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幸せなクリスマス
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しおりを挟む「とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」
サービスのプチカップケーキもしっかり平らげた二人は、帰り支度を整えると席を立った。
いつの間にか店内は、聖と楓だけになっていた。
「遅くまでごめんね」
会計をしながら、聖が謝る。
「いや、まだ全然大丈夫だよ。うちは九時閉店だから」
シンプルな丸い壁掛け時計は、八時を示していた。
「でも今日はもうおしまいかなぁ。みんなどっかでパーティーでもやってるんだろ」
顎の無精髭を擦りながら、店主が窓の向こうを眺めた。
「親父さんは? これからパーティー?」
「うちは家内と二人だからな。店の残りもんのケーキでも土産に持って帰ってやるさ」
深く皺の刻まれた目尻を下げ、店主は優しく微笑んだ。
「んじゃ、俺たちはそろそろ。奥さん、待たしちゃいけないから」
「待っててくれてるといいがな」
ははっと笑うと、「君たちも気をつけて」と店主は軽く右手を上げた。
「はい。ありがとうございます」
楓がペコリと頭を下げる。
「またおいで。今度は美味しいジェラートご馳走してやるよ」
水嶋君には内緒でね、と店主は悪戯っぽく片目を瞑った。
「あのさぁ。俺の大事な人、誘惑しないでくれる?」
「へっ?」
「あはは。心配しなさんな。さすがに水嶋君と俺とじゃ勝負にならんだろ」
楓の動揺を置き去りにして、二人は楽しげに軽口を叩き合う。
暫く笑い合ったあと、「それじゃ、またね」ようやく聖は入り口ドアに手をかけた。
「良いクリスマスを」
その背に店主が声をかける。
「親父さんもね」
もう一度礼を言うと、二人は店を後にした。
夜の街に踏み出した身体に、冬の冷気が絡みつく。
オフィスビルが立ち並ぶ通りに人影はなく、辺りはシンと静まり返っていた。
「寒い」
マフラーを口元まで引き上げ、楓がぶるりと身を縮める。
「雪降りそうだね」
聖が天を仰ぎ、白い息を吐き出した。
「ねぇ」
その横顔に、楓が声をかける。
「ん?」
空を見上げたまま、聖が答えた。
「昼間の続き、まだ聞いてないんだけど」
「ああ……」
そうだね、と聖はゆっくり顔を戻した。
「楓、まだ時間ある?」
「あ、うん。大丈夫だけど?」
「じゃあさ、ちょっと部屋、寄ってかない?」
「いいけど……」
探るように、楓が答えた。
「大事な話があるんだ」
真剣な面持ちで、聖は楓の瞳を覗き込んだ。
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