きんだーがーでん

紫水晶羅

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聖の決意

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「紅茶でいい?」
 先ほどデザートと一緒にコーヒーをご馳走になったからか、聖はティーバックを取り出しながら楓に訊ねた。
「うん。ありがと」
 ソファーに腰掛け、少し緊張した声で楓が答えた。
 電気ケトルから聞こえるコポコポという音が、静かな部屋に流れ出す。
 二人は黙ったまま、その音に意識を委ねた。

 暫くすると、キッチンから甘い香りが漂ってきた。
「キャラメルティー。最近ハマってるんだ」
 甘くすると美味しいよ、と聖は、ティーカップと一緒に砂糖とミルクもテーブルの上に置いた。
「いい香り」
 カップを持ち上げ一度香りを嗅いでから、楓は聖に倣って砂糖とミルクを紅茶に溶かした。

「あのさ……」
 お互い一口飲んだところで、聖がポツリと言葉を落とす。
「うん……」
 カップを見つめながら、楓が答えた。
「明日、決着をつけてくる」
「えっ?」
 咄嗟に楓は、聖の方へと顔を向けた。
 楓を見つめる聖の瞳が、ある種の決意を蓄え、強い光を放った。

「成人したら俺、静華あの女とは縁を切る。いつまでも、あいつの玩具おもちゃでいる訳にはいかない」
「できるの? そんなこと」
 楓の声が、不安に揺れる。
「大丈夫。四月になれば、俺も社会人になる。そうすれば、自立した生活だって送れる。もう、あの女の世話になんてならなくたって生きていけるんだ。それに……」
 一旦切ると、聖はふっと表情を和らげた。
 楓を見つめる眼差しが、穏やかな光を帯びた。

「これからは俺、楓と同じ未来を歩きたい」
「え……?」
「俺ね、楓のおかげで救われたんだよ」
「別に、あたしは何も……」
 ううん、と首を振ると、聖は一つ一つ噛み締めるように言葉を繋いだ。

「前に話したでしょ? セックス依存症のこと」
 うん、と楓は頷いた。
「あれからね、不思議とそういう気分にならなくて……。誘われる度に、楓の顔がチラついて、なんだか申し訳ない気持ちになって……」
「あたしの……顔が?」
「そう。まるで、浮気中に彼女の顔がチラつくみたいな?」
 そんな経験ないけど、と聖が笑った。
「それでね、俺、気づいたんだ。ああ、俺にとって楓は、この世で一番大切な人なんだなぁ、って」
「聖……」
「俺、楓の為なら何でもできるよ。どんな手を使っても、必ずあの女の支配から抜け出してみせる。だから……」
 楓の方へと身体を向け、聖は大きく息を吸った。
 軽く目を瞑り、ゆっくり息を吐き出したあと、聖は一点の曇りもない澄んだ瞳で、楓を真っ直ぐ見つめた。

「これからもずっと、俺の側にいて下さい」
「……!」

 楓が両手で口を覆う。驚きに満ちた大きな瞳から、みるみる涙が溢れてきた。
「ダメ?」
 まるで何かを強請ねだる子どもみたいなあどけない表情かおで、聖が楓を覗き込む。
 ふるふると何度も首を振りながら、「ダメじゃない」楓は小さく呟いた。
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