73 / 100
終止符
2
しおりを挟む
「政宗が童貞なのは置いといて」
聖が口を挟む。
「てめっ……!」
「クリスマスなんだけどさ」
襟元を掴む政宗の手を「はいはい」と軽くあしらい、聖は淡々と話を進めた。
「今年のクリスマスは、楓と二人がいい」
「へっ?」
組んだ両手の上に顎を乗せ、聖は熱のこもった眼差しで、楓を見つめた。
「ダメ?」
「いや、あの、ダメじゃ……ないけど……」
戸惑いながら、楓は美乃里と政宗に視線を流す。
「そっか。そりゃそうだよね。ごめん。気が利かなくて」
「そ、そうだな。確かに。なんかいっつも四人でいるから忘れてたよ。お前らが付き合ってんの」
美乃里の言葉に、政宗はようやく腰を落ち着かせ、二人をまじまじと眺めた。
ありがとう、と美乃里と政宗に礼を言うと、聖は楓に向き直った。
「んじゃ、決まり。どっか行きたいとことかあったらピックアップしといて」
聖が満面の笑みを浮かべる。
「あ、うん。わかった」
笑顔で答えたあと、楓は恥ずかしそうに下を向いた。
「いいなぁ」
頬杖をつき、美乃里が二人に羨望の眼差しを向ける。
その横顔を、政宗が、切なさの滲む瞳で見つめていた……。
「美乃里。これからちょっと時間あるか?」
楓と聖を改札口で見送ったあと、帰ろうとする美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ああ、うん。大丈夫だけど……」
政宗の真剣な表情に気圧され、美乃里は、少し身構えて答えた。
「悪りぃな」
緊張した面持ちのまま、「じゃ、行こっか」政宗は改札に向かった。
「ちょっと待って」
バッグからICカードを取り出しながら、美乃里はその背を追いかけた。
***
「寒くないか?」
隣に座る美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ううん。大丈夫」
美乃里がにっこり微笑んだ。
学校の近くだと知ってる奴に会いそうだから、と政宗が選んだ場所は、以前、美乃里が妊娠を告げた、あの公園だった。
青々と生い茂っていた木の葉は既に赤茶け、所々虫が喰って穴が開いている物もある。時折吹く風が木の葉を巻き込み、カサカサと乾いた音を立てた。
砂場やブランコで遊んでいた数人の子どもが、母親たちの声掛けで遊びをやめ、それぞれ散り散りに去っていく。これから夕食の支度をするのだろう。買い物袋を下げた母親の姿も見える。
楽しそうに話をしながら帰って行く子どもたちを見送ったあと、政宗は背中からデイパックを下ろし、ガサゴソと中身を漁った。
「ええっと、まずは……」
中から細長い袋を取り出すと、「ハイこれ」と政宗は、美乃里の前に差し出した。
「こ、今度は何?」
以前、ネックレスと共にいきなり告白されたことを思い出し、美乃里は警戒心を露わにした。
「就職祝い。美乃里、内定決まっただろ?」
「ああ……」
先日美乃里は、隣の市にある私立保育園に就職が決まったばかりだ。「電車乗り換えなきゃいけないから、ちょっと大変なんだけどね」と不満を漏らすも、その表情からは嬉しさが滲んでいた。
「ボールペン。保育士になったら、何かと必要だろ?」
「ありがとう」
開けていい? と訊く美乃里に、どうぞ、と政宗が手のひらで促す。
丁寧にラッピングを解き箱を開けると、中には真珠色のボールペンが入っていた。
金色のクリップの部分には、ピンクのラインストーンが一粒埋め込まれている。
「綺麗……」
「美乃里に似合うと思って」
政宗が頬を赤らめ、伏し目がちに笑った。
「嬉しいけど……。なんか悪いよ。いつも貰ってばかりで……」
美乃里が、申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。
「いいんだ。俺が勝手にやってることだから」
気にすんな、と政宗は眉間のあたりを人差し指で軽く掻いた。
そんな政宗を美乃里は困った顔で見つめていたが、やがてふっと息をつき、「わかった」と頬を緩ませた。
「ありがとう。大事に使うね」
再び袋に戻したボールペンの包みを大切そうにトートバッグに仕舞う美乃里を横目で見たあと、政宗は視線を空へと向けた。
「あのさ、ここからが本題なんだけど……」
夕焼けに染まる雲を眩しそうに見つめ、政宗が固い声で切り出した。
「なに?」
美乃里が身を固くし、居住まいを正した。
「俺、新潟に帰ろうと思うんだ」
「えっ?」
思いもよらぬ告白に、美乃里は両目を大きく見開き、隣に座る政宗の顔を凝視した。
聖が口を挟む。
「てめっ……!」
「クリスマスなんだけどさ」
襟元を掴む政宗の手を「はいはい」と軽くあしらい、聖は淡々と話を進めた。
「今年のクリスマスは、楓と二人がいい」
「へっ?」
組んだ両手の上に顎を乗せ、聖は熱のこもった眼差しで、楓を見つめた。
「ダメ?」
「いや、あの、ダメじゃ……ないけど……」
戸惑いながら、楓は美乃里と政宗に視線を流す。
「そっか。そりゃそうだよね。ごめん。気が利かなくて」
「そ、そうだな。確かに。なんかいっつも四人でいるから忘れてたよ。お前らが付き合ってんの」
美乃里の言葉に、政宗はようやく腰を落ち着かせ、二人をまじまじと眺めた。
ありがとう、と美乃里と政宗に礼を言うと、聖は楓に向き直った。
「んじゃ、決まり。どっか行きたいとことかあったらピックアップしといて」
聖が満面の笑みを浮かべる。
「あ、うん。わかった」
笑顔で答えたあと、楓は恥ずかしそうに下を向いた。
「いいなぁ」
頬杖をつき、美乃里が二人に羨望の眼差しを向ける。
その横顔を、政宗が、切なさの滲む瞳で見つめていた……。
「美乃里。これからちょっと時間あるか?」
楓と聖を改札口で見送ったあと、帰ろうとする美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ああ、うん。大丈夫だけど……」
政宗の真剣な表情に気圧され、美乃里は、少し身構えて答えた。
「悪りぃな」
緊張した面持ちのまま、「じゃ、行こっか」政宗は改札に向かった。
「ちょっと待って」
バッグからICカードを取り出しながら、美乃里はその背を追いかけた。
***
「寒くないか?」
隣に座る美乃里に、政宗が声を掛けた。
「ううん。大丈夫」
美乃里がにっこり微笑んだ。
学校の近くだと知ってる奴に会いそうだから、と政宗が選んだ場所は、以前、美乃里が妊娠を告げた、あの公園だった。
青々と生い茂っていた木の葉は既に赤茶け、所々虫が喰って穴が開いている物もある。時折吹く風が木の葉を巻き込み、カサカサと乾いた音を立てた。
砂場やブランコで遊んでいた数人の子どもが、母親たちの声掛けで遊びをやめ、それぞれ散り散りに去っていく。これから夕食の支度をするのだろう。買い物袋を下げた母親の姿も見える。
楽しそうに話をしながら帰って行く子どもたちを見送ったあと、政宗は背中からデイパックを下ろし、ガサゴソと中身を漁った。
「ええっと、まずは……」
中から細長い袋を取り出すと、「ハイこれ」と政宗は、美乃里の前に差し出した。
「こ、今度は何?」
以前、ネックレスと共にいきなり告白されたことを思い出し、美乃里は警戒心を露わにした。
「就職祝い。美乃里、内定決まっただろ?」
「ああ……」
先日美乃里は、隣の市にある私立保育園に就職が決まったばかりだ。「電車乗り換えなきゃいけないから、ちょっと大変なんだけどね」と不満を漏らすも、その表情からは嬉しさが滲んでいた。
「ボールペン。保育士になったら、何かと必要だろ?」
「ありがとう」
開けていい? と訊く美乃里に、どうぞ、と政宗が手のひらで促す。
丁寧にラッピングを解き箱を開けると、中には真珠色のボールペンが入っていた。
金色のクリップの部分には、ピンクのラインストーンが一粒埋め込まれている。
「綺麗……」
「美乃里に似合うと思って」
政宗が頬を赤らめ、伏し目がちに笑った。
「嬉しいけど……。なんか悪いよ。いつも貰ってばかりで……」
美乃里が、申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。
「いいんだ。俺が勝手にやってることだから」
気にすんな、と政宗は眉間のあたりを人差し指で軽く掻いた。
そんな政宗を美乃里は困った顔で見つめていたが、やがてふっと息をつき、「わかった」と頬を緩ませた。
「ありがとう。大事に使うね」
再び袋に戻したボールペンの包みを大切そうにトートバッグに仕舞う美乃里を横目で見たあと、政宗は視線を空へと向けた。
「あのさ、ここからが本題なんだけど……」
夕焼けに染まる雲を眩しそうに見つめ、政宗が固い声で切り出した。
「なに?」
美乃里が身を固くし、居住まいを正した。
「俺、新潟に帰ろうと思うんだ」
「えっ?」
思いもよらぬ告白に、美乃里は両目を大きく見開き、隣に座る政宗の顔を凝視した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
シチューにカツいれるほう?
とき
ライト文芸
一見、みんなに頼られる優等生。
でも、人には決して言えない秘密があった。
仄暗い家の事情……。
学校ではそれを感じさせまいと、気丈に振る舞っていた。
見せかけの優等生を演じるのに疲れ、心が沈んでしまうとき、彼の存在があった。
毒吐く毒親、ネグレクトする毒親。
家庭に悩まされているのは彼も同じだった。
朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
桜月真澄
ライト文芸
朧咲夜最終話
+++
愛してる。誰よりもーー
でも、だからこそ……
さようなら。
2022.5.7~5.31
Sakuragi presents
ベルのビビ
映画泥棒
ライト文芸
ベルを鳴らせば、それを聞いた人間は、鳴らした人間の命令に絶対服従しなければならない。ただその瞬間から鳴らした人間は誰であろうと最初に自分に命令されたことには絶対服従をしなければならない。
自らビビと名乗る魔法のベルをアンティークショップで手に入れた主人公篠崎逢音(しのざきあいね)が、ビビを使い繰り広げる愉快で危険な毎日。
やがて、逢音の前に同じような魔力のアンティークを持った人間が現れ….
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
『♡ Kyoko Love ♡』☆『 LOVE YOU!』のスピン・オフ 最後のほうで香のその後が書かれています。
設樂理沙
ライト文芸
過去、付き合う相手が切れたことがほぼない
くらい、見た目も内面もチャーミングな石川恭子。
結婚なんてあまり興味なく生きてきたが、周囲の素敵な女性たちに
感化され、意識が変わっていくアラフォー女子のお話。
ゆるい展開ですが、読んで頂けましたら幸いです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
亀卦川康之との付き合いを止めた恭子の、その後の♡*♥Love Romance♥*♡
お楽しみください。
不定期更新とさせていただきますが基本今回は午後6時前後
に更新してゆく予定にしています。
♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像
(許可をいただき加工しています)
落ち込み少女
淡女
ライト文芸
「ここから飛び降りて」
僕はたった今、学校の屋上で、 一人の少女から命を絶つよう命じられていた。
悩き多き少女たちは
自らの悩みを具現化した悩み部屋を作ってしまう!?
僕はどこまで踏み込める?
どこまで彼女たちの痛みに関われる?
分からない、だからこそ僕は人と交わるんだ。
メイコとアンコ
笹木柑那
ライト文芸
日常には苛々することや、もやもやすることがいっぱいある。
けれど、そんな話を会社の同僚や彼氏にしても、「で、オチは?」とか「いっつも文句ばっかりだよね」と言われるのが目に見えている。
でも愚痴が言いたいわけじゃない。
様々な物事を見て聞いて、様々に思考したいだけ。
だから今日も二人で居酒屋に行き、言いたいことを言いまくる。
相手は何でもさばさば物を言うメイコ。
様々に物事を思考したいアンコにとっては、時に同意し、時に指摘してくれる唯一の友人だった。
だけどメイコが突然目の前に現れたのには理由があった。
しばらく姿を現さなかった、理由も。
そしてメイコとアンコの秘密が少しずつ明かされていく。
※無断転載・複写はお断りいたします。
社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~
のらしろ
ライト文芸
都内のメーカーに勤務する蒼草秀長が、台風が接近する悪天候の中、お客様のいる北海道に出張することになった。
移動中の飛行機において、日頃の疲れから睡魔に襲われ爆睡し、次に気がついたときには、前線に向かう輸送機の中だった。
そこは、半世紀に渡り2つの大国が戦争を続けている異世界に直前に亡くなったボイラー修理工のグラスに魂だけが転移した。
グラスは周りから『ノラシロ』少尉と揶揄される、不出来な士官として前線に送られる途中だった。
蒼草秀長自身も魂の転移した先のグラスも共に争いごとが大嫌いな、しかも、血を見るのが嫌いというか、血を見て冷静でいられないおおよそ軍人の適正を全く欠いた人間であり、一人の士官として一人の軍人として、この厳しい世界で生きていけるのか甚だ疑問だ。
彼を乗せた輸送機が敵側兵士も多数いるジャングルで墜落する。
平和な日本から戦国さながらの厳しいこの異世界で、ノラシロ少尉ことヘタレ代表の蒼草秀長改めグラスが、はみ出しものの仲間とともに仕出かす騒動数々。
果たして彼は、過酷なこの異世界で生きていけるのだろか
主人公が、敵味方を問わず、殺さずに戦争をしていく残酷シーンの少ない戦記物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる