きんだーがーでん

紫水晶羅

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父の想い

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「取っ組み合いの喧嘩なんて、ガキの頃以来だな」
「確かに。昔はよく兄ちゃんに泣かされてたよな」
「お前が生意気だからだろ?」
 貞宗の額を軽く小突き、政宗は悪戯っぽく笑った。

 廊下に並んで座る二人を、夕焼けのオレンジ色が包み込んだ。
「じゃ、そろそろ行くわ」
「泊まってけよ」
 夕陽を背に立ち上がる兄を眩しそうに見上げ、貞宗は寂しげな声で言った。
「いや。明日も授業あるし」
 残念そうに、政宗が答えた。
 その顔に、貞宗がぷっと吹き出す。
「なんだよ?」
 政宗が、怪訝な顔で貞宗を睨んだ。
「その顔で新幹線乗るのかよ?」
 あはは、と堪らず貞宗が腹を抱えて笑い出した。
「てめぇっ! 誰のせいだと思ってんだ!」
 拳を上げた政宗に、「うわっ! ギブギブ!」両腕で頭をガードし、貞宗が笑いながら許しを乞うた。

「……ったく」
 下ろした右手を頬に滑らせ、政宗は口元を指で撫でた。
 傷口は既に塞がっているが、頬はわずかに赤く腫れ、唇の端には切れたばかりの生々しい傷跡がくっきりと残っている。
「いい男が台無しだな」
 政宗に負けず劣らず痛々しい顔を歪めながら、貞宗は痛みを堪えて笑った。
「お互いにな」
 皮肉な笑みを浮かべると、「じゃあな」と政宗は歩き出した。

「ちょっと待てよ」
 ゆらりと貞宗が立ち上がる。
「今度は何だよ?」
 警戒する政宗に、「いいから待っとけ」と言い残すと、貞宗は奥の部屋へと向かった。

 暫く待っていると、貞宗は小さな酒瓶を手に戻ってきた。
「やるよ。俺の奢り」
「えっ?」
 渡されたそれは、霞政宗の一合瓶だった。
「飲んだことあるか? それ」
「いや……」
「はあ? 飲んでねぇのかよ? 自分の酒なのに?」
「ああ。だって……」
「じゃあ飲んでみろよ。もうとっくに成人したんだろ?」
「うん……。まあ……」
 両手で瓶を弄びながら、政宗は気まずそうに口籠った。

「なんだよ? まさか、父さんの酒は飲めねぇとか言うんじゃねぇだろうな?」
 酔っ払いオヤジみたいな口調で、貞宗が絡んでくる。
「……ねぇんだ」
 深く俯き、政宗は口の中でゴニョゴニョ答えた。
「なんだって? 聞こえねぇよ」
 貞宗が耳を近付ける。
「だからぁ……」
 意を決して顔を上げると、「飲めねぇっつってんだろ!」政宗は大声で怒鳴った。
「ああっ? 兄ちゃん、まだそんな事……」
「だから飲めねぇんだよっ! 体質的にっ! 飲むと具合い悪くなんだよっ!」
「へっ?」
 胸ぐらを掴もうとした貞宗の手が止まる。
 大きく目を開けじっと政宗を見つめたあと。

「ええええぇぇぇぇっ!?」

 近所中に響くような声で、貞宗が大きく雄叫びを上げた。
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