きんだーがーでん

紫水晶羅

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4人だけの花火大会

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「やっぱ人いないねぇ」
「そりゃそうだろ。思いっきり季節外れだからな」
 聖の言葉に、政宗が皮肉な笑みを浮かべた。

 辺りは既に夜の帳が下り、浜辺に打ち付ける波の音だけが四人の周りを取り囲んでいた。
「いいじゃん。貸切で」
 早くやろ、と、楓が花火の包装を解く。
 円形の透明なビニールバッグには、手持ち花火の他に、噴出花火やロケット花火などが沢山入っていた。

「てかさ、買いすぎじゃね?」
 呆れた顔で、政宗が覗き込む。
「だって、すぐ終わったら寂しいじゃん」
 眉根を寄せ、聖は悲しそうな顔をした。
「ふふっ。聖らしい」
 美乃里が笑いながら、楓の手から手持ち花火を受け取った。

「ねぇ。ちょっと風、強くない?」
 乱れる髪を左手で押さえ、楓が宙を睨む。
「チャッカマン買っといて正解だったね」
 百円ショップで買ったチャッカマンをカチカチさせながら、聖が得意げに笑った。
「わかったから、早く火、点けて」
「了解」
 風上に立って身体で風を遮ると、聖は、楓と美乃里の花火に点火した。
 シュボッと勢いよく、炎が噴き出す。その火を貰うと、政宗と聖も二人の隣に並んで立った。

「綺麗……」
 楓と美乃里が、溜息を漏らした。
 秋の砂浜に、四つの光が一斉に弧を描く。
「やっぱいいね。花火」
 満足そうに、聖が目を細めた。
 手元の火が消えそうになると、それぞれが次から次へと点火していく。
 沢山あった手持ち花火は、あっという間に底を尽きた。

「それじゃ、いよいよデカイやついきますか?」
「おっしゃ!」
 聖と政宗が平らに慣らした砂の上に、楓と美乃里が次々と噴出花火をセットする。
「点けるよ」
 一声かけると、聖は導火線に火を点けた。

 ボオオオッという激しい音の後、パチパチとコスモスの様な花が咲く。
 一列に並んだ光の花が、四人の姿を明るく照らした。
「ワイドスターマインみたい」
 美乃里が手を叩いて喜ぶ。
 その横顔を、政宗が愛おしそうに見つめる。
 楓の胸が、チクリと痛んだ。

「楓!」
 少し離れた場所で、聖が楓に手招きする。
「なあに?」
 のろのろと近付く楓に、「ほら、ここ持って」聖は筒型の花火を手渡した。
「え? これって、手に持っていいやつ?」
「そうだよ」
 それは、手持ち花火の中でも一番勢いの強い、手筒花火だった。

「やだ。怖い」
 小さく首を左右に振り、楓は聖に突き返す。
「大丈夫。俺が支えてるから」
 持ち手を楓の右手ごと掴むと、聖は背後から楓をすっぽり包み込んだ。
「ちょっ! 聖!」
「よそ見しない」
 耳元で囁いたあと、聖は導火線に火を点けた。
「ちょっと待っ……!」
 腰が引ける楓を、聖が全身で支える。
 暫くすると、二人の手元から勢いよく色とりどりの炎のシャワーが飛び出してきた。

「すご……」
「ね? 綺麗でしょ?」
 僅か数センチの距離で、聖が楓に優しく微笑む。
「……ありがと」
「何が?」
「さっき、呼んでくれて」
 ふっと笑うと、聖は左手を楓の頭にポンと乗せた。

「いいから、今は俺だけ見とけ」
「何それ? さむっ」
 からかうように笑いながら、楓はそっと聖の横顔を見上げた。
 金色の炎のシャワーに照らされ、聖の瞳が黄金色に輝く。
「もしかして、見惚れてる?」
 ニヤつきながら横目で見返してくる聖を軽く睨み、「ばっかじゃないの?」ほのかに頬を染め、楓はプイっと顔を背けた。

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