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偽装恋人
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しおりを挟む「……で? 気がついたら、俺と付き合うなんて馬鹿げたことを口走っていた……と」
「う……。ごめん……」
黒い革張りのソファーの上で、楓は膝を抱えて項垂れた。
水曜日、久しぶりに登校した美乃里を楓は笑顔で迎え入れた。
そんな楓の姿に、政宗と聖もそれぞれホッと胸を撫で下ろし、多少のぎこちなさは残るものの、今まで通り、四人揃って穏やかに一日を過ごすことができた。
そして、その日の帰り道。「話がある」と聖に耳打ちした楓は、半ば強引に、聖のアパートへと押し掛けて来たのだった。
「どうせまた、『あたしのことは気にしなくていいから、政宗のこと、ちゃんと考えてあげて』とかなんとか言ったんだろ?」
聖はわざとらしく両手を胸の前で組むと、声色を変えて楓の口真似をした。
「う……。おっしゃる通りです」
完全に落ち込みモードの楓は、反論することもできず、ますます頭を膝の中へと潜り込ませた。
「ったく……。どいつもこいつも……」
「何がよ?」
「だから、似てるっての。楓と政宗が」
「はぁ?」
驚いたように顔を上げると、府に落ちない表情で、楓が聖を見つめた。
「似てんだろ? 愛する人の為に不倫相手に直談判しに行く政宗も、友だちの為に気持ちを偽って身を引く楓も」
「それのどこが……」
「一緒だよ。他人のために、後先考えず突っ走るところが」
「う……」
楓が本日何度目かの呻き声を漏らしたところで、聖がにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「俺と付き合うってことは、覚悟はできてんだろうねぇ?」
「覚悟? なんの?」
キョトンとする楓の肩を突然強く引くと、聖はその身体をソファーの上に押し倒した。
「え? ひじ……?」
「付き合うってことは、勿論、こういうことも含まれてんだよね?」
「ちょっ……! 待っ……!」
聖の顔が、ゆっくり近付く。
「や……っ!」
思わず楓は、ギュッと強く目を瞑った。
「……なぁんてね」
「え?」
驚いて目を開けた楓の視界いっぱいに、聖の宝石のように輝く琥珀色の瞳が映った。
「ひ……じり?」
クスリと聖が笑みをこぼす。その妖艶な表情に、楓の鼓動が速くなる。
「強がんなよ。そんな覚悟もないくせに」
「あ……」
恐怖と安堵が入り混じり、楓は激しく身体を震わせた。
楓の目尻に微かに滲む涙をそっと指で拭うと、聖は、その額にキスを落とした。
「しょうがない。楓に免じて、これで勘弁してやるよ」
「聖……」
聖の唇が触れたところを、楓が震える指でなぞる。
「ほんと、馬鹿だな……」
ふっと笑うと、聖は楓を抱き起こした。
「あーあ。明日から、女の子たちに誘われなくなっちゃうなぁ」
「あ。ごめん。あたし……」
「いいよ。その分、楓に相手してもらうから」
「いや、あの、それはちょっと……」
青い顔でじりじりと後ずさる楓を横目で見たあと、聖はククッと喉の奥で笑った。
「冗談だよ。だって俺、セックス嫌いだもん」
「え? それ、どういう……」
「んじゃ、今日からよろしくね。俺の彼女さん」
満面の笑みを浮かべ、聖が右手を差し出した。
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