きんだーがーでん

紫水晶羅

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4人だけの花火大会

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 あれだけあった大量の花火は、いつの間にか無くなり、気がつくと、バッグの中はもう線香花火だけになっていた。
「やっぱ最後はこれでしょ?」
 にっと笑うと、聖は三人に線香花火を配った。
 自然と円陣を組んでしゃがみ込む。
「じゃ、点けるよ」
 聖がチャッカマンの火を点けた。
 各々が、花火の先端を炎の側に近付ける。
 風に揺れる導火線から、次々と細い炎が吹き出した。

 早く点いたものから順に、パチパチと小さな花が弾け出す。
 四人の顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「いいなぁ」
 聖がポツリ呟いた。
「何が?」
 楓が訊く。
「こういうの」
 ほのかな明かりの中で、聖が柔らかく微笑んだ。
「俺さ、初めてなんだよね。花火」
「えっ?」
 三人同時に聖を見る。
 あ、落ちた、と聖は砂の上に落ちた炎の粒を残念そうに見つめたあと、バケツに終わった花火を放り込んだ。

「家族でやったりしなかったの? 子どもの頃とか」
 遠慮がちに、美乃里が訊く。
「ん。俺んち、ちょっと特殊だから」
 ははっと笑って、聖は次の花火を手に取った。
「特殊って?」
 楓が、心配そうに聖の瞳を覗き込む。
「ま、いろいろとね」
 ほら次いくよ、と聖は再び、チャッカマンの火を点けた。

「だからさ、今日の為にめっちゃ勉強したんだ。ネットとか動画とか見て」
「そこまでするか?」
 導火線をチャッカマンに近付けながら、政宗が笑った。
「だってさ、やるからには完璧にしたかったんだ。めちゃくちゃ楽しみだったから」
「……そっか」
 複雑な想いを含んだでチラリと聖を見やったあと、政宗は黙って手元の炎を見つめた。

「みんなありがとう。俺の我儘に付き合ってくれて」
「何言ってんだ」
 政宗が、ぶっきらぼうに答える。
「全然。私もすっごく楽しかったし」
 美乃里が頬を紅潮させる。
「もう慣れっこだよ。聖の我儘なんて」
 悪戯っぽく、楓が聖を横目で睨んだ。
 三人の顔を順に見たあと、聖は、へへっと子どもみたいに無邪気に笑った。

「あーあ。大人になんかなりたくないな」
 次の花火に火を点けながら、聖が深く溜息をつく。
「なんだよ? 今度はピーターパンかよ」
 呆れた顔で、政宗が笑った。
「だって、社会人になったら、みんなバラバラになっちゃうだろ?」
 寂しそうに、聖は弾ける炎を見つめた。
「俺さ、今までろくな人生じゃなかったんだ。だからずっと、俺なんか生きてても意味がないって思ってて……」
「聖……」
 楓が小さく呟く。
 三人は息を呑んで、聖の次の言葉を待った。

「でもさ、短大入って、みんなと出会って、やっと居場所を見つけたような気がしたんだ。ここにいてもいいんだって……」
「当たり前だろ? お前は俺たちの大事な仲間だ」
 怒ったように、政宗が口を尖らせる。
「そうだよ。あたしたちみんな、聖のこと大切に思ってるよ。卒業しても、この絆は失くなったりしない。会いたくなったら会えばいい。だからもう、生きてても意味がないなんて言わないで」
 楓が瞳を潤ませる。
「就職しても時々集まろ? 月一で飲み会とか。その頃には聖だってお酒飲めるようになってるでしょ?」
 美乃里の言葉に、聖が「うん」と頷いた。
「そうそう。成人したら、しこたま飲むんだろ? 今度こそ、心置きなく飲ませてやるよ」
 政宗が悪戯っぽく笑った。
「だね。早くオトナになりなよ。みんな待ってんだからさ」
 楓が肘で、聖の腕を軽くつついた。
「みんな……」
 聖が堪らず上を向く。頭上に広がる星空を眺めながら、聖は、スン、と鼻を鳴らした。

「よし、じゃあラストいくか」
 政宗が最後の一本を指で摘む。
「勝負しようよ。一番先に終わった人が負け。負けたら缶ジュース奢りね」
 楓が花火を持つ手に力を込める。
「オッケー。絶対負けないから」
 美乃里が僅かに身を乗り出す。
「優勝は俺だね」
 手の甲で目尻を拭いながら、聖はチャッカマンに火を点けた。

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