きんだーがーでん

紫水晶羅

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聖の決意

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「ダメなわけない。だって……、あたしだってずっと……」
「楓?」
「離れたくない。このままずっと、聖といたいよ。だってあたし、いつの間にか聖のこと……」
「ストップ!」
 楓の口を、聖の右手がしっかり塞ぐ。途中で止められた言葉が、楓の口内でもごもごと音を立てた。
「そこから先は、俺に言わせて」
 いい? と訊かれ、楓は目をパチクリさせ黙って一つ頷いた。
 その姿に、クスリと聖が笑みをこぼす。ようやく解放された楓の艶やかな唇から、ふっと短く息が漏れた。
 楓の瞳に、期待と不安が混ざり合う。それを愛おしそうに見つめる聖の目が、緩やかに弧を描いた。

「好きだよ……。楓……。世界で一番、愛してる」
「聖……」
 楓の頬を涙が伝う。その頬を聖が両手で包み込んだ。
「あたしも……。聖が大好き……。世界で一番……愛して……」
 最後の言葉は、聖の唇で塞がれた。
 次々と溢れ出す想いを持て余すかのように、激しく何度も唇を重ねたあと、聖はきつく楓を抱きしめた。

「楓……。俺……」
 聖の声が涙で濡れる。
「聖……? 震えて……るの?」
 楓を包み込む聖の両腕が、小刻みに揺れていた。
「なんだ……? これ……? ダメだ……。止まらねぇ……」
 カチカチと歯を鳴らし、聖が全身を震わせる。
「初めてだ……。こんなの……。アホみてぇ……」
 震える声で、ククッと聖が喉を鳴らした。

「大丈夫」
 楓は両手を聖の背中に回すと、震える身体をそっと撫でた。
「あたしも、心臓バックバク」
 自分の胸を聖の身体に押し付けると、「ね?」楓は悪戯っぽく笑った。
「楓……」
 聖がふうっと息をつく。
 丁寧に巻かれた楓の髪を、聖は指でさらりと撫でた。

「やっぱ落ち着く」
「へっ?」
「楓の『大丈夫』は魔法の言葉だ」
 ゆっくりと、聖が身体を起こす。震えはもう、治まっていた。
「俺、ずっと思ってた。俺みたいな奴は、人を好きになっちゃいけないんだって……」
「そんなこと……」
「怖かったんだ。誰からも愛されたことのない人間が、誰かを愛することなんてできるのかって……」
「できるよ。だって聖は、こんなにも愛で溢れてる」

 ハッと息を呑んだあと、恐る恐る、聖は言葉を吐き出した。
「ほんとにいいの? こんな俺で」
「何言ってんの?」
「また楓を傷つけてしまうかも知れない」
 聖が口をつぐみ、きつく唇を噛み締める。琥珀色の瞳が、不安に揺れた。
「大丈夫」
 聖の頬にそっと手を添えると、楓はにっこり微笑んだ。

の。それにあたし、聖になら、何されたって怖くないから」
「楓……」
「もう逃げたりなんかしない。だから、一緒に幸せになろ?」
 琥珀色の瞳が大きく見開く。そのに、揺るぎない楓の想いが映り込む。
 僅かな静寂のあと、聖の眉が、ぐにゃりと歪んだ。
「ああ……どうしよ……。俺今、めっちゃ幸せ……」
 聖の瞳から、大粒の涙が転がり落ちる。
 楓の髪を優しく耳にかけたあと、聖はゆっくり、その顔を引き寄せた。

「愛してるじゃ足りないくらい、愛してる」
「何それ?」
 ぷっと楓が吹き出す。その唇を、聖の柔らかな唇がふわりと包み込んだ。

「楓……。ありがとう……」

 そっと楓を抱き寄せると、聖は大切そうに腕の中に閉じ込めた。
「あたしも、愛してるじゃ足りないくらい、愛してる」
 楓の言葉が、聖の胸に染み込んでいく。
 窓の外に、今年初めての雪が、音もなく静かに舞い降りた……。

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