81 / 100
聖の決意
1
しおりを挟む
「紅茶でいい?」
先ほどデザートと一緒にコーヒーをご馳走になったからか、聖はティーバックを取り出しながら楓に訊ねた。
「うん。ありがと」
ソファーに腰掛け、少し緊張した声で楓が答えた。
電気ケトルから聞こえるコポコポという音が、静かな部屋に流れ出す。
二人は黙ったまま、その音に意識を委ねた。
暫くすると、キッチンから甘い香りが漂ってきた。
「キャラメルティー。最近ハマってるんだ」
甘くすると美味しいよ、と聖は、ティーカップと一緒に砂糖とミルクもテーブルの上に置いた。
「いい香り」
カップを持ち上げ一度香りを嗅いでから、楓は聖に倣って砂糖とミルクを紅茶に溶かした。
「あのさ……」
お互い一口飲んだところで、聖がポツリと言葉を落とす。
「うん……」
カップを見つめながら、楓が答えた。
「明日、決着をつけてくる」
「えっ?」
咄嗟に楓は、聖の方へと顔を向けた。
楓を見つめる聖の瞳が、ある種の決意を蓄え、強い光を放った。
「成人したら俺、静華とは縁を切る。いつまでも、あいつの玩具でいる訳にはいかない」
「できるの? そんなこと」
楓の声が、不安に揺れる。
「大丈夫。四月になれば、俺も社会人になる。そうすれば、自立した生活だって送れる。もう、あの女の世話になんてならなくたって生きていけるんだ。それに……」
一旦切ると、聖はふっと表情を和らげた。
楓を見つめる眼差しが、穏やかな光を帯びた。
「これからは俺、楓と同じ未来を歩きたい」
「え……?」
「俺ね、楓のおかげで救われたんだよ」
「別に、あたしは何も……」
ううん、と首を振ると、聖は一つ一つ噛み締めるように言葉を繋いだ。
「前に話したでしょ? セックス依存症のこと」
うん、と楓は頷いた。
「あれからね、不思議とそういう気分にならなくて……。誘われる度に、楓の顔がチラついて、なんだか申し訳ない気持ちになって……」
「あたしの……顔が?」
「そう。まるで、浮気中に彼女の顔がチラつくみたいな?」
そんな経験ないけど、と聖が笑った。
「それでね、俺、気づいたんだ。ああ、俺にとって楓は、この世で一番大切な人なんだなぁ、って」
「聖……」
「俺、楓の為なら何でもできるよ。どんな手を使っても、必ずあの女の支配から抜け出してみせる。だから……」
楓の方へと身体を向け、聖は大きく息を吸った。
軽く目を瞑り、ゆっくり息を吐き出したあと、聖は一点の曇りもない澄んだ瞳で、楓を真っ直ぐ見つめた。
「これからもずっと、俺の側にいて下さい」
「……!」
楓が両手で口を覆う。驚きに満ちた大きな瞳から、みるみる涙が溢れてきた。
「ダメ?」
まるで何かを強請る子どもみたいなあどけない表情で、聖が楓を覗き込む。
ふるふると何度も首を振りながら、「ダメじゃない」楓は小さく呟いた。
先ほどデザートと一緒にコーヒーをご馳走になったからか、聖はティーバックを取り出しながら楓に訊ねた。
「うん。ありがと」
ソファーに腰掛け、少し緊張した声で楓が答えた。
電気ケトルから聞こえるコポコポという音が、静かな部屋に流れ出す。
二人は黙ったまま、その音に意識を委ねた。
暫くすると、キッチンから甘い香りが漂ってきた。
「キャラメルティー。最近ハマってるんだ」
甘くすると美味しいよ、と聖は、ティーカップと一緒に砂糖とミルクもテーブルの上に置いた。
「いい香り」
カップを持ち上げ一度香りを嗅いでから、楓は聖に倣って砂糖とミルクを紅茶に溶かした。
「あのさ……」
お互い一口飲んだところで、聖がポツリと言葉を落とす。
「うん……」
カップを見つめながら、楓が答えた。
「明日、決着をつけてくる」
「えっ?」
咄嗟に楓は、聖の方へと顔を向けた。
楓を見つめる聖の瞳が、ある種の決意を蓄え、強い光を放った。
「成人したら俺、静華とは縁を切る。いつまでも、あいつの玩具でいる訳にはいかない」
「できるの? そんなこと」
楓の声が、不安に揺れる。
「大丈夫。四月になれば、俺も社会人になる。そうすれば、自立した生活だって送れる。もう、あの女の世話になんてならなくたって生きていけるんだ。それに……」
一旦切ると、聖はふっと表情を和らげた。
楓を見つめる眼差しが、穏やかな光を帯びた。
「これからは俺、楓と同じ未来を歩きたい」
「え……?」
「俺ね、楓のおかげで救われたんだよ」
「別に、あたしは何も……」
ううん、と首を振ると、聖は一つ一つ噛み締めるように言葉を繋いだ。
「前に話したでしょ? セックス依存症のこと」
うん、と楓は頷いた。
「あれからね、不思議とそういう気分にならなくて……。誘われる度に、楓の顔がチラついて、なんだか申し訳ない気持ちになって……」
「あたしの……顔が?」
「そう。まるで、浮気中に彼女の顔がチラつくみたいな?」
そんな経験ないけど、と聖が笑った。
「それでね、俺、気づいたんだ。ああ、俺にとって楓は、この世で一番大切な人なんだなぁ、って」
「聖……」
「俺、楓の為なら何でもできるよ。どんな手を使っても、必ずあの女の支配から抜け出してみせる。だから……」
楓の方へと身体を向け、聖は大きく息を吸った。
軽く目を瞑り、ゆっくり息を吐き出したあと、聖は一点の曇りもない澄んだ瞳で、楓を真っ直ぐ見つめた。
「これからもずっと、俺の側にいて下さい」
「……!」
楓が両手で口を覆う。驚きに満ちた大きな瞳から、みるみる涙が溢れてきた。
「ダメ?」
まるで何かを強請る子どもみたいなあどけない表情で、聖が楓を覗き込む。
ふるふると何度も首を振りながら、「ダメじゃない」楓は小さく呟いた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる