きんだーがーでん

紫水晶羅

文字の大きさ
上 下
72 / 100
終止符

しおりを挟む
 街中にイルミネーションが輝き、一年で最も華やかな季節がやってきた。
「今年のクリスマスはどうする?」
 カフェテリアの角に飾られているクリスマスツリーを眺め、楓がみんなに問いかけた。

「クリスマスかぁ。去年は確か……」
 おとがいに人差し指を当て、美乃里が宙に視線を彷徨わせた。
「カラオケだろ? 聖がなかなかマイク離さなくて……」
 笑いを堪えるように、ククッと政宗が喉を鳴らした。
「そうそう! めっちゃ歌ってた! ソロコンサートかっつーの」
 その時の状況を思い出し、楓は手を叩いて笑った。

 昨年のクリスマスは、カラオケルームの宴会プランを予約し、四人でささやかなクリスマスパーティーをしたのだった。
 最初は四人で順番に曲を入れていたが、食べたり喋ったりしているうちに、気がつくと聖の独壇場になっていた。

「えー。だって誰も歌わないんだもん」
 ひでぇー、と聖が口を尖らせた。
「しっかし、よくあんだけ歌えるよな。酒も飲んでねぇのに」
 まるで珍しいものでも見るような目で、政宗が聖を引き気味に見つめる。
「飲めない奴に言われたくないね」
 不貞腐れた顔で、聖が反論した。

「ああ……。それが……」
 政宗が口籠もり、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「なに? どうかしたの?」
 楓の声に、皆の視線が政宗に集まる。
 三人の顔を順に見たあと、「実は……」政宗が、言いにくそうに切り出した。

「飲めるようになったんだ。ちょっとだけだけど……」

「ええええっ!?」

 政宗の告白に、三人は同時に声を上げた。

 カフェテラス内の学生達が、一斉にこちらを見る。驚きと不快感を露わにしている全ての顔に「すいません」と頭を下げ、三人は再び政宗に向き直った。

「どういうこと?」
 美乃里が訊く。
「実はさ、俺が飲めねぇの、どうやら精神的なもんだったらしい」
「なんだそれ?」
 聖が気の抜けた声で訊いた。

 政宗は、自分が保育の道に進むことになった経緯いきさつと、父親との確執、それから、先日実家に帰った時に弟と交わした会話の内容を、順を追って皆に話して聞かせた。

「あれって、ただの兄弟喧嘩じゃなかったんだ」
 政宗の顔にあった生々しい傷跡を思い出し、楓は自分の頬を押さえた。
「うん。あいつに言われてさ、ものは試しに、少しだけ飲んでみたんだ。親父の造った酒。そしたらさ、前より飲めたっつーか、息苦しくなんなかったっつーか……。とにかく、具合い悪くなんなかったんだ」
 別に美味うまくもなかったけどな、と政宗は顔をくしゃりと歪めると、ハハっと乾いた笑い声を上げた。

「へぇ。弟君に感謝だね」
 テーブルに頬杖をつき、美乃里はにっこり微笑んだ。
「あ、ああ。まあな」
 頬を赤らめ、政宗が視線を外した。
「じゃあさ、今年のクリスマスは、政宗のバイト先でお祝いする?」
 楓が瞳を輝かせる。
「なんのお祝いだよ?」
 政宗が眉根を寄せ、怪訝そうな顔で楓を見た。
「決まってんじゃん。政宗がオトナになったお祝い」
「はあっ? お前それ、違う意味に聞こえんぞ!」
 チラリと美乃里に視線を向けたあと、政宗は真っ赤な顔で抗議した。

「あはは。政宗って、もしかして……」
「おまっ……! っざけんな! それ以上言ったらコロス!」
 きゃー怖い、と大袈裟に、楓が美乃里の腕にしがみつく。
 よしよし、とわざとらしく、その頭を美乃里が笑いながら撫でた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました~

美保馨
恋愛
ある日突然、澪は金持ちの美男子・藤堂千鶴に見染められる。しかしこの男は変態で異常なストーカーであった。澪はド変態イケメン金持ち千鶴に翻弄される日々を送る。『誰か平凡な日々を私に返して頂戴!』 ★変態美男子の『千鶴』と  バイオレンスな『澪』が送る  愛と笑いの物語!  ドタバタラブ?コメディー  ギャグ50%シリアス50%の比率  でお送り致します。 ※他社サイトで2007年に執筆開始いたしました。 ※感想をくださったら、飛び跳ねて喜び感涙いたします。 ※2007年当時に執筆した作品かつ著者が10代の頃に執筆した物のため、黒歴史感満載です。 改行等の修正は施しましたが、内容自体に手を加えていません。 2007年12月16日 執筆開始 2015年12月9日 復活(後にすぐまた休止) 2022年6月28日 アルファポリス様にて転用 ※実は別名義で「雪村 里帆」としてドギツイ裏有の小説をアルファポリス様で執筆しております。 現在の私の活動はこちらでご覧ください(閲覧注意ですw)。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...