きんだーがーでん

紫水晶羅

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幸せなクリスマス

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 十二月は慌ただしく過ぎ去っていく。
 気がつけばもう、冬休みはすぐそこに迫っていた。

「今年は喧嘩にならねぇように気をつけるよ」
 正月に帰省した際、父親に川政酒造を継ぎたい意向を話す予定の政宗は、少し緊張した面持ちで皆に宣言した。

 あれから美乃里は、楓に政宗との一件を全て話して聞かせた。
 美乃里の辛い胸の内を知った楓は、涙を流さずにはいられなかった。
「大丈夫。いつか必ず、笑える日が来る」
 深い傷を負った友の身体をきつく抱きしめ、楓は、少しやつれたその背中をいつまでも撫で続けていた。

「土産は霞政宗でいいぞ」
 聖が軽口を叩く。
 楓から状況は聞いているはずなのに、聖はそのことについて一切触れてこない。
 全てを知りながらも、四人はお互いの事を想い、今まで通りの関係を続けている。
 そんな仲間の気遣いに感謝しつつ、政宗はどんぶりの中のトンカツを箸で摘み上げた。

「未成年が偉そうに言うな」
 聖を睨むと同時に、政宗がトンカツにかぶりつく。
「成人するまで取っとくんだよ」
 千切りキャベツをムシャムシャ頬張り、仏頂面で聖は言った。
「そん時ゃ、飽きるほど送ってやるよ」
「言ったね。赤字になっても泣きついてくんなよ」
「んな事くらいで赤字んなるかよ。たかがお前の飲み代のみしろ。ガキの小遣いにもなりゃしねぇよ」

 息の合った二人の掛け合いを横目で見ながら、楓と美乃里は顔を見合わせ笑った。
「あーあ。ここの定食が食べられるのもあと僅かかぁ」
 カラリと揚がった生姜醤油の鶏からを一口かじり、楓は広い学食を見渡した。

 短大の二年次は、一月の期末考査が終わると全てのカリキュラムが修了する。
 ここに通うのもあと僅かだと思うと、感慨深いものがある。
 四人は示し合わせたかのように食べるのをやめ、ぐるりと周りを見回した。

「別にお前らはいつでも来れんじゃね?」
 再びカツ丼に手をつけると、近いんだし、と政宗が不貞腐れ気味に言った。
「寂しくなったらいつでも遊びに来いよ。暇だったら付き合ってやるよ」
 ニヤリと聖が笑う。
「なんかお前、最近やけに上からじゃね?」
 政宗が睨む。
「そ? 気のせいじゃね?」
 澄ましてハンバーグを頬張る聖をじっと見つめたあと、「あ、そっか」納得したように、政宗が首肯した。

「チャラさがなくなったんだ」
「はぁ?」
「確かに」
「そういえば」
 美乃里と楓も同調する。
「なんか、前よりしっかりした気がする」
 隣に座る聖を上から下まで舐め回すように見ながら、政宗は、なぁ、と目の前の二人に確認した。
「うん。ちょっと大人になった気がする」
 カレーライスのスプーンをビシッと立て、美乃里がにっこり微笑んだ。
「大人だって。良かったね。聖」
 揶揄からかうような言葉の中にも喜びを滲ませ、楓が聖の顔を覗き込んだ。

「なんだよ。人をガキみたいに……」
 むくれて口を尖らせたあと、「でも……」聖は楓の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「楓のおかげかもな」
「へっ?」
「俺、楓のおかげで強くなれた気がする。ありがとう」
「聖……」
 澄んだ琥珀色の瞳が、楓を映して光り輝く。
「あたしこそ……」
 楓が瞳を潤ませた時。
「悪りぃけど、そういうのは二人の時にやってくれ」
 政宗が、わざと大きな音を立てて味噌汁をすすった。

「もう。政宗……」
 聖と楓を横目で見たあと、美乃里が苦笑いしながら政宗をたしなめた。
「ははっ。ごめんね、ラブラブで」
 味噌汁をすする政宗の背中を聖が勢いよく叩く。ごふっと一つせると、「てめぇっ!」政宗が聖を睨んだ。
「もう、やめなって」
 僅かに頬を染め、楓が二人に割って入る。
「あはは。最高」
 突然、美乃里が腹を抱えて笑い出した。

「美乃里……?」
 何かに取り憑かれたかのように笑い転げる美乃里の姿を、政宗が驚きに満ちた表情かおで見つめる。
 楓と聖も、珍しいものでも見るような目で美乃里を見たあと、二人で顔を見合わせた。

「みんな、最高……」
 目尻の涙を拭いながら、美乃里は笑い続ける。
「ずっと、友だちでいようね」
 その声が、次第に涙で滲む。
「当たり前でしょ?」
 美乃里の肩に腕を回し、楓がその手に力を込める。
「俺はそのつもりだけど?」
 両手で頬杖をつき、聖がにっこり微笑む。
「会いたくなったらいつでも呼べよ。すぐに駆けつけてやるから」
 呼ばれなくても来るけどな、と政宗が悪戯っぽく笑った。

「うん……」
 美乃里が顔を上げ、楓、聖、と順に見たあと、最後に政宗に視線を合わせる。
 穏やかなその笑顔を受け止めた瞬間、美乃里の瞳が大きく歪んだ。

「みんな、大好き……」

 涙で濡れた顔で、美乃里が弾けるように笑った。

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