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幸せなクリスマス
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クリスマスイブの朝は、空気がキンと澄み渡り、今にも雪が降り出しそうな気配が漂っていた。
「ホワイトクリスマスになるかなぁ?」
待ち合わせの駅前ターミナルで空を見上げ、楓はポツリ呟いた。
目の前を大勢の人々が行き交う。
サラリーマン、OL、主婦……。その中に、幸せそうなカップルの姿も混じっている。
「あたしと聖の関係って一体……?」
楓が首を傾げた時。
「楓」
背後から、甘い声が響いてきた。
振り返るとそこには、はにかんだような顔で笑う聖の姿があった。
「ごめんね。待った?」
「ううん。あたしもさっき着いたばっかりだよ」
楓は笑顔で首を振った。
「そういえばさ、こんな風に待ち合わせするの初めてじゃね?」
なんか新鮮、と聖が通りに目を向けた。
「言われてみれば」
急に恥ずかしくなり、楓は頬を赤らめた。
「たまにはいいね、こういうの」
聖が楓に微笑む。
「うん。いいかも」
恥じらいながら、楓が頷いた。
当初は車で出掛けるつもりだったのだが、クリスマスイブということで道が混雑する可能性を考え、電車を使って街歩きを楽しむことにしたのだ。
まるで本当のデートみたいだと、楓が一人笑みをこぼした時。
「ん」
急に目の前に、聖の右手が差し出された。
「ん?」
楓が首を傾げる。
「手、繋ごっか」
仔猫みたいな甘えた顔で、聖がふにゃりと笑った。
「あ……。ええっと……」
「嫌?」
差し出された右手と聖の顔を見比べる。
無邪気に笑うその顔に「別に」ぶっきらぼうに答えると、楓はその手に自分の左手を重ねた。
「じゃ、行こっか」
繋いだ手を握り直し、聖が前を向き歩き出す。
その横を、楽しげにはしゃぐ一組のカップルが通り過ぎて行った。
――あたしたちも、あんな風に見えてるのかな?
幸せそうに肩を寄せ合い歩いて行く男女の後ろ姿を見つめ、楓は密かに顔を綻ばせた。
イブの街は、予想通り賑わっていた。
いくつもの店が立ち並ぶ駅前通りを歩きながら、二人は気になる店に入ったり、ウインドーショッピングをしたりして楽しんだ。
どの店もクリスマスの飾り付けが施され、見ているだけで楽しくなる。
街に流れるBGM。サンタクロースの店員さん。
まるでワンダーランドのような世界の中を、二人は恋人同士のように寄り添いながら進んだ。
時折交わす視線が温かい。
その穏やかな温もりに、二人は自然と笑みがこぼれた。
「わぁ。綺麗」
突然、楓が足を止める。
「どした?」
「ね、これ可愛い」
ショーウィンドウを覗き込む楓の瞳が、キラキラ輝いた。
「ほんとだ」
楓が指差す場所には、クリスタルガラスで作られた手のひらサイズの猫の置物があった。
「なんかあの子、聖に似てる」
「マジで?」
丸くなって寝ている猫、右手を上げて顔を洗う仕草の猫、澄ました顔で歩く猫。その中の一つが、小首を傾げて座り、じっとこちらを見つめていた。
「ほら。瞳の色も、聖そっくり」
「そうかなぁ?」
琥珀色に輝くその瞳を見つめ、楓が嬉しそうに笑った。
「気に入ったんなら買ってやるよ」
楓の手を引き、聖が店内へと入って行く。
「え、でも……」
「クリスマスプレゼント」
チラリと振り向き、聖がにっこり微笑んだ。
「ホワイトクリスマスになるかなぁ?」
待ち合わせの駅前ターミナルで空を見上げ、楓はポツリ呟いた。
目の前を大勢の人々が行き交う。
サラリーマン、OL、主婦……。その中に、幸せそうなカップルの姿も混じっている。
「あたしと聖の関係って一体……?」
楓が首を傾げた時。
「楓」
背後から、甘い声が響いてきた。
振り返るとそこには、はにかんだような顔で笑う聖の姿があった。
「ごめんね。待った?」
「ううん。あたしもさっき着いたばっかりだよ」
楓は笑顔で首を振った。
「そういえばさ、こんな風に待ち合わせするの初めてじゃね?」
なんか新鮮、と聖が通りに目を向けた。
「言われてみれば」
急に恥ずかしくなり、楓は頬を赤らめた。
「たまにはいいね、こういうの」
聖が楓に微笑む。
「うん。いいかも」
恥じらいながら、楓が頷いた。
当初は車で出掛けるつもりだったのだが、クリスマスイブということで道が混雑する可能性を考え、電車を使って街歩きを楽しむことにしたのだ。
まるで本当のデートみたいだと、楓が一人笑みをこぼした時。
「ん」
急に目の前に、聖の右手が差し出された。
「ん?」
楓が首を傾げる。
「手、繋ごっか」
仔猫みたいな甘えた顔で、聖がふにゃりと笑った。
「あ……。ええっと……」
「嫌?」
差し出された右手と聖の顔を見比べる。
無邪気に笑うその顔に「別に」ぶっきらぼうに答えると、楓はその手に自分の左手を重ねた。
「じゃ、行こっか」
繋いだ手を握り直し、聖が前を向き歩き出す。
その横を、楽しげにはしゃぐ一組のカップルが通り過ぎて行った。
――あたしたちも、あんな風に見えてるのかな?
幸せそうに肩を寄せ合い歩いて行く男女の後ろ姿を見つめ、楓は密かに顔を綻ばせた。
イブの街は、予想通り賑わっていた。
いくつもの店が立ち並ぶ駅前通りを歩きながら、二人は気になる店に入ったり、ウインドーショッピングをしたりして楽しんだ。
どの店もクリスマスの飾り付けが施され、見ているだけで楽しくなる。
街に流れるBGM。サンタクロースの店員さん。
まるでワンダーランドのような世界の中を、二人は恋人同士のように寄り添いながら進んだ。
時折交わす視線が温かい。
その穏やかな温もりに、二人は自然と笑みがこぼれた。
「わぁ。綺麗」
突然、楓が足を止める。
「どした?」
「ね、これ可愛い」
ショーウィンドウを覗き込む楓の瞳が、キラキラ輝いた。
「ほんとだ」
楓が指差す場所には、クリスタルガラスで作られた手のひらサイズの猫の置物があった。
「なんかあの子、聖に似てる」
「マジで?」
丸くなって寝ている猫、右手を上げて顔を洗う仕草の猫、澄ました顔で歩く猫。その中の一つが、小首を傾げて座り、じっとこちらを見つめていた。
「ほら。瞳の色も、聖そっくり」
「そうかなぁ?」
琥珀色に輝くその瞳を見つめ、楓が嬉しそうに笑った。
「気に入ったんなら買ってやるよ」
楓の手を引き、聖が店内へと入って行く。
「え、でも……」
「クリスマスプレゼント」
チラリと振り向き、聖がにっこり微笑んだ。
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