きんだーがーでん

紫水晶羅

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「政宗が童貞なのは置いといて」
 聖が口を挟む。
「てめっ……!」
「クリスマスなんだけどさ」
 襟元を掴む政宗の手を「はいはい」と軽くあしらい、聖は淡々と話を進めた。

「今年のクリスマスは、楓と二人がいい」
「へっ?」
 組んだ両手の上に顎を乗せ、聖は熱のこもった眼差しで、楓を見つめた。
「ダメ?」
「いや、あの、ダメじゃ……ないけど……」
 戸惑いながら、楓は美乃里と政宗に視線を流す。
「そっか。そりゃそうだよね。ごめん。気が利かなくて」
「そ、そうだな。確かに。なんかいっつも四人でいるから忘れてたよ。お前らが付き合ってんの」
 美乃里の言葉に、政宗はようやく腰を落ち着かせ、二人をまじまじと眺めた。

 ありがとう、と美乃里と政宗に礼を言うと、聖は楓に向き直った。
「んじゃ、決まり。どっか行きたいとことかあったらピックアップしといて」
 聖が満面の笑みを浮かべる。
「あ、うん。わかった」
 笑顔で答えたあと、楓は恥ずかしそうに下を向いた。
「いいなぁ」
 頬杖をつき、美乃里が二人に羨望の眼差しを向ける。
 その横顔を、政宗が、切なさの滲むで見つめていた……。



「美乃里。これからちょっと時間あるか?」
 楓と聖を改札口で見送ったあと、帰ろうとする美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ああ、うん。大丈夫だけど……」
 政宗の真剣な表情に気圧され、美乃里は、少し身構えて答えた。
「悪りぃな」
 緊張した面持ちのまま、「じゃ、行こっか」政宗は改札に向かった。
「ちょっと待って」
 バッグからICカードを取り出しながら、美乃里はその背を追いかけた。


***


「寒くないか?」
 隣に座る美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ううん。大丈夫」
 美乃里がにっこり微笑んだ。

 学校の近くだと知ってる奴に会いそうだから、と政宗が選んだ場所は、以前、美乃里が妊娠を告げた、あの公園だった。
 青々と生い茂っていた木の葉は既に赤茶け、所々虫が喰って穴が開いている物もある。時折吹く風が木の葉を巻き込み、カサカサと乾いた音を立てた。

 砂場やブランコで遊んでいた数人の子どもが、母親たちの声掛けで遊びをやめ、それぞれ散り散りに去っていく。これから夕食の支度をするのだろう。買い物袋を下げた母親の姿も見える。

 楽しそうに話をしながら帰って行く子どもたちを見送ったあと、政宗は背中からデイパックを下ろし、ガサゴソと中身を漁った。
「ええっと、まずは……」
 中から細長い袋を取り出すと、「ハイこれ」と政宗は、美乃里の前に差し出した。
「こ、今度は何?」
 以前、ネックレスと共にいきなり告白されたことを思い出し、美乃里は警戒心を露わにした。
「就職祝い。美乃里、内定決まっただろ?」
「ああ……」

 先日美乃里は、隣の市にある私立保育園に就職が決まったばかりだ。「電車乗り換えなきゃいけないから、ちょっと大変なんだけどね」と不満を漏らすも、その表情かおからは嬉しさが滲んでいた。

「ボールペン。保育士になったら、何かと必要だろ?」
「ありがとう」
 開けていい? と訊く美乃里に、どうぞ、と政宗が手のひらで促す。
 丁寧にラッピングを解き箱を開けると、中には真珠色のボールペンが入っていた。
 金色のクリップの部分には、ピンクのラインストーンが一粒埋め込まれている。
「綺麗……」
「美乃里に似合うと思って」
 政宗が頬を赤らめ、伏し目がちに笑った。

「嬉しいけど……。なんか悪いよ。いつも貰ってばかりで……」
 美乃里が、申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。
「いいんだ。俺が勝手にやってることだから」
 気にすんな、と政宗は眉間のあたりを人差し指で軽く掻いた。

 そんな政宗を美乃里は困った顔で見つめていたが、やがてふっと息をつき、「わかった」と頬を緩ませた。
「ありがとう。大事に使うね」
 再び袋に戻したボールペンの包みを大切そうにトートバッグに仕舞う美乃里を横目で見たあと、政宗は視線を空へと向けた。

「あのさ、ここからが本題なんだけど……」
 夕焼けに染まる雲を眩しそうに見つめ、政宗が固い声で切り出した。
「なに?」
 美乃里が身を固くし、居住まいを正した。

「俺、新潟に帰ろうと思うんだ」
「えっ?」

 思いもよらぬ告白に、美乃里は両目を大きく見開き、隣に座る政宗の顔を凝視した。
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