日は楽しいイブを過ごせたのかしら?」
グラスにワインを注ぎながら、静華は含んだ笑みを浮かべた。
実家に顔を出した聖を「そっちから連絡くれるなんて、珍しいこともあるのね」と皮肉めいた表情で迎えた静華は、馴染みの肉屋から急遽買って来たという牛フィレステーキを用意して待っていた。
「あとでケーキも食べましょ」
昨日の残りだけど、と静華はワインの入ったグラスを聖に渡した。
静華の店では毎年、クリスマスイブに来店した客全員に、ショートケーキをサービスする。有名洋菓子店からこの日の為に特別に作ってもらうオリジナルケーキは、常連客たちの間で人気となっている。
毎年多めに注文するため、余った分は従業員で分けるのだ。
「俺まだ未成年だよ」
ワイングラスを受け取り、聖が呆れた顔で溜息をつく。
「いいじゃない、今日くらい。どうせあと三ヶ月もすれば成人なんでしょ?」
「あと三ヶ月は未成年だよ」
テーブルにグラスを置くと、聖は徐に立ち上がり、キッチンへと向かった。
「何するの?」
「俺の飲み物取って来る」
「ミネラルウオーターしかないわよ?」
「じゃあ、それでいい」
冷蔵庫からミネラルウオーターのボトルを出すと、聖はグラスにそれを注いだ。
「つまらない子……」
テーブルに片肘をつき、静華はぼそりと毒づいた。
グラスを手に、ようやく聖が席に着く。
「とりあえず、乾杯しましょ」
もう待ちきれないという風に聖を急かすと、静華はワイングラスを上げた。
それに倣い、聖も水の入ったグラスを持ち上げる。
「メリークリスマス」
静華の掛け声で、二つのグラスはカチンと無機質な音を立てた。
「で? なんの話?」
ナイフとフォークを手に取り、静華が訊ねる。
「えっ?」
ごほんと一つむせたあと、聖は口元の水を手の甲で拭った。
「あなたから連絡してくるなんて、余程の用事でもない限りあり得ないもの」
ナイフをステーキに食い込ませ、静華は口の端をいやらしく歪めた。
「なに? お金? それとも……」
「俺もう、抱かないから。静華さんのこと」
「え……?」
「成人したら、この家も出る」
「なぁに? いきなり」
反抗期かしら? と静華は小馬鹿にしたように笑った。
「家も土地も財産も、全て好きにしたらいい」
両手を膝の上に置き姿勢を正して座り直すと、聖は真っ直ぐ静華を見つめた。
「就職したらもう、静華さんの世話にはならない。四月からは、自分の力で生きて行く」
「それ、本気で言ってるの?」
ぽかんと口を開け、静華が聖を見つめ返す。
「本気だよ」
静華を見つめる琥珀色の瞳が、覚悟を決めたように力強く輝いた。
「聖……」
カチャリと皿の上にナイフとフォークを置き、静華がふぅっと息をつく。
「随分、面白いこと言うようになったのね」
独り言のように小さく呟くと、静華はふんっと鼻で笑った。
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